1 都市交通の整備


(1) 都市交通の現状と課題

  都市において,交通は通勤・通学等の日常生活に重要な役割を果たしているとともに,宅地開発,業務地開発等の地域振興に大きく貢献するなど極めて重要な役割を有しているが,交通をとりまく環境の変化に伴い,各地域において様々な問題が発生し,その解決が強く求められている。
  特に,モータリゼーションの進展は,都市部において自動車交通量の増大等による慢性的な交通渋滞を起こしており,そのため,バスの表定速度が低下し,定時運行の確保が図れないこと等の理由により,その機能が十分発揮できない状況にある。
  また,地方から都市部への人口流入は,近年における全国的な定住意識の高まり等により,東京圏を除き低い水準で推移しているものの,都市部に集中した人口は,住宅地を求め都市の周辺部に集中する結果,通勤・通学に要する時間が増大するとともに,業務機能の集中している都心部においては,通勤・通学時の鉄道輸送等を中心に依然として著しい混雑状況にある。
  このような状況に対処するためには,都市における空間・環境制約を勘案し,鉄道,バス等の大量公共交通機関を中心とした効率的な交通体系を形成する必要があり,従来から,大都市圏における大量公共交通機関の整備に関しては,都市交通審議会等の答申でその整備の方向が示されているところである。特に東京圏にあっては,近年における東京圏への一層の人口集中に対処するとともに21世紀をめざした首都圏の高速鉄道網を中心とする交通体系を確立する必要があったことから,昭和60年7月,運輸政策審議会より新たな高速鉄道網等の整備計画が答申された。運輸省としては,これらの答申の若実な実施により都市交通の整備を図っているところである。

(2) 都市鉄道の整備

  (国鉄線の整備)
  国鉄の設備投資については,安全確保のための投資に重点を置き極力抑制してきているが,大都市圏の輸送力増強対策等緊急を要するものについては,重点的に投資を行っている。
  新線等の建設としては,61年3月,京葉線の西船橋・千葉港間が開業し,また,埼京線の新宿駅乗り入れが実現したが,さらに京葉線の東京・蘇我間全線開業のための工事等が日本鉄道建設公団により進められている。
  なお,国鉄においては,地域のニーズに密着したきめ細かなサービスの提供を図るため逐次ダイヤ改正を実施してきており,成果が上がっているが,61年11月の全国的なダイヤ改正においても,地域に密着した輸送改善の総仕上げとして,全国の主要都市圏においてデータイムにおける列車の定時・多頻度運行を行うとともに,通勤・通学輸送力の増強を図るなどの輸送改善を行っている。
 (大手民鉄の整備)大手民鉄14社においては,人口の大都市集中に伴う輸送需要の増大による混雑緩和を図るとともに,踏切改良等により輸送の安全を確保するため,36年度に第1次輸送力増強等投資計画(36〜38年度)を策定し,以降,輸送力増強工事,安全対策工事,サービス改善工事及び日本鉄道建設公団工事の4項目を柱とする設備投資を推進し,混雑の緩和,輸送サービスの向上等に努めている 〔4−2−1表〕。その結果,新線建設・複々線化等により輸送力は年々増強され,これに伴い混雑率も低下してきている 〔4−2−2図〕
  なお,第5次計画(52〜56年度)までの総投資額は,2兆1,331億円となっており,現在推進している第6次計画(57〜61年度)においては,総額9,643億円の投資を予定しており,その内訳は輸送力増強工事3,907億円,安全対策工事4,431億円,サービス改善工事653億円及び鉄建公団工事652億円となっている 〔4−2−3図〕

  (地下鉄の整備)
  地下鉄は,都市内において,その大量の輸送能力及び高速性から優れた交通手段として国及び地方公共団体の補助のもとに整備が進められてきており,利用者数も他の公共交通機関に比べ大きな伸び率を示している 〔4−2−4図〕

  現在,帝都高速度交通営団及び8都市(東京都,札幌市,横浜市,名古屋市,京都市,大阪市,神戸市,福岡市)において地下鉄の運営が行われ,総営業キロは61年10月現在で443.4Kmとなっており,さらにこれらの事業者(神戸市を除く。)及び仙台市において新線建設が進められている。
  60年4月以降新たに開業した地下鉄は 〔4−2−5表〕のとおりである。
  (ニュータウン鉄道の整備)
  大都市及びその周辺においては,大規模なニュータウンの整備が行われており,それに伴ってニュータウンの住民の足を確保するため,ニュータウンと都心を結ぶ鉄道建設を行う必要があり,運輸省においては,公的主体の行うニュータウン鉄道の整備について補助制度を設けて,その建設の促進を図っている。現在,泉北ニュータウンにおいて大阪府都市開発(株)が,千葉ニュータウンにおいて住宅・都市整備公団が運営を行っているほか,神戸市においては60年6月に名谷〜学園都市間3.5kmが開業し,さらに学園都市〜西神ニュータウン間5.9kmの延伸工事が62年春の開業を目途に進められている。
  また,港北ニュータウンにおける横浜市の3号線(61年1月免許)の61年度中の工事施行が見込まれている。
  (日本鉄道建設公団による鉄道の整備)
  日本鉄道建設公団においては,前述の国鉄京葉線等の工事を進めているほか,大都市において,輸送力増強効果が大きくしかも緊急に整備することを要する地下鉄及び地下鉄直通都心乗入れ工事,既設線の複々線線増工事並びにニュータウン線建設工事について,完成後民鉄事業者に譲渡する方式による整備を進めている。61年度予算における民鉄線の工事規模は780億円であり,3年前の約2倍となっている。
  これまでの譲渡の状況をみると,49年5月に小田急多摩線が譲渡されたのをはじめとして,既に12線57.6kmが譲渡されている。また,現在工事中のものは12線107.1kmとなっている。
  (モノレール,新交通システムの整備)
  近年,鉄道駅と住宅地等を結び,鉄道の補完的輸送を担う中量軌道系輸送システムとしてモノレール及び新交通システムが整備されてきており,最近3か年度における輸送実績は 〔4−2−6表〕のとおりとなっている。
  モノレールは,東京モノレール(株)羽田線等が営業中であり,千葉及び大阪において工事中である。
  また,新交通システムとしては,神戸新交通(株)ポートアイランド線等が営業中であり,埼玉新都市交通(株)伊奈線の延伸も含め61年10月現在4路線が工事中である。

(3) 特定都市鉄道整備促進特別措置濃の制定

  大都市圏においては,今後の輸送需要の増大に対応し,通勤・通学時の著しい鉄道混雑を抜本的に緩和するため,鉄道の複々線化や大規模改良工事を緊急に行う必要性があり,これは60年7月の運輸政策審議会答申においても指摘されているところである〔4-2-7図〕。

  しかし,これらの工事は,膨大な資金を要するわりには新たな利用者の獲得にはつながらず収入増はあまり期待できないため,これら工事への投資インセンティブを与えるものとして,複々線化工事,大規模改良工事の費用の一部を運賃に上乗せし,その増収分を特定都市鉄道整備積立金として非課税で積み立て,工事費に充当させる特定都市鉄道整備積立金制度の創設を内容とする特定都市鉄道整備促進特別措置法を61年4月に制定し,これらの工事の促進を図ることとした 〔4−2−8図〕

  この法律の概要は,以下のとおりである。

 @ 特定都市鉄道整備事業計画の認定

      鉄道事業者は,10年以内に完了する複々線化等の大規模な輸送力増強工事の計画(以下,「特定都市鉄道整備事業計画」という。)を作成し,運輸大臣の認定を受けることができるものとする。

 A 特定都市鉄道整備積立金の積み立て

      特定都市鉄道整備事業計画の認定を受けた鉄道事業者(以下,「認定事業者」という。)は,特定都市鉄道整備事業計画の期間内の各事業年度において,旅客運送収入の一定割合(3〜6%)を運輸大臣が指定する法人(以下,「指定法人」という。)に積み立てなければならないものとする。

 B 特定都市鉄道整備積立金の工事費への支出

     認定事業者は,積み立てを行った事業年度から2年以内に当該事業年度の特定都市鉄道整備積立金を指定法人から取り戻し,特定都市鉄道整備事業計画に記載された工事の工事費の支出に充てなければならないものとする。

 C 特定都市鉄道整備準備金

      認定事業者は,Aの積立金を積み立てた事業年度には,積立金の額と同額を財務諸表上,特定都市鉄道整備準備金として積み立てなければならないものとし,さらに,特定都市鉄道整備事業計画の期間の終了後,当該準備金を順次一定期間内に取り崩さなければならないものとする。

 D 認定事業者の運賃

      認定事業者の運賃については,特定都市鉄道整備積立金の積立期間においては,当該積立金が旅客運送収入によって確保されるように,また,特定都市鉄道整備準備金の取崩期間においては,当該取崩額が運賃を通じて利用者に還元されることとなるように,運輸大臣は運賃の認可に当たって配慮するものとする。

 E 税制上の措置

      認定事業者が積み立てる特定都市鉄道整備準備金については,租税特別措置法により,税制上の特別の措置を講ずるものとする。
      この特定都市鉄道整備積立金制度を利用した場合には,20年間という長期間を通じてのことであるが,総額としての利用者の運賃負担の軽減が図られることとなる。すなわち,積立金制度の適用により鉄道事業者は工事費に充てる自己資金を調達できるため,その分,借入れに伴う利子負担が縮減されることとなり,結果として運賃を通じてこれを賄う利用者の負担もその分だけ軽減されることとなる。
      例えば年間運賃収入500億円の鉄道事業者が700億円の工事を行う場合,積立期間10年間と取崩期間10年間を通じて約120億円の支払利息が縮減されることにより,これと同額の運賃負担が軽減されることとなる。
      今後,大都市圏における鉄道の複々線化や大規模な輸送力の増強工事は,この特定都市鉄道整備積立金制度を活用して,大幅に促進されるものと期待される。

(4) 都市新バスシステム等の整備

  (望まれるバスの再生)
  都市におけるバス輸送は,モータリゼーションの進展等に伴う走行環境の悪化により,バスの利便性が相対的に低下したことから需要が減少するとともにコストが増加し,このため採算性が悪化」これがサービス改善を遅らせることとなり,更に,バス需要を減少させるという悪循環に陥っている。一方,都市交通において,円滑なモビリティを確保するとともに省空間,省エネルギー等の要請に対応していくためには,バスを魅力ある交通機関として再生していくことが必要である。こうした観点から,バス専用レーンの設置等バスの走行環境の改善を推進するとともに,運輸省は,バス車両,停留所施設等の改善を指導してきており,さらに,都市基幹バス,都市新バスシステム等に対して助成を行うことにより,都市におけるバスサービスの改善方策を強力に推進してきている 〔4−2−9図〕
  (進む都市新バスシステムの整備)
  都市新バスシステムは,都市交通体系上の根幹となるべき主要なバス路線において,バス専用レーンの設置と併せて,'具体的には,次のような施設の整備を行うものであり,いわば現時点においてバスサービスの改善方策を集大成したものである。

 @ バス路線総合管理システムを導入し,コンピュータ制御による車両運行の中央管理により定期運転の確保等を図るとともに,バスロケーションシステムの整備により停留所におけるバス接近表示を行い,バス待ちのイライラを解消させる。
 A 低床,広ドア,冷暖房,大型窓等を備えた都市型車両の導入により,バス輸送の快適性を向上させる。
 B シェルター,電照式ポールを備えた停留所施設の設置により,バス輸送の利便性を向上させる。
  これらの整備については58年度から行われており,現在までに東京都,新潟市,名古屋市,金沢市,大阪市及び福岡市の6都市において導入されている。
  (都市新バスシステムの効果と今後の課題)
  各都市における都市新バスシステムの概要については, 〔4−2−10表〕のとおりである。輸送人員については,需要量の差,競合する交通機関の状況等により程度の差はあるものの,東京都及び名古屋市において30%程度伸びているのをはじめとして,各都市においてバスの輸送人員が全体的に減少しているなかで,同システムを導入した路線については輸送人員の増加が図られている。また,その輸送人員も,路線によっては一日当たり25,000人と中量軌道システムに準ずる輸送力を有しており,都市新バスシステムは,その効果を確実に上げつつあると言える。
  今後は,更に都市新バスシステムの導入の促進を図るほか,近年の技術革新の成果を生かした新たなシステムの導入等を進めバス交通の活性化を図っていく必要がある。
  (深夜輸送力の確保)
  都市における活動時間の延長に伴い深夜における住宅団地と鉄道駅の間の輸送需要が増大しており,これに対応した輸送力を増強することが必要となっている。
  このため,各地の輸送需要に応じて,バス運行時間の延長又は乗合タクシーの運行を行うよう指導してきており,61年1O月現在,深夜バスは東京都,千葉県,埼玉県,神奈川県,愛知県の5都県において115系統,乗合タクシーは東京都,千葉県,埼玉県,神奈川県,愛知県,大阪府,京都府,奈良県,兵庫県の9都府県において56系統運行れされている。

(5) タクシーサービスの改善

  タクシーは,少量で機動的な交通機関として,鉄道,バス等の大量交通機関により難い高次の交通サービスを提供しており,国民の日常生活にとって必要不可欠な交通機関となっている。
  このため,利用者の利便の増進が図られるよう,タクシーサービスの基本である運転者の接客態度の向上を強力に指導するとともに,配車の迅速性,効率性を高めるための無線タクシーや,配車指令室で車両の位置,空車・実車の別等が瞬時に把握できるAVMシステムの導入,大きな荷物も同時に運べるワゴンタクシーの導入,年末における需要増に対応するための臨時増車やタクシー乗場での計画配車の実施,全てのタクシーに利用できる共通クーポン券の導入等を図ってきている 〔4−2−11図〕


表紙へ戻る 次へ進む