2 地方交通の維持・整備


(1) 地方交通の現状と課題

  地方において,交通は日常生活に欠くことのできない「住民の足」であるが,自家用乗用車の急速な普及と農山漁村地域における人口の減少により公共交通機関の利用が減少し,その経営を極度に困難にしており,公共交通機関を利用せざるを得ない人々の足の確保という問題が発生している。

  このような状況に対応して,地方における交通の維持・整備を図るためには,まず,地域の実情を勘案して長期的な視野に立った総合的な対策を提示するとともに,行政,交通事業者,利用者の行動指標となる交通計画を地域ごとに策定する必要があることから,運輸省では,56年以来,地方運輸局長(59年6月までは陸運局長)が地方交通審議会(59年度までは地方陸上交通審議会)に諮ったうえで,原則として都道府県単位に長期的な展望に立って地域交通のあり方を示した地域交通計画を策定してきている。
 地域交通計画においては,鉄道とバスの結節機能の強化,バス路線の再編,バス運行ダイヤの改善等地域住民の足の確保等について多くのメニューが示されている。地域交通計画は60年度までに34地域で策定(60年度は7地域を策定)されているが,運輸省としては,この計画を指針として許認可等の行政処分,交通網整備の助成等地域交通対策に適切な配慮をするとともに,計画に沿った地域交通行政を推進するための施策について検討するなど,計画の実現に努めている。
  また,地域の意向を的確に把握し,より一層きめ細かな地域交通行政を推進するために,60年度より,地域交通計画を策定するため臨時的に開催していた上述の地方交通審議会各都道府県部会を毎年定期的に開催し,各地域の交通に関する問題点及びその対処方針について調査審議を行っている。運輸省では,このように,部会の審議等を通じて地域の意向も十分に踏まえつつ,地方交通の維持・整備を図っているところである。

(2) 中小民鉄及び地方バスの維持・整備

 中小民鉄及び乗合バスは,地域における生活基盤として必要不可欠なものである。
  しかしながら,輸送人員は59年度において,中小民鉄約3.2億人(対前年度比2%減),乗合バス約70億人(同5%減)と輸送需要が減少し運賃収入は伸び悩んでおり,また,人件費等の諸経費が増加する等により極めて苦しい経営を余儀なくされている。
  (中小民鉄の維持・近代化の促進)
  中小民鉄は,地方交通に重要な役割を果たしており,大半の事業者が赤字経営となっているものの,経営改善を図りその維持に努めている。
  しかし,設備の維持が困難なため老朽化した地方鉄道でその運輸が継続されないと国民生活に著しい障害が生じるものについて,国は地方公共団体と協力して,経常損失額に対し補助を行っている。
  また,設備の近代化を推進することにより,経営改善,保安度の向上又はサービスの改善効果が著しいと認められるものに対しても,国は地方公共団体と協力して,設備整備費の一部を補助している。60年度においては,これらの補助として32社に対し約9億円の国庫補助金を交付した 〔4−2−12表〕

  (経営改善への努力が望まれる地方バス)
  地方バスは,地域住民の足として重要な役割を担っているが,これらの多くは過疎化の進行,マイカーの普及等により輸送需要が年々減少しているため,車両当たり従業員数の削減等の経営改善を図っているが,約8割の事業者が赤字経営を余儀なくされ,路線の維持が困難になっている。このため運輸省は,バス事業者に対し,車両の冷房化,フリー乗降制の導入等サービスの改善による利用客の維持,増加や,地域の実情に応じた路線の再編成による運行の効率化等,自主的経営努力を指導するとともに,それらの経営改善努力を前提として助成措置を講じ,バス事業の自立と地域住民の足の確保に努めている。
  この助成措置は,住民生活にとって必要不可欠な一定の路線の経常損失額及び車両購入費について,都道府県がバス事業者に対して補助を行い,国は,都道府県に対してその一部を補助するものである。

  また,バス路線のうち利用者が極端に少ないいわゆる第3種生活路線(平均乗車密度5人未満の路線)は,乗合バス路線として維持していくことが困難であるため,一定期間に限って補助するとともに,その間に路線の再編成,廃止等の整理を進めることとしている。
  しかし,路線廃止後においても,市町村又は市町村の依頼を受けた貸切バス事業者が代替バスを運行する場合には,代替バスの購入費等について都道府県が行う補助の一部を補助することにより,地域住民の足の確保を図っている。
  なお,60年度においては,バス事業者164者,288市町村等に対し約98億円の国庫補助金を交付した 〔4−2−13表〕

(3) 国鉄特定地方交通線の転換

  (国鉄特定地方交通線はバスへの転換が原則)
  国鉄特定地方交通線は,鉄道による輸送に代えてバス輸送を行うことが適当な路線として選定されたものであり,地域住民の足を確保し輸送需要に見合った効率的な輸送手段を整備するためには,基本的にはバス輸送への転換が望ましいものと考えられる。なお,61年11月現在,第1,2次選定線71線のうち,北海道の白糠線等25線がバス輸送に転換されている。
  (バス転換後の状況)
  バス輸送は,停留所の数が増加すること,需要実態に合わせた運行系統や運行回数の設定が可能となること等から,国鉄線当時に比べて利便性は増加していると考えられるが,一方,過疎化の進行,ミニバイクの普及等により輸送人員が減少している場合が多く,総じて苦しい経営を余儀なくされており,60年度では14線が赤字を計上している。
  なお,転換後のバス輸送において赤字が生じた場合,開業後5年間はその全額を国が補助することとなっている 〔4−2−14表〕
  (地方鉄道転換線の状況)
  また,日本国有鉄道経営再建促進特別措置法に基づき,国鉄の既営業線及び新線の経営を第三セクター等地元が主体となって行うこととして地方鉄道に転換するという新しい経営形態が出現しており,59年4月三陸鉄道(株)に転換した久慈,宮古及び盛線の3線に続いて,61年10月までに14社16線376.3キロが地方鉄道として営業を行っている。

  弘南鉄道(株)によって経営が引き受けられた黒石線を除いた転換路線においてみられることは,国鉄退職者を数多く採用し,職種を複合形態とした営業体制の下に従来より多い運転本数を確保しているが,運賃は従来より割高となっている。
  地方鉄道に転換した路線の経営状況は,転換前と比較すると収支の改善は図られているものの,必ずしもその経営の見通しは楽観できるものではない 〔4−2−15表〕。これらの鉄道が転換に際して目的とした,地域のための鉄道という本来の目的を達成するには,事業者における一層の経営努力はもちろんのこと,地元関係者の鉄道に対する積極的な協力により維持,存続が図られていくことが強く望まれる。

(4) 旅客船対策

  (離島航路の現状と今後の課題)
  我が国には有人島が420余あり,住民の必要不可欠な生活の足として重要な役割を果たしている離島航路は,陸の孤島と呼ばれる僻地に通う準離島航路を含めて,61年4月1日現在383航路あるが,これら離島航路の多くは,輸送需要の低迷,諸経費の上昇等により,赤字経営を余儀なくされている。
  このため,国は,離島航路の維持・整備を図るため,従来から,地方公共団体と協力して,離島航路のうち一定の要件を備えた生活航路について,その欠損に対し補助を行ってきており,60年度においては,124事業者,129航路に対し約33億円の国庫補助金を交付した 〔4−2−16表〕
  離島航路の経営状況は,ここ2〜3年は燃料費の安定等により欠損額は減少しているが,将来的には,輸送需要の減少,諸経費の上昇等により経営は悪化することが予想され,また,厳しい財政事情のなかで,今後とも生活航路としての離島航路を維持していくためには,一層の経営合理化,効率化等を図る必要がある。このため,59年度から離島航路経営改善のための調査を行っており,この結果を踏まえて離島の実情に即した航路の改善方策を策定することとしている。

  (長距離フェリーの現状と今後の課題)
  長距離フェリー(航路距離300km以上の陸上のバイパス的なフェリー)は,旅客輸送及び物資の輸送に欠くことのできない公共輸送機関として極めて重要な役割を果たしており,現在,13事業者により20航路において船舶48隻(43万総トン)をもって運航されている。最近の輸送実績は, 〔4−2−17図〕のとおりであり,旅客,自動車とも低迷している。
  長距離フェリーの経営状況は,全般的にはここ2〜3年燃料費の安定等により徐々にではあるが好転してきているが,従前の二次にわたる石油危機の影響による燃料費などの諸経費の上昇とその後の輸送需要の低迷による困難な経営から依然として脱しきれないところも多く,業界全体では,60年度決算で当期未処理損失477億円を計上するなど苦しい経営が続いている。
  また,長距離フェリーについては,その使用船舶の大部分が昭和40年代中頃に建造された船齢10年以上経過した船舶であるため,近い将来使用船舶の代替を行う必要があるが,最近は金利,船価とも比較的低い水準状況にあるため将来の代替に向けて検討を行う事業者が増加している。しかしながら,使用船舶の代替には,資金調達,旧船の処分方法等についで慎重な検討を要するとともに,代替建造する船舶の船型等によって今後の事業のあり方が規制されるなど重大な課題を抱えている。

  このため,長距離フェリーが今後とも安定的な輸送サービスを提供して公共輸送機関としての使命を果たしていくためには,経営の合理化等による経営基盤の一層の強化や利用者ニーズに対応した競争力の強化を図るとともに,将来予測される需要に見合った船型の船舶を建造することなどにより使用船舶の代替を円滑に進めていくことが必要となっている。

(5) 大鳴門橋開通に伴う地域交通の変化等

  本州四国連絡橋神戸・鳴門ルートの一部として60年6月に大鳴門橋(全長1,629m)を含む関連道路延長21.8kmが供用開始された。残りの関連道路部分については,62年供用開始を目途に建設工事が進められている。
  (一般旅客定期航路の再編成)
  この大鳴門橋の架橋は,一般旅客定期航路事業者等にとっては航路の再編成を余儀なくされるなど,その影響は極めて大きなものがあり,「本州四国連絡橋の建設に伴う一般旅客定期航路事業等に関する特別措置法」等に基づき関連航路の再編成が実施された 〔4−2−18図〕。架橋直下航路のうち福良〜撫養航路は廃止され,阿那賀〜亀浦航路は,小型フェリーが投入されたものの,従来使用されていたフェリーが2隻とも減船され,実質上は廃止に近い状態となった。架橋直下航路以外の規模縮小等航路については,深日〜徳島航路が使用船舶3隻のうち2隻が減船され,運航回数も減便された。それ以外の規模縮小等航路は,減少させることなしに維持されることとなった。
 一方,大鳴門橋架橋により四国と陸続きとなった淡路島と阪神間を結ぶ規模拡大等航路のうち,須磨〜大磯航路は1隻が増船され運航回数も増便されるとともに,さらに深夜便として六甲〜大磯航路が新設された。そのほか,西宮〜志筑航路及び深日〜洲本航路についても,従来の船がリプレースされて新船が投入される等の対応が図られた。
  自動車航送台数を架橋前後の各1年間で比較すると,規模縮小等航路群のうち,淡路島〜徳島航路群ではほぼ消滅に近い結果になっており,また,阪神〜徳島航路群についても32%減と大幅に減少している。これに対して阪神〜淡路島航路群では22%の大幅な増加となっている 〔4−2−19表〕

  (橋上交通の現状と観光客の増加)
  同橋開通後61年5月末までの約1年間の橋上交通量は,本州四国連絡橋公団の予測交通量を19%上回り,約278万台(7,765台/日)に達している。また,徳島〜淡路島間に新設された定期路線バスの61年5月末までの約1年間の輸送人員は26.1万人に達し,淡路島〜阪神間の高速船等とともに,阪神〜徳島間の交通の一部として定着してきている。
  さらに,阪神〜淡路島間の架橋前後1年間のバス航送台数は,架橋前が3.8万台であったのに対し,架橋後は8.4万台と2.2倍の伸びとなっており,貸切りバスを利用した観光客の増加を示している。また,60年の徳島県,香川県への観光入込客(県外客)をみると,それぞれ612万人(対前年比31%増),527万人(同7%増)となっており,従来低迷していた両県の観光に好影響を及ぼしたことがうかがえる。


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