1 総合的な港湾空間の創造


  港湾は,陸域と海域が接するところにあり,物流活動や産業活動が営まれ,人々が働き,憩い,生活する貴重な国土空間である。その整備に関しては,高度成長期において,物流機能と生産機能の拡充を中心に行われてきたが,今後,21世紀に向かって,国際化,情報化等が進み,成熟化社会が到来しようとするなかで,港湾においても,このような社会の変化に柔軟に適応するとともに,これらの変化を先導することが求められている。
  このような情況に対応して,運輸省は昭和60年5月,長期港湾整備政策として「21世紀への港湾」を策定し,総合的な港湾空間の創造と港湾相互のネットワーキングの推進等をめざした港湾の整備を図っていくこととしている。

(1) 時代の変化に対応した総合的な港湾空間の創造

  (求められる総合的な港湾空間)
  近年,国際化,情報化が進展するとともに国民の余暇活動が活発化するなかで,国際交易に関する会議・見本市の開催,港湾物流の情報化,海洋性レクリエーション需要の増大に対応して,国際交流・高度情報処理機能,レクリエーション機能等を充実するとともにこれらの諸機能を有機的に連携した総合的な港湾空間を創造することの要請が高まってきている。また,こうした要請を反映して,港湾の土地利用について 〔6−1−1図〕に示すように,工業,物流のみでなく業務・生活のシェアが近年増加してきており,多様なニーズに対応した総合的な港湾空間の形成が進みつつある。
  (総合的な港湾空間の創造)
  こうした港湾をとりまく新たなニーズに的確に対応していくため,「21世紀への港湾」においては,今後の港湾整備の目標の1つとして,物流・産業・生活の三つの空間が調和よく組み合わされ,有機的に連携され,全体として高度な機能を発揮できる総合的な港湾空間を創造することをうたっている。この総合的な港湾空間は,官民の協力を図りつつ,港湾業務用施設等による港湾中枢業務空間,高能率な物流空間,多様な産業空間,国際会議場や国際見本市場,テレポート等による国際交流・高度情報処理空間,旅客ターミナル施設,マリーナ,海事博物館等による港湾文化空間等を組み合わせることにより整備することとしている。

(2) 圏域の特性に応じた総合的な港湾空間の創造

  (大都市圏域及び地方圏域における総合的な港湾空間の創造)総合的な港湾空間の創造に対する要請は,地域の特性により様々であるが,大都市圏域と地方圏域に分けてみると,現在,以下のような点が大きな課題となっている。
  大都市圏域においては,我が国の代表的な大港湾が分布しており,国際化,情報化に対応した総合的な港湾空間創造の要請が顕著である。また,国際金融業,情報産業をはじめとする業務機能に対する極めて強いニーズがあるにもかかわらず,開発余裕空間が僅少であることから,都心業務地を中心に近時地価の急騰をみている。このため,まとまった用地需要への対応が期待できる臨海部を開発することへの要請が高まっている。

  首都圏では,東京港竹芝地区・芝浦地区及び横浜港みなとみらい21地区等において,老朽化,陳腐化した港湾空間の再開発計画が進められており,東京港晴海地区・豊洲地区においては,物流機能との調整を図りつつ再開発を行い,業務・生活空間を中心とした総合的な港湾空間を創造するための検討が進められている。東京港13号地においては,テレポートをはじめ新たな港湾空間の開発計画が検討されている。近畿圏では,大阪港南港地区,北港地区において,国際交流・高度情報処理機能等を兼ね備えたテクノポート大阪計画が,神戸港六甲アイランド,第2ポートアイランドにおいても新たな港湾空間の開発計画が進められている。これらの計画の実現に当たっては,開発地域と都心部等を結ぶアクセスの整備も図りつつ,業務機能の充実等の要請に対処した総合的な港湾空間の創造を図ることが重要である。
  一方,地方圏域においては,地域経済の活性化を図るため,地域に根づいた産業や固有の資源を活用し,地域の特性を発揮した地域産業おこし等を支援するための拠点として,総合的な港湾空間の創造を図る必要がある。この場合,レクリエーション機能等地域の優れたポテンシャルを活用した整備を行うことが重要である。
 (総合的な港湾空間の創造をめざした港湾計画等の策定)総合的な港湾空間の創造を図る上では,用地需要,海上交通,環境等を総合的に考慮したマスタープランに基づいて実施する必要がある。このため各港において総合的な港湾空間の創造をめざした港湾計画及び拠点地区の開発計画が策定されている。また,東京湾大阪湾,伊勢湾においては,特定の湾域内に大港湾が集中的に分布していることにかんがみ,総合的な港湾空間の創造に関しても湾内諸港全体としての有機的な機能発揮を図るため,運輸省により湾域利用全般に係る基本構想が策定されている。
  特に,喫緊の課題となっている東京臨海部の再開発を積極的に推進するため,61年10月,運輸省に東京臨海部再開発推進検討委員会を設置し,再開発に係る基本的方策についての検討を進めている。


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