2 交通安全対策の推進


(1) 道路交通の安全対策

 ア 車両の安全確保

      (自動車等の技術基準)
      自動車等の道路運送車両の安全を確保するため,道路運送車両法に基づき,自動車の構造,装置等について,保安上の技術基準(道路運送車両の保安基準)が定められている。この保安基準については,道路交通環境の変化等に対応し,昭和26年以来59回にわたり改正が行われているが,今後は,特に自動車の安全基準の国際的整合化の見地から,安全基準の国際的調和活動に積極的に参画するための調査・研究の充実に努めていくこととしている。
      (検査・整備制度)
      自動車の安全の確保と公害の防止を図るため,国が自動車の検査(車検)を行うとともに,自動車のユーザーに対しその責任において一定期間ごとに定期点検整備を行うことを義務づけている。
      また,自動車分解整備事業者(自動車分解整備事業場数80,242(60年度末現在))に対しては,その業務の適正化を図るよう指導・監督を行っている。
     整備事業の近代化については,61年2月,第五次近代化計画が策定されるとともに,経営戦略化構造改善計画が承認され,@知的体質改善を目的とする知識集約化,A経営規模の適正化を自的とする企業集約化,B経営方式の適正化等を図る経営戦略化等を,65年度を目標年度として推進している。また,整備事業を近代化し,指定整備の維持・拡大を図ることを自的として58年12月に創設された自動車整備近代化資金制度により,60年度末までに4,355件376億円の融資が行われている。

 イ 自動車運送事業の事故防止対策

      事業用自動車の事故による死者数は60年において1,486名で,道路交通事故による全体の死者数9,261名の16%を占めている。自動車運送事業としては,輸送の安全確保において自家用自動車に範を示すべく一層の事故防止が望まれているところであり,また,61年4月及び5月には,道路交通法の改正に伴う国会決議において,事業用自動車の事故防止のため,長時間運転,過積載等の改善指導の徹底について強く要請がなされた。運輸省としては,これらを踏まえて,自動車運送事業者の運行管理体制の充実強化を図るため,運行管理者研修の充実,自動車運送事業者に対する指導・監督の徹底を図っている。
     特に,61年7月12日,兵庫県内の中国縦貫自動車道において二階建て貸切バスが横転し,重軽傷者40名を出す事故が発生したことにかんがみ,高速走行時における安全運行,運転者教育等の徹底について,全国の貸切バス事業者に対して指示し,事故防止の徹底を図った。

 ウ 自動車事故被害者の救済

      自動車事故による被害者の救済を図るため,自動車損害賠償責任保険等の自動車損害賠償保障制度の適切な運用を行っている。自賠責保険については,60年4月に保険金支払限度額の引上げ(死亡及び後遺障害1級を2,000万円から2,500万円に引上げ等)を行ったほか,61年8月からは,その損害査定の基礎となる自動車損害賠償責任保険(共済)支払基準の改定を行った。
      このほか,自動車事故対策センターにおいて,交通遺児等に対する生活資金の貸付け,重度後遺障害者に対する介護料の支給,附属千葉療護センターにおける重度意識障害者に対する治療及び養護等を実施しており,61年度においては,交通遺児等に対する貸付額の改定,重度後遺障害者に対する介護料日額の改定等を行った。また,自動車損害賠償責任再保険特別会計から,救急医療設備の整備等の自動車事故対策事業に対して助成を行っている。

(2) 鉄軌道交通の安全対策

  鉄軌道における事故は長期減少傾向にあるが,安全性を一層高めるため,@施設面では,自動信号化,ATS(自動列車停止装置)の設置・改良,CTC(列車集中制御装置)化,軌道強化,列車無線設備の整備等による交通環境の整備を,A車両面では,コンピュータの利用等新しい技術を取り入れた検査方法の導入等による車両の安全性の確保を,B運転面では,乗務員等に対する教育訓練の充実,厳正な服務と適正な運行管理の徹底,等による安全運行対策を推進している。
  61年3月23日,西武鉄道新宿線田無駅構内において,急行列車が停車中の準急列車に追突し,204名が負傷するという事故が発生した。運輸省は,直ちに同社に対し原因の究明と再発防止対策の確立を図るよう指示し,また,雪に不慣れな首都圏における鉄道の雪害対策を充実するため,関係事業者に対し,大雪等の異常気象時における安全輸送対策のあり方について見直すよう指示した。
  (踏切事故の防止対策)
  踏切事故の防止については,第三次踏切事故防止総合対策(56〜60年度)に基づき,60年度においては,立体交差化95か所,構造改良561か所,保安設備の整備644か所の改良を行った。国は,国鉄に対しては踏切保安設備の整備費の一部を補助しており,また,民鉄事業者については,これらの整備のために必要な資金を財政投融資により確保するとともに,経営の苦しい民鉄事業者に対し,地方公共団体と協力して踏切保安設備の整備費の一部を補助している。

(3) 海上交通の安全対策

 ア 港湾

      60年度は,第6次港湾整備五箇年計画の最終年度として,港内の船舶の安全を確保するため,新潟港等32港において防波堤,航路,泊地等の整備を行った。また,沿岸海域を航行する船舶の安全を確保するため,関門航路等13の開発保全航路において開発又は保全の事業を行うとともに,輪島港等11港の避難港の整備を行った。
      61年度は,第7次港湾整備五箇年計画の初年度として,引き続き,港内及び沿岸を航行する船舶の安全を確保するため,防波堤等の施設の整備及び開発保全航路,避難港の整備を推進している。

 イ 船舶の安全性及び安全運航の確保

      船舶の安全を確保するため,技術革新による輸送形態の多様化等に対応し,船舶検査体制の充実強化を図るとともに,型式承認事業場認定等検査の合理化を推進し,併せて放射性物質,化学物質等危険物の海上輸送の増大とその物性の多様化に対応した安全審査体制の整備強化に努めている。
      船員の安全対策としては,船員災害の防止を図る観点から船員労務官による監査及び指導を行うほか,船員災害防止活動の促進に関する法律に基づき,58年度に策定した第四次船員災害防止基本計画に沿って,船舶所有者の自主的な安全衛生管理体制の機能強化等に重点を置き,種々の対策を実施してきている。
      61年7月には,1974年の海上人命安全条約の第2次改正が発効したことに伴い,船舶の救命設備及び危険物の運送に係る基準の改正を主な内容とする関係省令の改正を行った。
      一方,いわゆるサブ・スタンダード船(船舶の国際的な技術要件及び船員の国際的な資格要件を満足しない船)の排除については,国際的な情勢も踏まえて,海上における人命の安全及び海洋環境の保護を図る観点から監督体制を整備し,外国船への監督及び立入検査を実施することとしている。また,危険物等を輸送する船舶に対しては,引き続き立入検査を実施し,安全性の確保を図っている。
      (漁船等に対する安全対策)
      近年,漁船,プレジャーボートや遊漁船等の海難が多発している。このため,漁船に対しては事故防止対策及び事故が発生した場合の早期発見と生存対策について,漁船の構造装置等のハード面及び船員の労働保護等のソフト面の両面から総合的な検討を行い,関係省令の改正を行うとともに安全指導の強化のための講習会の開催等を実施した。
      漁船は,正規の手続を経ずに改造している事例が多く,人命の安全に係ることから,その立入検査を強力に実施している。プレジャーボートや遊漁船等小型船舶については,安全指導をより強化するとともに,小型船舶の安全基準等について見直すこととしている。

 ウ 旅客船の安全確保

      多数の旅客や自動車を運送する旅客船の安全を確保するため,旅客航路事業者に運航管理者の選任,運航管理規程の作成等を義務づけている。
      また,地方運輸局に配置された運航監理官により,旅客船及び事業所の監査,運航管理者に対する研修等を行い,安全確保体制の確立に努めている。
      61年7月14日,瀬戸内海の来島海峡西側入口付近において,旅客353名を乗せたカーフェリーがケミカルタンカー及び油タンカーと衝突し,1名が負傷するという事故が発生した。運輸省は,直ちに当該事故を起こした事業者及びカーフェリーに対し特別監査を実施し,その結果に基づき当該事業者に対し海上運送法に基づく輸送の安全確保命令を行うとともに,旅客航路事業者全般に対しても,運航管理の再点検を実施する等により安全輸送に万全を期すよう指導を行った。

 エ 船舶の航行安全の確保

      海上保安庁では,海上交通の安全を確保するため,海上交通関係法令に基づく諸規制や各種の安全対策を講じている。
      (ふくそう海域における安全対策)
      船舶交通のふくそうする海域における安全対策としては,安全確保に関する情報提供と航行管制を一元的に行う海上交通情報機構を整備してきており,既に業務を行っている東京湾の成果を踏まえ,現在,瀬戸内海の関門海域及び備讃海域において整備を推進している。
      (大規模プロジェクトの安全対策)
      東京湾、瀬戸内海等においては,東京湾横断道路,関西国際空港,本州四国連絡橋等の大規模プロジェクトが推進されているが,海上交通に大きな影響を与えるおそれがあるため,計画の策定段階からこれに参画し,建設中及び完成後の船舶の航行安全対策の指導等に努めている。
      (小型船舶の安全対策等)
      プレジャーボート等小型船舶の事故防止については,事故が増加していることに対処するため,小型船安全協会等の設置を促進し,また磯釣り事故防止のため,瀬渡船関係者に対し,瀬渡船等安全対策連絡協議会等の整備の促進を働きかける等民間における自主的な海難防止活動の推進を図るほか,官民一体となった海難防止強調運動等を展開している。
      (灯浮標・海図等の整備)
      このほか,浮標式の国際的統一に伴う灯浮標等の様式の変更工事を計画的に行っており,60年度は,瀬戸内海東部で約400基の工事を実施した。また,海図等の水路図誌を整備するとともに,船舶交通の安全に係る緊急を要する情報を航行警報等により提供している。
      (最近のカーフェリー等の事故に対する指導)
      61年7月14日に発生した来島海峡におけるカーフェリーとケミカルタンカー及び油タンカーの衝突事故を契機に,改めて関係団体に対して安全運航に関し徹底を図るよう指導した。

 オ 海上捜索救助対策の推進

      (SAR条約の発効)
      60年6月10日,我が国は「1979年の海上における捜索及び救助に関する国際条約」(以下「SAR条約」という。)に加入し,同条約は同年6月22日に発効した。
      海上保安庁は,SAR条約により我が国の捜索救助区域となることが予定されている本邦沿岸から1,200海里にも及ぶと予定されている広大な海域における国際的な捜索救助活動の責任を果たすため,航空機とヘリコプター搭載型巡視船を中心とする広域哨戒体制の計画的な整備を推進しており,その一環として,61年3月にはへリコプター2機搭載型巡視船「みずほ」(総トン数5,300トン,航続距離約8,500海里)が就役している。
      (船位通報制度の運用開始)
      さらに,SAR条約により確立することを勧告されている船位通報制度を60年10月から運用開始し,捜索救助活動の効率化を図っている。我が国の船位通報制度(ジャスレップ)は,遭難船舶の位置の推定,捜索区域の迅速・的確な決定,巡視船の早期派遣等を行うとともに,必要な場合には民間船舶に協力を要請し,迅速かつ適切な捜索救助活動の実施を可能とするもので,運用開始から61年9月末までの1年間に2,336隻の船舶が参加し,11件の海難に活用した。海上保安庁では,より多くの船舶の参加促進を図るとともに,この制度の定着化に努めている。
      また,隣接国との捜索救助業務に関する協力体制をより緊密にするため,SAR条約に基づく合意に達するよう当該隣接国と協議を進めている。

(4) 航空交通の安全対策

 ア 日航機事故の原因究明

      60年8月12日,東京発大阪行き日本航空B-747型機が,伊豆半島東方上空で操縦不能に陥り,群馬県上野村の山中に墜落炎上し,死者520名,重傷者4名を出すという大惨事となった。
      航空事故調査委員会は,翌13日,墜落現場における調査活動を開始して以来,鋭意事故原因の究明に努めているが,本事故に対する世界的な関心度の大きさにかんがみ,飛行記録装置及び音声記録装置の解読等事実調査により知り得た事実を中心に5回にわたり逐次経過報告を公表してきた。
      その後,機体残骸について各部品の分解調査,機体後部の復元及び破壊状況の調査等の詳細な調査を進め,その結果と経過報告を基に「事実調査に関する報告書の案」を作成した。そして同案に対して関係者及び学識経験者の意見を聴き事実関係を固めるための聴聞会を61年4月25日に開催した。
      また,後部胴体及び垂直尾翼の構造強度調査及び飛行性能解析等の試験研究を行って,機体破壊のプロセス,事故機の操縦性能の変化等の解析を進めている。

 イ 日航機事故後の安全対策

      運輸省としては,かかる事故の再発防止の徹底を図るため,事故後直ちに関連航空会社に対し一斉点検を指示して同型機の安全性を確認したのをはじめ,所要の措置を講じているところである。日航機事故後に講じた安全対策の概要は, 〔7−1−2表〕のとおりである。

      また,運輸省としては,航空機整備の審査体制を強化するため,61年度から新たに整備審査官を置き,各航空会社の点検整備体制の特性を十分把握するとともにメーカーからの情報,異常運航・故障情報等を掌握したうえで,これらに基づく統一的な考え方の下に,各航空会社に対して安全運航確保のための整備関係諸規程の充実等について指導監督を強化しているところであり,今後とも各航空会社に対する安全性確認検査等を通じて安全運航の実態を把握し,各航空会社が運航及び整備体制の充実・強化に努めるよう強力に指導監督していくこととしている。

 ウ 緊急時における捜索救難体制の整備

     民間航空機の捜索・救難については,警察庁,防衛庁,運輸省及び海上保安庁が「航空機の捜索救難に関する協定」を締結して実施している。60年8月の日航機事故に際しても,同協定に基づき捜索7-1-2救難活動を実施したところであるが,この事故を教訓として,東京空港事務所に設置されている救難調整本部(RCC)に,捜索区域の迅速な設定に必要な地図情報を検索するための装置,関係機関と迅速な連絡を行うための専用電話回線等の整備を行うとともに,専任要員を配置し,民間航空機の捜索・救難体制の強化を図った 〔7−1−3図〕

 エ 北太平洋航空路の飛行の安全性に関する日米ソ三国合意大韓航空機事件(58年9月1日発生)以後,北太平洋航空路の飛行の安全性について日米ソ三国間で協議が行われ,この協議の結果,管制機関相互間の通信手段の改善等を内容とする了解覚書及び三国の管制センター間の協定が締結された。これらに基づき,東京航空交通管制部とハバロフスクの管制センターとの間に専用直通電話回線を設置する等の準備を行い,61年8月15日に運用を開始し,北太平洋航空路の安全性の向上を図った。

 オ 小型航空機の事故防止対策

      小型航空機は,遊覧飛行,物資輸送等の不定期航空運送事業,薬剤散布,写真撮影等の航空機使用事業に幅広く使用され,さらに,近年は自家用飛行機及び超軽量動力機(モーターハンググライダー等)が普及している。
      小型航空機の事故件数は,近年横ばい状態を示し,60年には36件(うち6件が超軽量動力機)発生し,死者10人,負傷者22人であった。しかし61年においては10月末現在で既に40件(うち12件が超軽量動力機)発生し,死者15人,負傷者24人と例年にない発生状況になっている 〔7−1−4図〕。特に,61年8月9日には,埼玉県騎西町において単発飛行機が墜落し,搭乗者7人全員が死亡するという事故が発生した。

      このような小型航空機の事故の発生の防止を図るため,航空事業者及び自家用小型機運航者に対して,法令及び安全関係諸規程の遵守,無理のない飛行計画による運航の実施,的確な気象情報の把握,操縦士の社内教育訓練の充実等を内容とする事故防止の徹底を指示し,また,超軽量動力機の飛行の許可を行うに当たっては一般の航空機,地主の第三者及びその他の物件に危害や損害を及ぼさないように必要な条件を付する等安全運航確保のための指導監督に努めている。

 カ 航空大学校の充実

      近年の航空機の大型化,高速化,電子化に伴い,操縦士に要求される知識及び能力の内容がより高度なものとなってきたことなどを踏まえ,60年6月に,航空大学校の今後のあり方について航空大学校検討懇談会報告が出され,その趣旨に沿った航空大学校の制度改革を図ることとして,62年度入学者から適用のある入学資格の引上げ,専門教育の充実等を内容とする航空大学校規則の改正を61年6月に行った。また,62年度より航空大学校に高性能訓練機(ターボプロップ機11機)を導入することとした。

 キ 航空保安要員の教育体制の充実

      航空保安大学校本校における新規採用職員に対する基礎研修及び同校岩沼分校における高度な専門技術修得のための研修について,その内容の充実に努めているところであるが,60年度においては,前年度に引き続き,教育用ターミナル・レーダー情報処理システムの性能向上等の整備を行った。

 ク 充実する航空保安システム

      航空機は,特定の電波を発射する無線施設(VOR/DME等)によって構成された航空路上を飛行している。これらの航空機を管制するために航空路監視レーダ」(ARSR),空港周辺を飛行する航空機を管制するために空港監視レーダー(ASR),また,ASRから得られた情報を電子計算機で処理し管制官に必要な諸情報を提供するターミナル・レーダー情報処理システム(ARTS)を整備してきている。一方,地方空港のジェット化に伴い,効率的運航とより安全な着陸を行うために計器着陸装置(ILS)及び進入灯(ALS)を整備してきている。
      なお,60年度においては,大分ASR,鹿児島ARTS,鳥取VOR/DME,高知ILS及び鳥取ILSの整備を行った。


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