3 気象事業の展開
(1) 気象事業の現状
先に述べたように,近年,個々の企業活動に果たす気象情報の役割は,年々大きくなっている。しかしながら,行政がこれら個別ニーズに直接応えることには自ずと一定の限界があるため,こうした個々の自的を持った特定利用者に対する気象サービスは,気象業務法による許可を受けた者(以下「気象事業者」という。)が,気象庁の業務を補完する形で実施している。
気象事業者は,61年10月末現在,(財)日本気象協会や民間会社等15事業者にのぼり,気象庁から提供される各種気象データを各利用分野の利用に適した情報内容に加工し,オンライン,電話FAX等により提供している。
最近では,情報提供手段として,電話FAX,テレホンサービス等が用いられているほか,駅等における情報サービスシステムを利用した気象情報の提供がなされている。また,気象情報に釣りなどのレジャー情報を付加した行楽情報等の新しい形態の情報も作られ,幅広く利用されるようになってきている。
このように,気象事業者は,利用者の個別のニーズに対応して活発な事業展開を行っている。
(2) 気象事業の健全な発展のための施策
気象事業は,利用者側の多様なニーズに応えつつ急速に拡大してきているが,今後も健全な成長を遂げて行くためには,行政にも必要な対応が求められている。
(利用者の利便向上のための積極的施策)
気象庁では,気象事業者により提供される情報は正確かつ適切なものでなければならないという観点から,気象事業者の健全な発展を図るため,アデスシステム等を通じて必要なデータの提供を行うとともに,適宜,指導・監督を行っている。
また,60年度には,約100の各種産業団体の協力を得て,産業気象情報研究会を開催した。本研究会においては,気象庁及び気象事業者による産業界への気象情報の提供について,利用者のニーズの把握,利用方法の検討等を継続していくことが必要であるとの結論を得た。
これを受けて61年9月には,気象情報の利用に大きな関心を有する運輸業,製造業等の各企業,(財)日本気象協会等の気象事業者をメンバーとする産業気象利用者協議会が設立された。気象庁は,同協議会に対し積極的に指導を行い,利用者のニーズに即応した気象情報の提供を推進していくこととしている。
4情報化の進展と気象情報経済社会における高度情報化が進むなかで,各種情報に対するニーズは高度化,多様化している。気象情報についても,従来のような単一の情報あるいは同一分野の情報ではなく,利用者の個別ニーズに対応したきめ細かい情報の提供が求められている。例えば,メッシュ気候情報や細かな時間・空間スケールの気象を把握するため,気温,雨量等を画像情報に表現したものなど,新しい形態での情報提供に対するニーズも高まっている。
このように,社会環境の変化,ニーズの多様化に対応して,気象情報の整備・提供についても高度化が求められている。
(情報提供システムの整備)
このため,気象庁では,気象業務に供する各種気象情報の責任ある管理体制を一層充実させるため,アデスシステムを整備し,その高度化を図るとともに,レーダーアメダス雨量合成図のような防災気象情報の的確な伝達手段の確立等による気象業務の円滑な推進に努めている。
また,気象事業者においても,気象庁からアデスシステム等を通じて提供される膨大な量のデータを迅速に処理し利用者に届けるため,独自の気象情報提供システムを整備している。例えば,(財)日本気象協会のマイコス・システムは,スーパー・ミニコンを核とする全国ネットの代表的な気象情報提供システムであり,マイコスLAN(LocalAreaNetwork)と称する地域サービス・センターを通じ,地域利用者の細かい二ーズに応える気象情報のオンライン即時提供を行っている。
さらに,ビデオテックス等ニューメディアを活用して,利用者が必要な時に必要な情報を入手できるシステム等が整備されつつあるが,気象事業者は,これらシステムヘの情報提供者となるとともに,パソコンによるLANを利用した画像情報の安価な提供を可能とする施設整備を進めている。
(地域における気象情報ネットワーク)
気象情報は,基本的な情報として地域における住民生活,経済活動に密接な関連を有している。また,最近の国民の快適性・利便性志向等ともあいまって,生活に密着した気象情報に対する住民ニーズは,従来以上に高まっている。
一方,ニューメディア時代の到来が言われるなかで,ビデオテックス,CATV等の新たな情報提供手段が続々と誕生しており,利用者が必要な時に必要な情報を入手できるような情報ネットワークの導入が実現されつつある。
このため,このような最新のニューメディア機器を利用して,地域に必要なきめ細かい気象情報を行政機関,住民,企業等にリアルタイムに提供する気象情報ネットワークの開発・整備を行い,地域の活性化を図る動きがみられるようになっている。
例えば,富山県における雪情報通信システムでは,冬季において,住民生活に欠かせない物資の輸送等に重大な影響を与える雪情報について,地域ごとのきめ細かい情報を提供する実験を開始している。気象庁は,このシステムに対して,気象情報の提供,技術指導など,(財)日本気象協会を通じて積極的に支援を行っている。
こうした地域における情報化の推進については,61年1月の運輸政策審議会答申「運輸における情報化を円滑かつ適切に推進するための基本方策について」においても指摘されているところであり,気象庁としては,今後も,同答申に沿って地域の情報化を図るべく,関連気象情報の提供,気象技術の指導等を含め積極的に支援していくこととしている。
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