2 運輸産業の情報化の推進
(1) 運輸関係情報システムの整備
(運輸関係情報システムの整備の必要性)
運輸産業が安全性の確保,効率化の促進,利用者利便の増進を図り,良質で安価な運輸サービスを提供していくためには,情報システムの構築等の情報化が極めて有力な手段となる。このため,運輸部門においては,従来から,座席予約システム,列車運行管理システムをはじめ各種情報システムが開発,運用されているが,今後もこうした運輸関係情報システムの開発,整備を進めていく必要がある。
特に,従来,列車,トラック,バス等の移動体と外部とを結びつける手段が充分でなく,トラックに対する的確な集荷指示ができない等の問題が生じていたので,移動体に情報通信機器等を搭載し情報通信機能を強化することによって,輸送活動の基本となる移動体を「動くオフィス」化していく必要がある 〔8−1−1図〕。
このため運輸省では,移動体情報システムの整備のあり方について調査を行ったほか,船舶の航行に係る各種情報を一元的に収集し,これを体系的に整理,蓄積して,各船舶の個別のニーズに応じた形で提供する船舶航行情報共同利用システムの整備について検討を行っている。
(ネットワーク化の推進)
最近,運輸関係情報システムは,企業内のシステムから企業間,異業種間を結ぶ情報システムヘとネットワーク化する傾向があるが,このようなネットワーク化により情報の収集,処理,伝達が一層容易かつ迅速になり,運輸活動の効率化,利用者利便の増進等が図られることから,ネットワーク化を推進する必要がある。
このため,このようなネットワーク化の一環として,運輸省では,海貨業者,検数・検量業者,船会社をオンラインで結び,港湾貨物に係る情報の伝達,交換を行う港湾貨物情報ネットワークシステム(SHIPNETS)の整備を推進しており,同システムは61年4月から京浜港において本格稼働を開始している。
(2) 運輸関係施設の多角的高度利用の推進
(運輸関係施設の情報化関連施設としての活用)
駅・空港等の交通ターミナル,鉄道線路敷,港湾等の運輸関係施設は,情報提供のための空間として,また通信インフラストラクチャーの整備のための空間として優れた特性を有している。このため,一部の鉄道事業者においては,運輸関係施設を活用してCATV事業やビデオテックスによる情報提供事業等に着手する動きがある。こうした新たな事業展開により,運輸産業は,経済社会のニーズに応えた各種情報提供サービスが可能となるとともに,自らの事業の活性化も図られることから,このような運輸関係施設の情報化関連施設としての活用を推進する必要がある。
(交通ターミナルの情報化)
駅・空港等の交通ターミナルは,多数の人や物の集散する交通の結節点であり交通機関や地域に関する情報ニーズが高いこと,情報提供のための利用可能空間を有していること等から,ここにビデオテックス,CATV等のニューメディアを導入し,交通情報,観光情報,タウン情報等を提供すれば,利用者の情報ニーズが充足され利用者利便が向上するほか,公共交通機関の魅力の増大,さらには地域社会の活性化にもつながると考えられる。
このため,運輸省は,61年1月から,新東京国際空港,渋谷駅,大分駅,大分空港を対象として情報提供実験を行い,交通ターミナルの情報拠点化(メディア・ターミナル)を進めるうえでの問題点,今後の整備のあり方等の検討を行っている。
(鉄道線路敷の高度利用)
鉄道線路敷は,都市間を最短距離で結ぶ全国ネットワークを形成していること,沿線に人口密集地帯を有することから,これを光ファイバーケーブル等の通信インフラストラクチャー整備のための空間として活用すれば,我が国経済社会の高度情報化に資するほか,交通情報,観光情報等の提供により利用者利便の向上,鉄道沿線地域の活性化が図られるものと考えられる。
国鉄を中心として設立された日本テレコム(株)は,東京・大阪間の東海道新幹線沿線に光ファイバーケーブルを敷設し,61年8月から専用線通信サービスを開始し,62年秋からは電話サービスについても提供する予定のほか,順次,山陽,東北及び上越新幹線各沿線地域への業務区域拡大を計画している。これは鉄道線路敷の高度利用の具体例といええよう。
(高度港湾情報空間形成)
港湾は情報通信ニーズの高い都市近傍に位置し,かつ,都市に比べて電波障害が少なく用地確保も容易であることから,パラボラアンテナを備えた衛星通信受発信地上局,オフィス・パーク施設(高度情報化業務ビル)で構成されるテレポートを整備すれば,今後増大すると考えられる世界的な情報通信ニーズの充足,物流の合理化,高度に情報化された産業空間の形成等が図られるものと考えられる。
このため,現在,東京港,横浜港,大阪港等においてテレポートの整備が検討されており,運輸省としてもこれらの事業を積極的に推進していくこととしている。
(3) 地域における情報化の推進
(地域における運輸関係情報提供システムの必要性)
我が国経済社会の高度情報化が進展するなかで,地域の住民生活の向上や産業の発達を促し,地域の発展に寄与するため,各地域の特性に応じた情報化の進展が求められているが,運輸関係情報の中には,気象情報,交通情報,観光情報,海洋情報等地域の経済社会活動においてニーズの高い情報が多いことから,これらの情報を地域のニーズに的確に応えて提供する情報システムを開発,整備する必要がある。
(地域運輸情報システムの展開)
このような観点から開発,整備を推進すべき情報システムとして,次のようなものが挙げられる。
@ 積雪地帯等気象が住民生活や産業活動に多大な影響を与える地域においては,きめ細かな気象情報積雪等による地域交通への影響に関する情報等を提供する情報システム
A 鉄道,バス等の交通ネットワークが複雑化している大都市においては,目的地までの経路,運賃,ダイヤ,乗換え等に関する情報を提供する情報システム
B 観光地においては,当該地域の各種観光情報を他の地域へ堤供するとともに,当該地域の駅,空港,港湾,ホテル・旅館等でも提供する情報システムC 沿岸域においては,海洋開発の促進,海洋性レクリエーションの利便の向上等の観点から,水温,波浪,海底地形等の海洋情報を提供する情報システムこのため,運輸省では,61年度において,積雪地帯における気象情報,交通情報等の情報提供システムの整備方策について地方公共団体と協力して検討を行っている。また,総合的な観光情報提供システムの整備を進めるため,(社)日本観光協会作成の「全国観光情報ファイル」のデータベース化,スキー・スケート情報等の動態情報の実験的な提供を行っており,これらの観光情報と交通機関,宿泊施設等の予約システムとの結合等について検討を進めている。
(4) 情報化による運輸産業の変化への対応
(企業間関係の変化)
情報化により事業の効率化を進めた企業はその競争力を強化することになるが,情報化対応が果たせなかった企業は競争力の低下を招く。このように,情報化対応の優劣により企業間格差が発生したり,その拡大が進む可能性がある。また,情報ネットワークの形成により,取引関係・提携の強化が進み,企業のグループ化,系列化が進む可能性があるが,これにより中小企業の自由な発展が阻害されるおそれもある。
このため,費用負担能力,情報化に関する専門的能力において一般的に情報化対応の困難な中小企業の情報化対策をはじめ,高度情報社会に対応した適切な運輸産業政策を展開していく必要がある。
このような観点から運輸省では,61年度において,情報化が運輸部門に与えるインパクトの調査を行うとともに,これに対応した運輸産業政策のあり方について検討を行っている。
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