3 運輸関連ニューサービスの発展
以上の議論は,既存の統計・資料等に表された変化であるが,これだけでは,運輸サービス内での新たな動向を正確にとらえるにはまだ十分ではない。これらの既存統計等は,業種の区分が不十分であったり,新しい運輸サービスの動きの全てをカバーしきれていない等の限界があるためである。さらに既存の業種区分の内部での動き,これらの統計から漏れている新しい分野の動向にも目を向けてみる必要がある。
このため,運輸省では,60年度において,これらの運輸をめぐる新たな領域でのニューサービスの動向の実態把握及びこれらに対する行政対応のあり方を整理するための調査を行った。同調査によるニューサービスの広がりの事例を挙げれば 〔8−4−6表〕のようなものである。
こうした運輸関連のニューサービスは,近年急速に増加しており,現在約200業種前後に達していると想定される。この中には,淘汰される可能性の高いものから既に確固たる一大市場を形成しつつあるものまで様々であるが,特に,例えば宅配便等のように市場の拡大した分野では,それ自体から新たなニューサービスを生み出したり,より細かな分野に分化したりするなど,運輸関連ニューサービス全体の市場は時代のソーシャルトレンドを背景に今後ますます拡大し,更に新たなサービスが登場してくるものと考えられる。
これらのうちの主要なものについてその概略をみてみると,以下の通りである。
(1) 「流通」へ進出する宅配便
宅配便は,この7年間(53→60年度)で取扱い個数が1,500万個から4億9,300万個へと急成長し,さらに年率30〜40%増の勢いで伸び続けている。郵便小包や国鉄手小荷物を食って成長したともいわれるが,この間の両者の減少は合わせても約8,400万個に過ぎず,それをはるかに上回る新規需要の開拓で伸びているのは明らかである 〔8−4−7図〕。
特に近年は,個別のニーズに対応してその中身の多様化が進んでおり,スキー便,ゴルフ便,バイク急便,旅行手荷物便等の専門特化したサービスも登場している。さらに注目すべきは,産地直送便やカタログ・通信販売,惣材宅配などの急成長である。これらは,もはや単、なる輸送サービスの枠にはとどまっておらず,商的流通分野への進出といえるものである。こうした動きは今後,ホームショッピングや無店舗販売の進展が予想されるなかで,従来の流通システムに大きな影響を与えていく可能性を持っている。
(2) クーリエサービス等(国際宅配便)
クーリエサービスは,海外向けの書類や小荷物を戸口から戸口まで航空便で急送するサービスで,その迅速性,確実性,低廉性から,近年急激に利用が伸びている。このクーリエサービスは,小刻みな運賃を設定することにより多様なニーズに対応し,航空運送事業の認可料金体系との間で「混載差益」を生み出している。
業界トップの外資系企業1社で既に月間20万件を扱っており,さらに年率30%の成長を続けている。こうした外資系企業に,57年からは日本企業数社も加わり,さらに郵便事業も「国際ビジネス便」等により巻返しを図るなど,競争激化のなかで全体の市場を急速に拡大させてきている。また,今後も外国系企業の参入等により競争の激化が予想され,この分野の一層の発展が期待される。
(3) コンベンションでも運輸産業が活躍
近年,国際会議や展示会,各種イベント等のいわゆるコンベンションの急増が注目されている。特に,地方におけるコンベンション熱は盛んで,横浜市の“みなとみらい21"や千葉の“幕張メッセ"をはじめ,「コンベンション・シティー」をめざす地方公共団体は全国で120を超えている。こうしたコンベンション熱の背景には,国際化はもちろん,情報化,社会の成熟化,地方の時代といった流れがあり,急速に拡大するコンベンション関連市場はアメリカでは1983年で20兆円,日本でも既に2〜3兆円に達しているとみられている。
このようなコンベンションに関連する産業は,サービス業を中心に極めて広範囲にわたっているが,その中でも,ホテル,旅行業,航空,鉄道など運輸産業は大きな役割を果たしており,コンベンションの振興を図ることによりコンベンション関連産業の発達を促すことは,運輸産業の発展にも大きく寄与するものである。
(4) スポーツ・レジャー産業(運輸関係)
余暇の増大,スポーツ・レジャーマインドの拡大に伴い,各種レジャー関連サービスも急速に成長している。これらの中では,マリーナ,ヨット,モーターボート,遊漁船,グライダー,ライトプレーン,モーターハング,ハング・グライダー等の輸送機器自体や運輸施設が重要なウエイトを占めており,また,こうしたレジャーのオーガナイザーとしての旅行業者やホテル,レジャーランド等の観光関連事業の果たす役割が大きくなってきている。新たなレジャー・レクリエーション活動の振興,拡大はそのまま運輸産業の活性化につながるものである。
(5) 気象情報提供サービス
各種産業と気象との関連が究明されるに従い,近年,各方面から,より個別具体的な気象情報に対するニーズが高まり,対価を得てこれを提供する事業化の基盤が醸成されてきている。これに伴い,気象情報提供事業者は最近3か年で5社が新たに設立されるなど急増して,計15事業者に達しており,いずれもその業績を拡大している。
また,(財)日本気象協会が始めたオンライン気象情報提供システム(マイコス)もこのところ利用が急増し,新規加入が相次いでいる。こうしたサービスのユーザーは,海運,航空等の運輸業者から,電力会社,自治体,レジャー・イベント関連企業,エアコンメーカーまでと幅広く,さらに多方面に拡大しつつある。欧米では既に民間気象情報提供サービスの一大市場が確立されており,日本においてもニーズの高度化に伴いこの分野の一層の拡大が予想されている。
(6) レンタカー・リースカー
近年のリース産業の伸びは急激であり,低成長経済といわれるなかにあってリース業はここ数年20%を超える勢いで急拡大を続けている。リースの民間設備投資に対する割合は,10年前に2%であったのが現在では8%に達しており,今や投資動向の把握は,リース業の動きを抜きには行えないようになってきている。
このなかにあってレンタカー・リースカーの伸びも著しい。特に対個人相手のレンタカー・リースカーももちろんであるが,近年は,対事業所向けのリースカーも急激に伸びているのが特色である。こうしたリース業は,個人や企業の「ものを所有することから利用することへ」の意識の変化にうまく対応して成長している。車以外にも,船舶,航空機等の輸送機械やコンテナ,パレット等の関連機器のリースも急速に伸びている。
(7) 引越しの総合サービス化
引越運送自体は従来からあるサービスであるが,近年のそれは単なる運送の枠を越えたサービスとして発達している。「小さな引越便」のように,宅配便システムと連動させてシステムを簡素化,単純化したり,ピアノ輸送や海外引越,婚礼輸送等の専門特化,また,家具の取付や清掃,殺虫,役所等への手続きの代行といった付帯サービス,トランクルームと提携した家具の一時預かり,さらには家具のリースや販売,クレジットサービスにまで拡張し,引越しに関するものを全て取り込んだ総合的サービス業となってきている。こうしたきめ細かなサービスが,主婦感覚や高度化したニーズにうまく適合して利用の増大をもたらしている。
これらのほかにも運輸・観光情報サービスやVAN,CATV,通信サービス等への運輸企業の進出,複合一貫輸送等フォワーダーの動き,トランクルームの多様化,コミュータ航空等注目すべき新たな動きは多い。これらの新しく拡大しているサービスはいずれも時代のニーズに対応して登場し発展しているものであり,またいずれもサービスの付加価値を高めたソフト的運輸サービスの延長にあるものである。こうした動向は今後,運輸経済の中でも重要なウェイトを占めていくものと思われる。
(市場規模は既に5兆円)
このように運輸産業内部においては,ソフト的運輸サービスの拡大や時代のニーズに対応した新たなサービスの成長といった変化が進みつつある。
特に,これらのニューサービスは時代のニーズに乗って急速に拡大しているものも多く,前述の運輸省調査に盛り込まれた約130種のニューサービス事業のうち,市場規模の明らかなものだけを足しあげても,既に5兆円市場に達しているとみられている。
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