1 国際交流の促進


(1) 国際的な人的交流の現状

  (日本人の海外旅行の現状)
  我が国をめぐる国際的な人的交流の現状をみると,まず昭和61年の日本人海外旅行者数は,1-3月期には前年同期比3%増であったが,その後円高の進展に伴う海外パッケージ・ツアー料金の値下がり,現地での円の購買力の増大等により,4-6月期同8%増,7-9月期同14%増,10-12月期同21%増と期を追って伸びが高まり,結局61年全体では,対前年比11%増の552万人となり,初めて500万人の大台を超えた 〔1−3−1図〕。日本人海外旅行の伸びは62年に入っても続き,1-7月期の対前年同期比は24%増という高いものとなっている。

  61年の日本人海外旅行者の行先をみてみると,アメリカの168万人(うちハワイ94万人,グアム33万人)を筆頭に,韓国が79万人,香港が73万人,台湾が70万人と続いており,これらの地域の人気が依然高いが,一方伸び率でみると,オーストラリア(11万人,35%増),カナダ(24万人,35%増)等が大きな伸びを示している。
  (訪日外客の現状)
  一方,61年における訪日外客数は,60年の国際科学技術博覧会開催中の訪日外客数増の反動に加え,急激な円高により日本旅行が割高になったことから大幅に減少し,対前年比11%減の206万人となった。対前年比マイナス成長は,戦後3回目で,第一次オイルショックの影響を受けた49年(対前年比2.6%減〉以来のことである。訪日外客の減少が特に大きかったのは,マレイシア(対前年比35%減),台湾(同17%減)など訪日外客数の約半数を占めるアジア諸国地域であった。また,訪日外客は,買物,飲食,宿泊等の消費の節約を余儀なくされているが,その消費額は円建てでは減少しているものの,ドル建てでは増加しているという実情にある。62年に入ると,台湾,韓国を中心としたアジア地域からの外客の回復により,外客数は回復基調に推移し,1-6帰期では,対前年同期比で1.9%増となっている。
  なお,我が国への入国外客数は,世界で最も多く外客を受け入れているイタリア(5,363万人)の約1/26,スペイン(4,739万人)の約1/21にすぎず,マレイシア(293万人),タイ(282万人)等のアジア諸国に比べても低い水準となっている。

(2) 国際観光の振興

  国際観光は,最も広い範囲の国民の参加が得られる国際交流の機会であり,その振興は,我が国をめぐる国際的な人的交流の拡大に大きく寄与するものであることから,運輸省では,各種の国際観光振興策を推進している。

 ア 海外旅行倍増計画の推進

      日本人の所得水準の向上,自由時間の増大,パッケージ・ツアーの普及,さらに最近の円高等により,日本人海外旅行者は着実に増加し,61年の出国日本人数は552万人に達した。しかしながら,これを対人口比でみると,我が国では年間国民の約4%しか海外旅行をしておらず,他の先進国(イギリス39%,西ドイツ34%,フランス16%,アメリカ12%)に比べて極めて低い水準となっており,同じ太平洋にあるオーストラリアの約10%と比べても半分にすぎない 〔1−3−2図〕

      海外旅行の促進を図ることは,国際的な相互理解の増進,国民の国際感覚のかん養などといった意義のほかに,諸外国の経済振興,我が国及び相手国の国際収支のバランス改善への寄与等の効果をも有するものであり,今後,相互依存関係の深まる国際社会において我が国の安定的な存立を確保するためには極めて重要になってきている。このような観点から,60年7月の「市場アクセス改善のためのアクション・プログラムの骨格」においても,日本人海外旅行の促進等を図るべきことが盛り込まれている。
      このため,運輸省として,関係省庁の協力を求めつつ,国民の海外旅行を促進するための施策を強力に推進していくこととし,これによって概ね5年間で日本人海外旅行者数を1,000万人の水準に乗せ,対人口比をオーストラリア並みにすることをめざす「海外旅行倍増計画」を推進している。
       〔1−3−3表〕は先進諸国の中で貿易収支が黒字である日本と西ドイツについての貿易収支と旅行収支を比較したものであるが,日本の方が貿易黒字が大きいのに対して旅行収支の赤字は小さく,結局貿易黒字に対する旅行収支赤字の割合は数倍の差が出ている。倍増計画の国際収支面での効果をみてみると, 〔1−3−4表〕のとおり,66年には110億ドル以上の旅行収支の赤字が生じると見込まれる。

      (計画推進のための具体的方策)

 (ア) 海外旅行促進キャンペーン等の実施

      計画推進に当たっての具体的方策としては,まず,海外旅行促進のキャンペーンを行い,その一環として海外修学旅行の促進,長期連続休暇取得運動の推進等を行っている。

 (イ) 海外における日本人観光客の受け入れ環境改善

      日本人観光客の受け入れ環境改善のための第一の施策は,諸外国の観光振興に対する経済技術協力の充実である。現在,我が国は,各国政府の要請を受け,インドネシア,マレイシア,タイ等諸外国に対する観光開発協力を実施してきているが,今後,その充実・強化を図るとともに,観光関係従業員の交流等を推進していくこととしている。第2の施策としては,日本人観光客の受け入れ環境改善のために現在までにオーストラリア,中国及びタイに対し,官民合同の日本人海外旅行促進ミッションを派遣し,相手国の政府,民間の関係者と日本人受け入れの阻害要因,日本人旅行の促進策等について意見交換を行っているが,ミッションの派遣については多数の国から要請があり,今後ともこれを派遣していくこととしている。また,62年10月には,オーストラリアより観光投資促進ミッションが訪れたが,今後もこのようなミッションについて積極的に対応していくこととしている。第3は,海外旅行の場合安全に対する関心が高いが,従来から国際観光振興会で行っている日本人旅行者の安全対策等を引続き充実させていく。第4は,ソウルオリンピック,日・タイ修好100周年等のイベント等を活用して,方面別に海外旅行の振興策を検討していく。

 (ウ) 海外旅行促進の環境整備

      海外旅行に対する関心を高め,海外旅行を一層促進するため,入出国手続体制整備及び簡易化を関係省庁に働きかけるとともに,62年7月1日より土産品の免税枠が10万円から20万円に拡大されたことを契機に土産品の購入を促進するため,発展途上国での土産品の開発等を促進する。

 (エ) 航空輸送の整備

      倍増計画促進のため,ピーク時等には東京・大阪の空港が需要に十分対応できないこともありうるので,チャーター便の活用等により,地方空港を活用していく。また,割引運賃の充実,長期にわたり相当の格差を生じる場合の方向別格差の是正について引き続き積極的に取り組んでいく。さらに,需要に十分対応できる輸送力整備のため,複数社制の推進,方面別輸送需要の的確な把握,需要動向に迅速に対応した輸送力の取極め等を推進していく。

 (オ) 外航客船旅行の振興

      今後拡大が期待される外航客船旅行振興のため,キャンペーンを実施し,外航客船を誘致するとともに,外航客船上で授業を行う洋上大学方式についても普及を図っていく。

 (カ) 海外旅行促進フォーラムの設立

      運輸省の推進する海外旅行倍増計画に呼応して,計画を民間ベースで推進するため,62年11月に旅行会社,航空会社,観光投資開発会社,外国政府観光宣伝機関,地方公共団体等で構成される海外旅行促進フォーラムを(財)国際観光開発研究センターの中に設立し,活動を開始した。

 イ 外客受入体制整備の推進

 (ア) 国際観光モデル地区の整備

      国際観光モデル地区構想は,個性豊かな観光資源を有し,外客受け入れに熱心な地域を国際観光モデル地区として指定し,その地区における総合的な外客受入体制の整備を重点的に図ることにより,外客が不自由なくひとり歩きできる環境を創出し,相互理解の増進,地域振興等を図ることを目的としている。
      運輸省では,61年3月に指定した15地区に加え,62年6月,申請のあった24道県27地区の中から18地区を国際観光モデル地区として第2次指定し,さらに同年10月,2地区を追加指定した 〔1−3−5図〕

      モデル地区として指定された地区については,地方公共団体等が中心となって,国際観光モデル地区整備実施計画を策定し,これに沿った整備を進めることとしているが,運輸省では,国際観光振興会等と連携して,外客向け観光案内所や各種標識の整備,地図・パンフレットの充実,善意通訳やホーム・ビジット注)の普及などの事業を推進するとともに,各地区を国際観光振興会の海外宣伝事務所等において積極的にPRしている。さらに,今後は,外客が地域の文化等にふれ,体験できる機能を有する施設,あるいは地域住民と外客とが直接交流するための施設を備えた施設の整備についても積極的に推進する必要がある。

 (イ) 国際コンベンション・シティ構想の推進

      会議,展示会,イベントなどの「コンベンション」の振興を図ることは,関連施設の整備や消費機会の増大を通じて内需拡大に資するとともに,質の高い直接的な人的交流により,国際相互理解の増進に寄与する。また,サービス経済化や国際化の進展という潮流の下での地域の活性化,国際化も促進される等,現在の我が国に課された問題の解決に貢献する多くの効果をもたらすものである。
      我が国では,40年代初頭から国際観光振興会が国際会議の誘致などを行ってきたほか,近年に至り多くの地方公共団体でコンベンション振興への取組みが行われるようになってきた。しかしながら,コンベンションに関する伝統の欠如等から,誘致体制の不備,関連施設の不足,人材やノウハウの不足など多くの問題点を抱えており,国際的な比較では 〔1−3−6表〕のとおり,国際会議開催の件数,順位とも横ばい状態にあり,欧米先進諸国に比べて日本の立ち遅れがみられる。このため,今後長期的視野に立って総合的なコンベンション振興策を講じていく必要性が高まっている。

      このような状況のなかで,運輸省では,コンベンション・シティとしての基礎条件を整えつつある都市を国際コンベンション・シティとして指定し,当該都市の一層の機能整備のための課題とその整備方策を明らかにするとともに,重点的な振興策を講じることを内容とする「国際コンベンション・シティ構想」を打ち出している。これにより,その都市の国際級のコンベンション・シティとしての「離陸」を図り,これを通じて我が国全体のコンベンション・ランドとしてのレベル・アップをめざすものである。国際コンベンション・シティの指定は,62年度内に行うことを予定している。
      また上記構想の一環として,62年度より運輸省は,国際コンベンション振興システム開発調査を国際観光振興会の補助事業として実施し,各都市がコンベンション振興施策を推進する上での指針を策定することとしているほか,国際運輸・観光局にコンベンション振興指導官を設置し,コンベンション振興に対する取組みを一層強化している。

 (ウ) 日本旅行の割高感への対応

      昨今の円高により,日本旅行が割高になってきていることから,外客からの経済的な旅行に関する要請に適切に対応していく必要性はますます増大している。このため,国際観光振興会では,国際観光民宿・ペンション,ジャパニーズ・イン等の低廉宿泊施設,低廉な飲食施設,経済的な交通手段等を総合観光案内所等で紹介するとともに,それらをまとめたパンフレット(「Economical Travel in Japan」)を作成してきている。62年度は外客向け低廉レストランのリスト化を行うなど,その一層の充実を図っていくこととしている。

(3) 国際航空の充実

  (国際的な人流を促進する国際航空)
  我が国をめぐる国際旅客輸送はそのほとんどが国際航空によって担われているのが現状であり,61年においては,日本を出入国する旅客の98%以上が航空輸送を利用している。従って,国際的な人的交流の促進を図るためには,国際航空の充実が必要となるが,近年における新規企業の参入,新規路線の開設,長距離路線の直行化,輸送力の増強等による我が国をめぐる国際航空の充実には目ざましいものがある。
  62年に入ってからは,全日本空輸が中国(北京及び大連),香港,オーストラリア(シドニー)へ乗り入れを開始したのに加え,デルタ航空,アメリカン航空,ブリティッシュ・カレドニアン航空が,それぞれ成田に乗り入れを開始するなど,新規企業の参入が目立ったほか,中国との間の新規路線の開設や日欧路線の直行化などの路線展開が進展した 〔1−3−7表〕。また,円高による日本人海外旅行者の増加等による需要の拡大に対応して,各国との間で輸送力の拡大が図られてきている。

  (利用者利便の向上に向けて)
  今後とも,我が国産業構造の変化による業務旅行ニーズの拡大・多様化,観光旅行の拡大・多様化等に対応した国際航空ネットワークの拡充が必要となるが,特に,運輸省において概ね5年間で日本人海外旅行者を倍増する計画(海外旅行倍増計画)を推進しているところであり,このための施策の一環としても,需要に十分対応できる輸送力を整備する必要がある。また,地方における観光の振興,臨空産業の展開等の観点から,地方公共団体を中心として地方空港の国際化が唱えられているところである。これについては,前記倍増計画の中でも地方空港の活用を進めていくこととしており,地方発着の国際交流を深めていくためにも,地方空港の国際化を進めていく必要がある。
  (国際レジャー博覧会への参加)
  63年4月30日から10月30日までの間,オーストラリアのブリスベン市において,国際レジャー博覧会(Internat Exposition on Leisure in the Age of Technology,Brisbane,Austra1,1988)が開催されることとなった。本博覧会は,国際博覧会条約に基づく特別博覧会で,「技術時代におけるレジャーをメインテーマとして,技術とレジャーが人々の生活の向上に果たす役割を認識し,レジャーの将来像を模索する等,レジャーを通じて各国があらゆるレベルで国際交流することを目的に開かれるものである。
  我が国としては,余暇活動充実への積極的取組みを世界に紹介することが,我が国の国情への国際的理解及び国際交流の推進に役立つこと,本博覧会が豪州建国200年祭の一環として開催されることから、環太平洋国家である日豪両国の友好関係の増進に大きな意義を有すること等の理由から,これに公式参加することを決定した。
  運輸省としても,観光・レクリエーションの振興やレジャー空間の創造,基盤としての交通体系の整備等の行政に携わるものとしてレジャーに深く関わっていることから,建設省,郵政省,通商産業省と共同して参加することとなり,62年2月24日には閣議で政府の参加が了解された。また,62年3月3日には政府出展の準備と日本館等の管理運営等を担当する組織として4省所管の法人として(財)国際レジャー博覧会協会が設立された。
  博覧会には,62年11月1日現在,日本を含め31か国が公式に参加を表明しており,我が国からは,政府出展となる日本館とその前面の日本庭園のほか,埼玉県,神戸市と企業からなる日本自治体・企業館が出展予定で,日本企業の経営する日本食堂と合わせ,博覧会会場で日本ゾーンを形成することとなっている。
  また,政府出展の館内展示,庭園内容については,「伝統と技術の調和」を基本テーマに,現在,協会では出展物の設計,製作,博覧会開催中の催事準備等が鋭意進められている。

注) ホーム・ビジット:外国人旅行者に日本の家庭を訪問する機会を与え、日本人とその生活を知ってもらうことにより、相互理解と親善を深める制度


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