2 国際協調の充実


(1) 対外経済対策の推進

  61年度の我が国の国際収支をみると,貿易外収支は51億ドルの赤字となっているものの,貿易収支は1,016億ドルの黒字となっている。また,経常収支の黒字も941億ドルと史上最高であった60年度を更に大幅に上回った。
  このような,我が国の大幅な経常収支不均衡の継続は,国際社会における我が国経済の安定した発展のためにも,また,世界経済全体の発展からも憂慮すべき事態であり是正が望まれるものである。このような状況を改善していくために政府においては,60年7月に「市場アクセス改善のためのアクション・プログラムの骨格」,61年5月に「経済構造調整推進要綱」,62年5月に「緊急経済対策」を策定し,日本市場のより一層の開放と,輸出依存型の我が国経済の構造変革に向けて努力を重ねてきている。
  運輸省においても,これらを受けて,従来より,対外経済問題に積極的に取り組んできたところである。このうち,基準・認証制度の分野については,特に諸外国からの関心が高い自動車の基準・認証制度を中心に60年7月の「市場アクセス改善のためのアクション・プログラムの骨格」に種々の施策を盛り込み,それらをいちはやく実施してきた。また,その後も追加的な措置を講じており,輸入自動車台数の伸び率等にもみられるようにそれらは,着実に成果を挙げている。
  政府調達の分野でも,62年5月の「緊急経済対策」を受けて,スーパーコンピュータの購入手続きを簡素化したほか,海上保安庁の長距離捜索救難機等の緊急輸入を決定した。このような産品の調達問題は,落札できる企業(国)が限られてくるため,諸外国間で利害が相反し,基準・認証制度の分野等のように諸外国が制度改善によって同様の恩恵を得られるわけではないという点に特徴がある。
  また,関西国際空港プロジェクトへの外国企業参入問題については,手続きの透明性を確保し,内外無差別の徹底を図るため,発注手続きの実施細目を決定の上,発表し,一応の決着をみた。なお,米国は同手続を大型公共事業にも適用すべきことを主張しており,その点で意見の一致をみていない。
  さらに,経済構造の変革についても,種々の施策を講じてきているところであり,前述の経済構造調整推進要綱の趣旨を受けて,国際相互理解の増進,国際収支のバランス改善等を図るため,62年9月に「海外旅行倍増計画」を策定した。
  このように,種々に施策を講じてはいるものの,依然として日本をめぐる状況には厳しいものがあり,今後とも運輸省関連の対外経済問題については適切に取り組んでいく必要がある。
  (自動車基準・認証制度の国際化の推進〉
  自動車の基準・認証制度については,60年7月政府決定の「市場アクセス改善のためのアクション・プログラムの骨格」に掲げられている輸入車特別取扱制度の創設,型式指定制度の改善等の具体的措置はすべて実施された。
  さらに,米国運輸省,EC委員会等関係政府機関,在日米国商工会議所,欧州ビジネス評議会等関係団体との協議の結果を踏まえて61年7月決定された「アクション・プログラムに基づく自動車の基準・認証制度の改善方針」において,今後,基準の国際調和を促進することが最も重要であるとされた。この方針に従い,
 @ 基準の国際調和の活動が行われている国連欧州経済委員会自動車安全公害専門家会議(ECE WP29)に,62年3月灯火器取付位置基準に係る国際調和の検討開始を提案する等,一層積極的に参画してきている。
 A 61年12月,同会議関係者等の欧米の自動車専門家を招へいして「自動車基準国際調和シンポジウム」を開催した。
 B 基準国際調和に必要な国の諸活動を支援する組織として,国から補助金を得て62年10月(財)日本自動車輸送技術協会内の自動車基準認証国際化研究センターの業務が開始される。
  一方,二国間等でも,関係政府機関及び業界との会合を通じ,基準の国際化を進めることとしており,
 @ 会合の結果を踏まえ,62年1月に欧米基準との整合化を図るための基準改正を行った。
 A さらに,61年12月の日-EC閣僚会議に基づき,62年2月及び6月に日-EC自動車専門家会合が開催され,現在,この結果を踏まえ我が国における交通環境等を総合的に勘案しつつ,基準等の改善を進めている。
  (MOSS会議)
  61年8月から1年間にわたり日米間で自動車部品市場参入問題についての輸送機器MOSS(市場重視型欄別)協議が行われた。
  自動車の基準・認証関係事項では,自動車検査に係る一部の誤解を解消するため,外国製部品を使用しているだけで検査に不合格になることはない旨周知を図ることで合意し,62年7月,これを実施した。
  (関西国際空港プロジェクトへの外国企業参入問題)
  関西国際空港プロジェクトについては,米国,EC,韓国等の諸外国から参加希望の表明が相次いでなされ,特に米国からは,日米貿易摩擦の象徴的な問題であるとして,主に発注手続等について様々な要求が出されている。
  同プロジェクトの発注手続等については関西国際空港株式会社の自主的な判断に委ねられているところであるが,基本的には外国企業にも日本企業と同様の公正で無差別な競争の機会を与えることとしている。
  同社においては,
 @ 既に着工している護岸,埋立,連絡橋の工事については,技術的蓄積のない外国企業がこれから単独で元請業者として参入することは事実上困難であるが,
 A 空港諸施設の工事,機材の調達,コンサルティング業務については,徹底して外国企業にも公正かつ無差別の参加の機会を与えるとの考えのもとに,発注予定の公表,指名業者名の公表,落札情報の公表等手続の透明性の確保のための措置を講じており,既に機材調達,コンサルティング業務の分野では外国企業の参入の実績が次第に上がってきている。
  さらに,8月中旬に行われた米国政府代表団との協議において,手続きの透明性の確保に関して既に講じている措置に加え,
 @ 物品の調達についてほぼガット並みの手続きを採用すること
 A 滑走路,エプロン,ターミナルビル等の大規模な工事については,官報による入札公告の際に仕様のコンセプトを掲載し,応募期間(30日)中は応募希望者に対し仕様のコンセプトについて説明をし,意見を述べる機会を設けるとともに,見積期間を60日とすること等の措置を検討することを提案した。
  また,9月中旬の日米首脳会談では,日本側から,10月中旬を目途に,@調達手続の実施細目を決定すること,A米国企業の契約実績をとりまとめること,B本件プロジェクトの実施手続は今後同様の民間の事業主体が実施する大型プロジェクトのモデルとなるものであることを明確にすること,の3要点を含む発表を行うことを検討している旨を明らかにした。
  これを受けて,我が国は,発注手続の実施細目等を取りまとめ,米側とも調整を図り,事実上の合意を得て,11月5日(米時間11月4日)に松永駐米大使からヴェリティ商務長官宛通報し,発表した。これにより,関西国際空港プロジェクト自体の問題については,事実上の決着を見たが米側は同手続を大型公共事業にも適用すべきことを主張しており,その点で意見の一致をみていない。
  運輸省としては,今後,関西国際空港株式会社に対し発症手続の実施細目の遵守を強力に指導するとともに,引き続き,関西国際空港プロジェクトへの外国企業の参入問題に対する諸外国の理解を得るために粘り強い努力をしていくこととしている。

(2) 国際協力の拡充

 ア 要請の多様化

      鉄道,港湾,空港等は,物流,人流の要として開発途上国の経済発展の上で欠くことのできないものであり,このため,我が国の有償資金協力においても,運輸関係施設整備は 〔1−3−8図〕のとおり全体の約2割という大きな割合を占めている。

      また,開発途上国の開発プロジェクトに対してフィージビリティ・スタディ注)あるいはマスタプランの作成を行う開発調査についても要請が増加しており,分野別では鉄道,港湾,都市交通案件が多くなっている 〔1−3−9図〕。最近は,施設整備だけでなく,その管理運営などソフトな面に対する協力要請が多くなり,また,分野も多様化するなど我が国に対してより質の高い協力が要請されている。

 イ 拡大する運輸部門における経済技術協力

      (資金協力)
      61年度は,新たに協力を行ったインドのハルディア港近代化計画インドネシアのバリ国際空港拡張計画,カメルーンのドアラ港コンテナターミナル近代化計画等を含め13件に対し総額1,166億円に及ぶ円借款の交換公文が締結された。また無償資金協力としては,インドネシアのウジュンパンダン海員学校整備計画,ニジェールの首都圏輸送力増強計画,フィリピンの自動車検査用機材整備計画等11件に対し58億円が供与された。
      (技術協力)
      運輸省は,61年度において新たに調査に着手したインドネシアの島嶼間交通需要予測調査,シンガポールの都市交通改善計画調査,中国の大連港港湾整備計画調査,インドのデリー・カンプール間幹線鉄道改良計画調査及び鉄道車両工場近代化計画調査等を含め合計49件について国際協力事業団を通じてフィージビリテイの有無の把握等の調査を行った。また,同事業団を通じ,25か国及び国際機関に対し長期82名,短期119名の専門家を派遣し,57か国から358名の研修員を受け入れるとともに,開発途上国への人材育成に寄与するため,アルゼンチン国鉄中央研修センター,フィリピン国立航海技術訓練所等4件のプロジェクト方式技術協力を実施した。
      なお,62年度からは同事業団を通じ,従来円借款で供与した鉄道車両の保守管理等の専門家チームをインドネシアに派遣して車両のメインテナンスを行いつつ技術移転を図る,いわゆるリハビリテーション協力が実施されることとなっている。このような協力は開発途上国に対する既往の援助案件の適切なフォローを可能にするとともに,開発途上国の技術水準の一層の向上が図られることとなり,我が国の経済協力の質的向上を図るために積極的に推進していく必要がある。
      また,我が国の高度な鉄道技術に実際に接し,ハード・ソフト両面のノウハウを学ぶ目的で,ESCAP(国連アジア太平洋経済社会委員会)主催の都市鉄道セミナーが運輸省の全面的な支援のもと62年10月14日から23日まで開催され,10か国及び1地域から14人が参加した。
      (パナマ運河代替案調査に対する協力)
      パナマ運河は1914年の開通以来,スエズ運河と並んで世界の海上輸送の要衝となっているが,運河の老朽化及び大型船の通航需要等に対処するため,代替運河建設等の構想が出されている。このため,60年9月に日本,米国,パナマ3か国の間で,パナマ運河代替案調査委員会を設立して運河代替案の本格的なフィージビリティ調査を行うことが合意され,現在,パナマに調査委員会事務局が設置され,3か国から派遣された代表により現運河の拡張新運河の建設等の実現可能性について調査が進められているところであり,運輸省としてもパナマ運河の重要性から調査に積極的に協力することとしている。
      (観光開発協力)
      観光地の開発,受け入れ体制の整備等観光分野における協力は,開発途上国にとって外貨の獲得,雇用の増大に直接つながるだけでなく,我が国にとっても,これらの協力に伴って生ずる海外への観光客の増大が国際収支の黒字減らしにも役立つものであり,積極的に推進していく必要がある。61年度には諸外国からの観光開発に対する協力要請に対処するため,南太平洋地域開発基礎調査を開始したほか,国際協力事業団を通じてタイ南部地域開発計画調査等,観光を中心にした地域開発を図るための調査を実施した。
      また,これらの急増する開発途上国からの観光協力要請に対処し,効果的な観光協力を行うため62年9月に(財)国際観光開発協力センターが設立された。
      特に開発途上国の観光開発には官民一体となった協力が不可欠であり,運輸省としても今後それぞれのノウハウを活用して適切な観光協力を推進していくこととしている。
      これら運輸関連のプロジェクト,構想等のうち大規模なものは 〔1−3−10図〕のとおりである。

 ウ 中国との協力の増大

      中国は,61年度交換公文ベースで我が国にとって第一の円借款受取国となったが,既往の円借款供与額の過半が運輸案件であり 〔1−3−11図〕,中国の運輸交通関係者との交流が拡大している。60年12月には中国交通部長が来日し,運輸大臣ほか日本側運輸省関係者と意見交換を行ったほか,62年6月には北京で開催された日中閣僚会議において運輸大臣が訪中し,中国交通部長,鉄道部長他と運輸交通分野での協力のあり方等につき意見交換を行った。

      その他,鉄道分野においては,日中鉄道協力を円滑に実施するため日中の専門家の間で毎年1回の話し合いを行う場(日中鉄道協力実務者協議)が設けられている。また,中国交通部との間でも毎年1回定期的に港湾・海運等の分野での事務レベルの協議(日中運輸交通実務者協議)を行うことが合意されており,第1回協議が61年10月に開催された。
      今後ともこうした緊密な意見交換を通じて中国における運輸分野の国際協力を適切に推進していくこととしている。

 エ 国際協力に関する啓蒙

      我が国は,その国際的地位に対応した責務として,開発途上国の発展に対する経済協力をさらに積極的に推進する必要があり,このため国際協力について国民的理解を得ることが不可欠となっている。このような観点から国際協力の重要性とあり方に対する国民の認識と関心を増進するため,我が国が初めてコロンボプランへの参加を決定した10月6日を「国際協力の日」とすることが62年9月4日閣議了解された。
      運輸省としては「国際協力の日」にあたり,新たな経済協力の課題となりつつある国際機関による協力と整合性のある運輸分野の経済協力のあり方を探るため,国際復興開発銀行(世界銀行),国際連合開発計画(UNDP),アジア開発銀行から運輸担当責任者を招へいして62年10月6日「運輸経済協力シンポジウム」を開催し,運輸分野における二国間及び多国間経済協力のあり方,資金還流計画等について活発な意見交換を行った。
      今後ともあらゆる機会を通りて運輸分野の経済協力に対する理解を深めるとともに,国際協力についての啓蒙を図っていくこととしている。

 オ 今後の課題

      我が国の国際的地位の向上と影響力の増大に伴い,国際社会に対し積極的貢献を行うことは,我が国の果たすべき重要な責務となっている。
      また,開発途上国からの日本の経済協力に対する期待は大きく,開発途上国の自助努力を支援し,その経済・社会の発展等に寄与するために,より一層の国際協力の充実を図る必要がある。
      さらに,運輸部門における経済協力等の国際協力を円滑に推進するためには,相手国の実情及び問題意識を的確に把握し,その上で運輸政策に関する相互理解の増進等を図っていくとともに,特に経済協力については,長期的な視点に立って,相手国にとって望ましい協力を進めていく必要がある。このため,運輸政策の相互理解と調整を図っていく観点から,人的な交流を今後とも積極的に展開していくことも必要である。
      また,運輸関係施設整備に対する協力は,その建設段階のみならず,運営,管理等についてもアフターケアを行う必要が高いこと, また,沿岸海運や広域的な観光振興のように多国間にまたがる協力の必要性があるなどの特徴があり,運輸省としても今後このような観点から一層効果的な協力のあり方を探っていくこととしている。
      (国際科学技術協力の拡充)
      科学技術会議は,62年度科学技術振興に関する重点指針の中で「外国人研究者の受入れ促進等国際的に開かれた研究体制の整備に努めるとともに,多様な国際共同研究の充実強化,研究者及び情報の交流を促進する。」ことを重点事項として取り上げている。
      運輸活動は国際的な広がりのなかで行われるものであり,科学技術面での国際的貢献が重要であるという認識に立って,運輸省としても国際科学技術協力の拡充に努めている。61年度は,12月に東京で開催された日仏科学技術協力混合委員会において静止気象衛星のデータ収集システムの研究等について合意がなされ,3月に東京で開催された日独科学技術協力合同委員会において船舶の振動の研究等について合意がなされた。62年度は,5月に東京で開催された日中科学技術協力委員会において衛星を用いた測地の研究等について合意がなされた。
      現在,運輸省関係の協力案件は12か国,67テーマ(62年8月末)に及んでいるが, 〔1−3−12図〕に示すように協力内容は文献及びデータを中心とする情報の交換が主体であり,研究者の交流や共同研究等を実施しているものは未だに少ない。今後は,研究者の相互交流,国際共同研究プロジェクト等を実施することにより科学技術協力の質的な充実を図ることが必要である。このため,62年度においては科学技術振興調整費の個別重要国際共同研究の課題として,米国と測地衛星あじさいの国際共同集中観測を,西ドイツと同一模型を用いた船舶の転覆に関する共同実験を,フランスと海底測深データの処理手法の共同研究を実施するなど国際共同研究等の拡充を図っている。

    注) フィージビリティ・スタディ(F/S):プロジェクトの経済的,技術的可能性・妥当性、投資効果に関する調査をいい、調査結果は融資する側にとっては、プロジェクト実施決定について的確な判断を下す重要な資料となる。


    表紙へ戻る 目次へ戻る 前へ戻る