1 旅客会社及び貨物会社について


(1) 旅客会社及び貨物会社の発足

  (国鉄改革の実施)
  昭和62年4月1日,日本の鉄道は新しい時代を迎えた。すなわち,100有余年の長きにわたって我が国の基幹的輸送機関であった国鉄は,その歴史に幕を閉じ,旅客部門については分割・民営化きれ北海道旅客鉄道株式会社,東日本旅客鉄道株式会社,東海旅客鉄道株式会社,西日本旅客鉄道株式会社,四国旅客鉄道株式会社及び九州旅客鉄道株式会社の6つの旅客鉄道株式会社(以下「旅客会社」という。)が発足し,貨物部門については旅客部門と分離された上で民営化され日本貨物鉄道株式会社(以下「貨物会社」という。)が発足した。ここに,政府の長年の課題であった国鉄改革が実施され,鉄道事業の新しい体制が整備された 〔2−1−1図〕

  (新会社の性格)
  新しく発足した6つの旅客会社及び貨物会社は,「旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法律」(以下「会社法」という。)により設立され,国鉄改革の趣旨に則って真に輸送ニーズに適合した効率的な輸送を提供し,安定した経営を継続し得るような体制の定着をめざす特殊会社であり,国鉄時代に比べるとその業務運営に関する国の規制は大幅に緩和されている。会社の業務運営に関する規制の緩和の第一は,事業範囲に対する法的な制約を排除したことである。旅客会社及び貨物会社については,多角的・弾力的な事業運営の道を開くため,本来事業である鉄道事業との関連の有無にかかわらず広く事業範囲を拡大し得ることとされている。その他,政府の認可事項は,毎事業年度の事業計画,代表取締役の選任及び解任,新株式の発行等会社監督上基本的に必要なものに限定されている 〔2−1−2表〕

  なお,労働関係法規の適用については,各会社は一般の民間企業と同様,労働組合法,労働関係調整法の全面的な適用を受けることとなった。
  (事業計画の提出)
  このようななかで62年6月8日,旅客会社及び貨物会社から62年度事業計画について認可申請があり,6月15日に申請どおり認可された。
  事業計画は,毎事業年度における会社の事業運営の基本方針及び事業内容をあらかじめ総合的かつ概括的に決定するものであり,会社法の規定により,@事業運営の基本方針,A鉄道の輸送の見通し及び列車の運行量を明らかにした鉄道輸送に関する計画,B鉄道施設の整備に関する計画,Cその他事業の運営に関する計画,について記載することとされている。
  62年度の事業計画の内容は各社各様であるが,いずれの会社も,基本的な方向としてはそれぞれの地域や利用者のニーズに即応しきめ細かな事業展開を図り健全で活力ある経営をめざそうとするものであり,特に会社発足の年度であることから,その事業運営の基本方針として「経営基盤の整備」を第一の項目として掲げ,輸送需要の確保,営業活動の充実,業務運営の効率化といった事項についてそれぞれの会社の実情や経営方針に応じて様々な施策を積極的に展開していくことを明らかにしている 〔2−1−3表〕。また,輸送事業者として最も重要な安全対策をはじめ,利用者サービスの向上,企業人としての社員教育の充実等の項目についても必要な施策が盛り込まれており,全体として国鉄改革の趣旨に則った適切な計画であるといえる。

(2) 国鉄改革のねらいと新会社の動き

  以上述べたような状況を踏まえつつ,更に具体的に新会社が国鉄改革のねらいをどのように実行に移しつつあるかを以下詳述する。

 ア 経営基盤の整備

      国鉄改革のねらいは大きくいくつかに分かれるが,その中でも重要なものは新会社が適切な経営管理,地域密着の事業展開を図りつつ健全で活力ある事業運営を続けていくための「経営基盤の整備」である。この経営基盤の整備のためには特に次の点について重点的に施策を実施していく必要がある。
      (輸送需要の確保及び増大)
      各社とも,鉄道事業の競争力を強化するため鉄道輸送に対する高度化・多様化するニーズを幅広く把握し的確に事業運営に反映させることにより,輸送需要の確保・増大を図るよう積極的に努めているところである。
      国鉄時代と比較して,大きく変わった点は,地域に密着し真に地域住民に愛され利用される鉄道をめざし利用者の声を広く経営に反映させるようになったことである。具体的には,役員以下会社幹部が駅頭に出て直接意見を聞くほかアドバイザリーグループの設置,投書箱の設置等の施策を講じている。これらの利用者の意見等を踏まえ,旅客会社については,建設費等について地元の協力を得ながら新駅の設置も進めるなど,国鉄時代はその実現が困難であった輸送需要への弾力的な対応を図っている。
      また,各社の創意工夫により,「E・Eきっぷ注1)」等の各種企画商品の発売,ジョイフルトレイン注2)の設定等各地域のイベントやレジャー施設等とタイアップして輸送サービスの拡大を図ることにより新規需要の開拓に努めている。特に,各種企画商品の設定数は分割・民営化後10月末現在で93件を数えている。
      貨物会社についても,ピギーバック輸送注3)等の協同一貫輸送の拡充に加え,ツーリング用バイク輸送,マイカーフレート注4)等の他の輸送機関との組合せ商品の開発等の利用者のニーズに密着した輸送サービス拡大に取り組んでいる。
      (営業活動の充実強化)
      営業活動の最も重要な拠点である駅を基軸として,販売力を強化することにより営業活動の積極的な展開を図っている。
      旅客会社については,みどりの窓口のオープンカウンター化等による旅行センターの充実,旅行エージェントとの協調による販売力の強化,多様な図柄のオレンジカードの発売などにより営業活動の充実強化に努めている。
      貨物会社については,主要荷主,通運事業者及びトラック事業者とより緊密な連携をとり,通運事業者との共同販売を行うこと等により輸送の増大に努めており,また社内においては,全社員が一丸となって営業活動に取り組む体制を整えている。
      (業務運営の効率化及び経費の節減)
      各社とも健全経営のための重要な施策の1つとして業務運営を効率的に行い,徹底した経費の節減を図っている。具体的には路線ごと又は区間ごとの経営状況を的確に把握した上でその特質に応じた効率的な要員運用,連結車両数の減少等による輸送コスト低減を図っており,62年11月と61年10月とを比べてみると列車キロは11万1千キロ増えているのに対し,車両キロは3万8千キロ減少している 〔2−1−4表〕。また,部外委託の見直しによる外注費節減に努めるとともに,光熱費等身近な経費節減も行っている。

      なお,これらの施策に伴い生みだされた要員については,経営の多角化,増収を図る観点から,旅行業をはじめとする関連事業への配置等の施策を講じている。
      (関連事業の開発及び展開)
      各社は国鉄時代とは大きく異なり,関連事業の拡充を積極的に図ることが可能となった。すなわち会社法においては,各社は同種の事業を営む地域の中小企業者に配慮しつつ,本来事業の適切かつ健全な運営に支障を及ぼすおそれがない限り,運輸大臣の認可を受けて各種関連事業を営むことができることとされた。
      関連事業については,各社は収入の確保,雇用の創出,鉄道利用促進等の経営基盤整備の一環として鉄道事業と並ぶ重要な柱として位置づけ,各社の保有するノウハウ,技術力,資産,人材等を最大限に活用し積極的に開発及び展開を行っている。
      具体的には,直営売店等既有の事業の拡充,活性化を図るとともに,旅行業については本格的な事業展開を図り,更に認可を受けて保険媒介代理業,普通倉庫業等新たな分野への進出を図っている。

 イ 輸送の安全の確保

      輸送の安全の確保は,輸送機関としての基本的な使命であり,民営企業となった今日,むしろ今まで以上に積極的に取り組まねばならない分野である。各社は安全運行体制の強化,輸送施設の安全性の確保等を行い,安全確保に努めている。
      (安全運行体制の強化)
      各社とも安全推進委員会等を設置して全社を挙げての安全運行体制の強化を図っており,あわせて安全指導訓練の実施安全の日の設定等を通じて安全意識の高揚も図っている。なお,旅客会社及び貨物会社の62年4月から9月における運転事故件数は392件であり前年同期の国鉄における運転事故件数444件と比較すると12%の減少を派している。
      (輸送施設の安全性の確保)
      各社とも,安全輸送のための車両管理の徹底,老朽施設の計画的更新を行うこととしている。

 ウ 利用者の利便の確保

      国鉄改革の大きなねらいの一つとして,利用者の立場に立った良好なサービスの提供を行うことにより,愛される鉄道へ再生していくことが挙げられる。
      (サービス向上)
      各社は,「お客さまの御要望に対する的確かつ迅速な対応」を基本的考え方として,サービス向上に努めている。
      具体的には,旅客会社については,接客従業員のフロントサービスの向上に努めるとともに,列車頻度の向上,スピードアップ,接続の改善等利用者が利用しやすいきめ細かいダイヤ設定を行っており,分割・民営化後4月から9月までで列車本数は増発125本,区間延長13本,編成長増大6本におよび,列車キロは61年10月と62年10月を比べると11万1千キロ増加している。その結果東日本旅客会社を例にとれば利用者数は東京圏の東海道,中央,東北線等においては1〜5%,仙台都市圏の東北,常磐,仙山線等においては5〜10%増加した。
      また,案内情報サービスの充実を図るとともに,意見や苦情を集約し,迅速かつ的確に処理するための体制整備を図っている。
      (輸送施設の改善)
      利用者の利用する施設の改善については,古くて暗いイメージのものが多い駅舎,便所等について塗装,改良等を講じてフレッシュアップ,イメージアップを図り,「お客さまが利用しやすい駅づくり」をめざすとともに,車両については,冷房化の推進,車内トイレの改善,座席の改良等を行い,より乗り心地のよい車両を提供していくこととしている。

 エ 社員の意識の向上

      経営基盤の整備,輸送の安全の確保,利用者の利便の確保と並んで国鉄改革を推進していく上で重要なのは,いわゆる“民間マインド'をもった社員の養成である。
      分割・民営化以前は,国鉄職員は公社制の下で,必ずしも創意工夫の意欲やサービス精神が十分ではなかったが,62年4月から民営企業として出発した各社が同じ轍を踏まないためには,社員一人一人の意識改革を図る必要があることから,各社は,社員研修,小集団活動等を行うとともに,会社への帰属意識の育成を図るため,CI活動も推進しているところである。
      なお、社員の意識の向上が行われていく中で,62年度春闘については自主解決が図られる等経営の自主性も発揮され始めているといえよう。

 オ 良好な企業イメージの醸成

      以上述べてきた4点に加え,企業努力,社員のサービス等を積極的に幅広くPRしていくことが必要である。このため,各社は,企業広報活動を推進するとともに,地域の各種イベントに参画し,健全経営とあいまって,地域に密着した利用者に愛され親しまれる良好な企業イメージの醸成に努めている。

 カ 輸送サービス,収益力の向上に資する鉄道施設整備の推進

      設備投資については,国鉄時代末期には,債務抑制の観点から安全確保のための投資のほか緊急を要するものに限ってきたが,新会社となってからは,個々のプロジェクトの投資採算性等を勘案し,各社の経営判断により投資を行うこととなった。
      このため新会社では,採算性の維持,会社の収益力の同上が可能であり,かつ地域のニーズに即応した鉄道施設の整備を自らの経営判断によって行うことが可能となってきている。
      具体的には,67年開港予定の新千歳空港への鉄道アクセス路線の整備や,従来天王寺止まりになっていた特急「くろしお」の新大阪乗り入れ等の投資プロジェクトが新会社の経営判断の下で具体的に動きだしつつある。

 キ 取扱収入