1 船員をめぐる雇用情勢及び雇用対策


(1) 外航船員等の雇用環境の深刻化

  (有効求人倍率の一層の低下)
  船員をとりまく環境は,外航海運業にあっては長期不況に急激な円高も加わりその業況が一層深刻化し,また,漁業にあっても国際漁業規制の強化等極めて厳しい状況が続いており,昭和61年の月間有効求職数に対する月間有効求人数の倍率は0.17倍と,前年の0.20倍から更に低下した。しかも,61年における肩間有効求人倍率は,年当初から月ごとに低下傾向を示し,同年12月には0.13倍にまで低下しており,今後早期の好転は望めない状況を示している。特に,外航海運は大幅な経営合理化を余儀なくされる状況にあり,これまで行ってきた船員コスト差額を自ら負担し,外国海運企業の船舶へ船員を派遣するなどによる雇用調整が困難となったこと等から,相当数の潜在的余剰人員が顕在化してきており,船員雇用問題への対応が急務となっている。

(2) 船員雇用対策

  (船員雇用対策の推進)
  こうした船員をめぐる厳しい雇用情勢に対処するため,政府においては,全国62か所に設置された船員職業安定所における就職斡旋,職業指導,失業保険金及び就職促進給付金等の支給等並びに(財)日本船員福利雇用促進センターを通じての外国船の職域開拓・配乗斡旋,職業訓練の実施等の措置を一層強化している。
  また,61年7月に外航海運業の油送船部門を,さらに,62年1月には一般貨物船部門を「船員の雇用の促進に関する特別措置法」に基づく特定不況海上企業に指定し,外航海運業からの離職船員についても,再就職の促進と生活の安定を図ったところである。
  (船員雇用対策の基本方針の答申)
  このような状況にかんがみ,今後の船員雇用対策について中長期的視点に立って抜本的検討を加えるため,52年に策定した「船員雇用対策の基本方針」の見直しについて,61年5月に船員中央労働委員会に諮問したが,62年5月にその基本方針が答申された。
  その概要は以下のとおりであるが,今後,同基本方針に沿って,諸施策を着実に推進していく必要がある。

 @ 今後の船員雇用対策の基本的方向

     ア 産業政策と船員雇用対策の連携
     イ 企業内等職域の確保及び陸上職域への転換
     ウ 新しい海上職域の創出

 A 今後講ずべき船員雇用対策

 ア 外航船員対策

 (ア) 海上職域の確保

      国際競争力のある近代化船の増強に対応し船員制度近代化を一層推進するとともに,外国船への配乗の促進,船員教育訓練の充実等を図る。

 (イ) 陸上職域への転換

      船員職業安定所と公共職業安定所との連携を強化し,陸上求人情報の提供及び就職指導等を実施するとともに,転換のための教育訓練の充実等に努める。

 イ 内航船員対策

      若年船員の計画的参入及び船舶の近代化等を促進し,内航海運の近代化と活性化を図る。

 ウ 漁船船員対策

      労働環境等の改善により漁船労働に魅力を回復し,若年労働力の導入対策を強力に進めるとともに,「国際協定の締結等に伴う漁業離職者に関する臨時措置法」等関係法令の迅速かつ的確な対応により,関係船員の生活の安定と再就職の促進等に努める。
      (海運労使の協同努力)
      一方,外航海運労使は,62年4月に雇用開発促進機構」を設置し,緊急雇用対策をスタートさせたところである。この機構は,海陸職域の開拓,教育訓練の紹介等の業務を行う「外航船員雇用促進協会」と海上職域を提供する複数の会社から構成されており,一定の条件のもとで離職船員に海上職域を確保しつつ併せて陸上職域への転換に必要な準備をさせる,いわゆる軟着陸を図ることを目的としている。このような労使による雇用問題への対応に関連し,政府としても,必要な支援を行っていくこととしている。


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