2 災害対策の推進
(1) 災害予防の強化
ア 予報予知体制の強化
(的確な気象情報の提供)
気象庁は,予報警報及び情報等の的確な提供に努めている。60年度に天気予報を定常的に地域細分をして発表することとしたのに続き,62年6月からは,注意報,警報についても地域細分をして発表している。また,新しい気象予報として降水短時間予報の技術開発を推進してきており,63年度からの実用化について検討を行っている。これは,レーダーのきめ細かい観測とアメダスの正確な観測という長所を組み合わせた「レーダーアメダス雨量合成図」をもとに,数値予報による予測結果や地形効果等を取り入れて,5km格子ごとのきめの細かい雨量分布について3時間先までの予報を行うものである。
(気象資料総合処理システムの整備)
気象庁は,気象衛星,アメダス,気象レーダー等から得られる各種気象情報の総合的・一元的な情報処理技術の開発を積極的に推進している。61,62年度は,予警報の精度向上を図り,気象資料の迅速,確実な集配信を確保するため,予報解析用電子計算機と情報伝達用計算機を統合した気象資料総合処理システムの整備を行っている。
(地震対策)
気象庁は,日本及びその周辺の地震を観測し,その震源と規模を決定して,津波予報,地震情報等防災上必要な情報を提供している。特に東海地震について,気象庁長官は,地震防災対策強化地域判定会に諮って,地震発生のおそれがあると判断した場合は,大規模地震対策特別措置法に基づき,内閣総理大臣に「地震予知情報」を報告することとされている。このため,東海,南関東地域について海底地震計,体積歪計等の整備を行うとともに,関係機関の協力も得て,各種観測データの常時監視を継続実施している。
これらの業務を迅速,的確に行うため,地震活動・地殻活動・津波実況等の多種多様なデータをリアルタイムで処理し,総合的に監視するための「地震活動等総合監視システム」を62年3月から運用開始した。このシステムの整備にあわせて,関係機関から気象庁へのデータ集中も増強され,東海地震の予知のために常時監視されてやる観測項目は,従来の76項目から133項目に増加した。また,自動震源決定方式の採用などにより,津波予報発表の一層の迅速化を図った。
なお,気象庁は全国に地震観測網を展開しているが,62年度には新たに電磁式強震計の整備を行っており,これにより,従来は記録できなかった大地震の震源域遍くでの強震動についても,高精度の記録が得られるようになる。また,60年9月に敷設された房総沖の海底地震計については,61年度に気象本庁までのテレメータが完成し,現在これを用いた地震活動の監視を行っている。
海上保安庁では,地震予知に必要な基礎資料を得るため,61年度には,鳥島付近,房総沖等において海底地形・地質構造調査を含む測地及び測量,潮汐及び地磁気観測,海上重力の測定等を実施した。
(火山対策)
気象庁は,我が国にある約70の火山のうち,特に活動的な17の火山については常時観測を行い,62年度には新たに御岳山に観測施設を整備している。その他の火山については,火山機動観測班が定期的に基礎調査を実施したり,火山活動の異常時には緊急に出動して観測を行うこととしている。また,これらの観測成果に基づき,適時「臨時火山情報」を発表し,火山現象による被害の軽減に努め,さらに,特に必要と認める時は,活動火山対策特別措置法に基づく「火山活動情報」を関係都道府県知事に通報することとしている。
海上保安庁では,海底火山活動を的確に把握するため,航空機により定期的に南方諸島方面と南西諸島方面の海底火山周辺海域の火山活動観測を実施するとともに,航空機及び人工衛星から取得したデータの解析技術の開発を行っている。
(気象衛星業務の拡充)
現在,気象衛星「ひまわり3号」により定常的に観測を行っており,観測回数の増加,観測プロダクトの増強及びその精度の向上を図るため,地上施設の整備を進めている。なお,61年度には,高松に静止気象衛星受画装置(SDUS)を設置した。
(気象観測網の強化)
気象レーダーについては,レーダーエコーを数値化して容易に伝送したり計算機処理ができる装置(デジタル装置)の整備を引き続き進め,61年度には,福岡,種子島に整備した。これから得られるレーダー情報は,報道機関,地方公共団体等に提供され,防災対策に有効に利用されている。アメダス(地域気象観測システム)については,豪雪地帯を中心に積雪深計の整備を進めており,61年度には新たに5か所に設置した。また,61年度は沖縄の高層気象観測資料の自動化処理を行った。
60年度から2年計画で建造され,62年2月に就航した長崎海洋気象台所属の海洋気象観測船「長風丸」は,船舶自動高層気象観測装置,表層海流計,電気伝導度水温水深計等最新の観測機器を搭載しており,東シナ海を中心とする西日本海域において,海上気象,海洋観測を実施している。海洋気象観測船などの観測によって得られた海洋気象情報は,気象予報,注意報・警報,海水象予報等の形で災害の防止・軽減運輸・観光・水産等の各産業における利用に供されている。
このほか,航空機の安全運航を図るための気象情報の内容充実に努めており,61年度は,新青森空港に航空気象観測施設等を整備したほか,各空港の航空気象観測施設の更新を行った。62年度は空港気象レーダーを那覇に整備するほか,離島空港の気象情報のサービス向上のため,奄美,与論,喜界に空港気象常時監視装置を整備する。また,静止気象衛星受画装置(SDUS)を新東京,東京の両航空地方気象台に整備し,飛行場予報の精度向上及び空域気象監視の強化を図ることとしている。
イ 防災対策
(鉄道の防災対策)
鉄道事業者は,鉄道運転規則等により、鉄道施設の定期点検を行い,危険箇所の把握に努めるととともに,橋りょう,トンネル,のり面工等構造物の取替え及び改良を実施し,災害予防に努めている。
(港湾の地震対策)
日本海中部地震による秋田港岸壁の被害は,主として岸壁背後の地盤が液状化したことにより生じたと考えられるため,全国の港湾において既存の岸壁の液状化対策を推進することとし,60年度より必要なものから順次液状化対策工事を実施している。
また,大規模な地震が発生した場合に,被災直後の緊急物資及び避難者の海上輸送,その後の港湾機能の確保を図るため,観測強化地域(東海地域及び南関東地域)及び特定観測地域(北海道等8地域)とその周辺において137港を選定し大規模地震対策施設の整備を行うこととしている。このうち61年度までに18港において整備が完了し,62年度は工9港の整備を実施することとしている。
(海上防災体制の整備)
海上保安庁では,船舶所有者等における排出油防除資機材の整備等民間防災体制の充実を図るとともに,自ら資機材,消防船艇の配備等を行うほか,流出油災害対策協議会等の設置の促進,防災訓練の実施等官民協力体制の一層の強化を図っている。さらに,多様化する海上災害に対応するため,海上災害防止センターによる有害液体物質の防除に関する調査研究の実施,災害応急対策に関する助言組織の設置等防災体制の整備を推進している。
一方,国家石油備蓄基地については,その計画段階から関係者に対し防災体制の強化について指導を行っており,基地建設の進展に合わせ広域共同防災体制の整備を推進することとしている。
また,自然災害対策の一環として,58年の中央防災会議決定に基づき,広域的な災害の防災拠点としての立川広域防災基地(仮称)及び横浜海上総合防災基地(仮称)の整備を推進することとしており,62年度には,立川基地の敷地調査を実施することとしている。
(空港における消火救難体制及び雪害対策)
各空港ではICAOの基準に基づいて化学消防車を配備するなど,一定の消火救難体制を整備している。特に,60年度から成田,羽田,大阪等の国際空港で国際基準に合致した救急医療資機材を配備するなど,空港救急医療体制の配備を進めている。
また,積雪寒冷地に所在する空港の雪害対策としては,大型・高性能除雪車の購入等により除雪氷体制を強化し,除雪期における航空機運航の安全性と定時制確保を図っている。
(2) 国土保全の推進
ア JR旅客会社の防災事業
各JR旅客会社は,落石,雪崩対策等の防災施設整備を行っている。その整備の効果は,単に鉄道事業の運営の円滑化に寄与するのみならず,一般住民,道路,耕地等の安全保護にも資するものであるので,国は,その整備を促進するため,費用の一部を補助している。
イ 国土保全のための海岸事業
(安全で快適な生活を支える海岸事業)
人口や資産の集積が高く,生産や生活等の諸活動が高密度に展開されている港湾周辺煙滅を,高潮,波浪,津波,海岸浸食等の自然の脅威から防護するため,海岸保全施設の整備を促進するとともに,併せて海岸環境の整備を図っている。
61年度の海岸事業については,厳しい海象下にあり海岸浸食の著しい新潟港西海岸において抜本的浸食対策を講じるため直轄事業に着手したのをはしめとして,ゼロメートル地帯を抱える大都市海岸における耐震性の高い海岸保全施設の整備,地震対策緊急整備計画に基づく東海埴区における地震・津波対策,三陸・土佐沿岸などの津波常襲海岸における津波対策,さらには,失われつつある海浜を人工的に復元し,国土の保全を図るとともに快適な海岸環境を創出するための海岸環境整備事業等に重点をおいて実施した。
また,62年度には,浸食が進んでいた京都府宮津港海岸(天橋立)で,新規事業として認められた緊急養浜事業を実施する。
(海岸保全施設築造基準の改訂)
海岸保全施設は,海岸法に規定される築造の基準に基づき,海岸を所管する農林水産省運輸省及び建設省の三省により制定されている海岸保全施設築造基準により整備されている。しかしながら,この築造基準も前回の改訂より18年余りが経過し,この間の海岸保全技術の向上,海浜利用の需要の増大及び多様化に伴って改訂の要請が高まってきたため,62年3月28日をもって海岸保全施設築造基準を改訂し,各都道府県知事に通達した。
(3) 災害復旧事業の実施
(港湾関係災害復旧事業)
61年度に発生した港湾施設及び港湾区域内の海岸保全施設の被害額は48億円であった。61年度に実施した災害復旧事業費は44億円であり,主な事業箇所は台風及び冬期風浪による被害を受けた鹿児島,新潟,長崎県等であった。
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