3 自由時間の充実と世界に開かれた社会に向けて


(1) 自由時間活動への積極的取組み

 (ア) 観光レクリエーション活動の促進

      我が国においては,経済成長の成果を国民生活の質的向上に活かすことにより,ゆとりある生活の実現を図るとともに,国際交流を推進し,国際相互理解を増進することにより,国際的な地位に相応しい貢献と諸外国との調和のとれた発展を図っていくことが重要な政策課題となっている。このような政策課題に対応し,自由時間の充実と世界に開かれた社会を作っていく上で,観光レクリエーション活動の促進に対する国民の期待と関心はますます高まってきている。
      こうした状況のなかで,最近の観光に係る状況についてみると,国内観光については,国民の自由時間の増大や自由時間活動に対する関心の高まり,観光の基盤となる高速交通体系の整備等を反映して量的にも着実な伸びを示すとともに,質的にも高度化,多様化の傾向が見られる。一方,国際観光については,円高等の影響もあって,特に日本人海外旅行者数の伸びが著しくなっている。
      運輸省では,このような国民の観光レクリエーション活動の動向に対応し,国民の観光に対する期待に応えるため,62年9月に,日本人海外旅行の促進を図るための「海外旅行倍増計画(テン・ミリオン計画)」を,また,63年4月には,国内観光及びインバウンドに係る国際観光を振興するための「90年代観光振興行動計画(TAP90'S)」をそれぞれ策定し,観光レクリエーション活動の促進を図るための施策を総合的,計画的に推進することとしているところである。また,63年7月には,「Marine'99計画」を策定し,海洋性レクリエーション活動の振興を図るための施策を総合的,計画的に推進することとしているところである。

 (イ) 90年代観光振興行動計画(TAP90's)等の推進

 (a) 90年代観光振興行動計画(TAP90's)の策定

      運輸省では地域の振興,地方の国際化等をめざして観光のより一層の振興を図るため,63年4月「90年代観光振興行動計画」を策定した。
      この行動計画は,中央及び各地方ごとに有識者からなる「観光立県推進会議」を開催し,観光振興に関する具体的施策を提言し,実行に移そうとするものであり,観光の振興による地域の活性化と地方の国際化をめざして,官民協調して「観光立県推進運動」を展開しようとするものである 〔1−2−19図〕

      観光立県推進会議の中央会議及び地方会議においては,今後以下のような施策につき検討する。

 (i) 旅行促進のための施策

      @休暇の平準化,祝日の増加等休暇制度の改善,Aオフシーズンにおける旅行費用の大幅な低廉化,B誘致活動,キャンペーンの実施,観光情報の提供,Cリゾート地域への送客体制の充実等新たな観光地づくり,D高齢者向け企画・割引商品の開発等高齢化社会への対応,E従業員の研修制度の充実等サービス水準の向上・多様化,F観光資源の保護,利用及び発掘

 (ii) 地方の国際化のための施策

      @国際観光モデル地区の整備,Aコンベンションの振興,B外人向け企画・割引商品の開発等低廉な旅行の促進,Cホームビジット等魅力あるサービスの提供
      なお,観光立県推進地方会議は,64年においては4月頃に熊本県及び長崎県を,6月頃に山形県及び宮城県をそれぞれ対象地域として開催することとしている。

 (b) 観光振興のための具体的施策

 (i) リゾート地域の整備等観光基盤施設の整備

     (リゾート地域の整備)
      ゆとりのある国民生活の実現,地域振興施策の展開,内需拡大等の政策課題に対応して広く国民が余暇を利用して滞在しつつスポーツ,レクリエーション,教養文化活動等の多様な活動を行うことができるリゾート地域を整備することが必要となっている。
      このため,62年10月には「総合保養地域整備法」(いわゆるリゾート法)に基づき,リゾート地域の整備に関する基本的な事項等を定めた基本方針が告示されたところである。リゾート地域の整備については,三重,宮崎及び福島の三県の基本構想を63年7月に,兵庫及び栃木の二県の基本構想を10月に,また新潟県の基本構想を12月にそれぞれ承認したところであり,今後は承認された基本構想に基づき県を中心として整備を推進していくことになるが,運輸省としても,リゾート法に基づき,周辺の既存観光地との調和やその積極的活用により地域全体の活性化を図りつつ,魅力あるリゾート地域の整備を推進することとしている。
     (国際市民交流基盤施設の整備)
      我が国の国際的地位の高まりの中で,我が国において積極的な国際交流活動を展開し,諸外国との相互理解を増進していくことが必要となっている。
      このため,63年6月に民間事業者の能力の活用による特定施設の整備の促進に関する臨時措置法(以下「民活法」という。)の一部が改正され,新たに「国際市民交流基盤施設」が追加され,これにより施設の整備を行う民間事業者に対し税制・財投等の支援措置を講じることとなった。
      「国際市民交流基盤施設」とは,我が国又は外国の経済・社会・技術等を効果的に紹介するための一群の施設のことであり,市民レベルにおける国際化の促進に資する交流拠点を形成し,国際相互理解の増進及び地域経済の活性化を図ることを目的とするものである。
     (家族旅行村の整備)
      家族旅行村は,国民の観光レクリエーション需要に対応して家族が恵まれた自然の中で手軽に利用できるキャンプ場,ピクニック緑地,スポーツレクリエーション施設,簡易宿泊施設等を整備するもので,現在26地区において供用が開始され,12地区において整備が行われている 〔1−2−20図〕, 〔1−2−21図〕

 (ii) 国際観光モデル地区整備等外国人訪日促進施策の推進

      61年における訪日外国人数は,急激な円高等により対前年比11%減の206万人であったのに対し,62年は,円高にもかかわらず,商用客の増加等により,ややもち直し同5%増の215万人となった。
      外国人の訪日を促進することは対日理解の増進につながるのみならず,地方への外国人の訪問を促進することは当該地方の国際化にも寄与するものであることから,運輸省としても,外国人の訪日促進,とりわけ,地方への訪問を促進するため,以下のような施策を推進している。
     (国際観光モデル地区の整備等)
      国際観光モデル地区構想は,海外に紹介し得る観光資源を有する観光地であって,外客受入体制の整備に熱心な地域を国際観光モデル地区として指定し,外客が安心して一人歩きすることのできる環境づくりを進めることにより,当該地域への外客の来訪を促進し,もって,地方の国際化,国際的相互理解の増進等に寄与しようというものである。
      運輸省では,61年3月に15地区を第1次指定し,次いで62年6月には18地区を第2次指定した。さらに,同年10月及び63年3月に3地区を追加指定した(合計34道県36地区, 〔1−2−22図〕)。

      国際観光モデル地区においては,地方公共団体等が中心となって整備実施計画を策定し,これに沿った整備を進めることとしているが,運輸省では,国際観光振興会等と連携して,「i」案内所注1),総合案内板,各種標識等の整備,パンフレットの充実,善意通訳注2),ホームビジット注3)の普及等の事業を推進している。
      この結果,指定された36地区において,例えば,「i」案内所は,指定前の29カ所から63年9月には64カ所に,総合案内板は同じく327カ所から565カ所に,善意通訳者は同じく5,485人から9,909人にそれぞれ増加した。
      このほか,国際観光振興会では,海外宣伝事業所で各モデル地区を積極的にPRするとともに,日本文化等体験外客受入制度注4)を創設し,外客のニーズの多様化に対応することとしている。また,円高対策として,外客の利用に適する一定の基準を満たす低廉なペンション,民宿及びレストランをリスト化し,海外でのPRに努める等,各種の外客誘致促進施策を推進している。
     (国際交流村の整備)
      国際交流村は,国際観光モデル地区における外客誘致の拠点として,外客に地域の自然,文化,歴史等を紹介するとともに,伝統的生活文化を体験するための施設及びイベントを通じて外客と地域住民の交流の場となる施設等を整備するものであり,地方における国際観光振興と国際交流の促進を図ることを目的として,63年度より,3地区において整備に着手している 〔1−2−22図〕
     (登録ホテル・旅館等の整備)
      国際観光の振興の観点から,国際観光ホテル整備法に基づき施設・設備の優れたホテル・旅館を登録するとともに,国際観光レストラン登録規程に基づき,外国人旅行者が容易かつ快適に食事ができる優秀なレストランを登録することにより,外客接遇の充実を図っており,63年11月末現在,570軒のホテル,1,621軒の旅館及び145軒の国際観光レストランが登録されている。

 (iii) コンベンションの振興

     (コンベンション・シティ構想の推進)
      コンベンションの振興は,@人的交流による国際相互理解の推進,A関連施設の整備や消費機会の増大による内需の拡大,B地域経済の活性化,地方都市の国際化への寄与等,多大な意義を有するものである。
      我が国では,コンベンションに対する取組みの歴史が浅いこと等から,誘致体制の未整備,関連施設の不足,人材やノウハウの不足などの多くの問題点を抱えており,国際会議開催実績を国際比較すると, 〔1−2−23図〕のとおり,我が国は欧米諸国に比べ,大きく立ち遅れているばかりか,都市別に見れば,バンコク,シンガポールといったアジアの諸都市に対しても立ち遅れが見られる状況にある。

      このような状況のなかで,地方自治体においては,近時,コンベンションの誘致,開催に積極的に取り組むようになってきており,この結果,コンベンションの開催地も地方へ広がりをみせるようになってきている。
      このため,運輸省では,国際コンベンション・シティ構想に基づき,63年4月にコンベンション・シティとしての基礎的条件が整っている全国19都市を国際コンベンション・シティとして指定し,国際会議等の誘致受入体制の充実を図ることとした 〔1−2−24図〕

      これらの諸都市に対しては,@国際観光振興会の海外宣伝事務所を通しての諸外国への宣伝,A海外コンベンション・トレードショーへの参加及び海外巡回セミナの実施,Bコンベンションは開催決定権者の招へい等による国際コンベンションの誘致,Cコンベンション研修会の開催,Dコンベンション・ミッションの派遣等の支援措置を講じることとしている。
      また,63年6月には,中央におけるコンベンション推進組織として,コンベンション関連事業者や地方自治体の長等を中心に,(財)日本コンベンション振興協会が設立され,コンベンションの誘致,コンベンション振興に従事する人材の育成等の事業を行うこととしている。
     (国際会議場施設の整備)
      国際会議の開催は,人的交流の促進を通じて国際交流の推進に寄与するとともに,地域経済の活性化にも資するものであり,国際会議場施設の整備が望まれている。
      このため,民活法に基づき国際会議場施設の整備を行う民間事業者に対して,税制・財投等の支援措置を講じることとしており,63年1月には,横浜国際平和会議場に係る整備計画の認定を行ったところである。

 (iv) 観光情報提供体制の整備

      観光地におけるイベントやスポーツ,文化活動への参加など国民の観光レクリエーション活動は多様化し,ますます主体的,個性的なものとなってきており,このような国民のニーズに対応した観光地の最新情報を正確かっ迅速に提供する体制の充実が求められている。
      このような状況に対応して,高度情報化社会の進展に対応した観光情報システムを充実していく必要があり,このため,(社)日本観光協会,(特)国際観光振興会等の観光関係団体が中心となって,国内観光地情報,訪日外客のための情報等の収集体制の整備を進めており,このようにして収集された情報を運輸機関,宿泊機関,旅行業者等のシステムとの連携により効率的に提供するシステムの整備を図るなど,引き続き高度情報化社会の進展に対応した観光情報システムを充実していくこととしている。

 (v) 旅行者保護施策

      運輸省では,旅行業の適正な運営,旅行取引の公正さを確保するため,旅行業法に基づき,旅行者保護の見地から旅行業者を登録制として種々の規制を行っているほか,主催旅行広告の適正化等についてきめ細かな指導・監督を行っている。
      さらに,63年3月には警察庁,都道府県,旅行業協会等の協力を得て「いい旅しよう'88」キャンペーンを展開し,@旅行者に対する登録業者の利用の呼びかけ及び旅行者保護のための営業保証金の供託制度等の周知,A無登録業者に対する監視体制の整備,B登録業者に対する立入検査等,旅行業法の遵守の総点検を行い,また無登録業者の取締りのため,警察との連携を一層強化するなど,旅行業法の遵守を徹底し旅行者保護の一層の充実を図っている。

 (ウ) 海外旅行倍増計画(テン・ミリオン計画)の推進

 (a) 海外旅行倍増計画の策定及び見直し

     (計画の策定及び見直し)
      運輸省は関係省庁の協力を求めつつ,66年までに日本人海外旅行者数を1,000万人の水準に乗せることをめざす「海外旅行倍増計画」を62年9月に策定した。さらに,各方面からの提言等を取り入れつつ,日本人の海外での安全対策や長期連続休暇取得運動の充実等を図るため63年7月に所要の改正を行い,国民の海外旅行を促進するための施策を強力に推進している。
     (日本人海外旅行の状況)
      本計画の実現に向けての官民一体となった活動に,折からの円高に伴う海外旅行の割安感の浸透とも相まって,62年の出国日本人数は対前年比23.8%増の683万人に達した。しかしながら,これを対人口比でみると,依然として我が国では年間国民の5.6%しか海外旅行をしておらず,他の先進国に比べて極めて低い水準となっており,同じ太平洋にあるオストラリアの約10%(61年)と比べても半分に過ぎない 〔1−2−25図〕

     (計画の具体的実施状況)

 @ 海外旅行促進キャンペーン等の実施

      計画推進に当たっての具体的方策としては,まず,関係省庁との連携を保ちつつ,海外旅行を行う際に不可欠となる長期連続休暇の取得運動やゆとり創造月間(11月)等の機会をとらえ,海外旅行促進キャンペーンを推進している。

 A 海外における日本人観光客の受入環境の改善

      日本人観光客の受入環境を改善するため,諸外国の観光振興に対する経済技術協力の充実・強化を図り,観光関係従業員の交流等を推進するとともに,日本人観光客受入の促進策や阻害要因の改善策等について意見交換を行うため,これまでオーストラリア,中国,タイ,メキシコへ官民合同の日本人海外旅行促進ミッションを派遣しているが,63年度はスペインへ派遣した。

 B 海外旅行促進の環境整備

      従業員の慰安旅行に対する税制上の措置を検討するとともに,海外観光情報の充実を図り,開発途上国の観光宣伝活動を支援するため,民間企業等に協力を呼びかけ「善意観光宣伝事務所制度」を推進し,観光宣伝コーナーの設置,観光展の開催等を行った。また,公立高校に対する航空機の利用規制が緩和される等の海外修学旅行促進策が実施されたことにより,63年には対前年比17%増の164校が海外修学旅行の実施を計画した。さらに,我が国において出入国手続きの迅速化等を図るため旅券法の改正が検討され,一方では,日米間で62年12月から90日以内の観光または商用を目的とする両国の旅行者について査証が免除されることとなったのをはじめ,韓国,オーストラリアなどでも,日本人を対象とするビザ制度の簡易化が実施されている。

 C 航空輸送の整備

      地方空港の活用による地方の国際化を促進する施策として,国内の数地点と海外の目的地とを結んで計画的に数便継続して運航する「モデル・プログラム・チャーター」を運航し,地方の需要の掘り起こし,航空機材の確保,CIQ注)の協力等の課題の克服に努める等,国際チャーター便の運航を促進している。また,国際航空運賃に係る方向別格差の是正を進めるとともに,需要に十分対応できる航空輸送力の整備を進めている。

 D 外航客船旅行の振興

      国民の余暇活動の多様化が進む中で,外航客船による旅行は今後大いに拡大が期待されている。このような状況を受けて我が国海運企業が次々と進めている新たな外航客船の建造に対し,外航客船旅行の振興を図るため日本開発銀行から長期・低利の融資を行うとともに,客船旅行の楽しさを周知するためのPR活動を行っている。また,地方公共団体や民間企業の進める近隣諸国とのフェリー等の開設に当たり,関連情報の提供とともに適切なアドバイスを行っている。

 (b) 海外旅行者安全対策等の検討

      日本人海外旅行者の増大に伴い,交通事故,病気等海外旅行に伴うトラブルに旅行者が巻き込まれるケースも増大するものと予想される。このため,運輸省に「日本人海外旅行安全等対策研究会」を設け,旅行者への安全情報の提供,事故時の連絡体制の充実に関する旅行業者に対する指導の徹底,修学旅行用新種保険の開発,任意保険への加入促進等を検討,実施した。

 (c) 海外旅行促進フォーラムの活動

      運輸省の推進する海外旅行倍増計画に呼応し,民間企業,外国政府観光宣伝機関,地方公共団体等により62年11月に設立された海外旅行促進フォーラムは,63年7月にその活動の結果を「日本人海外旅行の促進についての要望」としてまとめ,旅券発給,CIQ手続きの迅速化,ビザの相互免除の推進,休暇の平準化,長期連続休暇の取得推進等を関係省庁へ要請し,本計画に反映させた。また,相手国が日本人観光客をより多く受入れるために必要となる方策として「方面別観光振興策(提言)」を主要国(地域)別にとりまとめた。

(2) 国際社会への積極的貢献

 (ア) 国際交流の促進

      近年における我が国の国際的地位の高まりの中で,諸外国との国際親善,相互理解を増進するため,我が国において積極的な国際交流活動を展開していくことが必要となっている。
      海外旅行の促進を図ることは,国際的な相互理解の増進,国民の国際感覚のかん養などといった意義のほかに,諸外国の経済振興,我が国及び相手国の国際収支のバランス改善への寄与等の効果をも有するものであり,今後,相互依存関係の深まる国際社会において我が国の安定的な存立を確保するためには極めて重要になってきている。このような観点から,「市場アクセス改善のためのアクション・プログラムの骨格」や「世界とともに生きる日本-経済運営五箇年計画」においても,日本人海外旅行の促進等を図るべきことが盛り込まれている。
      また,外国人旅行者受入体制の整備により,我が国を訪れた外国人旅行者が主体的に日本の姿を見聞きし,日本人との触れ合いの機会を持つことができるような環境を整えることも,国際的な相互理解の増進,地方の国際化にとって重要である。
      運輸省では,「海外旅行倍増計画」及び「90年代観光振興行動計画」に従って,日本人の海外旅行及び外国人の訪日の促進のための施策を総合的,計画的に実施することとしているが,海外旅行促進フォーラムの試算により「海外旅行倍増計画」の国際収支面での効果を見てみると, 〔1−2−26表〕のとおり66年には265億ドル以上が諸外国に還元されることが見込まれている。

       〔1−2−27表〕は先進諸国のなかで貿易収支が黒字である日本と西ドイツの貿易収支と旅行収支を比較したものである。西ドイツでは,貿易黒字の還元に旅行収支の赤字が大きく貢献していることがわかるが,我が国においても同様に,その貢献する割合が高まってきている。

      各国が外国からの旅行者の受入れに力をいれるなか,この計画が他国に例をみないアウトバウンド施策であることから,WTO(世界観光機関)やOECD等の国際機関において大きな反響を呼ぶとともに,エコノミスト(イギリス),人民日報(中国)等に取り上げられるなど諸外国から強い関心が示されており,観光の分野における「世界に貢献する日本」としての役割に対し,各国から強い期待が寄せられている。

 (イ) 国際協力の拡充

 (a) 多様化する経済協力要請

      鉄道,港湾,空港等は,物流,人流のかなめとして開発途上国の経済発展の上で欠くことのできないものであり,このため,我が国の有償資金協力においても,運輸関係分野は 〔1−2−28図〕のとおり全体の約2割という大きな割合を占めており,分野別では鉄道,港湾,空港のシェアが高い 〔1−2−29図〕。また,開発途上国のプロジェクトに対して,フィージビリティ・スタディ又はマスタープランの作成を行う開発調査に対する協力要請も多い。

      加えて,最近は,新たに施設を整備するだけでなく,既存施設の近代化,効率化等即効的な協力や施設の管理・運営等ソフト面での協力要請も多くなり,また,観光や気象等,分野も多様化するなど,我が国に対してより質の高い協力が要請されている。

 (b) 運輸分野における経済協力の動向

     (資金協力)
      62年度は,新たに協力を開始した中国の鄭州・宝鶏間鉄道電化計画,タイの観光開発計画,パキスタンの港湾浚渫船計画等を含め,17件に対し総額1,049億円に及ぶ円借款の交換公文が締結された。また,無償資金協力としては,スリランカの自動車整備工訓練センター建設計画,パキスタンの船員養成学校機材整備計画,スーダンの燃料輸送網整備計画等12件に対し総額85億円の供与の交換公文が締結された。
     (技術協力)
      運輸省は,中国の北京首都空港施設地区拡張計画インドのニューデリー駅近代化計画,カルカッタ・ハルディア港開発計画等62年度において新たに調査に着手したものを含め合計43件について国際協力事業団を通じてフィージビリティ・スタディ又はマスタープランの作成を行う開発調査を行った。また,同事業団を通じ,30の国及び国際機関に対し長期110名,短期145名の専門家を派遣し,64の国及び地域から359名の研修員を受け入れるとともに,開発途上国の人材育成に寄与するため,中国鉄道管理学院等6件のプロジェクト方式技術協力注)を実施した。
      また,同事業団を通じ,62年度に鉄道車両の保守・管理等の専門家チームをインドネシアに,さらに63年度にはバスの保守・管理等の専門家チームをフィリピンにそれぞれ派遣して,既に円借款等により供与された鉄道車両やバスに対して,メインテナンスの現場指導を行いつつ技術移転を図る,いわゆるリハビリテーション協力を実施している。このような協力は,開発途上国の技術水準の一層の向上に寄与するものであるので,我が国の経済協力の質的向上を図るため積極的に推進していく必要がある。
     (観光協力)
      観光地の開発,受け入れ体制の整備等観光分野における協力は,開発途上国にとって外貨の獲得,雇用の増大に直接つながるばかりでなく,我が国にとっても,これらの協力に伴って生ずる海外への観光客の増大が,国際収支の黒字の減少にも寄与するものであるので,積極的に推進していく必要がある。62年度には,諸外国からの観光開発に対する協力要請に対処するため,(財)国際観光開発研究センターに委託して南太平洋地域開発基礎調査を実施したほか,国際協力事業団を通じてギリシャ観光振興計画調査等,観光開発・振興を図るための調査を実施した。
      また,ESCAP主催の観光政策・振興方策に関するセミナーが,運輸省の全面的な支援の下に63年10月に開催され,13か国14人の参加を得て,各国の観光開発・振興の方策や我が国が発表した海外旅行倍増計画(テン・ミリオン計画)等について情報交換が行われるとともに,我が国の観光関連の現場視察等を行った。
      特に開発途上国の観光開発には,官民一体となった協力が不可欠であり,運輸省としても今後それぞれのノウ・ハウを活用して適切な観光協力を推進していくこととしている。

 (c) 協力関係が緊密化する中国・インド

      運輸分野における経済協力は,我が国と経済的,歴史的に結びつきが深いアジア地域に対するものが多くなっているが,なかでも広大な国土と人口を有し,経済協力に関するポテンシャルの高い中国及びインドが,今後ますます重要となるものと思われる。
     (中国)
      我が国と中国との間の運輸分野における協力は,近年ますます緊密化している。円借款については,中国は61年度交換公文ベースで我が国にとって第一の円借款受取国となって以来その地位を保っており,既往の円借款供与額の過半は鉄道及び港湾の運輸分野で占められている。さらに,従来からの第1次,第2次円借款に引き続き,第3次円借款を65年度から6年間にわたり42案件,総額8,100億円を供与することが決定されており,今後とも運輸分野での協力を積極的に推進していく必要がある。技術協力についても,運輸分野が専門家派遣及び研修員受入れの大きな柱の一つとなっている。
      さらに,運輸分野における閣僚レベルでの交流が盛んに行われており,また,鉄道分野における日中協力を円滑に実施するため中国鉄道部との間に日中鉄道協力実務者協議が,港湾,海運等の分野での意見交換を行うため,中国交通部との間に日中運輸交通実務者協議が,それぞれ毎年1回開催されている。この他,中国の運輸関係の研究者を我が国に招へいし,研修を実施するとともに意見交換を行った。
      こうした意見交換の場を通じて,中国との運輸分野の国際協力をさらに推進していくこととしている。
     (インド)
      インドに対する運輸分野における協力は,従来円借款及び研修生受入れを中心に行われてきたが,61年度に鉄道近代化計画を対象として開発調査が開始されるに至り,引き続き63年度にはニューデリー駅近代化計画調査及びカルカッタ・ハルディア港開発計画調査が実施される等,資金・技術の両面で緊密化している。また,新たな円借款の対象分野として,ビハール州等における仏跡観光基盤整備事業に対する円借款が供与されることとなった。
      インドにおいては運輸分野の近代化を推進中で,日本に対する期待も大きいことから,運輸分野全般の国際協力を,より一層推進していくこととしている。

 (d) 経済協力に関する啓蒙

      我が国は,その国際的地位に対応した責務として,開発途上国に対する経済協力を積極的に推進する必要があり,このため国際協力について国民的理解を得ることが不可欠となっている。このような観点から,国際協力の重要性とあり方に対する国民の認識と関心を増進するため,我が国が初めてコロンボプランへの参加を決定した10月6日を「国際協力の日」とすることが62年9月4日閣議了解された。
      運輸省は「国際協力の日」にあたり,運輸経済協力の中でも重要な分野の一つである鉄道について,今後の経済協力のあり方を探るため,中国,タイから鉄道関係の要人を招へいし,63年10月6日「経済発展と鉄道の役割」のテーマの下に「運輸経済協力シンポジウム」を開催し,各国の鉄道分野における現状と問題点及び我が国の鉄道協力のあり方について活発な意見交換を行った。
      今後とも,あらゆる機会を通じて運輸分野の経済協力についての啓蒙を図っていくこととしている。

 (e) 運輸経済協力の一層の推進

     (政府開発援助の充実)
      我が国の国際的地位の向上と影響力の増大に伴い,国際社会に対し積極的貢献を行うことは,我が国の果たすべき重要な責務となっており,このため,63年6月には政府開発援助の第4次中期目標として,63年から67年までの5か年での実績総額を500億ドル以上とするよう努めるとともに,質的改善を図ることが決定された。
      運輸基盤施設の整備は,開発途上国の経済社会発展にとって不可欠であり,従来にも増して運輸分野の国際協力を積極的に推進していく必要がある。また,運輸分野は,施設整備のみならず,適切な運営・管理等が極めて重要であり,運輸省としては今後このような観点から,一層効果的な協力のあり方を探っていくこととしている。
     (輸送安全対策協力の推進)
      最近,開発途上国において輸送機関に係る大事故が相次いでいるが,輸送の安全性の確保は,開発途上国の発展に重要であるばかりでなく,人命の保護という緊急の課題であることから,ハード・ソフト両面にわたる安全性の向上策を早急に講ずる必要がある。
      我が国は,過去において輸送機関に係る多くの事故の苦い経験を踏まえて輸送安全対策を講じてきており,運輸省としては,今後これらの知見・経験を踏まえて,開発途上国のニーズに対応しつつ,輸送の安全性の向上を図るための協力を積極的に行っていく必要がある。

 (f) 気象に係る国際協力

      自然災害の防止のためには,単に1つの国だけでなく,世界各国の観測・予報技術の調和的向上を図っていく必要がある。気象庁は,国際連合の専門機関の一つである世界気象機関(WMO:現在155か国,5領域が加盟)を通じての協力や二国間協力等により,気象観測・通信網整備の推進,観測技術基準の統一,予測技術開発等の促進を図り,関係国に対する技術指導および研修の受け入れ等の方法により,積極的に国際協力・貢献を推進している。
      また,近年,オゾン層の破壊,砂漠化,二酸化炭素等の温室効果気体の濃度増加による地球の温暖化などの全地球的な環境問題に対しては,世界気象機関が中心となって推進している世界気候計画や,世界気象機関・国連環境計画の「気候変動に関する政府間パネル」等によって国際的な取り組みが推進されており,気象庁はこれらに対し積極的に参加・協力をしている。

 (g) 国際科学技術協力

      近年,著しく国際的地位の高まった我が国は,科学技術分野においても,従来の欧米諸国の研究成果の吸収型から,世界に貢献できる科学技術の創造型へと転換が迫られている。こうした観点から,我が国に対して,諸外国は,従前の科学技術協力のあり方の見直しや,新たな協力関係の強化など多様な要請をしてきている。
      すなわち,63年度には,6月に従来の日米科学技術協力協定に代わり,新しい協定が締結された。
      この新協定では,日本の科学技術が,今やアメリカと等しく,世界の最高水準に達したとの認識から,日本がアメリカの科学者の受け入れを促進するよう努めるとともに,知的所有権の保護及び安全保障上の守秘について規定された。
      また,10月には,日伊科学技術協力を推進するべく,日伊科学技術協力協定が締結された。
      こうした動きを受けて,科学技術会議は,63年度科学技術振興に関する重点指針の中で「外国人研究者の受入れ促進等国際的に開かれた研究体制の整備に努めるとともに,多様な国際協力及び研究者,情報の交流を促進する。」ことを重点事項として取り上げている。
      運輸関係の技術は,例えば,船舶,航空管制,気象等,世界中で使用されており,また,技術開発の成果が国際基準や国際ネットワークの中に反映されることが多いことなどに加え,我が国が世界に貢献できる余地が多く,国際的な研究協力の意義が特に大きい分野である。
      このため,運輸省においては,磁気浮上式鉄道,海洋開発及び気象観測等の分野を中心に,国際的な科学技術協力を積極的に進めているところである。
      運輸省が関係している国際科学技術協力の案件は, 〔1−2−30図〕に示すように年々増加しており,現在では,12か国,71テーマ(63年8月末)に及んでいる。

      しかしながら,こうした協力案件の中には,情報交換の段階に留まり,研究者の交流等による十分な協力が必ずしも実施できていないものもある。今後は,協力案件の増加のみならず,その質的な充実も含めて協力の推進を図っていくことが望まれている。
      このため,運輸省では63年度に,国際共同研究のプロジェクトとして,科学技術庁の個別重要国際共同研究の制度を利用して,測地衛星「あじさい」によるアメリカとの国際共同集中観測,同一模型を用いた水槽実験による船舶の転覆原因に関する西ドイツとの共同研究,及び,海底地形の測定データの処理手法に関するフランスとの共同研究を実施している。
      また,研究者の交流を促進するために,63年度に科学技術庁に創設された国際流動基礎研究の制度を利用して,気象庁を中心とした関係省庁とアメリカ,オーストラリア,西ドイツの研究者が気象庁の気象研究所において大気内の化学反応の研究を共同で実施している。

 (ウ) 対外経済対策の推進

 (a) 大型公共事業等への外国企業参入問題

      関西国際空港プロジェクトへの外国企業(外国系企業を含む。)の参入に関する日米両政府間協議は,62年11月に事実上の決着をみたが,引き続いて,我が国の建設市場への外国企業の参入に関して行われてきた日米両政府間の協議は,63年3月末に実質的に意見の一致をみた後,5月24日に「大型公共事業への参入機会等に関する我が国政府の措置について」が閣議了解されるとともに,この措置の内容が翌25日松永駐米大使からヴェリティ商務長官へ書簡で通報された。
      その措置の概要は,@関西国際空港及び同様の民間事業主体が実施するその他の大型プロジェクトに関し,62年11月4日付で通報した措置の実施を見守る。A東京国際空港(羽田)沖合展開第3期工事,新広島空港,横浜みなとみらい21等を含む7つの大型公共事業について,我が国の調達制度に外国企業が習熟することを目的として,調達手続上の特例措置を講じる。B上記7プロジェクトに関連する特定の民間及び第三セクター事業主体に対し,内外無差別な調達方針の採用等の措置を取るように勧奨する。C今回の措置に関して,日米両政府間においてモニタリングの会合を開く。D2年後に本措置が所期の目的に役立っているか否かについて日米両政府間においてレビューの会合を開くとなっている。
      我が国は,その後,外国企業の建設市場へのアクセスを容易にするため,政府,民間ともこれらの措置を誠実に実施しており,米国も63年9月6日に開催されたモニタリングの会合において評価しているところである。
      運輸省所管プロジェクトでは,まず,関西国際空港プロジェクトで通報した措置の発注手続が実施に移され,同手続の適用第1号である気象海象観測データ処理用ミニコンピュータの調達において米国系企業が落札している。同プロジェクト発足以降の関西国際空港株式会社及び同社からの受注企業による外国企業からの調達実績は,63年10月31日現在,約65億円に達している。公共事業関係では,発注機関へのコンタクトポイントの設置,対象プロジェクトのマスタープランの公表等を行った。また,民間及び第三セクターの関係でも,羽田空港西側旅客ターミナルビルについてコンタクトポイントの設置,マスタープラン等の説明会の開催(39社の外国企業を含む185社が参加),エレベータ等の応募要領書の内外企業への頒布等,外国企業のアクセスを容易にする努力が行われている。
      運輸省としては,今後とも所管のプロジェクトへの外国企業のアクセスを容易にする努力を行っていくこととしている。

 (b) 自動車基準・認証制度の国際化の推進