2 交通安全対策の推進


(1) 道路交通の安全対策

 (ア) 自動車運送事業者の事故防止対策

      事業用自動車の事故による死者数は,62年において1,637名と前年に比べ65名増加し,道路交通事故による全体の死者数9,347名の約18%を占めている。
      運輸省としては,これらを踏まえて自動車運送事業者の運行管理体制の充実強化を図るため,運行管理者研修の充実,自動車運送事業者に対する指導・監督の徹底を図っている。
      特に,63年7月,中国縦貫自動車道境トンネル内において,11台の車両による衝突火災事故が発生したことにかんがみ,運転者に対しては,最高速度の厳守と道路状況等に応じた安全速度の遵守,適正な車間距離の保持,脇見運転及び漫然運転の防止等を,運行管理者に対しては,運転者の過労防止への留意,点呼の確実な実施等を行わせるよう,全国の貨物自動車運送事業者等を指導し,事故防止の徹底を図っている。

 (イ) 車両の安全確保

 (a) 自動車等の技術基準

      自動車等の道路運送車両の安全を確保するため,道路運送車両法に基づき,自動車の構造・装置等について,保安上の技術基準(道路運送車両の保安基準)が定められている。
      この保安基準については,道路交通環境の変化等に対応し適宜改正が行われており,63年2月には,濃霧等の視界不良時における自動車の被視認性を向上し追突事故の防止を図るため,自動車の後面に後部霧灯を装備することができるよう改正し,さらに,自動車の窓ガラスへの着色フイルムの貼付が運転の視野を妨げないよう,基準を明定すべく調査・検討を進めているところである。

 (b) 検査・整備制度

      自動車の安全の確保と公害の防止を図るため,国が自動車の検査(車検)を行っているが,近年における自動車の構造・装置への新技術の採用は目ざましいものがあり,常時四輪駆動アンチロックブレーキ,四輪操舵等が急速に普及しつつある。このため,これらに適確に対応すべく総合的な検査用機器の開発を行うなど検査体制の充実・強化に努めている。また,ユーザー点検教室等のキャンペーンにより,ユーザーの保守管理意識の向上と定期点検整備の励行等に努めている。整備事業については,自動車の新技術への対応方策について検討を行うとともに,中小企業近代化促進法に基づき,経営戦略化構造改善計画を推進しているほか,整備箇所について一定期間内に不具合が発生した場合には,無償で再整備する整備保証制度の促進を図っている。
      なお,63年1月には自動車登録検査電子情報処理システムを全面的に更改し,検査登録事項をOCR(光学的文字読取装置)を用いて入力することにより,自動車検査証の漢字化を行うとともにリコール対策車両のファイル化等を行うことにより,ユーザーサービスの向上と安全対策の充実が図られた。

 (ウ) オートマチック車の急発進・急加速問題への対応

      62年来,社会的関心事となっているオートマチック車の急発進・急加速問題については,交通安全公害研究所において,車両構造上の原因究明のための試験調査が行われ,63年4月,その中間報告が出された。同報告においては,オートマチック車の構造・装置において急発進・急加速につながるような現象は確認されなかったが,車両の安全性をさらに一層向上させる観点から,車載の電子機器について,フェール・セーフ性の確保及び信頼性の確保に関して提言がなされた。同提言については,現在(社)日本自動車工業会において,その具体的方策を検討中である。
      なお,63年度も引き続き交通安全公害研究所において,原因究明のための試験調査を継続して行っているところである。

 (エ) 自動車事故被害者の救済

      自動車事故による被害者の救済を図るため,自動車損害賠償責任保険等の自動車損害賠償保障制度の適切な運用を行っている。
      また,自動車事故対策センターにおいて,交通遺児等に対する生活資金の貸付け,重度後遺障害者に対する介護料の支給,附属千葉療護センターにおける重度意識障害者に対する治療及び養護等を実施している。
      なお,同センターに加え,仙台市において64年度の業務開始を目途に新たな療護施設の整備を行っている。

(2) 鉄軌道交通の安全対策

 (ア)鉄軌道の安全性の確保

      鉄軌道における事故は長期減少傾向にあるが,安全性を一層高めるため,@施設面では,自動信号化,ATS(自動列車停止装置)の設置・改良,CTC(列車集中制御装置)化,軌道強化,列車無線設備の整備等による鉄軌道施設の整備,A車両面では,コンピュータの利用等新しい技術を取り入れた検査方法の導入による車両の安全性の確保,B運転面では,乗務員等に対する教育訓練の充実,厳正な服務と適正な運行管理の徹底等による安全運行対策を実施している。

 (イ) 踏切事故の防止対策

      踏切事故の防止については,第四次踏切事故防止総合対策(61〜65年度)に基づき,62年度においては,立体交差化107か所,構造改良425か所,保安設備の整備442か所の改良を行った。
      国は,これらの整備のために必要な資金を財政投融資により確保するとともに,経営の苦しい鉄道事業者に対し,地方公共団体と協力して踏切保安設備の整備費の一部を補助している 〔8−1−2図〕

(3) 海上交通の安全対策

 (ア) 海上交通環境の整備

 (a) 港湾等の整備

      62年度は,港内の船舶の安全を確保するため,新潟港等66港において防波堤,航路,泊地等の整備を行った。また,沿岸海域を航行する船舶の安全を確保する観点から,関門航路備讃瀬戸航路等13の開発保全航路において狭水道航路の拡幅,増深等のための整備事業を行うとともに,室津港等11の避難港について整備を行った。
      63年度は,引き続きこれらの整備を進めるほか,東京湾口の浦賀水道航路における第3海星の撤去等について検討を進めることとしている。

 (b) 海上交通情報機構の整備

      海上保安庁では,ふくそうする海域における船舶の安全かつ能率的な運航を確保するため,海上交通に関する情報提供と航行管制を一元的に行う海上交通情報機構の整備を東京湾に次いで備讃海域及び関門海域において進めてきており,62年7月には備讃瀬戸海上交通センターの運用を開始している 〔8−1−3図〕。さらに,大阪湾や来島海峡においても,その整備について調査を行っている。

 (c) 大規模プロジェクトに係る安全対策の推進

      東京湾,瀬戸内海等においては,近年,東京湾横断道路,関西国際空港,本州四国連絡橋等の大規模プロジェクトが推進されているが,海上交通に大きな影響を与えるおそれがあることから,海上保安庁では,従来から事業主体等の関係者に対し,海上交通の安全に関する調査研究を行うよう指導するとともに,警戒船の配備,情報管理体制の整備,各種航行援助施設や防災資機材の整備等について,建設中及び完成後の航行安全対策等が確立されるよう指導してきている。また,船舶の航行を制限する海域の設定,警戒のための巡視船艇の配備等必要な措置を講じている。

 (d) 灯浮標・海図等の整備

      海上保安庁では,浮標式の国際的統一に伴う灯浮標等の様式の変更工事を計画的に行っており,62年度は,山口県西部,九州北東岸海域で約190基の工事を実施した。また,海図等の水路図誌を整備するとともに,船舶交通の安全に係る緊急を要する情報を航行警報等により提供している。

 (イ) 船舶の安全運航の確保

 (a) 船員災害の防止対策等

      船員に着目した安全対策としては,船員災害防止の観点から船員労務官による監査及び指導を行うほか,第5次船員災害防止基本対策(63年3月公示)に基づき,労働環境の変化に対応した安全衛生対策,災害多発業種等に対する安全対策の強化等を,また,漁船員に対しては,海中転落防止対策の徹底を図るとともに,生存対策に関する講習会等を実施する等安全指導に努めている。
      我が国の港に入港する外国船舶に対しては,「1978年の船員の訓練及び資格証明並びに当直の基準に関する国際条約」(STCW条約)に規定されている航海当直及び船員の資格証明に関する基準の適合性についての監督を実施している。このうち,特に船員の資格証明に関する監督については,全国一斉に集中的な監督を実施するなどにより,その実効を期している。
      さらに,船舶の航行の安全を図るため,STCW条約に基づき62年度から,身体適性及び知識・技能のチェックを行った上で海技免状の有効期間(5年)の更新を認める更新制度を導入,また,63年度からは海技免状が失効した者に対し講習を受けることにより,免状の再交付を行う失効再交付事務を行っている。
      また,港域拡大等の状況にかんがみ,63年1月1日に苫小牧,八戸,仙台港,長崎及び鹿児島水先区について,7月20日に釜石及び堺水先区について,それぞれ水先区の区域を拡張し,これにより一層の海上交通の安全確保を図った。

 (b) 旅客船の安全対策

      旅客船の事故は,運航管理制度の定着等により長期減少傾向にあるが,最近,小型旅客船,高速艇,屋形船等を使用するミニ遊覧船,海上タクシー,納涼船等の事業が瀬戸内海,東京湾等において増加している。これらの事業に対する安全指導の確立に関する社会的要請は,63年7月に発生した第一富士丸の事故を契機に高まっており,63年度からは,中国運輸局に小型旅客船指導の担当官を配置し,これらの事業の実態を把握するとともに海上運送法の諸規制をベースとした指導を行っている。

 (c) 海上交通ルール及び各種船舶の安全対策

      海上保安庁では,海上交通ルールを定める海上衝突予防法等の海上交通関係法令に基づく規制に加えて,船舶の種類に応じた各種の安全対策を講じている。
      タンカー等の危険物積載船については,本邦に初めて就航する2万5,000総トン以上のLNG・LPGタンカー等に対する個別的な安全措置の指導等の施策を講じているほか,最近,海難が増加しているプレジャーボート等については,民間の自主的な安全活動を展開するため,小型船安全協会等の設立や海上安全指導員制度の推進を図っている。

 (ウ) 船舶の安全性の確保

 (a) 国際動向への対応

      船舶の安全性の基準については,「1974年の海上における人命の安全のための国際条約(74SOLAS条約)」に基づき,IMO(国際海事機関)において検討されており,63年秋に「全世界的な海上における遭難安全制度(GMDSS)」の導入及びRORO旅客船の構造・設備基準の見直しが行われることとなっている。RORO旅客船については,62年3月,死者190人を出したベルギー沖での「ヘラルド・オブ・エンタープライズ号」の座礁転覆事故を契機に,ローディングドアの閉め忘れ防止のための船内業務及び防止設備の見直し,さらに,復原性基準及び脱出設備の見直しに関する検討が,IMOにおいて行われており,我が国としてもこの検討に参画し,適切な基準の作成を行うこととしている。
      一般危険物及び放射性物質の海上輸送量の増大とその物性の多様化に対応するため,一般危険物については国連の専門機関であるIMOの船舶による危険物運送の国際基準であるIMDGコード(国際海上危険物規程)の24回改正までを国内規則に導入し,また,放射性物質については,放射線防護の基礎となる根本原則を検討し,その結果を勧告として,各国における放射線防護の関係機関専門家に示すことを目的とするICRP(国際放射線防護委員会)の新勧告の法令への取り入れについて検討を行う等,安全基準の確立及び安全審査体制の整備を行っている。

 (b) 立入検査の実施

      外国船に対しては立入検査を実施し,74SOLAS条約等に規定されている船舶の構造設備に係る技術基準を確保するよう監督体制の強化を図っている。
      旅客船,カーフェリーやプレジャーボート,遊漁船等については,定期的検査に加えて立入検査により救命,消防,脱出設備等の現状を確認し,安全指導の強化を図っている。また,漁船については,不法改造対策として人命の安全に係ることから,その立入検査を強力に実施している。

 (エ) 海上捜索救助体制の整備

 (a) 国際的な協力・連携の推進

      60年6月の「1979年の海上における捜索及び救助に関する国際条約」(SAR条約)の発効以来,国際的な捜索救助体制確立の動きは着実な進展を示している。海上保安庁は,国内の救助体制の整備を図るとともに,国際的なSAR体制の確立に努めており,61年12月,米国との間で締結した日米SAR協定により確定された広大な海域において,効率的な捜索救助活動を遂行するため,ヘリフプター搭載型巡視船,大型ジェット飛行機を中心とする広域哨戒体制の整備を推進するほか,船位通報制度(JASREP)を運用している。また,アジア・太平洋地域における捜索救助に関する協力・連携を推進するため,近隣諸国の海上における捜索救助体制の整備のための開発調査,研修・訓練の実施,捜索救助に関する専門家の派遣等の技術協力にも積極的に対応している。

 (オ) GMDSSへの対応

      「全世界的な海上における遭難・安全制度」(GMDSS)は,@遠距離通信に対応できない,Aモールス通信技術等の特殊な技能が必要である,B突然の船舶の転覆等により遭難信号の発信が十分に機能しない場合がある,など現行の遭難安全通信の問題点を根本的に解消するため,衛星通信技術,ディジタル通信技術等最新の通信技術を利用して,地球上のいかなる海域にいる船舶も陸上からの航行安全に係わる情報を適切に受信することができ,また,遭難した場合は,捜索救助機関や付近航行船舶に対して,迅速に救助要請を行うことができる全地域的な遭難・安全通信体制を確立しようとするもので,国際海事機関(IMO),国際電気通信連合(ITU)等において積極的な検討が続けられており,67年2月には,この制度を世界的なレベルで導入するための改正SOLAS条約が発効する予定である。

      我が国においても,船舶の航行する海域にかかわらず陸上との確実かつ機能的な通信を可能とし,船舶航行の安全性を飛躍的に高めるとともに,広大な我が国の捜索救助区域において捜索救助活動を迅速かつ適確に実施するためには,GMDSSの導入が必要不可欠となっている。
      この制度を円滑に導入するため,運輸省においては,条約発効に先立って,船舶に搭載が義務付けられることとなる関連設備の技術基準の整備及び非条約船へのGMDSS導入の検討を行うと同時に,船舶安全法及び関係法令の改正を進めることとしており,また,海上保安庁においては,衛星EPIRB〈非常用位置指示無線標識)から発射される遭難警報を衛星により中継し,地上局で遭難の事実を知ると同時にその位置を知ることができるCOSPAS/SARSATシステム,無線テレタイプにより船舶の航行安全に関する情報を提供することができるNAVTEXシステム等,GMDSSを構成するシステムの陸上通信施設の整備を図るための検討を進めている。

 (カ) 第一富士丸事故対策

      63年7月23日,横須賀港沖で遊漁船「第一富士丸」と潜水艦「なだしお」が衝突し,30人が死亡するという事故が発生した。この事故の重大性にかんがみ,政府は,7月24日,運輸大臣を本部長とする「第一富士丸事故対策本部」を総理府に設置し,7月27日,船舶航行の安全に関する当面の措置として,民間船舶に対しては東京湾等船舶交通のふくそうする海域における航行の安全に関する集中指導を実施するとともに,自衛隊の艦艇についても安全対策を実施することを決定した。この政府対策本部の決定を受けて,運輸省及び海上保安庁では,8月1日から8月31日までの間,東京湾,伊勢湾及び瀬戸内海を重点として,遊漁船,旅客船等を重点対象船舶として海事関係法令の遵守の徹底について,集中的な指導・取締り等を実施した。
      さらに,10月14日,政府対策本部において「船舶航行の安全に関する対策要綱」が決定された。その内容は,第一に,海事関係者に対してルールの忠実な遵守,シーマンシップに従った行動良好なマナーの重要性について徹底すること,特に,常時適切な見張りを行うこと等のルールの遵守等についての指導の徹底,緊急時における旅客の安全確保のための救命設備,応急処理体制の確保といった指導を行うこと,第二に,東京湾海上交通センターの機能の充実強化,自衛隊の艦艇を含め同センターと連絡をとるべき船舶の範囲の拡大等を行うとともに,東京湾内における海上保安庁の巡視船艇による航行安全指導体制の強化を行うこと,第三に,浦賀水道航路に隣接する第三海堡の撤去及び中ノ瀬航路における浅所浚渫を推進すること,第四に,今回の事故再発防止対策としての安全対策として船舶設備,東京湾内の航路体系等について検討・研究を行うこととするものである。この要綱に基づき,それぞれ関係省庁において逐次その実施を図ることとしている。

(4) 航空交通の安全対策

 (ア) 航空保安システムの整備

      航空機は,特定の電波を発射する航空保安無線施設(VOR/DME等)によって構成された航空路上を飛行している。これらの航空機を管制するために航空路監視レーダー(ARSR,ORSR),航空周辺を飛行する航空機を管制するために空港監視レーダー(ASR)及び,レーダーから得られた情報と飛行計画情報とを電子計算機で処理し,管制官に必要な飛行情報を提供する管制情報処理システム(RDP,FDP,ARTS)を整備してきている。一方,地方空港のジェット化に伴い,効率的運航とより安全な着陸を行うために計器着陸装置(ILS)及び進入灯(ALS)を整備してきている。
      なお,62年度においては,新千歳,東京,岡山及び奄美ILS,新千歳及び奄美VOR/DME整備を完了し運用を開始した。
      また,東京国際空港の沖合展開等3大プロジェクトの進展に伴う航空交通量の大幅な増加に対処し,航空交通の安全を図るため,航空交通流を一元的に把握し,必要な指示等を関係機関に行うことにより,航空交通の安全性の向上と運航の効率化を図る航空交通流管理機能,災害等が発生し航空管制施設が大きな被害を受けた場合にバックアップする,危機管理機能及び管制情報処理システム等の一元的な開発評価機能を有する「航空交通システムセンター」(仮称)の整備に63年度から着手した。また,関西国際航空の整備により予想される関西空域における航空交通のふくそうと多様化に対処するため,同空域内の複数の空港に係る進入管制を一元的に実施して,空域の有効利用と管制処理能力の向上を図るための「広域レーダー進入管制所」(仮称)の整備についても63年度から差手した。

 (イ) 航空機の安全運航の確保

 (a) 運航管理の改善

      航空運送事業者は,航空機の運航基準,運航管理の実施方法等を運航規程に定めるよう義務付けられており,運輸省ではその確実な実施を図るよう指導・監督を行っている。しかし,63年1月には美保飛行場及び千歳飛行場において大型機の滑走路逸脱事故が相次いで発生したため,10月に航空事故調査委員会より公表された航空事故報告書を踏まえて,運輸省では各航空会社に対し,改めて防除氷措置を的確に行う等,冬期における運航の安全確保に関し指導を行った。

 (b) 危険物輸送対策

      近年,各種化学薬品,放射性物質等の航空輸送の急速な増加及びその種類の多様化に伴い,関係規則の改正を行い,危険物輸送対策官による,運送事業者の危険物輸送体制の充実・強化のための指導・監督を行っている。

 (c) 航空大学校及び航空保安大学校の充実

      航空大学校においては,航空技術の進展,運航環境の急速な電子化に対応し得る乗員を養成するため,63年度において,教育用電子計算機を導入するとともに,現在防衛庁に委託している別科生の回転翼航空機の操縦訓練を自ら行うために,必要な訓練用の回転翼航空機2機を導入することとしている。
      航空保安大学校においては,新規採用職員に対する基礎研修及び同校岩沼分校における高度な専門技術修得のための研修について,その内容の充実に努めており,63年度においても一部研修施設の性能向上を図ることとしている。

 (ウ) 航空機の安全性の確保

      60年8月に発生した日航機墜落事故と同種の事故の再発防止を図るため,B-747型機の尾部構造の改善,後部圧力隔壁の整備点検の強化等を航空会社に指示する等必要な措置を講じた。さらに,同事故に関して行われた航空事故調査委員会の勧告及び建議に対しては,大規模な構造修理の管理体制の強化等を航空会社に指示する等の措置を講じている。
      また,航空機火災発生時における乗客の生存性を向上する観点から,航空機用座席の耐火性に関する新基準を定め,定期航空運送事業に用いられる大型飛行機について,63年8月から新基準に適合する機材とすることを義務付けた。航空機に関する整備審査体制については,整備審査官を配置し,航空運送事業者に対する整備体制の強化を指導している。

 (エ) 小型航空機の事故防止対策

      近年の小型航空機の事故件数はほぼ横ばい状態であり,62年の航空事故件数は37件であった。運輸省としては,航空事業者及び自家用小型航空機運航者に対し,法令及び安全関係諸規程の遵守等の指導・監督に努めるとともに,超軽量動力機運航者に対しては,関係団体を通じて安全運航確保のための指導を行っている。
      また,飛行中に最新の航空情報,気象情報等の情報の提供が円滑に行われ,万一の場合に迅速な捜索救難活動が実施されるよう,小型航空機の位置報告制度を62年3月より発足させている。

 (オ) 緊急時における捜索救難体制の整備

      民間航空機の捜索救難については,国際民間航空条約に準拠し,警察庁,防衛庁,運輸省及び海上保安庁が「航空機の捜索救難に関する協定」を締結して実施してきたが,63年4月,新たに消防庁が同協定に参加し,体制の一層の強化が図られた。また,東京空港事務所に設置されている救難調整本部(RCC)については,既に,必要な施設を整備し,専任要員を配置する等体制の充実強化を図ったところであるが,今後とも関係機関との合同訓練を定期的に行うとともに,施設の性能向上を進め,捜索救難体制の整備を一層推進することとしている。


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