2 民間設備投資


  62年度の民間設備投資は,大蔵省「法人企業統計年報」によれば,製造業においては61年度に引き続き,前年度実績比2.1%減となったが,全産業では同9.7%の増加となった 〔9−2−3図〕

 (運輸関連民間設備投資は増加)
  運輸省の調査によると,62年度の運輸関連民間設備投資実績(原則として資本金5,000万円以上の3,665社調べ)は, 〔9−2−4表〕のとおり,工事ベースで,総額1兆5,394億円で同2.1%増と増加となった。

  個別事業について主な増減をみると,鉄道業は新線建設,複々線化工事等が活発に進展したために,線路設備,電路設備,車両等を中心に21.5%増となったのをはじめ,トラック運送業は自動車,ターミナルを中心に増加し,登録ホテル業は建物増築等を中心に増加した。一方,外航海運業は円高等の影響により厳しい経営状況にあるのに加えて,船員費格差の拡大等により日本船を建造する意欲が減退したこともあって,船舶建造実績が前年度実績比52.8%減となったのを始め,造船業,バス業,ハイヤー・タクシー業,航空運送業等で減少している。

(1) 投資動機別の特徴

  次に,62年度設備投資実績(工事ベース)を投資動機別にみると, 〔9−2−5表〕のとおりである。そのうち,投資動機別の全体におけるシェアは能力増強投資が52.8%であり,次いで現有設備の更新のための投資,現有設備の補修・維持のための投資がそれぞれ23.2%,5.6%となっている。また,投資動機別のシェアを部門別にみると,運送業部門においては,製造業部門に比べて能力増強投資の割合が大きく,製造業部門においては,合理化及び省力化のための投資の割合が大きい。

  さらに,投資動機別の投資額は,運送業部門においては現有設備の更新のための投資に積極的な動きがみられ,一方,製造業部門では,長期間にわたる不況のため需要減等もあり,造船業の能力増強投資が減少している。

(2) 資金調達の特徴

  また,運送業について,62年度設備投資実績を支払ベースでみると,1兆3,760億円で前年度実績比2.5%増となっている。資金調達別に57年度と比較してみると, 〔9−2−6図〕のとおり,内部資金の割合が1.6ポイント増の34.4%,外部資金の割合は1.6ポイント減の65.6%で,外部資金のうち民間及び政府金融機関の占める率は67.7%と依然大きいが,社債発行による資金調達の大幅増が目立っている。

(3) 3部門とも増加見込みの63年度投資計画

  63年度の設備投資計画(63年3月15日時点調査)をみると,先の 〔9−2−4表〕のとおりであり,総額1兆5,804億円,前年度実績比2.7%増と増加を見込んでいる。業種別に主要な増減をみると,〔9-2-7表〕のとおりである。また,動機別内訳についてみると,能力増強投資,安全対策投資,サービス改善投資,現有設備の補修・維持投資がそれぞれ前年度実績比7.6%増,21.9%増,7.5%増,1.4%増となっているのに対し,現有設備の更新投資,合理化・省力化投資,研究開発投資がそれぞれ7.0%減,20.5%減,16.3%減となっており,運輸業にとって最も重要視される安全対策及びエネルギー対策とともに,特に貨物関係については,最近の物流の活発化を反映した能力増強といった事業拡大のための投資やサービス改善のための投資が増加している一方,合理化・省力化といった企業体質にかかる投資及び研究開発といった新規展開のための投資が落込んでいる。

(4) 投資総額の約1割を保つリース率

  設備投資の代替的性格を持つ設備賃借(リース)についてみると,63年度の新規リース契約計画額は1,658億円で,前年度実績比11,1%減と62年度に引き続き減少しており,設備投資総額に対する比率をみると,61年度16.2%,62年度12.1%,63年度10.5%と1割を超えたものになっている。内訳をみると,航空機,船舶の輸送用機械は増加するものの不動産,鉄道車両,自動車等は減少見込みとなっている。
  このように,リースは機械・設備の購入資金貸付け(金融)の代わりに,機械・設備自体を貸し付ける(物融)という,きわめて金融的色彩の強い性格を持っているため,技術革新の進展など経済の変化に対応して,積極的な設備投資を行おうとする企業の新しい設備調達手段として定着してきている。

(5) 景況感に遅行する設備投資

  運輸業の設備投資は景況感とどのような関係があるかをみると, 〔9−2−8図〕のとおりである。

  そのうち,運輸業の設備投資全体をみると,運輸業の景況感が59年に好転した後,投資はこれまでの減少傾向から転じて60年度に大きく増加したのに続き,その後は先行する景況感の悪化に遅行して投資の動きがみられ増加率が小さくなったが,62年の景況感の好転を受けて投資は増加傾向となっている。部門別にみると,製造業が景況感との関係が最も顕著であり,62年の景況感が好転したのに続き,63年度の投資計画は大きく増加している。


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