総合的な高齢者居住政策の基本的方向について(骨子)
平成12年4月25日
建設省
1 はじめに
○現在、住宅宅地審議会において「21世紀の豊かな生活を支える住宅・宅地政策のあり方」に関する審議が進められているところであるが、今後の急速な高齢化の進行を踏まえれば、最近施行された「介護保険法」、「良質な賃貸住宅等の供給の促進に関する特別措置法」の趣旨も体現した、豊かな成熟社会を実現するための「安心居住システム」を作り上げることは、特に早急な対応を迫られている課題。
このため、中長期的な対応も含めて、安心、快適で自立した高齢者居住を実現するための政策の基本的方向について、「総合的な高齢者居住政策の基本的方向」をとりまとめたもの。
○ここに盛り込まれた政策については、厚生省とも連携しつつとりまとめたものであるが、今後、最終答申に向けて住宅宅地審議会で更なる御議論を頂き、また、広く国民及び関係機関の御意見を聴きつつ、更に検討を進め、必要なものについては平成13年度の予算要求、税制改正要望等に反映。
2 背景、基本理念
○今後、我が国においては、急速に高齢化が進行(世帯主が65歳以上の世帯の比率 1995年:19.7%⇒2020年:35.2%)。高齢化の進行には、身体機能の低下した者の増加、所得の低い者の増加等のマイナス面と、高度な技術、経験を有する者、これまで蓄積した資産を活用しながら生活を楽しむことのできる者の増加等のプラス面が存在。
○高齢化のプラスの側面を活かすためには、例えば、
・各種機能が集約され、社会活動へのアクセシビリティが高い、まちなかでの活気ある居住
・豊かな自然環境に囲まれた田園地域での悠々自適の居住やマルチハビテーション
・子供、孫世帯との近居、同居によるやすらぎ居住
など、高齢者が自己の資産、時間的余裕を活用した、自己実現を図るために必要なさまざまな居住ニーズ、居住地ニーズに的確に応えうる環境が必要。
○一方、我が国の住宅ストックには、現在次の問題点が存在。
・特に民営借家でバリアフリー化が遅れているなど、高齢者が安心して快適に住生活を送ることができるような状況が整っているとは言い難いこと
・一部の民営借家等において指摘されている高齢者敬遠傾向など、高齢者がそのニーズにあった居住サービスを選択できる環境が整えられていないこと
○こうした状況を踏まえ、21世紀の住宅政策においては、次のような対応が必要。
・高齢者の多様な居住を確保しうる市場の環境整備、良質なストック形成の誘導、セーフティネットの構築等、さまざまな手段を通じた支援を行うことにより、 ・高齢社会が持つマイナスの側面、それが現在国民全体に与えている将来への不 安、不確実性をできるだけ軽減し、 ・高齢社会が有するプラスの側面を活かしうる豊かな成熟社会を実現すること。 |
3 成熟社会における豊かな高齢者居住を実現するための住宅政策の基本的方向
○今後の政策の検討に当たっては、高齢者を弱者という視点のみから捉えるのではなく、高齢者が末永く元気に社会活動を営むこと ができる環境を整備することが重要。
○そこで、高齢者の自助努力、高齢社会の進展をビジネスチャンスとして捉える民間活力を十分に活かしつつ、市場を通じた高齢者 の安心、快適、自立居住を確保するため、次の3つの視点を特に重視することが必要。
(1) フローの所得のみならず、蓄積された資産の有効活用を図る政策の推進と、政策的支援が必要な者に対するセーフティネットの構築 (2) 住宅の広さのみならず、住宅の性能や生活支援サービス等のソフト面に目を向けた政策の推進 (3) 65歳以上の者を一括りに「高齢者」(=弱者)として取扱うのではなく、前期高齢者、後期高齢者等加齢に伴う身体機能の低下等に応じたきめ細かな政策の推進 |
○これらの視点を踏まえ、高齢者にとって好ましい環境を整備し、21世紀の豊かな成熟社会を実現するために、次の3つの方向で 住宅政策を展開することが必要。
(1)高齢者の安心、快適で自立した生活を支える住宅・住環境整備の推進 (2)高齢者の多様なニーズに応えた居住選択の支援 (3)地域社会における高齢者を支える福祉と連携した生活環境の整備 |
4 成熟社会における豊かな高齢者居住を実現するための住宅政策上の課題
(1)高齢者の安心、快適で自立した生活を支える住宅・住環境整備の推進
特に民間借家についてバリアフリー化が遅れていること等を踏まえ、今後、高齢者に配慮された住宅ストックを形成するためには、次の3つの課題が重要。
@高齢者世帯等が安心、快適で自立した生活を確保する基盤として、バリアフリー化され、高齢者の入居が確保された住宅ストックを社会全体として形成することが必要。
A必要なバリアフリー化レベルやバリアフリー化された住宅ストックに関する目標を掲げるとともに、社会全体の民間住宅ストック形成・更新に広くインパクトを与えうる政策の検討を行うことが必要。
B医療、職場、文化など、さまざまな生活機能がコンパクトに集約され、活気に満ちたまちなかでの生活等、いろいろな社会活動へのアクセシビリティの確保された高齢者の安心、快適で自立した居住を支える環境整備を推進することが必要。
(2)公民の適切な役割分担による高齢者の多様なニーズに応えた居住選択の支援
@少なくとも高齢者というだけで入居に支障が生じない民間賃貸住宅市場の環境整備や高齢者の持家資産を活用した 住替えをスムーズなものとする仕組み作りが必要。
A公共賃貸住宅の整備や既存ストックの有効活用により、民間賃貸住宅市場では適切な住宅を確保できない住宅困窮高齢者に対し、的確な支援を行うことが必要。
(3)地域社会における高齢者を支える福祉と連携した生活環境の整備
@今後、高齢者関連施策が展開される場として、住宅の役割が大きくなることを勘案すれば、福祉施策との的確な役割分担に基づいた福祉政策と住宅政策の連携が必要。
Aこのため、例えば、在宅介護の場として活用可能な高齢者の身体状況に応じたきめ細かなストック形成、サービスの提供等を推進するとともに、総合的な情報提供体制の構築等が必要。
5 総合的な高齢者の対策の具体的施策の例
(1)持家住宅のバリアフリー化等の促進
@きめ細かなバリアフリー改修相談体制の構築
地域住民、ケアマネージャー等の要請に応じて、建築士等の専門的知識を有するアドバイザーを派遣し、きめ細やかな相談に応じうる体制整備を福祉部局と連携して整備。
A持家住宅のバリアフリー化を一層推進するための融資の活用
住宅金融公庫のリフォーム融資等の優遇制度を積極的に活用して、持家のバリアフリー化を推進。
Bリバースモーゲージを活用したリフォームの促進
リバースモーゲージの普及の一方策として、住宅資産を有する高齢者がリバースモーゲージにより資金を借り入れてバリアフリーリフォーム又は建替えを行う場合における融資の活用等について、負担のあり方も含めて検討。
C高齢者の住替えに係る支援
高齢者が住宅を売却等した上で高齢者向け賃貸住宅に住み替える場合等の支援や、住宅金融公庫融資を受けている高齢者が一定の条件の下その持家を賃貸する場合の公庫融資要件の弾力化を検討。
(2)高齢者対応型民間賃貸住宅ストック形成のための制度構築
@高齢者対応型民間賃貸住宅等供給支援システムの構築
○高齢者の豊かな居住を支える良質な民間賃貸住宅ストックを形成するため、バリアフリー化、高齢者の入居の確保、適正な管理運営等に関して一定の基準を満たす住宅を供給しようとする民間事業者等が策定する供給計画を認定し、その認定に基づいて支援するシステムについて検討。
○高齢者を対象とした、その死亡により終了する借家契約(生涯借家契約)のあり方についても検討。
A高齢者が敬遠されない民間賃貸住宅市場の環境整備
○高齢者入居住宅登録システム等による情報提供体制の整備。
○保証人がいない高齢者を受け入れ易くするための家賃保証システムの整備の促進、成年後見の活用、在宅介護支援 センター等との連携に基づく一定のサービスの提供等を内容とする大家不安解消システムの構築。
B民間事業者等の取組みに対する支援体制の整備
@、Aの取組みを促進・補完する体制や、高齢者住宅に関する総合的な情報提供等を行う仕組みのあり方について検討。
Cバランスのとれたコミュニティの形成等
多子世帯に対する賃貸住宅の供給を積極的に推進するなど、多様な住宅の一体的整備等によるソーシャルミックスに配慮したコミュニティの形成を促進。
D高齢者との同居・近居の推進
高齢者世帯と子供世帯等の同居・近居を推進するため、高齢者等との同居に対応した住宅ストックの形成を公庫融資を通じて促進するとともに、公共賃貸住宅を活用して近居する場合等に係る倍率優遇等の施策を充実・推進。
(3)高齢化に対応した公共賃貸住宅政策の充実による適切な市場の補完の実施
@公共賃貸住宅の役割の明確化と積極的供給の推進
自らの住居支出能力のみでは適正な居住を確保することが困難な低所得高齢者で、政策的支援が必要なものを的確に選定し、その者に対する公共賃貸住宅供給を公営住宅及び都市基盤整備公団、地方住宅供給公社、民間事業者等を活用した高齢者向け優良賃貸住宅の的確な役割分担の下で推進。
Aエレベーター設置等公共賃貸住宅ストックの計画的かつ効果的な改善・更新の推進
○公共賃貸住宅ストックについて、総合的な活用計画に基づき、計画的・効果的な改善・更新を推進し、少子高齢化への対応等良質な公共賃貸住宅ストックの形成を促進。
○階段室型中層住宅を含む公共賃貸住宅へのエレベーターの設置等のバリアフリー化を積極的に推進。
B公共賃貸住宅におけるグループ居住推進のためのストック形成
高齢化を背景に、単身高齢者等がグループで互いに協力し合って共同生活を行うという新たな居住形態が生じており、公共賃貸住宅についても、福祉サービスとの連携を踏まえつつ、整備、管理に係る制度的対応を図るよう検討。
C地域における福祉居住基盤の連携整備のためのアクションプランの策定等
地方公共団体の住宅部局と福祉部局等とが連携し、地域における公共賃貸住宅整備と社会福祉施設整備の連携方針等を内容とするアクションプランの策定を推進。
D在宅介護の場として活用可能な公共賃貸住宅ストックの形成
○単身要介護者を公共賃貸住宅で受け入れるためのケアマネージャー等との連携による入居体制の整備。
○特別養護老人ホームの退所者についての福祉施設との連携に基づく公共賃貸住宅での受入れ。
○公共賃貸住宅におけるグループホーム事業の展開に関する検討。
E公共賃貸住宅における生活支援サービスの的確な提供
○LSA(生活援助員)を育成するための体制・環境整備を促進し、単身者、後期高齢者等そのサービスの提供の必要性が高い者に対して的確に提供できる仕組みを検討。
○高齢化率が著しく高く、活力の低下やコミュニティ形成の困難化が懸念される公共賃貸住宅の既存入居者等に対して、在宅介護支援センターからの職員派遣による生活支援サービスの提供をモデル的に試行。
F募集情報等の総合的提供体制の整備
高齢者等が、多様な主体による公共賃貸住宅、社会福祉施設等から自らに最も適した居住の場を選択できるよう、公営住宅等の公共賃貸住宅の募集情報等の総合的提供体制の整備を図るとともに、社会福祉施設に係る情報提供機関との連携を促進。