IMO第43回設計設備小委員会(DE43)の結果について




 標記会合は、来る平成12年4月10〜14日、ロンドンの国際海事機関(IMO)本部において開催された。今次会合における当局関係の主な審議結果は、以下のとおり。

1.決議A.744(18)の改正(議題13)
  ポイント
我が国が提案したタンカーに関して「船舶の縦強度を旗国検査時に評価し、一定の基準以上の縦強度を持つこと」は、本小委員会の全会一致で承認された。
縦強度の基準としては、建造時に要求される縦強度の90%以上とすることとなった。
老朽タンカーによる大規模油汚染事故の再発防止のために提案の早急な実施が必要とする我が国の主張及び全会一致で我が国提案が受け入れられたことから、5月に開催される第72回海上安全委員会(MSC)に、今回合意された我が国提案が「緊急案件」として送付されることとなった。

 1−1 経緯
 平成9年1月に発生した「ナホトカ号」事故が、船体強度の大幅な低下が原因であったことから、我が国はIMOに対し、
  ・板厚測定報告書に「板厚衰耗限度」を記載すること(平成9年11月採択、平成11年7月1日発効)
  ・船体構造の健全性に関するPSCの強化(平成11年11月に総会決議を採択、即実施)
を提案し、これらが世界的に実施されることとなった。  さらに我が国はタンカーに関して、
  ・船舶の縦強度を旗国検査時に評価し、一定の基準以上の縦強度を持つこと
を今次会合に提案した。
 具体的な提案は、国際船級協会連合(IACS)のルール等も踏まえたやや複雑な計算式を用いるものとなっているが、既に1996年より強制化されている検査強化プログラム(決議A.744(18):500トン以上の国際航海のタンカー及びばら積み貨物船に対し、船齢5年以上の船舶から検査時に板厚計測が求められ、船齢10年以上、15年以上と船齢が高くなるにつれ、検査時の板厚計測の範囲が拡大していくことになっている)による板厚測定を利用して船体縦強度を旗国検査時に評価するものである。
 この提案を行うにあたり、我が国は平成9年からタンカーの板厚衰耗の進展や板厚衰耗が進行した場合の船体の破壊強度に関する大規模なコンピュータ解析を実施してきており、その結果等を技術的な説明文書として提出した。また、IACSとはあらかじめ意見調整を行った上で提案文書(決議A.744(18)の改正提案)を提出した。
 なお、縦強度とは、船舶の船首尾方向(縦方向)に対し、積載される貨物や波の力による曲げの力が掛かった場合の強度をいう。
 1−2 審議状況
 我が国は、「ナホトカ号」と同様な事故の再発防止は、早急な実施が必要であることから、早急な合意達成に重点を置いて、審議に先立ち、各国及びIACS等の関係国際団体との最終的な意見調整を精力的に実施した。
 我が国提案の審議においては、発言した国のほとんどが我が国からの技術的な解析結果とこれに基づく縦強度評価に関する具体的提案に高い賛辞と支持の発言が相次ぎ、「船舶の縦強度を旗国検査時に評価し、一定の基準以上の縦強度を持つこと」を我が国が提案した長さ130m以上で、船齢10年を超えるタンカーの旗国検査時に要求することが全会一致で合意された。
 具体的な規制値としては、IACSや仏が主張する90%を支持する国が多く、我が国としては一層安全を高めるものとして、これに柔軟に対応し、最終的に建造時に要求される90%の縦強度を維持することが合意された。
 本件は、当初の審議計画によれば、来年3月開催予定の第44回DEの審議を経て、来年5月のMSC74で承認し、再来年春のMSC75で採択される予定とされていた。我が国は、その場合、発効がその後更に1年半の期間を要することから、対策の早急な実施のために今次小委員会で最終化及び早期のMSCにおける承認、採択の必要性を主張したところ、各国がこれを支持し、例外的な特別措置として、来月(本年5月)開催予定のMSC72に「緊急案件」として送付することが合意された。
 今後の審議の経過により予断が許されないものの、予定通り進捗すれば、5月のMSC72での承認、11月のMSC73での採択を経て、2002年7月から発効することとなる。
 承認・採択が見込まれる具体的な規制は次のとおり。
長さ130m以上のタンカーが対象
船齢10年を超える定期検査時に、縦強度に関する船体の状況を評価し、
必要に応じ切替・補強を行った上で、
 フランジ断面積の減少が建造時の10%を越えないこと、又は、縦強度が建造時に要求される強度の90%以上を維持すること
 なお、我が国から提案した技術的説明文書は、(財)日本船舶振興会の支援を受けた(社)日本造船研究協会の実施した調査研究、造船業基盤整備事業協会で開発した大規模構造解析プログラムを用いた船体の崩壊強度に関する解析結果等をとりまとめたものである。我が国は、これらの充実した資料並びにナホトカ号事故原因調査の英文報告書を先の3月に開催されたMEPC44及び今回のDE43で予め各国に配布し、我が国提案の技術的根拠について十分な情報の提供を行った。各国はこれに高い評価を与え、これが早急な合意形成に大きく寄与した。

 

2.船上におけるアスベストの使用の禁止(議題6)
  ポイント
現存船及び新造船へのアスベストの新規設置を原則禁止する条約改正案が合意され 、5月のMSC72に承認のため送られることとなった。
現存船に既に設置されているアスベストに関しては、船内における適切な管理に関 するガイドラインの作成が合意され、今後引き続き検討することとなった。

 2−1 経緯
 MSC68(1997年5月)において、フランス提案に基づきアスベストの使用禁止のためSOLAS条約の改正を検討することが合意され、防火(FP)小委員会及び設計設備(DE)小委員会で技術的検討が行われることとなった。
 FP及びDEでの審議の結果、現存船及び新造船へのアスベストの新規設置を原則禁止(ただし、アスベストを使用することが不可避なもの、すなわちエッセンシャル・ユース(例えば高温又は高圧の液体循環ポンプの水密ジョイント及びライニング等)については適用除外)するためのSOLAS条約第U−1章A−1部の改正案が合意され、本年5月に開催されるMSC72で承認、本年11月に開催予定のMSC73で採択される予定である。なお、ロシアはWHOによる船上アスベストの危険性に関する世界的な調査が終了していないことを理由に、新船等のアスベスト禁止に関する条約改正案に留保を表明している。

 2−2 審議状況
 我が国は、アスベストは発ガン性物質であること及び人体の呼吸器等に障害をもたらすことから、現存船及び新造船へのアスベストの新規設置を例外なく禁止すべきとの立場であることを改めて表明した上で、これまでの審議の結果作成されたアスベストの新規使用を原則禁止する条約改正が速やかに発効すること優先し、改正案を支持する対応を行った。小委員会は改正案を承認し、MSC72に承認のために送付されることとなった。
 現存船に既に設置されているアスベストに関しては、ILO及びWHOにおけるアスベスト関係規定を考慮しつつ、船内における適切な管理に関するガイドラインを作成することが合意され、今後引き続き検討することとなった。

 

3.決議MEPC.60(33)及びA.586(14)の見直し(議題11)
  ポイント
今後2002年の最終化を目指して作業を進展させる方針が決まった。

 3−1 経緯
 平成10年11月に開催されたMEPC42において、MARPOL条約下における汚染防止装置に係る仕様ガイドライン(決議MEPC.60(33)及びA.586(14))の見直しに関する審議が行われ、審議の結果、本事項の審議をDE小委員会に付託することが決定された。
 今次会合において、本見直し作業に関し専門家による作業グループを設け、作業完了目標を2002年として審議が開始される予定である。

 3−2 審議状況
 本設備に係る近年の技術の進展を鑑み、船内ビルジ中に含まれる油の排出管理の一層の確実化を図るため、設備の改善及び試験基準の改善の方策について検討がなされ、2002年の最終化を目指して作業を進展させることが合意された。

 

4.MSCからDE小委員会へ付託された我が国の提案関係
  ポイント
審議の結果、次回会合で実質審議を行うために「救命艇及び救命いかだにおける海 水脱塩装置の使用」及び「操縦性暫定基準の見直し」の議題が、次回会合の議題案 として承認された。

 4−1 経緯
 昨年5月に開催されたMSC71において、救命艇等への海水脱塩装置の強制化及び操縦性暫定基準の見直しについては、DE小委員会で検討されることが決定された。

 4−2 審議状況
 救命艇等への海水脱塩装置の強制化及び操縦性基準の見直しが、作業計画(議題16)において審議され、我が国より、海水脱塩装置の強制化に関してMSC71がDE小委員会で審議することを決定しており、次回会合の議題案に加える必要性を強調したところ、国際自由労働組合連合(ICFTU)が支持し、特段の反対なく合意された。また、操縦性暫定基準の見直しについては、次回会合の議題に加えることについて米国が異議を述べたが、我が国、デンマーク、ドイツ、韓国、ブラジル等が強く支持し、次回会合で実質審議をすることが合意され、議題案に加えられることとなった。
 次回会合における審議での各国の反応をあらかじめ把握するため、議場外で海水脱塩装置の強制化に関する意見を聴取したところ、米、英、ノルウェー等がMSC71同様、義務づけることについて疑念を有しているので、次回会合で各国の理解が得られる内容の提案を検討していく必要がある。

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