1977年の漁船の安全のためのトレモリノス国際条約に関する1993年の議定書




1.1977年の漁船の安全のためのトレモリノス国際条約

 漁船・漁船員は、海上で高度の危険に曝され、漁船の遭難の割合は商船に比べてかなり高いという事実にもかかわらず、SOLAS条約、満載喫水線条約といった船舶・乗員の安全に関する国際条約においては漁船は適用除外とされてきていた。これは、主として経済的理由、即ち、商船並みの規制は漁船の建造・運用コストの多大な増加につながるとの懸念からであった。
 しかしながら、IMOは、1959年(昭和34年)の設立以来、漁業・漁業者に係る国連の他の機関と協力し、漁船の安全基準確立のための検討を続けてきた。1968年(昭和43年)からは漁船の安全に関するFAO/ILO/IMO合同コンサルタント会議において、それぞれの専門家による検討を行い、1974年(昭和49年)に「漁業者及び漁船のための安全コード」を策定した。同コードは、
  A部 船長及び乗組員のための安全及び衛生管理
  B部 漁船の構造及び設備のための安全及び衛生要件
の2部からなり、長さ24m以上の漁船を対象としている。
 このコードを補完するものとして、長さ12m以上24m未満の漁船に対する「小型漁船のための設計、構造及び設備に関するFAO/ILO/IMOのガイドライン」が1979年(昭和54年)にこれら3機関において決議された。
 現在の復原性・満載喫水線・漁船安全小委員会(SLF)の前身である復原性小委員会(STAB)は、上記のコードは有用なものであるが勧告ベースのものであり、これを強制化する必要があるとの認識から、コードの策定作業と並行して、次の基本方針に従った漁船安全条約の策定作業を開始した。
(1) それ自体で漁船に対する要件として独立したものとすること
(2) 1974年のSOLAS条約及びFAO/ILO/IMOの安全コードのB部の規定をもとに漁船の特性に適合させるために所要の修正を加えること
(3) 適用対象は長さ24m以上の漁船とすること
(4) 満載喫水線に係る要件は導入しないこと
(5) 非損傷時復原性の要件を導入すること
 漁船安全条約の策定作業を行う小委員会及び作業部会のメンバーの大多数が欧州各国及び北米各国の代表であったため、これらの国の漁船の構造及び運用に係る国内法規・操業実態に基づく意見が技術要件を定めるに当たって大きな影響力を及ぼした。我が国は、小委員会の中でアジアを代表する唯一の国であった。このような状況から、アジアの漁船の構造・操業実態等は欧米とは全く異なるものであったにもかかわらず、これらは十分に考慮され得なかった。
 その後、スペイン政府の招請により、1977年(昭和52年)3月7日から4月2日までスペインのトレモリノスにおいて漁船安全に関する国際会議が開催された。アジアからはインド、インドネシア、タイ及び我が国の4カ国が参加し、4週間にわたる検討の結果、「1977年の漁船の安全のためのトレモリノス国際条約」(以下「トレモリノス条約」という。)が採択された。

 

2.1977年の漁船の安全のためのトレモリノス国際条約に関する1993年議定書の採択

トレモリノス条約は、長さ24m以上の世界の漁船数の50%以上を保有する15カ国以上の国が受諾することが発効要件となっているが、1993年3月現在で受諾国は18カ国、その漁船数は19%足らずでしかなく、近い将来に発効する見通しが立たない状況が続いた。
 このような状況となった主な理由は、漁船の主要保有国である中国、日本、ロシア、韓国等が条約の実施に困難を抱き、批准等ができなかったことにあった。特に防火構造・救命設備関係の要件を小型漁船に適用することに大きな問題があった。
 しかしながら、近年、漁船の安全性向上に対する要請が世界的に高まっている状況に鑑み、IMO海上安全委員会は、上記のような困難を排除しトレモリノス条約を発効に至らしめるためにトレモリノス条約の一部を改正するための議定書を策定すべきことを1988年(昭和63年)に決定した。この議定書は、トレモリノス条約に所要の修正を行い、MARPOL条約の1978年議定書と同様の取扱いとすることとされ、次の基本方針に基づいて草案の策定作業が進められた。
(1) トレモリノス条約と議定書は単一の文書として読み、かつ、解釈すること
(2) トレモリノス条約を批准等したか否かに関わらず、如何なる国も議定書の締約国となることができること
(3) トレモリノス条約ではなく、議定書のみを発効させること
(4) 附属書の一部の章の適用下限を長さ24mから長さ45mに引き上げること
(5) 救命設備、無線設備等の章については、SOLAS条約の最新の規則と整合を図ること

 SLF小委員会が、全体の調整、取り纏めを行い、関係小委員会において検討が続けられた後、1990年(平成2年)のトレモリノス準備会合を経て、1992年(平成4年)にレイキャビクで開催された準備会合で草案がほぼまとまり、翌1993年(平成5年)3月22日から4月2日までスペインのトレモリノスにおいて漁船安全に関する国際会議が開催されるに至った。
 会議には48国等が参加し、2週間にわたる審議の結果、1977年の漁船の安全のためのトレモリノス国際条約に関する1993年議定書が採択された。本議定書はトレモリノス条約の技術要件を改める形をとっており、主な改正点は次のとおりである。
・附属書各章の適用長さの変更
 第IV章(機関・電気)、第V章(防火・消防)、第VII章(救命)及び第IX章(無線通信)の適用下限を「長さ24m」から「長さ45m」に引き上げた。
・地域統一基準条項の設定
 適用長さを引き上げた章については、これにより規則の適用が主管庁に委ねられた漁船に対して、海象条件等が同様の地域で統一した基準を策定することとされた。
・GMDSS等最新技術の導入
 GMDSS等最新技術を導入することにより、SOLAS条約の最新の規則と整合を図った。
本議定書は、長さ24m以上の漁船の総隻数14,000隻以上を有する15カ国以上の国が批准又は受諾した後、12ヶ月で発効することとなっている(1999年10月1日時点で未発効)。

 

3.1993年議定書の構成

 1993年議定書は、原則として長さ24m以上の航洋漁船(Seagoing Fishing Vessl:即ち河川湖沼のみを航行する漁船は適用外)に適用されるが、技術基準を定めた附属書の章ごとに適用長さが異なる。構成は次のとおり。
条約本文
附属書
第I章(一般規定)長さ24m以上の新船に適用
第II章(構造)
第III章(復原性)
第IV章(機関・電気設備)長さ45m以上の新船に適用
第V章(防火・消火)A部長さ60m以上の新船に適用
          B部長さ45m以上60m未満の新船
第VI章(船員の保護)長さ24m以上の新船に適用
第VII章(救命設備)長さ45m以上の新船に適用
第VIII章(訓練)長さ24m以上の新船及び現存船に適用
第IX章(無線設備)長さ45m以上の新船及び現存船に適用
第X章(航海設備)長さ24m以上の新船及び現存船に適用

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