平成14年5月21日
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<問い合わせ先>
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河川局
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(ダム)河川環境課
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(内線35492)
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(堰) 治水課
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(内線35582)
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TEL:03-5253-8111(代表) |
平成14年4月9日午後6時5分頃、長野県阿智村にある中部電力(株)駒場堰堤において、遠隔操作管理下にある洪水吐ゲート2門が突然作動し、堰堤上流から約7分間にわたり最大約67m3/s、総量約2万m3の貯水が、下流に放流される事故が発生しました。
国土交通省中部地方整備局において、直ちに「駒場堰堤ゲート自動操作システム調査委員会」を設置し、中部電力(株)から事故当時の堰堤等の管理についての状況報告を受け、事故原因の究明についての検討を行なってきており、これまでにゲート誤作動の原因については、ほぼ特定されました。
幸いにして、この放流による人命、財産等の被害は皆無でありましたが、重大な災害につながりかねず、また、あってはならない事故であり、ダム及び堰の管理者は理由の何処を問わずその再発を絶対に防止しなければなりません。
今回の事故に鑑み、全国のダム及び堰(利水ダム・堰も含む)に係る操作設備について、下記の点検項目等の一斉点検を6月中旬までに行うことを関係機関へ本日付けで通知しましたのでお知らせいたします。
【点検項目等】
- ゲート自動制御装置を有するダム及び堰については、その利用、使用の有無に係わらずソフトウエアの点検、異常値が設定された場合の安全対策、緊急停止機能などを点検、確認する。
- 管理に係る緊急時の連絡体制及び通報体制について再確認を行い、関係者間において周知徹底を図ること。
- 操作員の教育において、ゲート自動制御装置システムに関する知識の習熟及び異常時の操作訓練を行なうこと。
【別添】
ゲート自動制御装置総点検実施要領
- 適用
この要領は、自動制御下にあるダム、堰のゲート等(バルブを含む)の誤作動による放流事故を防止するため、河川環境課長及び治水課長通知(平成14年5月21日付けダム等ゲート類の異常作動等の再発防止について)に基づき実施するゲート自動制御装置の総点検に適用する。
- 実施時期
点検の実施は、出水期までに実施するものとする。
- 点検項目等
点検項目等の内容は、以下によるものとする。
- (1)
- ゲート等の自動制御機能を有しているダム・堰の作動に関し、入力値または演算値によってダム操作規則等に規定している下流放流制限またはゲート開度制限等が遵守されないことが生ずる場合にあっては、アラームを発し、動作の停止かもしくは操 作員の確認が可能であり、確認後に制御が開始されるソフトウェア構成になっている ことにつき、点検、確認する。
- (2)
- スケジュール制御(※)を行っているダム・堰においては、上記に加え、スケジュール設定期間の全ての設定値が確認でき、かつ異常値が設定された場合には実行されない等の安全対策がなされていることにつき、点検、確認する。
- (3)
- ゲート等の異常作動時等において、緊急停止を可能とする設備の機能につき、点検、確認する。
- (4)
- 制御装置の動作制限値と機側操作盤の動作制限タイマー値等が適切に設定されていることにつき、点検、確認する。
- (※)
- スケジュール制御とは、操作員が起動前に承認する複数回の予約設定目標値による自動制御をいう。
- 点検結果の報告
点検の結果は、別表−1ゲート自動制御装置総点検結果表及び別表−2総点検結果表にまとめ本省(当該施設の所管課長)宛てに報告するものとする。
なお、点検結果は補助ダム・利水ダムも含め、北海道開発局、各地方整備局、沖縄総合事務局及び水資源開発公団で取りまとめのうえ、6月中旬までに報告するものとする。
- 点検実施上の注意事項
点検の実施にあたっては、特に次の事項を厳守すること。
- (1)
- 現場において実機を点検・確認する場合は、技術者立会いの下、安全に留意して実施する。
- (2)
- ソフト的な機能等については、制御装置製作者に依頼の上、動作確認を行なうことを原則とする。
- (3)
- 本点検の実施に当たっては、点検時における安全対策について十分確認を行なった上で実施する。
- (4)
- 個別ダム・堰の点検方法については、ダム管理者と制御装置製作者の打ち合わせにより適切な方法で実施するものとする。
- 点検実施上の留意事項等
点検の実施にあたっては、次の事項に留意すること。
(1)点検対象設備等について
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- 点検項目等(1)(2)に係るダム・堰制御処理装置の点検対象範囲は、自動制御、半自動制御機能、スケジュール制御機能等を有する処理装置を対象とする。ゲート等の自動制御機能を有しないダム諸量演算装置や遠方手動機能のみを有する処理装置は対象外とする。
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- 点検項目等(3)(4)については、全てのダム・堰において実施するものとする。
(2)点検方法について
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- 点検項目等(2)で示すソフトウエアの確認については、装置製造者等の工場レベルのプログラム確認を行い、工場レベルでの確認が困難な場合、もしくは不明確な場合に現地において確認を行なうものとする。また、現地において確認、点検を行なう場合は、点検実施上の注意事項で示すよう安全に留意し、適切な方法で実施するものとする。
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- 点検項目等(3)については、緊急停止機能等の有無を確認し、有りの場合は停止の方式、スイッチの場所、操作方法、復旧方法等について再確認を行なうものとする。また、緊急停止を行なった際にも機側盤の開度計等の計測、状態確認が可能であることを確認すること。
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- 点検項目等(4)については、設定値等を設計図書、完成図書等で確認を行い、実際の装置等が設計通りに設定されているか確認を行なう。制御装置等でソフト的に設定されている場合は、点検方法について
に準じて行い、規則操作盤等はタイマー値の設定を確認するものとする。
【別紙】
中部電力(株)駒場堰堤洪水吐ゲートの異常作動について
- 異常作動の概要
駒場堰堤は、中部電力(株)が最大出力5,600Kwの発電を目的に天竜川水系阿智川に建設した取水堰であり、昭和12年10月から運転を開始している。放流設備は洪水吐ゲート2門、流量調整ゲート1門を有している。
今回のトラブルは、ダム水位一定制御という計画放流システムを使用中に異常作動が発生したものである。ダム水位一定制御は、目標水位の入力設定とその時刻が設定されることによってゲートの開度制御が実行されるもので、1回の設定により4時間後まで制御できるものであり、4時間経過後に新たな目標水位が設定されない場合は、目標値が継続することとなっていた。
駒場堰堤の遠隔操作は約36km下流にある平岡ダム管理所で行なっており、事故当日の平岡ダム管理所における操作状況等は次のとおりである。
平成14年4月9日午後2時5分、水位一定制御を設定した。同10分、設定した水位を確認するため、水位変更作業により画面上で水位を確認後、設定変更作業を取り消し、システムの起動が行なわれた。
午後6時5分洪水吐ゲートが作動、同6分2号ゲートが開度49cmで停止(これは1回の作動時間を制限するタイマーで停止)。同6分に次に1号ゲートを停止させるため「割込操作」スイッチにより停止操作を試みたが、システムでは停止可能にならずゲート停止が出来なかったため、同7分「緊急停止」により作動停止した。本来、ゲートの停止は、「スケジュールキャンセル」スイッチにより行なうものとなっているが、「緊急停止」したことにより、現地の電源が止められたため、この時点で平岡ダム管理所からの遠隔操作は不可能となった。
- 異常作動の原因
中部地方整備局においては異常作動発生後、「駒場堰堤ゲート自動操作システム調査委員会」を設置し、原因の究明を行なった結果、原因は、コンピュータに組み入れたプログラムの一部の欠陥と操作員の操作の対応が適切でなかったためであることが判明した。
- (1)プログラムの問題箇所
- 「ダム水位一定制御」の起動中において、何も設定せずに起動操作をした場合、ならびに目標水位の水位変更操作を開始し、その後、その変更作業を取り消して起動した場合に異常作動の発生することが明らかになった。
- (2)異常作動の原因
プログラムの問題
- 最初の設定から4時間経過した時点(午後6時5分)まではデータは正常であったが、午後2時10分の変更作業の取り消し操作により、午後6時5分以降は設定水位が継続処理されず、異常な目標ゲート開度が設定され、ゲートが異常作動した。
- また、ゲート作動時に放流量が堰堤下流の放流制限を超える場合にゲートを自動的に停止する等の仕組みはなかった。
不適切なゲート停止操作方法の対応
「スケジュールキャンセル」スイッチによりゲートを停止させるものとなっていたが、これによらず「割込操作」スイッチにより操作しようとしたため、ゲートが停止しなかった。
- 対策
中部電力(株)では、ゲート異常作動の再発を防止するため、次の対策を講ずることとした。
(1)システム対策
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- 制御プログラムの改良
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- ゲート「停止」ソフトスイッチの設置
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- 異常放流時におけるサイレン吹鳴機構の設置
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- 運転操作マニュアルの見直し
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- システム仕様検証条件の見直し
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- 操作スイッチの名称変更及び操作支援機能の追加・変更
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- ゲート「緊急停止」時に遠隔でも復帰できるスイッチ機能の追加
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- 1回のゲート作動量の適正値の検討
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- ゲート作動量に対する「承認機能」の追加
(2)操作教育の強化
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- 操作員に対し、ゲート自動運転中における停止方法の再周知、異常時の対応訓練、関係機関等報告箇所の確認実施
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- 教育カリキュラムに異常時の対応訓練及び迅速な関係機関への通知を追加実施
(3)異常時における関係機関への通知先の見直し

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