平成18年5月18日 |
<問い合わせ先> |
土地・水資源局 |
地価調査課 |
(内線30362、30323)
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TEL:03-5253-8111(代表)
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不動産証券化市場が急速に拡大する中で、これを支えるデユー・ディリジェンスへのニーズ、鑑定評価やエンジニアリング・レポート(ER)へのニーズも大きく拡大しています。
同時に、アスベスト、土壌汚染等、不動産に関するリスクに対する国民の意識や市場の反応、耐震性偽装問題等を背景に、専門家責任についての見方も大きく変化しています。
不動産証券化市場のインフラともいえる鑑定評価とデユー・ディリジェンスに焦点をあて、その現状と問題点を把握し、投資家保護の観点から、専門家責任についての考え方を整理するとともに、証券化に係るデユー・ディリジェンス、とりわけ鑑定評価について、より適正なものとしていくための方策を検討するため、土地・水資源局に検討委員会を設置し、5月16日(火)に第1回委員会を開催致しましたので、その結果をご報告いたします。
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デュー・デリジェンスとは、投資家が投資判断を行うに当たって必要となる調査全般を指し、対象不動産に関する法的調査、経済的調査、物理的調査を包括するものですが、本検討委員会では特に鑑定評価とエンジニアリング・レポートに焦点をあてます。
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<委員等>
座長 |
緒方瑞穂 |
不動産鑑定評価部会長・(株)緒方不動産鑑定事務所代表取締役 |
委員 |
磯尾隆光 |
(株)谷澤総合鑑定所東京事務所副所長 |
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北山慶 |
ムーディーズ・ジャパン(株)代表取締役 |
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楠浩一 |
(株)竹中工務店FM部デユー・ディリジェンス担当副部長 |
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角南基亮 |
アジア航測(株)土壌・水環境事業部長 |
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野口咲也 |
あおぞら銀行信用リスク管理部鑑定部長 |
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野村修也 |
中央大学法科大学院教授 |
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町山公孝 |
(株)イーアールエス専務取締役 |
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松村徹 |
(株)ニッセイ基礎研究所金融研究部門不動産投資分析チーム上席主任研究員 |
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山下誠之 |
(財)日本不動産研究所東東京支所兼研究部参事 |
専門委員 |
廣田裕二 |
「アスベストと鑑定評価に係る検討委員会」座長
(財)日本不動産研究所環境プロジェクト室長 |
<第1回委員会の主な内容>
- (1)議事:証券化の進展と鑑定評価とエンジニアリング・レポート(ER)の現状と課題の把握
- 1)鑑定評価を行う観点から
- 2)ERを作成する観点から
- 3)投資家保護の観点からみた鑑定評価書とER
(2)主要な指摘事項―――証券化に係る鑑定評価書とERの現状について
- 2〜3年前と比較すると証券化に係る鑑定評価においてERを参照することは一般化している。近年、建築リスクに係る要求水準も高まっており、ERは重要。
- この1年、証券化案件が急増し、対象物件の中には違法建築等の難しい物件も増え、特に、私募ファンドについては、時には大胆な鑑定評価も散見される。
- 証券化のスケジュール上の制約から、鑑定評価と建物等状況調査は並行して進められ、鑑定評価の最終段階でERのドラフトが示される場合がままあり、タイミングの問題がある。
- ERは鑑定評価のために作成されるわけではなく、依頼者の投資判断のためのものであり、時間と費用に制約があり、その内容は依頼者のスタンスにより差がある。
- ERはここ10年弱で急成長した分野であり、建築・設備、耐震性、土壌等、各課題について個々専門家が担当するところはよいが、一人で様々な項目を調査するところもあるなど、技術者やレポートのレベルは一様ではない。
- ERの中には、非常に簡単なものも、土壌汚染や建材等について「健康上の問題はない」といった、経済価値算定には結びつけられない記載のものもある。
- 一般に、ER作成費用が安いところはリスクが高く、高いところはリスクは小さいのであり、依頼者の自己責任の問題である。一方で、お金をかけて調査するほどリスクが明確になる面もある。
(ERと鑑定評価に係る具体的な提言等)
- ERについては、(社)建築・設備維持保全推進協議会等による一般的なガイドラインはあるが、ERの品質向上のため、業界レベルの取組みや統一的マニュアル作成、法的根拠の明確化等が必要ではないか。
- ガイドラインを設けると、それが最低ラインとなり、むしろリスクが高まるのではないか。
- ERを作成するエンジニアのレベルを向上させる自助努力も重要。
- ER作成は、あくまでフィービジネスとして成り立つようにする必要がある。中立性が重要であり、コンサルタントとしての立場を貫く必要がある。
- 不動産鑑定士においても、建築の知識を増やしたり、ERのデータをデータベース化し、ERを検証する能力を向上させていく必要がある。
- 依頼者は、各々ERと鑑定評価を発注するが、ER作成機関と鑑定業者の間には契約関係はない。適正にERを鑑定評価に反映させるためには、不動産鑑定士の側からER会社に説明を求め、ER作成者の側でも説明責任を果たす等、連携していく必要がある。
(今後の課題、検討の方向性等全体について)
- 今後、投資不動産市場の拡大を図る方向であれば、瑕疵ある不動産が証券化対象となる可能性も増える。市場インフラの整備・拡充、つまり、投資家への情報開示の徹底、不当な鑑定評価に対する監督等が重要。
- 投資家保護といっても、どの範囲の投資家をターゲットにするのか、REITに投資するような個人の一般投資家か、プロの投資家も含めるのか、スコープを定める必要がある。
- 「投資家の自己責任」の習性を作る必要がある。投資家は世界中から来るのであって、日本のローカルルールを作っても仕方がない。
- 個人の一般投資家は鑑定評価書もERも読むことはなく、通常、ファンド・マネージャー等を信頼しており、消費者保護的な観点からは、彼らの能力をいかに向上させるかが重要。
- プロの機関投資家は、鑑定評価やERをみても、これらを絶対視はしていない。尤もプロの投資家であっても、不動産の専門家が内部におらず、証券投資の専門家が判断している場合もままある。これらの立場にある者が鑑定評価書やERを十分読みこなせるようになるのが近道ではないか。
- 証券化のスキームの中に、誰かが適正にチェックを行う仕組みをつくる必要がある。本来、アレンジャーが鑑定評価書やERをチェックする機能を果たすようビルトインされているはずである。
- ERのチェックは難しいため、検証機関ができないものか。
- レンダーと投資家の利害は一致し、実際、金融機関は目的は異なるが、鑑定評価書等をチェックしている。
- 個々の不動産鑑定士がどういうことをしているかをオープンにすることによって、自浄作用が働く。例えば、REITについては、鑑定評価書を全て公開することは考えられないか。
- わが国でも金融行政は消費者保護に傾いてきているが、市場の自助努力、自浄作用も重要。
- 専門資格者の不正行為を防ぐためには、専門家が何をすべきか、品質維持のためのガイドラインを作成してはどうか。その方が契約書に長い免責条項を書き込むよりも専門家も守られることになる。
- 投資家保護のためにも、今ほど専門家責任が問われている時代はない。不動産鑑定士も建築士等の技術者も、連携して説明責任を果たしていく必要がある。
<今後の検討の進め方>
この委員会における主な検討事項:
- 投資家保護の観点から、証券化に係る鑑定評価書等の適正性維持、信頼性向上させるために必要な方策の検討
- 専門家責任に関する考え方の整理
- 不動産鑑定士とER作成機関の役割分担・連携のあり方
- 鑑定評価にERをより的確に反映させるためにとるべき方策の検討 等
次回委員会は7月に予定しておりますが、詳細が決まりましたら、お知らせ致します。
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