国土交通省
「21世紀初頭における物流政策の基本的方向について」
   −運輸政策審議会総合部会物流小委員会最終報告−(要旨)

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はじめに
国民生活や経済活動を支える基盤として重要な役割を果たしている物流について、経済社会の変革に対応した新しい姿に転換させることが重要。

I 我が国の経済社会の変化と物流
 1.我が国の経済社会の変化
 (1) 安定成長時代の中での経済のグローバル化の進展
 国境を越えた事業活動によりグローバルな競争が一層進展しており、国際相互依 存の増大にあわせ日本企業の海外進出や海外企業の日本進出等産業構造も大幅に変化。
 グローバル・スタンダードの変化に伴い地球規模の行動規範も変化。
 経済を取り巻く環境の変化は物流に対しても大きく影響。

 (2)ITと経済社会
    1.情報化の進展
 情報通信技術の飛躍的な発展及び情報通信機器の価格や通信コストの大幅な低 下により、企業・日常生活レベルで急速な情報化。
 eコマース(電子商取引)が急激に増大し、利便性の向上がもたらされる
一方、情報の漏洩やセキュリティの確保等新たな問題も発生
    2.情報化の企業レベルへの影響
 コンピュータによる情報化は生産管理から企業をまたがる情報ネットワークへ。
 顧客ニーズの把握と即応した新サービスが拡大。
 eコマースにより世界最適調達の傾向。
 情報化の進展により容易になったサプライ・チェーン・マネジメントを活用し た高度な物流システムの構築が企業間の競争に影響。部分最適から全体最適に。
    3.情報化の日常生活レベルへの影響
 バーチャルモールの出現や決済専門銀行設立の動き。
 スーパーマーケット等のeコマース進出。
 宅配便やコンビニエンスストア等への小口輸送の大幅な増加が見込まれるとと もに、情報化への対応が可能な事業者への一括委託の動きが強まる予想。

 (3)国民生活をめぐる状況の変化
 少子高齢化、国際化、情報化等国民生活を取り巻く環境も大幅に変化。
 国民の価値観の多様化・個性化の進展により、求められるサービス内容も多様化。
一方で、環境を意識したサービス、事業活動が拡大。

 (4)社会的制約の拡大
    1.環境問題の深刻化
二酸化炭素の排出抑制については、運輸部門においても着実に実行する必要。 また、リサイクルを進めて循環型社会を構築する動きの高まり。
    2.交通混雑等都市問題
大都市における大気汚染等の公害への対応の強化が必要。
地方都市における中心市街地の空洞化が進展。
    3.安全の確保への要請の高まり
 事故の防止や事故復旧作業の迅速化への要請。また、危機管理計画の策定や災害対応施設の整備が必要。さらに、近年における情報化の進展は、サイバーテロや情報の保護の問題等従来になかった安全の問題を提起。

 2.21世紀初頭の経済社会における物流の果たす役割と課題
 (1)我が国の産業の構造改革への対応
・我が国の国際競争力を向上させ、経済の持続的な発展をもたらすためには、物流 分野においてもグローバル・スタンダードを意識しつつ効率化を行うことにより生産性の向上を図っていくことが重要。
    1.ITの活用を中心とした物流サービスの提供
物流システムの効率化のためには、物流事業者の高度化への対応が容易になるような環境整備に加え、トータルな物流の効率化の視点に立ち、物流システム全体の高度化を目指すことが重要。
ITを活用した物流サービスの有力な手段の一つとしてのサプライ・チェーン・マネジメントシステムの構築のためには、コーディネイト能力を有する高度で専門的な事業者を育成することが重要。
    2.物流ネットワークシステムの効率化による国際競争力の向上
国際競争力向上の観点からは、日本発のグローバル・スタンダードにより物的交流の基盤となる物流ネットワークを構築していくことが重要。国内においても輸送モード間の連携を図り、効率的で円滑な物流システムを構築することが必要。
    3.物流インフラの整備
広域的観点から、限られた財源の中で、国際競争力向上に資する情報インフラを含めた公共インフラに投資を重点化するとともに、既存施設の機能の拡充等の質的整備を重視することが必要。

 (2)国民生活の変化への対応
高齢社会等に対応した消費者の利便性を向上させる新たなサービスを充実させるためには、サービス創出に対する支援や利用者保護等に係る対応を検討する必要があるとともに、利用者が市場原理に基づく事業者選択を適切に行えるようにするための情報提供システムの整備等の環境整備が重要。
過度な多頻度少量輸送については抑制していくことが重要。
少子化の影響による若年労働力不足が生じる可能性があり、その対応の検討が必要。

 (3)社会的制約との調和と豊かな社会の実現
1.環境問題への対応
さらなる二酸化炭素排出抑制策の強化が重要であり、輸送機関単体の性能向上を図るとともに、走行量を減らす対策が重要。
現状の危機的な状況について、国民、物流事業者及び荷主それぞれの認識と理 解を深めるとともに積極的な協力を仰ぐことが不可欠。
地方自治体と連携しつつ循環型社会の実現に貢献する新たな物流システムを開発・整備することが必要。
2.地域物流における社会的制約への対応
物流と地域社会との調和を図るためには、地域毎の特性に合わせた物流システムの構築が必要であり、特に大都市における公害対策に資する物流システムの構築が求められているが、対策の実施に際しては地方自治体との連携強化が必要。

U 21世紀初頭における物流政策のあり方
・21世紀初頭における物流ビジョンの展開に当たっては、「3e物流;効率的で (efficient)環境に優しく(environment-friendly)情報化に対応した(electronic)物流」をキーワードに、より効率的で利便性が高く社会的制約と調和した物流の実現を目標とすべき。

 1.21世紀初頭における物流政策に関する基本的考え方
具体的方策を講ずるに当たっては、官民が一体となって取り組んでいくことが重要であるが、物流は経済活動であり、市場原理により課題の解決に当たることが重要。行政については、物流に関する明確なビジョンを提示し、これに基づき、事業活動を行う環境整備を行うとともに、単に市場での自由な競争に委ねるだけでは問題の解決が期待できない場合に主導的な役割を果たすことが必要。
物流行政は多岐にわたるものであり、都市政策等他の政策との連携を図る等、関 係省庁が連携し、一体的に施策を推進することが重要。
物流分野における地方自治体との連携も重要。
 2.具体的な施策のあり方
 (1)我が国の産業の構造改革への対応
1.物流事業者の効率化
物流事業者自らの生産性の向上のためには、各物流事業者はまず第一に各々の真に競争力を有する分野を明確化することが重要。
さらに次の段階として、個々の競争力のある物流事業者が不得意分野を補完する形で連携することにより、全体として競争力ある物流システムを構築することが重要であり、連携のための支援が必要。
将来の物流事業においては、荷主との間でドア・ツー・ドアの一貫輸送責任を一元的に負う「総合物流業者」と個々の輸送、保管等の物流サービスに競争力を有する物流事業者に二分化。
個々の中小企業が独自に対応することが困難と考えられる分野については、積極的な支援が必要。
2.効率的な一貫物流サービスの実現
荷主と物流事業者間の取引が全体最適なものとなるようにするためには、個々の物流サービスの対価を明確にしていくことが重要であり、そのためには従来の商慣行のみに委ねることなく契約を明確化することが重要。
物流事業者は個々の物流サービスの競争力の向上だけでなく、サプライ・チェーン・マネジメントの進展に際し、積極的に荷主に対して物流改革を提案できるような能力を身につけていくべきであり、そのための支援が必要。
国内外にわたる複合一貫輸送の効率化を図るためのハード・ソフト両面にわたった環境整備が必要。ITの活用が鍵。
複合一貫輸送等においては貨物の積み替えが必然的に発生することとなり、これを省力化することも効率的な複合一貫輸送の鍵。
3.情報化の促進
トータル・コストの削減やリードタイムの短縮等を図る上で情報化の促進は必要不可欠な課題であり、積極的な支援が必要。
標準化に対する支援やリスク管理対策が重要。
4.物流関連施設の整備及び運営の改善
港湾、空港、道路等の物流関連公共インフラ整備に当たっては、全国的・広域的な視点に立ち、投資の重点化・効率化等を進めていくことにより、我が国全体として効率的・効果的な物流体系の構築を進めていく必要。
既存施設の有効活用を通じた機能の高度化による利用者利便の向上、国際競争力の向上が重要な課題。
5.技術開発の推進及び実用化
革命的な物流コストの低減や環境負荷の軽減につながる可能性のある技術開発及びその実用化に向けた官民一体となった取組みに期待。
 (2) 国民生活の変化への対応
1.サービスメニューの拡大等による利便性の向上
国民生活の利便性の向上に資するような新事業については、その創出・普及を促進するための行政による支援のあり方についての検討が必要。
小口貨物輸送や端末輸送を効率化するための工夫が重要であり、トップランナーである物流事業者への側面支援が必要。
2.少子高齢化への対応
利用者が高齢者である場合の利用者保護策、留守宅増大に対応した宅配受取集 約拠点や宅配ボックスにおけるセキュリティーの問題等の解決方策についての検討が必要。
3.情報提供の拡充
利用者が物流事業者を自己責任に基づいて適切に選択できるように物流事業者 に関する情報を開示するシステムを整備することが今後の行政の大きな役割。
4.過度な多頻度少量輸送の改善
過度な多頻度少量輸送について輸送コストの明確化等により改善を行っていくことが必要。

 (3) 社会的制約との調和と豊かな社会の実現
1.地球環境問題への対応
地球温暖化問題については、二酸化炭素排出削減目標の達成を確実にするために、二酸化炭素排出削減量の具体的な進行管理及び公表を行うべき。さらに、進行管理の結果によっては、従来の啓発方式にとどまらず、規制的・経済的措置の導入まで考慮すべき。
モーダルシフトについては、どのような輸送が大量輸送機関の活用に適しているのかを見極めるのにあわせて、複合一貫輸送に対応したインフラ整備を行うとともに、荷主へのインセンティブ付与方策の検討が必要。
輸配送事業の共同化が重要。
2.循環型社会の実現のための物流システムの構築
リサイクルシステムの構築に当たっては、物流の面にも配慮した全体最適な循環システムを構築すべき。
静脈物流については、スピードや機動性がさほど必要とされず、また、輸送自体を環境負荷の少ないものにすることが重要であるため、海運や鉄道といった大量輸送機関の活用が有効。港湾の積極的な活用に期待。
これらのことを検討するに当たっては、地方自治体も含めた関係者間で早急に検討体制が構築されるべき。
3.都市内物流の効率化
地域レベルの自動車排出ガス問題、騒音問題等については交通需要マネジメント(TDM)にも積極的に取り組むべきであり、物流行政と、都市計画行政や道路行政との連携が重要。地方自治体との連携も重要。
排出ガス性能の向上や低公害型車両の開発・普及のための支援も必要。
配送先の各種の建築物の構造について、物流効率化の視点に立った建築物の設計思想の普及に努めることが重要。
4.安全問題への対応
事故の未然防止、拡大防止に努めるだけでなく、事故、災害時でも物流が確保できるようにするとともに、物流の密集に伴う混乱を避けるようにするため、必要な施設整備や物流情報管理システムの構築等を進めることが重要。

おわりに
我が国経済社会は、国際化、情報化の進展、少子・高齢化の急速な進行、環境問題の深刻化等様々な問題に直面し、早急な構造改革が必要。
情報化の進展は物流分野においてかって経験したことのないほどの大きな変革をもたらす可能性。行政においても、物流事業者の変革への足取りが確実なものとなるよう積極的な支援を行うとともに、情報化時代の情報保護等のシステム作りに万全の対策を実施することが重要。
環境問題については、物流を含む運輸部門が大きな責任を有していることも事実。行政においては、物流事業者の負担増に対する支援とともに、この問題の重要性を国民全体が認識するよう努め関係者が全体として適切なコスト負担を行うことを可能とするような施策を講ずることが重要。
21世紀当初には、中央省庁改革が予定され、省庁間の連携による総合的な行政の実施に期待。中でも、物流政策は、関連する行政施策が多岐にわたる典型的な総合施策であり、従来にも増して関係省庁間の連携と一体的な施策の実施が期待。また、物流は環境問題をはじめとする地域とのつながりが今後一層重要となり、地方自治体の果たす役割も重要性を増すことが予想され、国、地方が一体となった物流行政が実施されるよう組織のあり方、連携のあり方について早急な検討が必要。

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