1.問題の所在とこれまでの取り組み
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我が国の高度経済成長期には、臨海部における大規模な開発による重化学工業化など生産及び物流の場としての港湾整備が進められた。一方で、大気汚染、水質汚濁等の公害問題が顕在化し、大きな社会問題化する中で、港湾でも昭和40年代から有害なヘドロの浚渫等が実施された。
昭和48年に港湾法が改正され、これによって新たに創設された港湾地区の緑地や海浜の整備や廃棄物埋立護岸、海洋性廃棄物処理施設の整備が港湾環境整備事業として行われるようになった。
その後、オイルショックを経て安定成長期に入ると、人々の豊かさやゆとりある生活への要求が高まり、港湾の役割も物流・生産拠点としてだけでなく、生活空間としての見直しが求められるようになった。こうした要求に対応して、昭和60年に長期港湾施策「21世紀への港湾」を策定し、物流、産業、生活に係る諸機能が高度に複合する総合的な空間として、港湾空間におけるアメニティの向上を豊かなウォーターフロントづくりの大きな柱と位置づけ、親水性の高い緑地の整備や良好な景観の形成、海洋性レクリエーションのための空間創出など、市民生活の場を含めた港づくりが推進されてきている。また、海域浄化対策として有害汚泥の浚渫や覆砂によりこれを封じ込める「シーブルー事業」に取り組んでいる。
平成6年には、新たな港湾環境政策「環境と共生する港湾?エコポート?」を公表し、エコポートの形成を目指した取り組みを展開している。さらに、海洋性レクリエーションの進展とともに、近年、港湾などに放置されるプレジャーボートが増加し、社会問題化しているため、緊急的にその係留・保管場所を整備するボートパークの整備を進めるなど、新たな課題にも対応してきている。
表 「新たな港湾環境政策」の概要(平成6年)
基本理念 |
1.将来世代への豊かな港湾環境の継承 |
2.生物・生態系など自然環境との共生 |
3.アメニティの豊かな港湾環境の創出 |
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目標:環境共生港湾(エコポート)の形成 |
1.自然にとけこみ、生物にやさしい港 |
2.積極的に良好な自然環境を創造する港 |
3.アメニティが高く、人々に潤いと安らぎを与える港 |
4.環境に与える負荷が少なく、環境管理のゆきとどいた港 |
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2.2010年における環境制約要因となるか否か
- 港湾においては、上記のように環境対策として、これまでも公害防止や生活環境の改善等その時々の要請に応じて、取り組みを進めてきた。
今後は、自然環境の保全・創造や、循環型経済・社会の構築、地球環境の保全等、新たな取り組みの強化が求められている。
以上のことから、平成12年3月に港湾法を改正し、環境の保全に配慮しつつ港湾の整備等を図る旨を法目的に明記するとともに、港湾の開発、利用等に関し運輸大臣が定める基本方針に、港湾の開発等に際し配慮すべき環境の保全に関する基本的な事項を追加した。また、いわゆる放置艇の対策として、港湾区域のうち港湾管理者が指定した一定区域内における船舶の放置等を禁止するとともに、港湾管理者が撤去保管した所有者不明の放置艇等について、その売却、廃棄等の処分を行うことができることとした。
【平成12年3月改正港湾法より抜粋】
(目的) |
第一条 | この法律は、交通の発達及び国土の適正な利用と均衡ある発展に資するため、環境の保全に配慮しつつ、港湾の秩序ある整備と適正な運営を図るとともに、航路を開発し、及び保全することを目的とする。 |
(港湾及び開発保全航路の開発等に関する基本方針) |
第三条の二 |
2 | 基本方針においては、次に掲げる事項を定めるものとする。 |
一 | 港湾の開発、利用及び保全の方向に関する事項 |
二 | 港湾の配置、機能及び能力に関する基本的な事項 |
三 | 開発保全航路の配置その他開発に関する基本的な事項 |
四 | 港湾の開発、利用及び保全並びに開発保全航路の開発に際し配慮すべき環境の保全に関する基本的な事項 |
五 | 経済的、自然的又は社会的な観点からみて密接な関係を有する港湾相互間の連携の確保に関する基本的な事項 |
(禁止行為) |
第三十七条の三 何人も、港湾区域(港湾施設の利用、配置その他の状況により、港湾の開発、利用又は保全上特に必要があると認めて港湾管理者が指定した区域に限る。)内において、みだりに、船舶その他の物件で港湾管理者が指定したものを捨て、又は放置してはならない。 |
2 | 港湾管理者は、前項の規定による区域又は物件の指定をするときは、運輸省令で定めるところにより、その旨を公示しなければならない。これを廃止するときも、同様とする。 |
3 | 前項の指定又はその廃止は、同項の公示によってその効力を生ずる。 |
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3.今後の施策の方向性
- 改正港湾法を踏まえ、港湾及び開発保全航路の開発等に関する基本方針を見直し、港湾計画の策定並びに港湾施設の計画、建設及び利用の各段階における環境の保全への取り組みを充実させ、港湾に係わる諸活動に伴う環境負荷を低減するとともに、環境の保全や創造のための施設などの整備を全国的に推進し、環境と共生する港湾(エコポ−ト)の形成を一層推進する。
放置艇対策では、規制の強化により港湾管理上の支障の排除に力点を置くとともに、既存の静穏水域を活用した簡易な係留施設であるボ−トパ−ク等の収容施設の整備促進に努めていくこととする。
*具体的な検討施策例
(環境負荷の低減)
1. | 港湾の整備・運営における環境への影響の回避・低減・代償措置の一層の充実。 |
2. | 港湾施設の建設や改良における海水交換型防波堤や緩傾斜護岸等の環境配慮型構造の積極的導入。 |
3. | 深刻化する廃棄物問題に対応する廃棄物海面処分場の整備推進と港湾のゼロエミッション化の検討。 |
4. | 地球環境に優しい自然エネルギーの活用。 |
(良好な自然環境の形成)
5. | 生物・生態に配慮した環境の積極的な形成に資する干潟や藻場をはじめとする自然環境の復元推進。 |
− 干潟・藻場の現状および回復・創造目標 −
| 干潟 |
藻場
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現存面積*1 |
約51,000ha
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約201,000ha
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消滅面積*2 | 埋立および浚渫による消滅 約2,000ha | 埋立等直接改変およびその他海況変化等による消滅 約2,800ha |
人為的に回復・創造された干潟(平成10年度末) 約300ha(回復率*3 約 6%) |
干潟・藻場の回復・創造目標(平成14年度末まで) 約600ha(回復率*3 約12%) |
- *1 現存面積は、平成4年(1992年)のデータ
*2 消滅面積は、昭和53年(1978年)以降に消滅した面積
*3 回復率は、昭和53年以降消滅した面積に対する、回復・創造した干潟・藻場の割合。
(リサイクルの推進)
6. | 港湾工事における建設副産物対策と産業副産物活用の推進。静脈物流への対応(海上リサイクルネットワークの構築)。 |
7. | 浚渫土砂の減容化や再資源化の実用化推進。 |

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