国土交通省
15.炭素税(環境税)の導入に対する考え方
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 炭素税は、汚染者負担の原則(PPP)に基づき、化石燃料の使用に伴う二酸化炭素の発生量に応じて燃料に対して課税する税制である。
 京都議定書におけるわが国の温室効果ガス排出削減約束を履行するために残された時間は既に10年を切っている。このためわが国においても、諸外国における炭素税の導入実績等を踏まえつつ、その導入に向けた検討を進めることが必要である。

1.諸外国における炭素税
 二酸化炭素排出削減を目的とした炭素税は、1990年前後より欧州を中心に導入されてきており、既にデンマーク、フィンランド、ノルウェー、スウェーデン、オランダ、ドイツにおいて導入されている。このうち、デンマークでは炭素税の税収は環境対策のための補助金として使用されており、その他の国では、炭素税の税収は一般財源に組み込まれている。

2.我が国において炭素税を検討するに当たっての諸条件
 我が国において、燃料課税としての炭素税を検討するに当たっては、
(i) 持続可能な経済社会の発展を重視する観点から、炭素税を導入するとしても、経済に与えるマイナスの影響は最小限に抑える手法をとること
(ii) PPPを遵守するため、炭素税を導入する場合には、燃料種別を問わず、炭素含有量に完全に比例した燃料課税方式とすること
(iii) 炭素税は、本来、その性格からみて単なる税収確保でなく、必ずその税収は、二酸化炭素排出削減に効果のある施策に対し、有効な順に優先順位を置いて充当すること
(iv) 炭素税の創設は、新税の創設となることから、税収の使途を含め、国民的な議論を経て、十分な国民の理解を得た上で導入すること
(v) 特定の分野、業種にのみ負担を求める制度とならないよう配慮する必要のあること
といった条件を勘案し、導入に向けた検討を進めることが必要である。

3.経済に与える悪影響の最小化
 ガソリン等燃料需要の短期的な価格弾力性はあまり高くないといわれていることから、炭素税の課税だけで二酸化炭素削減効果を得ようとすれば、かなりの重課にならざるを得ず、経済に与える悪影響が懸念される。交通部門においても、炭素税だけで自動車交通量の削減効果を得ようとすることには問題が多い。
 このため、炭素税の導入に当たっては、@自動車交通のグリーン化に係る総合的施策の一環として、他の施策と組み合わせることにより政策効果を上げるものと位置づけることが必要である。また、A炭素税の税収を自動車走行量削減施策や環境自動車導入のための補助金等の財源とすることにより、比較的低い税率で十分な政策効果を上げるための手法を検討する必要がある。
 特に、自動車走行量を削減しようとする場合、単なる流入規制では需要がバイパスしてしまい、十分な効果が得られにくいことが懸念される。このため、TDM施策、二酸化炭素排出の少ない公共交通機関の整備等をパッケージで行い、都市部におけるマイカーの走行をより二酸化炭素排出の少ない公共交通機関利用へ誘導したり、物流に係るモーダルシフトを促進すること等が必要である。
 このため、我が国において炭素税を導入するに当たっては、経済に与える悪影響を最小化するという条件を満たすため、交通部門に係る炭素税の税収の一部を、自動車交通のグリーン化等環境にやさしい交通体系を構築するために必要な政策に係る財源の一部に充てることにより、炭素税率を抑えることが適当である。

4.自動車税制のグリーン化と炭素税の関係
 「自動車税制のグリーン化」は、自動車の燃費の向上及びNOx、PM等の排出削減を図ることを目的とするものである。自動車の取得や保有に係る税制をより環境にやさしいものとし、環境自動車の技術開発や普及を促すことにより、自動車社会のあり方を変革する原動力となることが期待される。
 一方、エネルギー課税である炭素税は、PPPに基づき、化石燃料の使用に伴う二酸化炭素排出量に応じて税負担を求める制度である。
 環境自動車の技術開発や普及を促進するため自動車の取得や保有に係る税を重軽課する「自動車税制のグリーン化」と、消費される燃料に従量税として課税される炭素税は、異なる性格を持つものであり、「自動車税制のグリーン化」と炭素税は両立しうるものと考えられる。また、この2つの税制を併存させることにより、環境にやさしい自動車の普及と、環境にやさしい自動車の使用の双方が実現され、2つの税制は、相互に補完的な役割を果たすものと考えられる。
 ただし、炭素税は新税であり、その導入に当たっては、十分な国民的議論が必要不可欠である。また、経済への影響の最小化や、特定の分野、業種にのみ負担を求める制度とならないことの条件を勘案しつつ、導入に向けた検討を進めることが必要である。
 従って、京都議定書の目標時期及びその先を見据え、環境にやさしい自動車税制のあり方を考える場合には、速やかに「自動車税制のグリーン化」について合意の形成を図ると同時に、炭素税についてもその導入に向けた検討を進めることが適当である。

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