国土交通省
地球温暖化防止に向けた今後の交通部門の取組のあり方について
  −最終報告−

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平成12年9月18日
運輸政策審議会総合部会環境小委員会
地球温暖化対策ワーキンググループ


1 はじめに

 1997年の気候変動枠組条約第3回締約国会議で採択された京都議定書において、我が国は、2010年前後に1990年比6%の温室効果ガス排出削減を行うことを約束した。
 京都議定書の目標達成のためには、我が国全体の二酸化炭素排出量の2割を占める交通部門について、2010年に、何も対策を取らない自然体ケース(1990年比40%増)に比べて1,300万トンの二酸化炭素排出削減(1990年比17%増に抑制)が必要であり、現在、自動車の燃費効率向上を目的とした自動車関係諸税のグリーン化の提案等を含め、2010年前後の目標達成に向けた様々な取組が行われている。

 しかし、交通部門の二酸化炭素排出量については、景気が低迷しているにもかかわらず、コンスタントな増加傾向が続き、1997年時点で1990年比21%増と、既に2010年の抑制目標(17%増)を超過している状況にある。また、我が国全体に占める交通部門の排出量のシェアも1990年の19%から1997年時点で21%と増加している。
 わが国の交通部門からの二酸化炭素排出量の約9割は自動車からの排出によるものであり、京都議定書の目標達成のためには、環境負荷の少ない自動車社会を構築することが最重要の課題となっている。

 さらに、気候変動枠組条約の究極の目的である「気候系に対して危険な人為的干渉を及ぼすこととならない水準において大気中の温室効果ガスの濃度を安定化させる」ことを達成するためには、京都議定書の目標時期の先を見据えた検討も行う必要がある。

 本WGは、このような問題意識に基づき、交通部門における地球温暖化防止に向けた政策のあり方について、最重要の課題である環境負荷の少ない自動車社会の構築に向けた税制のあり方を中心に検討を行った。

2 自動車交通をめぐる地球環境問題

 自動車交通が関連する地球環境問題は、次のとおり深刻な状況にある。さらに最近では、大都市地域における大気汚染問題が社会問題化しており、自動車交通をめぐる地球環境問題を考えるに当たっては、このような地域環境問題の解決をあわせて考慮していく必要がある。

(1) 地球温暖化問題

 自動車交通が関係する地球環境問題のうち最大のものは地球温暖化問題である。京都議定書の目標達成のためには、わが国の交通部門において、2010年に、何も対策を取らない自然体ケースに比べて1,300万トンの二酸化炭素排出削減が必要であるが、自動車部門における排出削減がなければこの目標を達成することは不可能であり、総合的な対策が必要不可欠となっている。

(2) その他の問題

 自動車交通の関係する地球環境問題としては、この他にカーエアコンに使用されているフロンガスによるオゾン層破壊問題や、排出ガスに含まれる硫黄酸化物や窒素酸化物による酸性雨問題などが指摘されている。

3 自動車交通のグリーン化

 前述した自動車交通が抱える地球環境問題を解決するためには、地域環境問題にも配慮しつつ、環境にやさしい自動車社会の構築(「自動車交通のグリーン化」)のための総合的対策を講じていくことが必要である。
 自動車交通のグリーン化を実現するためには、以下のような総合的な政策を講じていく必要がある。

 温室効果ガス(二酸化炭素等)、NOx、PMの排出の少ない自動車(環境自動車)の開発・普及
 交通需要マネジメント(TDM※)手法を通じた都市交通システムや都市内物流の効率化による地域環境問題及び地球環境問題の改善
 「自動車税制のグリーン化」による環境自動車の開発・普及の促進
 都市部における道路整備や踏切の立体交差化の推進、駐車対策の強化等による渋滞対策の推進
 自動車NOx法の改正によるNOx・PM対策の強化
 ディーゼル車からの排出ガス改善のため硫黄分の少ない軽油を導入する「自動車燃料のグリーン化」
 特殊自動車(建設機械(クレーン車等)、産業機械(フォークリフト等)、農業機械(トラクター等))の排出ガス規制の導入

TDM…都市又は地域レベルの道路交通混雑の緩和を、道路利用者の時間の変更、経路の変更、手段の変更、自動車の効率的利用、発生源の調整等の交通需要調整によって行うもの。

 本WGでは、このうち、自動車からの二酸化炭素、NOx等の排出削減を目指すための経済的手法である税のあり方、特に自動車税制のグリーン化および炭素税のあり方について、その導入にかかる検討を行った。

 自動車からの二酸化炭素、NOx等の排出削減を実現するための経済的手法(自動車税制のグリーン化および炭素税)の検討

 京都議定書におけるわが国の温室効果ガス排出削減約束を履行するために残された時間は既に10年を切っている。また、大都市地域における大気汚染が深刻な社会問題化していることを考慮すると、「自動車税制のグリーン化」や炭素税といった経済的手法の導入について検討する必要がある。

(1) 自動車税制のグリーン化

 「自動車交通のグリーン化」を進める上で、環境自動車の普及を中心とした「自動車単体のグリーン化」は中心的課題の一つとなる。このためには、環境自動車に係る技術開発やTDMと一体となった普及策とともに、自動車税制を活用して環境自動車の技術開発や普及の促進を図ることが重要な課題となっている。
 「自動車税制のグリーン化」は、平成11年5月20日運輸政策審議会答申「低燃費自動車の一層の普及促進策について」においてその導入が提案されているものであり、環境負荷の少ない自動車の取得又は保有に係る税を安く、環境負荷の大きい自動車の取得又は保有に係る税を高くすることにより、環境負荷の少ない自動車の技術開発や普及を促進する経済的手法である。
 一方、最近の自動車公害問題の社会問題化や自動車NOx法改正の動きを踏まえれば、「自動車税制のグリーン化」については、燃費効率だけでなく、NOx、PMも基準に加えることが適当である。これにより、今後、自動車の購入をより環境負荷の少ないものへと誘導し、地球環境問題である地球温暖化のみならず、地域環境問題であるNOx、PMによる大気汚染の改善にも寄与するものとする必要がある。
 「自動車税制のグリーン化」は、既存の税制を前提とするものであり、徴税システムを大幅に変更することなく環境問題に対応可能であることから、実施経費等の面で補助金よりも効率的な施策であると考えられる。また、グリーン化に係る税収を原則的に中立とすることにより、国民及び関係者の理解を得やすいものとする必要がある。このような「自動車税制のグリーン化」については、世論調査でも多数の賛成が得られており、早期に導入を図ることが適当と考えられる。
 一方で、東京都をはじめとする一部の地方自治体が独自に「自動車税制のグリーン化」を導入する動きを進めており、自動車税制における環境対策が地域によって異なるものとなりかねない状況が生じていることを考えあわせれば、「自動車税制のグリーン化」のあり方について合意の形成を図ることは緊急の課題となっている。

(2) 燃料課税としての炭素税(環境税)

 炭素税は、汚染者負担の原則(PPP)に基づき、化石燃料の使用に伴う二酸化炭素の発生量に応じて燃料に対して課税する税制である。

a 諸外国における炭素税

 二酸化炭素排出削減を目的とした炭素税は、1990年前後より欧州を中心に導入されてきており、既にデンマーク、フィンランド、ノルウェー、スウェーデン、オランダ、ドイツにおいて導入されている。このうち、デンマークでは炭素税の税収は環境対策のための補助金として使用されており、その他の国では、炭素税の税収は一般財源に組み込まれている。

b 我が国において炭素税を検討するに当たっての諸条件

 我が国において、燃料課税としての炭素税を検討するに当たっては、持続可能な社会の発展、汚染者負担の原則(PPP)等の観点を踏まえ、
(i)  持続可能な経済社会の発展を重視する観点から、炭素税を導入するとしても、経済に与えるマイナスの影響は最小限に抑える手法をとること
(ii)  PPPを遵守するため、炭素税を導入する場合には、燃料種別を問わず、炭素含有量に完全に比例した燃料課税方式とすること
(iii)  炭素税は、本来、その性格からみて単なる税収確保を目的とする税ではない。その税収は、二酸化炭素排出削減に効果のある施策に対し、有効な順に優先順位を置いて充当すること
(iv)  炭素税の創設は、新税の創設となることから、税収の使途を含め、十分な国民の理解を得た上で導入すること
(v)  特定の分野、業種にのみ負担を求める制度とならないよう配慮すること
といった条件を勘案し、導入に向けた検討を進めることが必要である。

c 炭素税の導入に伴う経済への影響の最小化

 ガソリン等燃料需要の短期的な価格弾力性はあまり高くないといわれていることから、炭素税の課税だけで二酸化炭素削減効果を得ようとすれば、かなりの重税にならざるを得ず、経済に与える悪影響が懸念される。交通部門においても、炭素税だけで自動車交通量の削減効果を得ようとすることには問題が多い。
 このため、炭素税の導入に当たっては、@自動車交通のグリーン化に係る総合的施策の一環として、他の施策と組み合わせることにより政策効果を上げるものと位置づけること、A炭素税の税収を自動車走行量削減施策や環境自動車導入のための補助金等の財源とすることにより、比較的低い税率で十分な政策効果を上げるための手法を検討する必要がある。
 特に、自動車走行量を削減しようとする場合、単なる流入規制では需要がバイパスしてしまい、十分な効果が得られにくいことが懸念される。このため、TDM施策、二酸化炭素排出の少ない公共交通機関の整備等をパッケージで行い、都市部におけるマイカーの走行をより二酸化炭素排出の少ない公共交通機関利用へ誘導したり、物流に係るモーダルシフトを促進すること等が必要である。
 このため、我が国において炭素税を導入するに当たっては、経済に与える悪影響を最小化するという条件を満たすため、交通部門に係る炭素税の税収の一部を、自動車交通のグリーン化等環境にやさしい交通体系を構築するために必要な政策に係る財源の一部に充てることにより、炭素税額を抑えることが適当である。

(3) 自動車税制のグリーン化と炭素税の関係

 「自動車税制のグリーン化」は、自動車の燃費の向上及びNOx、PM等の排出削減を図ることを目的とするものである。自動車の取得や保有に係る税制をより環境にやさしいものとし、環境自動車の技術開発や普及を促すことにより、自動車社会のあり方を変革する原動力となることが期待される。
 一方、エネルギー課税である炭素税は、PPPに基づき化石燃料の使用に伴う二酸化炭素排出量に応じて税負担を求める制度である。
 環境自動車の技術開発や普及を促進するため自動車の取得や保有に係る税を重軽課する「自動車税制のグリーン化」と、消費される燃料に従量税として課税される炭素税は、異なる性格を持つものであり、「自動車税制のグリーン化」と炭素税は両立しうるものと考えられる。また、この2つの税制を併存させることにより、環境にやさしい自動車の普及と、環境にやさしい自動車の使用の双方が実現され、2つの税制は、相互に補完的な役割を果たすことが可能となると考えることが適当である。
 ただし、炭素税は新税であり、その導入に当たっては、十分な国民的議論が必要不可欠である。また、経済への影響の最小化や、特定の分野、業種にのみ負担を求める制度とならないことの条件を勘案しつつ、導入に向けた検討を進めることが必要である。
 従って、京都議定書の目標時期及びその先を見据え、環境にやさしい自動車税制のあり方を考える場合には、速やかに「自動車税制のグリーン化」について合意の形成を図ると同時に、炭素税についてもその導入に向けた検討を進めることが適当である。

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