平成12年6月27日
1. | 事故調査検討会(井口雅一座長)は、本年3月8日営団日比谷線中目黒駅構内において発生した列車脱線衝突事故について、その脱線要因を明らかにするための調査検討を進めてきたが、調査検討も一定の整理が可能な段階に至ったことから、現時点までの調査検討の結果についての中間的な取りまとめを行った。 | ||||||
2. | 調査検討の概要及び現時点における脱線の主要な要因の推定 事故調査検討会は、現在までに13回の会議(検討会及びWG(ワーキンググループ))をはじめ、現地試験、シミュレーション等の各種の調査検討を行った結果、現時点においては、脱線の主要な要因について、次のとおりの推定を行っている。(別紙参照)
○脱線の形態は、急曲線終端部付近における「乗り上がり脱線」 | ||||||
現時点における主要な脱線要因の推定(概要) |
今回の脱線は、線路が急曲線(左カーブ)から直線に徐々に移行し始める地点付近(この箇所は、軌道面の緩やかなねじれ((保守基準値内の誤差を含む))により、右側車輪の輪重(注)の減少と横圧(注)の増加が生じる)という線形条件の箇所において、輪重減少や横圧増加に影響する複数の因子が複合的に積み重なったことにより、8両目車両の第一軸の右側車輪の脱線係数(横圧を輪重で除した値)が増大し、車輪がレールに乗り上がって脱輪したことによるもの(いわゆる「乗り上がり脱線」)と推定される。
(注)輪重:車輪がレールを下方向に押す力
これまでの調査結果から、現時点での主要な脱線要因の推定結果をとりまとめると、以下の通りである。なお、中間整理の性格上、ここに記述のない因子がすべて排除されたということではない。
鉄道は、その通常の走行状態においては、脱線現象に至るまでの間には相当に大きな余裕度を有しており、そのため、通常は脱線を生じることは極めて少ない。
したがって、ここに述べる各因子は、それぞれ単独に作用しただけでは脱線に至るものではなく、各因子の存在をもって直ちに危険な状態にあったとはいえないが、これらの因子が同時に作用した場合には、影響が複合して脱線に至る場合があるものと考えられる。
脱線した車両は、事故により大破していることから、静止輪重を実測することはできないが、
@ | 製造時における静止輪重の測定結果において、第一軸右側車輪と第四 軸左側車輪の静止輪重比が小さく(それぞれ0.90及び0.79)、車両の 対角線方向にある車輪の輪重が減少していたこと、 |
A | その後、事故時までの間、静止輪重の測定・調整等の管理が行われていなかったこと、 |
B | 事故発生後に行った、他の同形式(03系)車両の静止輪重の測定結果において、大きなアンバランスが計測されたこと(最大:0.71)、から、事故当時に第一軸に大きな静止輪重のアンバランスを有しており、それが脱線に大きく影響したものと考えられる。 |
また、その他の因子として、以下のものが輪重の減少と横圧の増加を助長したと考えられる。なお、これらには、現在の設計・保守に関する技術的評価では特に異常とはみなせないものや、管理が困難なものも含まれており、また、各因子の脱線への影響度も一律ではない。
○ | 脱線箇所付近のレールの摩擦係数が、事故発生時刻(午前9時1分)ごろまで徐々に増大した(レールの温度上昇や列車本数の増加等の影響により、レール上の油分の粘度低下や乾燥が進むためと考えられる)と推定され、それが横圧の増加に影響したこと、 |
○ | 当該車両の空気ばねが台車の転向性能に対して比較的硬かったことや軸ばねが比較的硬かったこと等の特性が、横圧の増加及び輪重の減少に影響したこと、 |
○ | 摩耗・損傷等の低減を目的として研削されたレールの断面形状が、横圧の増加に影響したこと、 なお、輪重減少や横圧増加に直接影響を与えたものではないが、研削されたレールの断面形状では、車輪踏面がレールから浮き上がった場合に、新品レールに比べて少ない浮き上がり量で車輪がレール上に乗り上がることから、この断面形状は、脱線の限界値にも影響を与えた因子と考えられる。 |
今後、安全対策を検討するにあたっては、各因子の影響のメカニズムやその程度に関する詳細な調査検討を行うとともに、現状把握のためのデータ収集を行い、各因子の特性に応じて、実現可能性や効果を考慮しながら対策の検討を進めることが必要である。
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