国土交通省
21世紀初頭における観光振興方策
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観光政策審議会の答申  要 旨

観光振興を国づくりの柱に

I.観光をめぐる諸事情

1.経済・社会環境の変化
  「まち」の停滞、IT化、少子高齢化、環境意識の高まり、グローバル化、国民のライフスタイルの変化及び生活レベルの向上というような変化がみられる。

2.観光の意義
 観光は以下のような点で重要な意義を有している。
 ○人々にとって
  ・ゆとりとうるおいのある生活に寄与
  ・地域の歴史や文化を学ぶ機会
 ○地域にとって
  ・地域住民の誇りと生きがいの基盤の形成
  ・地域活性化に寄与
 ○国民経済にとって
  ・大きな経済効果
 ○国際社会にとって
  ・国際相互理解の増進、国際平和に貢献

3.近年における観光をめぐる現状及び課題
 ○「まち」の再活性化ニーズの増大(均一化した「まち」の表情への反省)
  ・我が国においては、「まち」の表情は均一化する傾向にあり、国民ニーズの多様化、高質化に十分に応えられていないため、観光によるまちづくりの推進が求められている。
マイカーによる渋滞の発生やまちづくりと一体となった街路整備
・水辺整備等、観光情報の収集・提供システムの整備等
(課題)関係者の合意形成や人材育成、組織づくり、計画的な事業推進等
 
 ○観光分野におけるIT化ニーズの増大
  ・カーナビゲーションや携帯端末等を通じた公共交通機関関連情報を含めた観光情報を電子地図と組み合わせた形での提供、 インターネット上での交通機関や宿泊の予約・決済等ネット社会の進展に伴う観光分野での利便性向上については、社会的な期待が非常に大きい状況にある。
(課題)新技術を活用したリアルタイムの情報提供
 電子商取引に関しての利用者保護の仕組みづくり
 ○高齢者等が「気軽」に旅行できる環境整備ニーズの高まり
  ・高齢者、障害者や訪日外国人旅行者等の人々が安心して「気軽」に旅行できる環境の整備ニーズが高まっている。
(課題)公共交通機関・宿泊施設や観光施設等のバリアフリー化
 バリアフリー施設についての情報発信
 ○環境保全・向上の必要性の増大
  ・経済的な視点からの開発が先行し、貴重な資源を傷めたり、定住環境を悪化させる等の事象が生じかねないが、 国民の環境意識が高まってきている中、自然環境や文化財・文化遺産を良く保存していくことが重要である。
(課題)マイカーによる渋滞の発生が環境汚染につながる場合があること
 地域で対応しきれない過度な観光客が来訪する場合があること
 ○訪日外国人旅行者数の伸び悩み
  ・訪日外国人旅行者数は、日本人海外旅行者数1,640万人の約4分の1である440万人、世界36位と極めて低水準であるため、積極的に訪日外国人旅行者数の増加に取り組む必要がある。
(課題)効率的な訪日促進キャンペーン、外国人の多様な関心に応える旅行商品やサービス等の提供
 近隣諸国との広域連携による外客誘致活動にあたっての関係機関等の連携
 ○観光のもつ魅力の相対的低下
  ・余暇時間の過ごし方や消費行動が多様化する中で、観光以外の多様な楽しみ方のメニューが増え、観光の魅力が相対的に低下してきている。
(課題)魅力ある「まち」についての情報収集・提供システムが不十分であること
 新しいツーリズムへの対応が不十分であること
 ○国民生活の変化に対応した観光産業の変革の遅れ
  ・国民の旅行ニーズの多様化・個性化の傾向が顕著になってきており、新しいツーリズムの展開に対する期待も高まっている。
(課題)団体客対象の旅行を中心に形成された現在の国内旅行システムの改善
 観光サービスに携わる人材の育成、観光に関する総合的な研究を行う体制・システムの整備
 ○長期滞在型旅行の伸び悩み
  ・ゆとりや快適さがより一層重要視されるようになる中、旅行需要が大きく増加していることからも、連続休暇の拡大へのニーズが高まっている。
(課題)長期滞在型旅行に適した魅力的な旅行商品やサービスの提供
 年次有給休暇の取得率の低さ、学校における休暇取得の困難さ
 ○国民の日常的、基本的マナーやホスピタリティ意識の不十分さ
  ・観光交流においては接する人同士のマナーは極めて大きな意味・役割がある。
(課題)国民全体の日常的、基本的マナー、観光客としてのマナーについての社会的取組み
 地域の人々の交流意識が低いこと

II.21世紀初頭の観光振興を考える基本的視点

    ○誰もが「気軽」に楽しめる観光の振興
   高齢者、障害者、訪日外国人旅行者等様々な人々が大きな負担感がなく、これまで以上に気軽に楽しめるような観光振興が必要である。
    ○住民と旅人とが互いに交流しあう観光の振興
   観光関係者のみならず、地域住民全体が観光客と互いに交流し合い、共に楽しめるような観光振興が必要である
    ○自然・社会環境と共生する観光の振興
   自然・社会環境と共生し、魅力の継続、資源の保全・発展、住民や観光客の満足度の継続等多様な側面からも持続的な発展が可能となる観光振興が必要である。

III.21世紀初頭において早急に検討・実現すべき具体的施策の方向

1. 観光まちづくりの推進(個性ある「まち」の表情へ)
  個性ある「観光まちづくり」理念の確立と普及
   → 行政、地域住民、事業者、ボランティア、NPO等による長期的な視点に立った自主的な「観光まちづくり」理念の確立
   → 都市計画等の計画への「観光まちづくり」理念の反映
  そぞろ歩きのできる個性的な「観光まちづくり」の推進
   → 「観光まちづくり」と一体となった街路整備・水辺の整備等
   → トイレ、休憩施設、案内板等観光地のバリアフリー化の推進
   → 観光地のオーバーユース(過剰利用)の防止や自然環境保護を図るための仕組みづくりの検討
   → 文化財・文化遺産の活用の推進
  効果的な「観光まちづくり」のための市町村広域連携等の推進
   → 住民相互の交流による連携強化、地域に共通するアイデンティティ(個性 の基盤)の醸成
   → 広域的な連携による観光関連情報等の共同発信

2. 観光分野でのITの積極的活用
IT活用のための環境整備(インフラ整備、利用者保護)
   →プライバシー保護やハッカー対策、国際的な枠組みづくりを含めた利用者保護対策の実施
   → 桜の開花、イベント、紅葉等から宿泊、交通も含めた観光地に係る情報や災害情報のリアルタイムの提供

3. 高齢者等が旅行しやすい環境づくり
観光バリアフリー化の推進等
   →公共交通機関のバリアフリー化の推進
   →宿泊施設や観光施設、観光のための案内表示システム・休憩施設のバリアフリー化等、ハード・ソフト両面における誰もが旅行しやすい環境をつくるための総合的かつ具体的な対策の推進

4. 外国人観光客来訪促進のための戦略的取組み
外客の多様なニーズへの対応
  →個人客向け情報提供サービスの充実
  →市場調査に基づく重点的訪日促進キャンペーンの積極的な展開
様々な連携強化
  →韓国等近隣諸国と国境を越えて連携した「東アジア広域観光交流圏」の設定及び誘客活動の実施
  →二国間観光協議による国別交流目標の設定と相互交流の枠組みの確立
外客受入れ体制整備
  →通訳案内体制の充実
  →ボランティアガイドの熱意を生かせるシステムの充実

5.観光産業の高度化・多様化
国民ニーズに適合した「企業改革」
 −旅行会社による取組み−
  →企画力のある専門性の高いコンサルティング機能の充実
 −宿泊施設経営者等による取組み−
  →空室在庫管理、イールドマネジメントの強化、コスト管理の徹底、サービス内容の充実
 −旅行会社及び宿泊施設経営者等の連携−
  →観光産業全体の意識改革、「企業改革」のための共同での取組み
観光産業の社会経済への貢献の大きさに関する積極的PRとその組織的推進
   → 観光産業の市場規模、経済波及効果についての定量的分析
   → 民間事業者等の積極的な連携と戦略的な取組み、組織化による一体的推進
優秀な人材の確保・育成のための総合的取組み
   →関係者が連携した観光学に関する研究の充実
   → 総合的、効率的な人材育成をめざした産官学の連携ネットワークの構築
新しいツーリズムへの対応
   → 地方自治体やNPO等の新しいツーリズムの創造・定着に対する取組みの支援
   → 新しいツーリズムについて適切かつ安全に案内できる人材の育成、組織化

6.連続休暇の拡大・普及促進と長期滞在型旅行の普及
長期滞在型旅行環境の整備
  以下についての国民運動の展開
   → 話し合いによる長期休暇制度の導入等職場における連続休暇の取得の容易化
   → 年次有給休暇の取得率向上の環境整備
長期滞在型旅行商品の開発等
   → 連泊割引等の長期滞在型旅行向け料金システムの導入・普及
   → 温泉保養、農業体験等長期滞在型の各種観光資源・メニューの開発

7. 国民の意識喚起
国民全体の意識喚起
   → 日常的、基本的マナーのあり様についての心がけ
   → 家庭や学校におけるマナーやホスピタリティに関する教育の充実
観光客の意識喚起
   → 訪問先の文化、伝統等に対する謙虚な気持ち、寛容な心や尊敬の念をもつこと
住民の意識喚起
   → 日常生活上も観光客に対してもてなしの心や思いやりの気持ちをもって接すること

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