新世紀の到来にあたり、我が国における今後の鉄道整備の基本的方向を大括りに集約すると、次の三点に整理できると考えられる。 |
我が国の鉄道ネットワーク(注)は、今日では、全国で2万7000kmを上回る営業路線を有しており、 近年はその輸送量に若干の陰りが見られるものの、年間4000億人キロ程度、機関分担率にして3割弱の旅客を輸送する、我が国のまさに基幹的な交通機関 となっている。また、鉄道の有する定時性や安定性、安全性等の特性に対しては、国民から大きな期待が寄せられているところである。
(注)この部会は、旅客鉄道分野における事業規制の見直しによる鉄道事業の活性化に続く
課題として、社会的に必要とされる適切な鉄道整備のあり方等についての議論を深めるために設置されたものであることから、旅客輸送分野における鉄道整備を
審議の対象としている。
なお、整備新幹線の整備については、これまで通り、政府・与党の議論の場において、着工区間、優先順位等の具体的な取り扱いが検討・決定されること
が適当であると考えられるため、この部会においては、このことを前提としつつ、鉄道ネットワークのあり方等についての審議を行った。
交通安全の確保は、言うまでもなく運輸行政の基本であり、安全施策の推進を図ることは交通政策の要諦であるため、今後の鉄道整備にあたっても、「安全」 の二文字を常に銘記しつつ取り組む必要がある。
以下、このことを前提として、新世紀の鉄道整備の具体化に向けての議論を進めることとしたい。
我が国の鉄道ネットワークは、明治以降今日に至るまで、国及び国鉄が中心となった鉄道整備や、これまでの経済成長と輸送需要の増加に支えられた民間鉄道事業者
における積極的な設備投資等により、その整備が着実に進められてきた。
この結果、全国的・広域的な都市間輸送を担う幹線鉄道ネットワーク及び大都市圏を中心
とした地域内輸送を担う都市内鉄道ネットワークとも、次に述べるように輸送サービスの質の面では課題が残されているものの、今日、ネットワークの形状の上では、
基本的には、ほぼ概成している状況にある。
しかしながら、
在来幹線鉄道の高速化等の利用者ニーズに対する対応の遅れ
依然として解消されない大都市圏鉄道の通勤・通学混雑
鉄道事業者相互間及び鉄道と他の交通機関との間の接続や連携の不備
不可避的に到来する高齢化社会への対応の必要性
など、利用者の立場から見た使いやすさや、利用者に提供されているサービスの質という面では、我が国の鉄道については、なお多くの課題が残されている現状にある。
一方、これまで増加を続けてきた我が国の人口は、2005年頃をピークに減少に転じるとともに、少子・高齢化が一層進展することが確実となっている。 他方、高齢者や女性の労働市場への参画の活発化等も予想されているところであるが、いずれにしても、今後は、これまでのような大幅な鉄道需要の増加は見込めない 状況にある。今後は、国民の価値観の高度化・多様化、また、ゆとりや快適性を重視する傾向の高まり等により、鉄道に対する期待は、その重点が、利用しやすさや 質の向上に移行していくものと考えられる。
このため、今後の鉄道整備においては、これまでに整備が行われてきた既存のストックを改良すること等による高度化を図りつつ、質的な向上を 図っていくことが第一の課題となっている。そして、これにより、今日のみならず将来にわたる利用者ニーズにも的確に対応しうる、利用しやすく高質な 鉄道ネットワークを構築していくことが、重要な政策課題となっている。
地球環境問題等に対する国民意識の高まりから、交通の分野においても、環境への負荷の少ない交通体系を形成することが要請されてきている。 これまでの道路整備とこれに伴うモータリゼーションの進展により、我が国の交通体系は自動車交通への依存を強めてきたが、今日、環境への負荷の少ない 公共交通機関の有効活用とその利用促進を図ることにより、環境問題への適切な対応を図っていくことが切実に求められている。特に、大量公共交通機関として の機能を有する鉄道については、その活用に対する期待が、今後一層高まってくるものと考えられる。このような社会的要請の下、適切に鉄道整備を実施し、 鉄道の利便性向上を図ることでその有効活用を促進することにより、環境への負荷の少ない交通体系の形成に寄与していく必要がある。また、省エネルギー型 車両のさらなる開発など、鉄道自身が環境負荷の軽減に努めていくことも必要である。
今後急速に進展する高齢化社会の到来と高齢者の活発な社会参画等に伴い、高齢者の鉄道利用は、今後一層増加していくものと予想される。また、 身体障害者等の移動制約者がより積極的に社会に参画しやすい環境づくりも重要である。鉄道の分野においても、高齢化社会の到来を控え、また、 福祉重視型社会に転換していくためには、高齢者や身体障害者等の移動制約者の円滑な移動が可能となるよう、駅におけるエスカレーターやエレベーター の整備をはじめとして、鉄道ネットワークシステムの整備の一環としてのバリアフリー化を、さらに強力に推進していくことが必要である。
現在、国及び地方公共団体は極めて厳しい財政事情にあり、過大な財政負担をいたずらに次の世代等につけ回しすることは、厳に慎む必要がある。 したがって、今後、限られた財源の中で必要な鉄道整備を円滑に進めていくためには、今後の需要動向や社会的ニーズに的確に対応した、効率的かつ重点的 な鉄道整備を実施し、最小限の投資により大きな効果が得られるように努めていくことが重要である。このため、これまでの整備の蓄積としての既存ストック をさらに高度利用するための改良等を行うとともに、都市整備と一体となった事業の推進に努め、また、近年公共事業の評価手法として導入が進む費用対効果分 析等を踏まえた、効率的な鉄道整備を実施していく必要がある。
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