国土交通省
II 今後取り組むべき鉄道整備のあり方
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 Iに述べたことを踏まえると、今後取り組むべき鉄道整備のあり方としては、次のようなものが必要と考えられる。

1.幹線鉄道の整備

 我が国の幹線交通体系においては、鉄道、航空、高速道路等の交通機関が、それぞれその特性を発揮し、相互に競争を行うことを通じて、幹線交通ネットワークの相乗的な高度化を図り、利用者ニーズに応えてきている。
 この点で、幹線鉄道ネットワークについては、先に述べたように、基本的には概成しているものの、高速性、利便性等といったサービスの質や鉄道施設の面については、時間価値の高まりや利用者ニーズの高度化に応える必要性、あるいは他の交通機関の整備の進捗との相対的な比較において、必ずしも十分な水準にあるとは言い難い状況にある。
 このため、これを改善するとともに、整備新幹線の整備を引き続き進めることにより、幹線鉄道ネットワークの質的な向上を図っていく必要がある。
 また、地域間の連携の強化や地域の活性化等を図る上でも、都市間輸送の分野における信頼性の高い交通機関として、在来幹線鉄道の整備に対する期待が高まっている。

 広域的な地域間の連携の強化と交流空間の飛躍的な拡大にあたり、新幹線の果たしてきた役割には極めて大きなものがある。
 このため、国土の骨格となる幹線鉄道ネットワークについては、整備新幹線の着実な整備を進めるとともに、概成している在来幹線鉄道と新幹線とのアクセス性の向上や接続の円滑化等を図ることにより、新幹線と在来幹線鉄道とが連携した広域的な幹線鉄道ネットワークの構築を推進していく必要がある。
 これにあたっては、
新幹線と連絡する在来幹線鉄道について、地上設備の改良、新型高性能車両の投入、複線化等により、その高速化や利便性の向上等を図ること
軌間可変電車(フリーゲージトレイン)の技術開発状況も踏まえつつ、新幹線と在来幹線鉄道との直通運転化について、今後とも鋭意検討を進めることが必要と考えられる。
が必要と考えられる。
 なお、超電導磁気浮上式鉄道(リニアモーターカー)の技術開発についても、引き続き取り組んでいくことが必要である。

 また、主として地域的な連携の軸となる在来幹線鉄道については、地域の活性化や地域間の連携の強化等を図る観点から、旅客流動の実態等それぞれの路線の状況も勘案しつつ、鉄道特性を発揮しうる輸送分野において、積極的に高速化や利便性の向上等を図ることにより、これを有効に活用していくことが必要である。

 これらを推進するにあたっては、駅と一体となったバスターミナルの整備やパークアンドライドシステム(駅までは自家用自動車等を利用し、これを駅周辺地域に駐車して鉄道に乗り換えるシステム)の導入等の他の交通機関との連携や駅の多機能化、さらには沿線地域の開発との連携等を図っていくという視点も重要と考えられる。

2.大都市圏鉄道の整備

 大都市圏(東京圏、大阪圏及び名古屋圏の三大都市圏)における鉄道は、大都市の機能を支える都市の装置であり、通勤・通学輸送のみならず、豊かで快適な都市生活を営む上で欠かすことのできない、基幹的かつ必須の交通機関となっている。
 このため、バス、自家用自動車等の自動車との関係においても、鉄道を軸とした適切な連携関係や分担関係を構築し、利用者ニーズに応える必要がある。

 大都市圏においては、それぞれの圏域に関する運輸政策審議会答申に基づき、新線建設、複々線化等の輸送力増強を着実に進めてきた結果、近年、通勤・通学混雑の緩和が相当程度図られてきている。
 しかしながら、それでもなお、とりわけ東京圏における通勤・通学輸送については依然として高い混雑率を示しており、そのさらなる緩和を図ることは今日なお喫緊の課題となっている。
 このため、輸送力の増強に資する運行本数の増加、貨物線の旅客線化、既設線の延伸、駅施設や老朽化した線路施設の改良などの既存ストックの一層の高度利用を図るための方策を講じるとともに、必要に応じ、複々線化工事や新線建設、短絡線の整備を行うなど、通勤・通学混雑の緩和に向けた輸送力増強のための取り組みを引き続き推進していくことが必要である。このことは、高齢者等の移動制約者のバリアの解消にも資するものと考えられる。
 なお、輸送力の増強対策とともに、オフピーク通勤等の需要分散を図るためのソフト面の対策もあわせて進めることが重要である。

 また、快適な通勤・通学輸送の実現という観点からは、混雑緩和のみならず、特に最混雑時間帯における速達性の向上(到達時間の短縮)を図ることも重要な課題である。
 このため、必要な線路容量を確保した上で、相互直通運転化、都心部における急行運転化の導入等を推進するとともに、都市圏の外延化に伴う長時間通勤に対応するため、郊外路線の最混雑時間帯におけるスピードアップ等に引き続き取り組むことが必要である。

 さらに、豊かで快適な都市生活の実現に向けて、鉄道ネットワークのシームレス化(移動に際して、乗り継ぎ等の交通機関間の「継ぎ目」を極力なくし、出発地から目的地までの移動を全体として円滑なものにすること)が求められている。
 このための取り組みとして、相互直通運転化、同一ホーム・同一方向乗換化、駅施設の改良等による乗り継ぎ利便の向上、高齢者等の移動制約者の移動を容易にするバリアフリー化等を推進するとともに、必要に応じ、鉄道ネットワーク全体としての利便性の向上が期待できる短絡線の整備等を進めることが重要である。
 なお、軌間可変電車の技術開発状況も踏まえた相互直通運転化についても、鋭意検討を進めることが必要と考えられる。

 大都市圏交通全体としてのシームレス化については、鉄道のフィーダー輸送機関としてのバス、自家用自動車等との乗り継ぎ利便の向上等を進めていくことが必要であり、駅と一体となったバスターミナルの整備やパークアンドライドシステム等を推進する必要がある。
 さらに、大都市圏と国内外との交流の円滑化に資するためには、航空、新幹線等の幹線交通機関との連携を強化することが必要であり、とりわけ、あらゆる分野でグローバリゼーションが進み、国際的な連携・交流の必要性が高まっている中で、航空輸送の高速特性が十分発揮されるよう、鉄道による空港へのアクセス機能の充実・強化を推進することが重要である。

 あわせて、都市鉄道の整備にあたっては、I2.に述べたように、都市の機能の向上を図るため、駅及び駅周辺地域の総合的な改善、連続立体交差化事業等の都市側の事業や道路整備とも適切に連携することが必要である。

3.地方中核都市圏鉄道の整備
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 地方中核都市圏(県庁所在地の都市や人口が概ね30万人以上の都市の都市圏)においては、鉄道は、通勤・通学輸送や業務活動等の日常生活を支える重要な交通機関となっているが、鉄道以外にも、バス、自家用自動車等多様な交通手段が活用されており、これらが一体となって都市交通体系を形成している。
 このため、地方中核都市圏における鉄道においては、自動車交通を含めた都市交通全体の円滑化や駅前を中心とした中心市街地の活性化等に寄与する観点から鉄道の一層の活用を促進する必要があり、鉄道機能やサービスの向上等を図るとともに、他の交通機関や都市整備との連携を一層強化していくことが、基本的な目標になると考えられる。

 特に鉄道機能やサービスの向上等にあたっては、必要に応じ、既設線の延伸や複線化等の整備を進めるとともに、バリアフリー化の推進、駅施設の改良等により、きめ細かく利用者ニーズに応えることが重要である。

 また、鉄道とバスの乗り継ぎの円滑化、パークアンドライドシステムの推進等により公共交通機関を中心とした総合的な交通体系の確立を図るとともに、必要に応じ、空港アクセス鉄道の整備等の他の高速交通機関との連携の強化を進めることが必要である。

 さらに、道路・都市部局の協力も得て、街路整備と一体となった新交通システム等の整備のほか、大都市圏の域内や地方中核都市圏における新たな軌道系交通システムとして、トランジットモール(商業地域において、路面電車、バス等の公共交通機関以外の一般車両を排除して道路を歩行者専用とし、環境の良い落ち着いた空間で、安心して買い物や休憩等を行うことができるようにすること)等のまちづくりと一体となった導入に対する期待が近年高まっているLRT(ライトレールトランジット)の整備等を推進することも必要である。

 いずれにしても、それぞれの都市圏において、都市の規模や需要量を十分に勘案し、これらに見合った、適切な交通機関を選択していくことが重要であると考えられる。

 都市交通を総合的に改善し、質の高い都市生活を支える良質な公共交通サービスを実現していくためには、これらの施策とともに、駅及び駅周辺地域の総合的な改善等の都市の面的整備との連携を一層強化することも重要である。

4.地方鉄道の近代化

 地方鉄道は、バス、自家用自動車等とあいまって、通勤・通学輸送をはじめとする日常生活を支える交通機関としての役割を担っているが、他方で、過疎化やモータリゼーションの進展等により、需要の減少や鉄道輸送サービスの低下を招き、鉄道の維持・存続自体が課題となっている地域もある。

 地方鉄道については、地域的な生活交通の一部を担うことから、地域に密着した交通機関として利用されることが基本である。
 このため、鉄道輸送サービスの向上に努めるとともに、鉄道施設の近代化の推進等を通じて安全性の向上、合理化、サービス改善等を図り、自立的な経営をめざしていく必要がある。

 また、地域の鉄道輸送サービスを維持し、利用しやすい運賃の実現などにより鉄道輸送サービスを一層魅力あるものとするためには、鉄道事業者と地元地方公共団体、地元住民、地元企業等の地域とが連携しつつ、地域の交通機関として地域が一丸となって支えるという視点が極めて重要となっている。現に、多くの地域においては、このような観点から、鉄道事業者と連携したさまざまな懸命の取り組みが行われているところである。
 引き続き地域の重要な交通機関として位置づける場合には、必要に応じ、地域が中心となって鉄道を支え、鉄道の魅力を高めるための取り組みが一層求められるところである。

5.ソフト面の取り組みの強化

 鉄道をめぐっては、日常的にこれを利用している利用者から、鉄道整備という大規模なハードの側面のみならず、エスカレーターやエレベーターの整備等の小規模なハード面や、鉄道輸送サービス等のいわばソフト面に関連して、駅施設、駅構内における案内表示、車両、情報提供のあり方、駅員のサービス体制、運賃などについて、さまざまな観点から、多種多様な要望が日々鉄道事業者に寄せられている。

 鉄道事業者においては、利用者からのこれらの要望に対応して、バリアフリー施設の整備、案内表示等の改善、快適車両の投入、わかりやすい情報提供、案内サービスのための駅係員の配置、各種運賃制度や利便性の高い運賃支払いシステムの導入などのさまざまな施策を逐次進めているところである。しかしながら、高度化・多様化する利用者ニーズには、いまだ十分には応えられていないのが現状である。

 鉄道におけるソフト面の取り組みの強化については、利用しやすく高質な鉄道ネットワークの構築を図る上で、極めて重要な課題となっている。
 ソフト面の取り組みとしては、まず、利用しやすく多様な運賃・料金の設定、異なる鉄道事業者間を乗り継ぐ場合における運賃の割高感の是正や各種サービス面に関する相互連携性の確保、ICカードの導入等の運賃支払い方法の簡便化など、利用者にとって関心の高い運賃・料金に関わるものが重要である。

 また、運賃関係だけではなく、きめ細かく多様なサービスの提供、駅構内の地理、ダイヤ、事故、乗り継ぎ等に関する迅速でわかりやすい情報の提供、利用者等からの要望や意見の積極的把握、駅の多機能化など、さまざまなものが考えられ、今後とも、これらの点を強化していく必要がある。

 さらに、駅及び駅周辺については、いわば「地域の顔」であることから、上に述べたようなソフト面の取り組みの強化による快適空間化を図ることのほか、例えば個性的で洗練されたパブリックアート等を活かした、ゆとりと潤いのある文化的空間化を推進するといった視点が、今後ますます重要となると考えられ、このための努力を払うことも必要である。

6.バリアフリー化の推進

 バリアフリー化の推進は、既に述べたように、高齢化社会の到来を控えた我が国において、移動制約者の社会参画等を積極的に進めていく上で、極めて重要な課題であり、施設整備等のハード面の取り組みばかりでなく、情報提供、駅員の教育・訓練、国民全体の理解と協力の促進等のソフト面を含めた総合的な対応が求められている。

 鉄道の分野においては、鉄道事業者に対して新設又は大改良を行う鉄道駅等がバリアフリー基準に適合することを義務づけること等を内容とするいわゆる交通バリアフリー法が今時の通常国会で可決・成立するなど、エスカレーターやエレベーターの整備を中心とした駅及び駅周辺のバリアフリー化が、これまで以上に強力に推進されているところである。
 今後とも、引き続き、誘導・警告ブロックの設置、改札口の拡幅、駅構造の段差の解消や乗り継ぎ利便の向上等移動に伴う各種の障害を除去していくとともに、車椅子スペースの確保等の車両のバリアフリー化、言語の違いによるバリアを解消するための外国人にも利用しやすいサービスの提供、さらには、混雑緩和のための輸送力の増強による混雑というバリアの解消や、乗り継ぎ案内表示等の改善により高齢者等にもわかりやすい情報の提供を行うことをはじめとする5.に述べたソフト面の取り組みの強化など、各般の取り組みを一層推進していく必要がある。

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