国土交通省
IV 今後の鉄道整備にあたっての留意事項
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 以上、繰り返し述べてきたように、今後の鉄道整備にあたっては、民間主導を基本としつつも、必要な範囲内で公的主体が適切に民間鉄道事業者の役割を補完することによって、必要な整備を円滑に推進することができるものと考える。
 その際には、整備計画案の策定の段階から、住民等に必要な情報を公開し、その広汎な理解を得つつ鉄道整備を進めるという観点が重要であるが、これとともに、さらに以下に述べる点についても十分に留意することが必要であり、これらの点があいまって初めて、円滑かつ効率的な整備が可能となるものと考えられる。

1.鉄道整備の効率化等

 まず、「都市整備との連携」という観点は、冒頭に述べたように、今後の鉄道整備の基本的方向をさし示す重要なものの一つであり、本答申の随所で、この観点に言及したところである。
 この観点は、鉄道整備を効率的に進めるという意味からも重要であるので、地方中核都市圏等におけるLRT等の整備、また、駅及び駅周辺地域の総合的な改善、連続立体交差化事業、踏切道の改良など、各般にわたり、道路・都市部局との連携を一層強化する必要がある。このことは、バリアフリー化やシームレス化の推進にも資するものとなると考えられる。

 「建設費の縮減」、「工期の短縮」、「開業工程の確保」等については、まずは、鉄道施設の整備内容が過大なものとならないよう、輸送需要に見合った適切な規模のものとすること等が、基本的に重要である。このためには、整備規模を規定する将来における輸送需要予測や、工事規模に連動する既設構造物との交差形態、構造物計画等に関する計画調査等を事前に十分行うことが重要である。また、あわせて、都市整備との連携、新技術の開発・導入、各種手続きの円滑化等を図ることが必要である。
 とりわけ、都市計画、環境影響評価等の手続きや、道路管理者、河川管理者、教育委員会等との調整については、整備に要する時間をきちんと管理するという意識が、建設費の縮減や工期の短縮等にあたって死命を制するものであるとの共通認識(「時間管理概念」)に立って、関係機関相互の連携を一層密にする必要がある。
 また、路線の整備効果を高めるため、速達性、輸送力、乗換駅の構造、望ましい相互直通運転計画等に関する計画調査等を事前に十分行うことも重要である。

 さらに、大深度地下の利用についても、必要に応じ、関係省庁、地方公共団体、鉄道事業者等との調整を図りつつ、その法的枠組みを活用することを検討すべきである。

 なお、これも冒頭に述べたように、効率的かつ重点的な鉄道整備を実施するという観点は、整備を進めるにあたっての大前提であり、既存ストックの高度利用、都市整備との連携、厳格な費用対効果分析等の実施、鉄道特性を発揮しうる分野への重点化等を図ることは当然である。

2.公的支援以外の国の役割

 (1)調整機能

 鉄道は、既に述べたように、国民の日常生活を支える公共交通機関であると同時に、国土構造や都市構造のあり方等をも規定する、我が国社会経済活動の重要な基盤である。

 今後は、それぞれの鉄道事業者の経営判断による鉄道整備や、これを補完するための公的主体主導による鉄道整備等が行われていくものと考えられるが、上に述べたような鉄道の有する影響力等を勘案すれば、整備された鉄道が、利用しやすく高質な鉄道ネットワークとして効果的に機能するよう、鉄道相互間の連携や、地方公共団体相互間の整合性を確保しつつ、整備が実施されることが必要と考えられる。

 このため、III3.及び4.に述べた整備の基本的進め方に則り、中長期的かつ幅広い観点から、都市整備や地域活性化方策、あるいは他の交通機関とも連携しつつ、また、広汎な関係者の参画を得つつ、整合性と策定過程の透明性をもって、運輸政策審議会、地方交通審議会、地元協議会等のそれぞれの場において、明確な目標と実効性を備えた具体的な整備方針を策定することが必要である

 この点で、国は、多岐にわたる関係地方公共団体や関係鉄道事業者等との調整を行うことや、上に述べたような整備方針の策定等の機会を通じて、関係者それぞれの立場を踏まえた、さまざまな調整機能を発揮していく役割が期待されているものと考えられる。

 (2)モニタリング機能

 利用しやすく高質な鉄道ネットワークを構築していくためには、現在の鉄道サービスがどのようなレベルにあるか、また、交通市場や鉄道市場はどのように動いているか、鉄道利用者のニーズはどこにあるか等のさまざまな情勢を常に的確に把握しておくことが必要である。
 このため、市場、事業、地域事情、サービス、利便性等の各般の観点にわたって必要な情報収集を全国的に行い、これらを適時適切にモニタリングすることも、国の重要な役割と考えられる。

 モニタリングの結果は、(3)に述べる利用者サービスに関する指標のほか、政策の企画立案や法令、予算等の執行、あるいは(1)に述べた整備方針の策定等に反映させるのみならず、これらを見直す際にも適切に反映させることが必要である。

 国の行うモニタリングの内容や手法等については、今後、さらに具体的に検討を深める必要がある。

 (3)情報提供機能

 鉄道利用者は、その利用を通じて、運行頻度、スピード、乗り心地、乗り継ぎの利便性、運賃等をはじめとするざまざまな鉄道サービスの水準について、日常的にその評価や相互比較を行っているものと考えられる。
 しかしながら、地域独占的な鉄道市場の特性に鑑みれば、利用者が評価した鉄道サービスの現状が、必ずしも利用の選択に直結しているとは言い難い状況にある。

 したがって、高度化・多様化する利用者ニーズに適切に対応するためにも、(2)に述べたモニタリングを通じて利用者ニーズを適切に把握するとともに、健全な競争を促進することによる鉄道事業の活性化や鉄道サービスの改善を図ることが必要である。
 このため、利用者から見た鉄道サービスの提供状況や鉄道整備の実施状況等について、国がさまざまな観点から把握・整理し、これを、鉄道事業者の健全な経営の確保にも配慮しつつ利用者に情報提供することにより、利用者自身による評価と選択の実現を一層容易とすることが必要と考えられる。

 したがって、鉄道の分野においても、国が、III2.に触れた「利用者サービスに関する指標」を作成し、定期的に、例えば年一回程度、これを利用者に公表することにより、利用者ニーズの顕在化や利用者による評価を通じて、鉄道サービスの改善を促進していくことが必要である。

 利用者サービスに関する具体的な指標については、III3.及び4.において若干の例示をしたところであるが、今後、可能な限りこれを拡大する方向で、さらに検討することが必要である。
 この場合、国の定める可能な限り客観的かつ多面的な共通の指標に基づいて把握・整理することが望ましく、例えば、混雑に関する指標、速度に関する指標、都市圏全体のネットワークとしての利便性に関する指標、駅に関する指標等を選定することが考えられる。
 なお、その選定にあたっては、利用者団体、鉄道事業者、地方公共団体等の協力を得つつ、利用者の視点、実態の的確な反映、多面的な評価等の点に留意することが必要であるとともに、鉄道事業者の健全な経営の確保にも配慮し、自主的な経営判断の下で積極的な整備が行われることが期待されるようなものとすることが望ましい。

 さらに、サービス改善による利用者利便の向上にあたり、利用者団体、鉄道事業者、地方公共団体等において、必要に応じ、鉄道サービス水準の現況に関する別途の指標を作成・公表していくこともあり得ると考えられる。

 また、地方中核都市圏等においては、バス、自家用自動車等他の交通機関の利用ウェイトも高いため、都市鉄道調査の結果等を踏まえ、単に鉄道に着目するのみならず、都市交通全体の円滑化等を図る観点から、バス、自家用自動車等も含めた都市交通全体に関わるサービス水準の現況についての指標を検討することが必要である。

 このほか、公的支援を講じるにあたっての費用対効果分析等の実施等による透明性の確保をはじめとして、政策の企画立案や法令、予算等の執行など国が自ら行っている諸活動についても、その情報公開を進めることにより、国民に開かれたものとする必要があることは当然である。

 (4)政策評価等

 今後の鉄道整備においては、鉄道の整備水準を明示し、公的支援、法令等をはじめとするさまざまな政策手段を駆使して鉄道整備を促進していくとともに、これとあわせて、定期的に鉄道整備の実施状況等をフォローアップすることが重要である。

 このフォローアップを通じて、整備水準を効果的に達成するために国が行うべき施策について事前・事後の政策評価を実施し、不断の見直しと改善、情報公開や説明責任の明確化等を促進することは、国の責務であり、今後は、その必要性がますます高まっていくものと考えられる。

 政策評価は、国民に対して透明性の高い行政を遂行するための手法として、上に述べた国のモニタリング機能や情報提供機能と一体となって実施することが強く期待されているものであり、この三者は密接に関連していると考えられる。
 政策評価については、現在、政府全体としてそのあり方を検討しているところであるが、鉄道の分野においても、国は、自らの施策に係る政策評価等について、これを  積極的に行っていくことが必要である。

3.むすび

 以上述べてきた通り、今後政策的に特に重要な鉄道整備を円滑に推進するためには、引き続き民間主導による整備を基本としつつも、公的主体が適切に民間鉄道事業者の役割を補完することが必要である。

 このためには、まずは、適切な水準の利用者負担を引き続き求めることが必要であり、例えば、既設路線の利用者に過度の負担をかけないための新線建設等に係る加算運賃制度の活用、最混雑時間帯における輸送力増強対策を行うための運賃負担のあり方等について、運賃負担の公平感の確保にも配慮しつつ、検討を深めるべきである。

 また、これとともに、道路・都市部局との連携を一層強化するほか、公的主体における安定的な財源の確保を図ることが必要である。
 国及び地方公共団体の財政事情には極めて厳しいものがあるが、冒頭に述べたように、過大な財政負担をいたずらに次の世代等につけ回しすることは厳に慎むことが必要である。このため、国及び地方公共団体において公共投資の効率化・重点化を今後なお一層積極的に進めていくべきことは言うまでもないが、その中で、地球環境問題や地域の活性化に貢献することが期待される鉄道の重要性を今一度認識することが必要であり、政策的に特に重要な鉄道整備を円滑に推進するために必要となる財源をさまざまな方策により確保することについても、鋭意検討を深めることが必要である。

 これらの幾多の政策的努力により、新世紀の鉄道が、地球環境やひとにやさしい、真の「国民の足」として有効活用され、次代を担う若者たちへのかけがえのない贈り物となることを切に望むものである。

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