国土交通省
IV 需給調整規制の廃止後における制度等のあり方
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  1.参入・退出制度のあり方
(1) 基本的方向
 参入に関しては、これまでの需給調整規制を前提とした免許制に代え、今後は輸送の安全の確保、安定的なサービス提供及び利用者保護に関し一定以上の能力を有するか否かを審査し、これらの要件を満たす者には参入を認める許可制とする。
 また、事業への参入後も、輸送の安全の確保等に影響を与えるような路線の追加、変更等の事業内容の変更については、参入に準じた審査を行うことが適当である。
 事業への参入に当たっては、次のような要件について審査することが適当である。
事業遂行に当たって安全を確保する能力
(安全運行に関する事業者の知識、運行管理体制の整備等)
事故の際の対応能力、損害賠償能力の確保
(事故時の社内体制の整備、任意保険への加入等)
安全で安定的なサービスの提供が可能な事業基盤の保有
(車庫、車両数、運転者等)
安全確保や利用者の保護に関する規制を遵守しないおそれがある者を事前に排除する人的欠格事由
(法令違反による一定の処分を受けていないこと)
 なお、参入要件は明確なものとして公表するとともに、審査に当たっては透明性を確保することが必要である。
 さらに、退出については、事業者の判断により行うことができるよう届出制とすることが適当であるが、利用者に対し十分な事前周知が行われることが必要であり、退出までに一定期間をおく事前届出とし、特に生活路線における退出後の措置を検討するために必要な所要の期間を確保することが適当である。

(2) 特定の時間帯等のみへの参入等について
 例えば、特定の時間帯等のみにサービスが集中するような形態の参入が行われることにより、需要が比較的少ない時間帯等のサービスが提供されなくなる等の問題が生じるおそれがあり、利用者の利便を確保する観点から必要性の高い場合には、適切な輸送サービスの提供を確保するため、行政が一定の関与を行うことを検討することが適当である。
 また、複数の事業者が競合する路線において、各事業者が著しく近接するダイヤ設定を行ったり、頻繁なダイヤの変更や客の争奪をめぐって行う追い抜き競争が、結果として利用者利便等を損なう場合についても、行政が一定の関与を行うことを検討することが適当である。
 なお、これらの制度を設ける場合であっても、行政の恣意的な運用を排除する観点から、その関与に関する基準を明確化し、透明性を確保することが必要である。

(3) 公営事業と民営事業の関係
 乗合バス事業者としての法律上の扱いに関しては、これまでと同様に公営事業者と民営事業者とで扱いに差異を設けるべきではない。
 ただし、公営事業者に対しては地方公共団体の一般会計から繰り入れがなされている等必ずしも民営事業者と競争条件が同一でない部分があるため、今後、これについてはその基準や必要性等の一層の明確化を図るとともに、住民の十分な理解を得た上で、当該地方公共団体が主体的に決定していくことが望ましい。
 また、経営の効率化に取り組むべき状況にある公営事業者については、今後一層の努力を行うことが望まれる。
 さらに、公営事業者と民営事業者が同一エリアで乗合バスサービスを提供して競争する場合に、バス利用を促進するための助成については、公営、民営を通じて同様に実施することが望ましい。

  2.運賃制度のあり方

 運賃設定は、事業経営上最も基本的な事項であり、できる限り事業者の自主性や創意工夫が尊重される制度とすることが必要である。
 その一方で、乗合バスは地域住民の基本的かつ最も身近な日常生活の足となっていることや、事業の実態として地域独占的な傾向があることを踏まえると、運賃の上限の規制を行うことが適当である。また、利用者保護の観点から、特定の旅客に対する不当な差別的取扱いを防止することが適当である。
 さらに、競合する他の事業者を退出させるために不当競争となるような運賃設定を防止することが必要であるが、低廉な運賃の設定は利用者にとって望ましいものであることも踏まえ、発動の要件を明確にした上で、事業者の設定した運賃について変更の指示が行える制度とすることが適当である。


  3.輸送の安全の確保のあり方

(1) 基本的方向
 輸送の安全の確保は、乗合バス事業においても重要な課題であり、需給調整規制の廃止後においても、十分な措置を講じていくことが必要である。
 このため、現在審議が行われている事業用自動車の安全対策に関する運輸技術審議会の状況をも踏まえ、必要性と効果を十分に検証し、有効な規制のあり方を検討することが適当である。

(2) 運行管理制度等の充実
 輸送の安全を確保するためには、事業参入時や事業計画変更時の審査を行うとともに、運行管理制度を適宜見直すことが適当である。
 運行管理制度を充実させる措置として、運行管理者の資格試験の導入、研修制度の見直し、権限や配置基準の明確化、事故を防止できなかった場合等における特別研修制度の導入等について、その効果と事業者の新たな負担との衡平にも配慮しつつ、具体的内容について検討することが適当である。
 また、運転者に関する安全対策として、乗務距離等の制限の明確化、健康診断の充実、事故・違反を繰り返す者に対する適性診断の義務づけ、初任研修等の交通安全教育の充実、事故実態等を踏まえた特別講習の実施等の措置について検討することが適当である。

(3) 情報公開の充実
 情報に基づき利用者が優良な事業者の選択を行うことは、安全性を向上させる重要な手段であることから、事業者ごとに事故や安全確保に係る法令の違反状況等の情報を利用者に提供する方策を検討することが適当である。
 現行の事故報告制度を充実させることも重要であり、報告内容を今後の事故防止対策や運行管理者、運転者等に対する安全教育に活用するとともに、プライバシーの保護にも配慮しつつ、これらの情報を積極的に公開していくことが適当である。
 また、事業者からの事故報告に加え、必要に応じより詳細な情報を積極的に収集・分析し、事故防止対策に生かされることが適当である。

  4.利用者保護のための措置

 運送約款に関する規制については、引き続き認可制及び標準運送約款の制定によることが適当である。なお、約款の内容については、利用実態の変化等に併せ適宜見直すとともに、約款の内容を利用者に広く周知するための方策を検討することが適当である。
 また、今後は輸送サービスの多様化が進むことが想定されるが、利用者が容易に選択を行えるよう輸送サービスに関する情報を積極的に公開していくことが必要である。


  5.公正な競争のあり方

 新規に参入する事業者が既存の事業者から駅前におけるバス乗り場等の施設の使用を拒否されたり、共通乗車・共通カードシステムへの参加を拒まれること等により、期待されるような適切な競争が生じないおそれがある。このため、利用者の利便が損なわれることがないよう、既存事業者のこれまでの努力を適切に評価しつつ、行政が調整措置を講じる等の一定の関与を行うことを検討することが適当である。


  6.事後チェックの充実

 今後は行政による事後チェックが重要となってくるが、体制の強化、チェック対象の重点化等を図るとともに、客観的基準を設けてその運用の透明性を高めることが必要である。
 また、行政処分の透明性及び公平性を確保するため、違反事例に応じた点数制の導入を検討することが適当である。
 なお、重大な違反行為による事業停止等の処分が行われることにより地域の足が失われてしまうというようなケースについては、その際の代替措置のあり方、新たなペナルティーの方法についても検討することが適当である。
 この他、事業者及び事業者団体においても、利用者からの苦情処理体制を整備・充実していくことが求められる。


  7.バス利用促進等のための環境整備

 バスの利用促進は、主として都市部を中心として、自動車交通量の抑制等を図り自動車事故防止に資するほか、交通渋滞の解消、環境負荷の軽減・省エネルギーの実施等が図られるとともに、ノンステップバスの導入等により高齢者等の移動制約者の移動の確保が図られる等の様々な社会的問題の解決に資するものである。
 このため、需給調整規制の廃止とともに、オムニバスタウンやバス利用促進のための交通システムの整備等に対する支援、バス専用レーンや都市新バスシステムをはじめバスの走行環境を改善するための施策を関係省庁や地方公共団体との協議を積極的に進め、密接な連携を図りながら推進していくことが必要である。


  8.制度の円滑な移行

 今回の制度改正にあたっては、制度の円滑な実施を図るため、その実施までに一定の移行期間を設けるとともに、地域協議会を先行して発足させる等、所要の措置を講じることが適当である。

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