国土交通省
III 需給調整規制の廃止後におけるタクシー制度のあり方ラインBack to Home

  1.参入・退出制度のあり方
(1) 基本的方向
 参入に関しては、これまでの需給調整規制を前提とした免許制に代え、今後は輸送の安全の確保、安定的なサービス提供及び利用者保護に関し一定以上の能力を有するか否かを審査し、これらの要件を満たす者には参入を認める許可制とする。
 また、事業への参入後も、輸送の安全の確保等に影響を与えるような事業内容の変更については、タクシーの特性にも留意して参入に準じた審査を行うことが適当である。
 事業への参入に当たっては、次のような要件について審査することが適当である。
  ・ 事業遂行に当たって安全を確保する能力
    (安全運行に関する事業者の知識、運行管理体制の整備等)
  ・ 事故の際の対応能力、損害賠償能力の確保
    (事故時の社内体制の整備、任意保険への加入等)
  ・ 安全で安定的なサービスの提供が可能な事業基盤の保有
    (車庫、車両数、運転者等)
  ・ 安全確保や利用者の保護に関する規制を遵守しないおそれがある者を事前
   に排除する人的欠格事由
    (法令違反による一定の処分を受けていないこと)
 なお、参入要件は明確なものとして公表するとともに、審査に当たっては透明性を確保することが必要である。
 退出については、事業者の判断により行うことができるよう届出制とすることが適当である。
(2) 事業区域
 車両の配置されている営業所に対する帰属性を確保し運行管理及び整備管理が適正に行われること並びに運転者の地理の熟知度を確保することを制度的に担保するため、事業区域制度を引き続き設けることが適当である。
 また、事業区域の拡大については、平成9年3月に閣議決定された規制緩和推進計画を受けて、事業区域を統合し、半減させる措置を講じたところであるが、タクシーは平均乗車距離も短いことや運転者の地理の熟知度の問題等を考慮するとあまり大幅な拡大は不適切であり、今後も地域の実情等を勘案して設定することが適当である。
(3) 最低保有車両数
 運行管理及び整備管理を的確に行い、事故が発生した場合の補償や事故後の処理を確実に行うためには、一定の組織・体制を整えることが必要であることから、引き続き最低保有車両数の基準を設けることが適当である。
 また、最低保有車両数の基準については、平成9年3月に閣議決定された規制緩和推進計画を受けて、例えば東京で60両の基準を10両に引き下げる等の見直しを行ったところであり、今後も現在の基準を基本としつつ適切に設定することが適当である。
(4) 事後的緊急措置
 新規参入や増車により大幅な供給過剰が生じ、大半の事業者の事業運営が困難となる状況等において、労働条件やタクシーサービスの低下を引き起こしたり、道路交通上の支障等地域の生活環境に悪影響を与えるような場合に、事後的な緊急措置を行いうる制度を設けることについては、その必要性、措置の内容、発動要件等について十分かつ慎重な検討が必要である。

  2.個人タクシー制度のあり方
 個人タクシーでは、運行管理、整備管理、事故時の対応等の全てを運転者自らが責任をもって行わなければならず、法人タクシーと異なり、安全で良質なサービスの供給を制度的に担保することが難しいと考えられる。
 このため、個人タクシーについては、制度創設時の法人タクシー運転者に将来の希望を与えるという趣旨を維持し、優良・優秀なタクシー運転者の育成を図る特別制度として位置づけていくこととし、その資格については、事業者としての側面と運転者としての側面の両方を加味した厳格な資格要件を引き続き課すことが適当である。
 また、個人タクシー運転者の高齢化対策については、高齢化と輸送の安全性の関係を勘案して、適切な措置を講じることを検討することが適当である。
 法人タクシーと個人タクシーを折衷した事業形態については、需給調整廃止後の競争状況の変化を踏まえて将来的な課題として検討することが適当である。

  3.運賃制度のあり方
 運賃設定は、事業経営上最も基本的な事項であり、できる限り事業者の自主性や創意工夫が尊重される制度とすることが必要である。
 その一方で、タクシーにおいては、事前に利用者の選択が困難な場合が多いことから不当に高い運賃の設定を防止するため運賃の上限を規制することや、特定の旅客に対する不当な差別的取扱いを防止することが適当である。
 また、タクシーにおいては運転者の賃金が基本的に歩合制となっており、競争の激化により運賃のダンピング競争が生じた場合には運転者の労働条件の悪化に直結し、安全で良質なサービスの確保が困難になる可能性がある。このため、運賃の下限を設定したり、発動の要件を明確にした上で事業者の設定した運賃について変更の指示が行える制度とする等の措置を検討することが適当である。
 さらに、タクシーの運賃は降車の際に明らかになること等から、利用者にとってわかりやすいものである必要があり、初乗運賃の高低に応じて加算運賃が連動する等の運賃設定のルールを設けることを検討することが適当である。
 なお、タクシーの運賃と料金の区分を明確化するとともに、利用者の要請による特別なサービスに対する料金については、サービスの多様化を図る観点から、より弾力的に設定できるような制度を検討することが適当である。

  4.輸送の安全の確保のあり方
(1) 基本的方向
 輸送の安全の確保は、タクシー事業においても重要な課題であり、需給調整規制の廃止後においても、十分な措置を講じていくことが必要である。
 このため、現在審議が行われている事業用自動車の安全対策に関する運輸技術審議会の審議状況をも踏まえ、必要性と効果を十分に検証し、有効な規制のあり方を検討することが適当である。
(2) 運行管理制度の充実
 輸送の安全を確保するためには、事業参入時や事業計画変更時の審査、運転者の質の確保方策等を行うとともに、運行管理制度を適宜見直すことが適当である。
 運行管理制度を充実させる措置として、運行管理者の資格試験の導入、研修制度の見直し、権限や配置基準の明確化、事故を防止できなかった場合の特別研修制度の導入等について、その効果と事業者の新たな負担との衡平にも配慮しつつ、具体的内容について検討することが適当である。
(3) 情報公開の充実
 情報に基づき利用者が優良な事業者の選択を行うことは、安全性を向上させる重要な手段であることから、事業者ごとに事故や安全確保に係る法令の違反状況等の情報を利用者に提供する方策を検討することが適当である。
 現行の事故報告制度を充実させることも重要であり、報告内容を今後の事故防止対策や運行管理者、運転者等に対する安全教育に活用するとともに、プライバシーの保護にも配慮しつつ、これらの情報を積極的に公開していくことが適当である。
 また、事業者からの事故報告に加え、必要に応じより詳細な情報を積極的に収集・分析し、事故防止対策に生かされることが適当である。

  5.運転者の質の確保方策
 地理の知識等タクシーサービスは運転者の質によるところが大きいが、流し営業中心の地域では利用者は運転者を選んでサービスを受けることは困難であることから、運転者の質の確保については、引き続き法人事業者によって適切な運転者の管理が行われることを前提に、安全・良質なサービスを確保するための必要最低限の措置を講じることが適当である。
 このため、現在東京及び大阪で義務付けられ一定の成果を上げている運転者の登録制度を、費用負担に配慮しつつ他の流し営業中心の地域へ拡大する等の措置を検討することが適当である。
 また、運転者の地理知識や利用者に対する応接等について、運転者に対する指導や利用者からの苦情への対応等を事業者が十分行うことが今後とも重要であることから、これらに関し必要な措置について検討することが適当である。
 このほか、運転者に関する安全対策として、乗務距離等の制限の明確化、健康診断の充実、事故・違反を繰り返す者に対する適性診断の義務づけ、初任研修等の交通安全教育の充実、事故実態等を踏まえた特別講習の実施等の措置について検討することが適当である。

  6.利用者保護のための措置
 運送約款に関する規制については、引き続き認可制及び標準運送約款の制定によることが適当である。なお、約款の内容については、利用実態の変化等に併せ適宜見直すとともに、約款の内容を利用者に広く周知するための方策を検討することが適当である。
 また、今後は輸送サービスの多様化が進むことが想定されるが、利用者が容易に選択を行えるよう輸送サービスに関する情報を積極的に公開していくことが必要である。

  7.事後チェックの充実
 今後は行政による事後チェックが重要となってくるが、体制の強化、チェック対象の重点化等を図るとともに、客観的基準を設けてその運用の透明性を高めることが必要である。
 また、行政処分の透明性及び公平性を確保するため、違反事例に応じた点数制の導入を検討することが適当である。
 現在、東京及び大阪においては、事業者の費用負担の下でタクシー近代化センターを設けてタクシー事業の適正化に向けた取組みを行っているが、引き続き業務の効率化を図りつつ、効果的な取組みを行っていくことが必要である。また、地域のタクシー協会等においては、自主的な取組みが一定の成果を上げているところであり、今後も引き続きこうした取組みを行っていくことが重要である。
 この他、事業者及び事業者団体においても、利用者からの苦情処理体制を整備・充実していくことが求められる。

  8.関連する事業のあり方等
(1) ハイヤー
 ハイヤーについても、輸送の安全確保や利用者利便の確保の要請はタクシーと基本的に変わらないことから、制度としてはタクシーと同様とすることが適当である。
 なお、ハイヤーは、運送の引受けが営業所のみで行われ、契約の相手方も企業を対象とする場合が多いことから、運賃制度については弾力的な運用を行うことが適当である。
(2) 運転代行業
 運転代行業については、近年急速に増加し、地方都市において定着してきているが、運転代行業者によるタクシー類似行為が頻発しているとの指摘や安全の確保等の観点から問題があるとの指摘があることから、その実態を行政において的確に把握し、必要な指導等を行えるよう制度を検討することが適当である。
 また、タクシー類似行為については、関係行政機関との連携を強化することにより監視体制を強化・充実し、厳正な処分等を行うことが適当である。

  9.関連する事業のあり方等
 タクシー事業者は99%が経営基盤の弱い中小事業者であることから、需給調整規制廃止後の環境変化に対応するためには、制度改正の実施までに一定の移行期間を設けるとともに、今回の制度改正の趣旨を十分踏まえつつ、激変緩和のための必要最小限の経過的な措置の導入についても検討する等所要の措置を講じることが適当である。

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