行政改革委員会最終意見においては、「港湾運送事業においては、港湾運送の効率化(コスト削減、サービス向上)を求めれば、港湾運送の安定化(労働関係の安定化等)が損なわれるという懸念がある」旨指摘されているが、規制緩和が行われ、事業免許制が許可制になり、料金認可制が届出制になると、港湾運送事業者間の競争が促進される結果、事業の効率化が図られ、サービスも向上し、船社、荷主等の港湾ユーザーにとって大きなメリットが生じる。
一方、後述のように港湾運送事業者間の競争が激化する等の結果、労働関係が不安定化し、雇用不安、労働争議が生じる可能性や、再び悪質事業者が参入してくる懸念が生じてくる。
仮に、そのような事態に立ち至れば、効率化を求めた結果、かえって全体としての効率化が達成されなくなることとなってしまう。
従って、行政改革委員会最終意見にも指摘されているとおり、効率化のみを求めるのではなく、労働関係等港湾運送の安定化に一定の配慮を払いながら、規制緩和を進めていくことが重要であると考える。具体的には、次のような方策(港湾運送の安定化策)を講じていくべきである。
我が国の港湾運送事業は、過去、専ら下請事業者との間に介在して手数料等を収受することを業としたり、専ら日雇労働者を使用して港湾運送事業を営むような悪質な事業者の存在を許した一時代があった。
このため、港湾運送事業法の改正を通じ、需給調整規制(免許制 法第4条、第6条)、欠格事由(法第6条)、労働者保有義務(法第6条)及び一貫責任制度(法第16条)の各制度により、これら悪質な事業者を排除してきたという歴史を持っている。
今般の規制緩和の結果、港湾運送事業者間の競争が激化すると、全体のコストに占める労働コストの割合が非常に高いため、価格競争の結果が労働コストにしわ寄せされやすく、港湾運送事業者は常傭労働者に代えて日雇労働者への依存を強める可能性が高まる。この結果、労働関係が不安定化するとともに、再び日雇労働者の労務供給を業とする悪質事業者の参入を招くおそれが生じてくる。
こうした悪質な事業者の参入等を防止するため、新たに、欠格事由の拡充、罰則の強化や労働者保有基準の引き上げを行うべきであるとともに、一貫責任制度を従来どおり維持すべきである。
規制緩和の実施により、参入が容易となり、価格規制も緩和される結果、事業者間の競争、特に価格競争が激化する。この結果、事業の効率化が図られ荷役料金が弾力化され、船社、荷主等の港湾ユーザーにとってはメリットが生じるが、一方、価格競争が行き過ぎると労務供給的色彩が強い港湾運送事業の場合、全体のコストに占める労働コストの割合が非常に高いため、労働コストが切り下げられたり、日雇労働者の雇用が増えるなど労働関係が不安定化し、雇用不安、労働争議が生じる可能性が出てくる。また、小規模事業者の多い港湾運送事業者と船社、荷主との間の力関係の差が行き過ぎた料金引き下げを引き起こす可能性もある。
従って、規制緩和による港湾運送事業者間の競争激化や中小企業が多い港湾運送事業者と大企業が多い船社、荷主との力関係の差を原因とする過度のダンピングが広く行われることにより、港湾運送の安定が害されるおそれがあるところから、料金変更命令制度及び緊急監査制度を導入すべきである。
ダンピング調査や文書警告、行政処分などを行う場合には、必要に応じ、船社、荷主への、ヒアリング、文書警告等を行った旨の通知、ダンピング再発防止の協力要請のほか、同一の船社、荷主の要請により過度のダンピングが繰り返されていたことが明白なような場合にはその旨の公表などを行う。
なお、料金変更命令制度及び緊急監査制度の運用に当たっては、あらかじめ、運用基準を明らかにするなど透明性や公平性の確保に努めるべきである。
(i) 拠出金は港湾労働年金や港湾労働者の現場施設、宿舎等の維持、整備など港湾労働者の福利厚生の充実のため使われており、労働関係の安定化に重要な役割を果たしている。
(ii) 拠出金制度の導入は、戦後の港湾運送の混乱を解決するため、日雇労働者から常傭労働者への切り替えが急務とされるなか、日雇労働者中心の時代には重要視されなかった福利厚生の充実が強く求められたことによるものである。
しかし、港湾運送事業者は中小零細事業者が多く、これらの福利厚生事業について個々の事業者に任せていては、その整備、充実が進まないとともに、港湾という限られた空間の中で、個々の事業者が個別に福利厚生施設などを整備することは、非効率であるため、港湾運送事業者がそれぞれ拠出金を拠出し、共同して福利厚生事業を行うという現行制度ができたわけである。
(iii) このような拠出金制度の重要性に鑑み、運輸省は、認可料金制度のもと、拠出金を適正なコストとして認めるとともに認可料金の内訳として拠出金部分を明示(透明化)することにより、船社、荷主の理解と協力を得やすくしていたところである。
また、これに応じ、船社、荷主も、全体として、その内訳として拠出金部分を含むことを明示した荷役料金(認可料金)を支払うという形で拠出金の制度に理解と協力を行ってきたところである。
(iv) ただ、拠出金の使途である港湾労働者の福利厚生施設の整備運営等に要する資金は、一般には労働者を雇用する事業者が自己の責任と判断の下、自己の収益のうちから支出する性格のものであり、港湾労働者と直接の雇用関係にない船社、荷主がこれを負担するということには必ずしもなじまないと考えられる。
(v) しかし、認可料金制度が届出料金制度に変更になるに伴い、以下のような状況が生じることが懸念される。
(イ) 認可料金で事実上裏打ちしている拠出金が根拠を失うことにより、現在の各拠出金の額が、船社、荷主(当該船社、荷主の顧客企業も含む。)から荷役料金の中の費用の一部として認められなくなるおそれがある。
(ロ) 港湾運送事業者は、中小事業者が多く、規制緩和による競争の激化により経営が悪化し、従来どおりの拠出金の額を負担できなくなるおそれがある。
このような状況となると、従来どおりの拠出金額が確保されなくなるおそれが生じる結果、労働関係が不安定化し、行政改革委員会最終意見や船社、荷主が要望している「港湾運送の安定化を害することなく規制緩和を進める」という命題が達成されなくなるおそれがある。
(vi) 行政改革委員会最終意見においても「現在、関係当事者間の拠出により、労働者の福利厚生が図られているが、規制緩和後も、関係者間で継続した取組みがなされることが重要である」旨の指摘がなされているところであるが、港湾運送事業のコストの一部としての拠出金は常傭労働者による労働関係の安定化に大きな役割を果たしていることに鑑み、(v)に指摘するような事態を避けるため、従来どおり、船社、荷主全体としての拠出金制度に対する理解と協力が望まれるところである。
従って、規制緩和により認可料金制度が廃止されるに当たり、以下のように、港湾運送事業者の要請に応じ港湾運送約款に基づき荷役料金の分割支払を行うことについて、船社、荷主の理解と協力が得られるならば、拠出金を確保する方法として効果的であるところから、船社、荷主に対し、港湾運送の安定化のため、このような支払方法の変更について理解と応分の協力を要請せざるを得ないと考える。
また、これにより港湾運送の安定化を確保しつつ、円滑に規制緩和を推進することは、船社、荷主にとっても望ましいところであると考える。
(荷役料金の分割支払)
・各拠出金の拠出は、従来どおり、基本的には港湾運送事業者の責務であり、荷役料金等の収入のうちから自ら拠出するものであることを前提に、船社、荷主に対し以下のとおり、荷役料金の分割支払を要請するもの。
・港湾運送事業者は、運輸大臣の認可を受けた港湾運送約款に基づき、船社、荷主との間で契約した荷役料金の支払に関して、拠出金額に相当する荷役料金の一部の金額については(財)港湾近代化促進協議会に、荷役料金のうち残りの金額については当該港湾運送事業者に分けて支払うことを船社、荷主に対して請求(従来どおり、請求書に荷役料金の内訳として拠出金額に相当する金額とそれ以外の金額とを分けて明示)。
・港湾運送事業者は、拠出金額に相当する荷役料金の一部の受取及び(社)日本港湾福利厚生協会等に対する拠出金の納付を(財)港湾近代化促進協議会に委任。
(vii) なお、この荷役料金の分割支払が行われる場合には、運輸省は、その適正化が図られるよう(財)港湾近代化促進協議会等を指導すべきである。
また、荷役料金の分割支払への変更が行われる場合には、船社、荷主の負担ができるだけ少なくなるようにすべきであるとともに、運輸省も含めて3年後に荷役料金の分割支払について見直しを行うべきである。
All Rights Reserved, Copyright (C) 2001,
Ministry of Land, Infrastructure and Transport