国土交通省
行政改革委員会最終意見(平成9年12月)
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港湾運送事業に係る規制の見直し

 港湾運送事業は、終戦後の無規制の状況下での中小事業者の乱立による供給過剰、不適格事業者の出現、秩序の混乱等の状況を踏まえ、安定的な港湾運送の確保、安定的な労働関係の確立、悪質な労務供給事業者の排除を図るため、昭和34年、議員修正により港湾運送事業法が改正され、事業免許制、料金認可制が導入された。
 また、港湾労働に必要な労働力の確保と港湾労働者の雇用の安定を図ることを目的として、港湾労働法が昭和40年に制定され、事業規制と相まって、港湾の安定運営や港湾労働関係の安定が図られてきた。
 そもそも、港湾運送事業は、貨物の船舶への積み込み及び取り卸しを目的に労働力を供給するという側面が強く、本来的に労務供給事業的性格を有する。また、この労務供給事業的性格に加え、業務量の日別の波動性が大きいという実態があるため、過去の歴史に見られるように労務手配師が介入する余地が大きいという側面がある。さらに、陸と海の物流の結節点である港頭地区という限られた公共空間で営まれる事業であることから、混乱が生じた場合、ユーザー(船社・荷主)は代替措置を講じにくく、港湾運送の不安定化が我が国の貿易及び経済活動に深刻な悪影響を与えることとなるという性格を有している。
 港湾運送事業はこのような特殊性をもつため、各国とも形態は違うものの、港湾運送の安定化を図るためのシステムを有しており、我が国においては、前述の港湾運送事業法の参入規制、価格規制、港湾労働法がこの役割を担うこととされてきた。
 しかしながら、港湾運送事業法の参入規制、価格規制は、一方では、次のような弊害を引き起こしており、我が国の港湾の効率化、活性化を阻害する要因となっている。すなわち、第一に、新規参入が自由でないことから、事業者間の競争が生まれにくく、船社、荷主のニーズにあったサービスが提供されにくくなっている。第二に、港湾ごと、業務区分ごとに細分化された免許制によって非効率な多数の中小事業者が維持されることとなり、これらの港湾運送事業者の規模の拡大による事業の効率化を困難にしている。第三に、免許制によって自ら常傭労働者を抱える多数の中小事業者が存在し、企業外労働者の活用の仕組みも不十分なため、日別の波動性に十分に対応することができなくなっているとともに、船社、荷主の需要に応じた弾力的なサービスを提供するための効率的な就労体制を組むことが困難となっている。
 現在、我が国においては、経済活動の基盤である物流の効率化の必要性が強く指摘されており、港湾においても、効率性の向上、船社のニーズに沿ったサービスの確保への要請が高まっている。前述の港湾運送事業の参入規制、価格規制がもたらす弊害やこのような我が国の港湾運送に求められている課題の解決のためには、現行の事業免許制(需給調整規制)を廃止し許可制に、料金認可制を廃止し届出制にすべきである。また、事業区分及び限定制度の簡素化並びに港ごとの免許制度の見直しもあわせて行うべきである。このような改革に伴い、港湾運送事業に関わるその他の諸規制についても徹底した見直しを進めるべきである。同時に免許制廃止後の効率的な経営や就労体制の確立、安定的な労働関係の確保、悪質な労務供給事業者の参入の防止を図り、港湾運送の安定を達成するため、以下に掲げる点についての実施や検討が必要である。
 なお、港湾運送事業においては、港湾運送の効率化(コスト削減、サービス向上)を求めれば、港湾運送の安定化(労働関係の安定化等)が損なわれるという懸念もあるため、この2つの目標をどのようにバランスをとって解決するかという視点も重要である。委員会のヒアリングにおいても、荷主サイドからは、港湾運送の安定化が強く要望され、また、船社サイドからは、規制緩和による港湾運送の不安定化の受忍限度については明確な回答がされていない。したがって、港湾運送事業の規制緩和に当たっては、港湾運送事業のユーザーである船社、荷主がこの点に関しどう考えるかという姿勢を十分に把握したうえ、推進していく必要がある。

 (i) 安定した労働関係の確保を前提とした効率的な経営、就労体制の確立
 船社、荷主のニーズに対応した弾力的なサービスの提供を可能とする効率的な経営、就労体制を確立するため、常傭労働者の雇用の義務付けを維持しつつ、事業者の事業規模(労働者数)を拡大するため、使用者責任を明確にした共同受注、共同就労体制の確立、事業者の集約、協業化の促進、労働者保有基準の引き上げを図るべきである。また、日別の波動性に対応するための企業外労働者を活用する方策として、新たに、港湾運送事業者間で港湾労働者の融通が円滑にできるような仕組みを確立すべきである。

 (ii) 悪質な労務供給事業者の参入の防止
 悪質な労務供給事業者の参入を防止するため、港湾運送事業者による常傭労働者の雇用の義務付けを維持するとともに、労働者保有基準の引き上げをはじめとする参入基準の見直しをすべきである。

 (iii) 免許制度の見直しに当たって考慮すべき事項
 港湾運送事業が、先に述べた特殊性から、過去混乱の歴史を経験したという事実に鑑み、混乱が生じることのないよう、手順を踏んで、段階的に規制緩和を進める必要がある。また、コンテナ荷役と在来荷役、6大港等と地方港では、荷役の形態、荷役量、事業者等に差があるので、規制緩和の推進や効率的な就労体制の確立に当たっては、内容あるいは実施の時期に差を設けることも検討すべきである。
 なお、規制緩和の推進に伴い、港湾荷役の秩序の混乱等の問題が生じることも予想されるため、緊急調整措置の導入等その防止方策について検討すべきであるとともに、規制緩和の結果として、労働災害の増加、労働社会保険への未加入、その他労働環境の悪化が生ずることがないよう、労働関係法令等の十分な対応が確保されるべきである。

 (iv) 料金認可制の見直しに当たって考慮すべき事項
 中小企業が多い港湾運送事業者と大企業の多い船社、荷主との力関係の差を背景とした過度のダンピングは、労働環境の悪化等につながることから、料金変更命令、船社、荷主への勧告制度等その防止方策について検討すべきである。
 また、現在、関係当事者の拠出により、労働者の福利厚生等が図られているが、規制緩和後も、関係者間で継続的な取組みがなされることが重要である。

 (v) 規制緩和の推進の体制等
 港湾運送事業の規制緩和は、運輸省、労働省等の関係行政機関、港湾運送事業者、労働組合、船社、荷主等の関係者が協力して進めなければ実行は困難である。したがって、規制緩和を推進するに当たっては、数々の検討課題について、関係者の理解を深めるために、議論の場を設けることが必要である。政府においても、運輸省、労働省をはじめとする関係省庁が協力し、政府全体として整合性のとれた政策として実行すべきである。また、船社、荷主は、港湾運送の効率化、安定化のためには、効率的で安定した就労体制の確立が不可欠との認識を持ち、従来のように労働問題から逃避することなく、自らの責務をも自覚するという姿勢がなければ、この改革は進展しないという認識を持つべきである。

 (vi) 我が国港湾の効率化・活性化のための取り組み
 我が国の港湾の効率化・活性化を図り、国際競争力を強化していくために、政府においては、国際ハブ港湾における大水深、高規格コンテナターミナルの重点的整備、港湾荷役の施設使用料の抑制、引き下げ、入出港に係る諸手続きの簡素化、情報化についても有効な施策を策定し、実施すべきである。

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