「21世紀の国土のグランドデザイン」 第1部 第2章 第3節

第3節 特定課題とその対応



 「21世紀の国土のグランドデザイン」の実現に向けて、東京一極集中につながってきた国土構造を転換する上で重要な課題である「首都機能と東京問題」、及び世界に開かれた多軸型の国土構造実現の基礎を築く上でアジア・太平洋地域におけるその新たな位置付けが求められる「基地問題を抱える沖縄の振興」を特定課題として掲げ、これに取り組む。




1 首都機能と東京問題

 東京圏への人口、諸機能の集中は、近年、その一部について緩和の兆しがみられるものの、ストック面からみると依然として著しく、国土構造上大きな問題である。また、東京では、首都としての機能のみでなく、経済、文化の中心としての機能の円滑な発揮に支障が生じているとともに、長時間通勤、交通混雑、災害に対する脆弱性、大気・水質汚染、水需給の逼迫、廃棄物の処理等様々な大都市問題が発生している。

 東京一極集中の問題を解決し、東京が21世紀においても先端性と活力に富んだ世界の中枢都市としての機能を果たしていくことを可能とするためには、東京が 3,000万人を超える人口を擁する世界最大の都市圏を形成していること、東京が我が国の首都であることという2つの側面に着目して、各種の施策を総合的に推進していかなければならない。


 第1に、長期的観点から多軸型国土構造への転換を目指し、国土全体にわたる機能分担と連携のあり方を踏まえつつ、東京都区部等への高次都市機能の過度の集中の抑制と分散、職住のバランスのとれた地域構造の構築等に積極的に取り組む必要がある。

 具体的には、国土全体に及ぶ広域的観点から、東京を頂点とする都市の階層構造を是正するため、東京圏と中枢拠点都市圏との適切な機能分担と連携を進め、高次都市機能の全国的展開とネットワーク化を図る。東京圏では、業務機能を始めとする諸機能の集積の核として業務核都市等の総合的な育成、整備を推進する。また、都心居住等の推進を図るとともに、大規模地震等に対する安全性の確保、安定した水資源の確保、環境やアメニティの向上を図るなど、我が国を代表する都市東京にふさわしい豊かでうるおいのある総合的生活環境を創造する。

 第2に、首都機能移転については、積極的な対応を図ることが必要である。現在、国会等移転審議会において、調査・検討が進められている首都機能移転の問題は、政治、行政の中心地と経済、文化の中心地を物理的に分離することにより、東京の優位性の相対化を図るものであり、国土政策上、東京一極集中への基本的対応として非常に重要なものである。

 首都機能移転がもたらす効果は極めて多岐、広範にわたるが、国土構造の観点からは次のようなものが期待される。

東京とは質的に異なる新都市が形成されるとともに、これと全国の中枢拠点都市圏との間の交通、情報通信ネットワークを通じた多様な連携が促進されることにより、東京を頂点とする国土構造の改編が進む。
政経分離によって、政治、行政の中心地となる新都市と経済、文化の中心地となる東京のそれぞれが大都市問題に配慮された我が国を代表する都市として並立し、相互に密接な機能分担と連携を図ることにより、各々の機能がより一層円滑に発揮される。
大規模地震等が発生した場合にも、新都市と東京との同時被災の回避が可能となり、危機管理機能を始め国土の災害対応力が向上するとともに、移転跡地を有効に活用することにより東京の防災性が強化される。

 首都機能移転は、以上のように、国土政策上極めて大きな効果を有するものである。現在、国会等移転審議会では、移転先候補地の選定に向けて調査対象地域を設定し、具体的な地域に即した検討を行う段階へと進んだところであり、地方分権、規制緩和、行財政改革等の国政全般の改革を並行して着実に進めつつ、首都機能移転の具体化に向けて積極的に検討を進めるべきである。

 この場合、首都機能移転は、国民の意識や価値観に密接にかかわるとともに、21世紀における我が国の政治、経済、文化等のあり方に大きな影響を与えるものであり、国会等の移転に関する法律等にのっとり、開かれた公正な手続きの下で国民の合意を図っていくことが必要である。




2 基地問題を抱える沖縄の振興

 先の大戦において甚大な人的、物的被害を受けた沖縄が昭和47年に本土復帰を遂げてから四半世紀が過ぎる。復帰までの26年余の期間、沖縄は我が国の施政権外に置かれたこと等にかんがみ、政府は、これまで、多額の国費を投入し、基本的な社会資本の整備や地理的、自然的な特性に即した沖縄の振興開発を実施した。その結果、本土との諸格差は次第に縮小するなど、着実にその成果を上げてきた。しかしながら、沖縄は、本土から遠隔の地にあり、多数の離島により構成されている等の不利な条件を抱えている。さらに、アジア・太平洋地域の平和と安定にとって重要な役割を果たす日米安保体制の中で、沖縄には、今なお国土の 0.6%の地に我が国の米軍施設・区域の75%が集中し、その負担は重く、依然として本土とは異なる事情を抱えた地域である。

 一方、我が国とアジア・太平洋地域を始めとする諸国との相互依存関係が一段と強まり、人的、物的、資金、情報の交流の度合いは更に深まるものと見込まれる。こうした中で、基地問題を抱える沖縄の振興開発に当たっては、沖縄の有する地理的・自然的特性と独自の伝統文化及び国際性豊かな県民性を生かしながら、一地域の自立という視点を超えて、我が国ひいてはアジア・太平洋地域の経済社会及び文化の発展に寄与する特色ある地域の形成を目指すという視点が重要である。


 沖縄は、太平洋新国土軸から東南アジア諸国等の熱帯・亜熱帯の交流圏に通じる結節点にあるという地理的特性を有するとともに、広大な海域からなる我が国唯一の亜熱帯海洋性の気候的特性を持ち、豊かな自然や独特の文化等多様で貴重な地域資源を有している。また、それらを背景に、「万国津梁(しんりょう)の精神」に代表される多様性を受け入れる国際感覚と相互扶助の精神を育むなど魅力的な地域として成長、発展してきた。

 今後、沖縄は、平和交流拠点として、国際協力拠点として、多元的な交流の展開の場となることが期待される。これら交流拠点の形成に際して基幹産業である観光産業の振興は重要であり、亜熱帯海洋性の豊かな自然や歴史、文化等の地域資源を生かした魅力ある国際的な観光・保養機能の充実が望まれる。また、特別自由貿易地域等を中心とする産業の新規展開の推進による交易型産業の新規立地や活性化が期待される。さらに、高度な情報通信機能の活用と交通機能の拡充によって、島しょ地域が抱える不利性を克服した多自然居住地域の創造の場となることが期待される。このような期待にこたえることにより、沖縄は、我が国ひいてはアジア・太平洋地域の経済社会及び文化の発展に貢献する地域として、太平洋新国土軸の形成の端緒を開くことが望まれる。

 このような発展の可能性を持つ沖縄は、「太平洋・平和の交流拠点(パシフィック・クロスロード)」と位置付けることができる。


 基地問題を抱える沖縄の振興に当たっては、以上の位置付けを基本として、これまで同様、沖縄の経済振興と基地問題はいずれも重要な課題であるとの認識に基づき、沖縄の主体的な取組を基に国がその責務を果たすことによって、各般の施策を進める。

 また、土地利用上大きな制約となっている米軍施設・区域については、普天間飛行場の返還等沖縄にある米軍施設・区域の約21%、5002haの縮小が盛り込まれている平成8年12月の「沖縄に関する特別行動委員会(SACO)」の最終報告の内容を着実に実施し、その進展を踏まえつつ跡地の利用を計画的に進める。


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