第2節 国土基盤投資の計画的推進
この計画の目標を達成するには、引き続き国土の均衡ある発展を図るという基本方向の下で、国土基盤整備を着実に推進する必要がある。その際、ゆとりやくつろぎ、自然環境等を重視する国民意識の大転換や確実視される人口減少局面等計画期間を超えて進む経済社会構造の大きな変化に対応できる基盤整備を着実かつ計画的に進めることが求められていること、現在進められている財政構造改革と連携することはもとより、長期的な投資余力の減少にこたえられる基盤投資が求められていること、これまで進められてきた様々な施策の推進等により、地域間の所得等の格差が縮小してきている一方、中山間地域等で地域社会の維持が困難となる地域が広範に現れたり、地域の特色が失われ全国が画一化するなど新しい地域問題が現出し、これに対応した基盤整備が求められていること等、国土基盤投資を巡る諸状況の大きな変化を踏まえ、新しい時代に沿った国土基盤投資の推進が必要となっている。
今後の国土基盤投資は、財源が限られたものであることを改めて認識した上で、投資を真に効果的なものとすることを基本としなければならない。現下の厳しい財政事情や長期的な投資余力の減少、人口減少下での成熟した社会の到来等を勘案し、限られた資金を各政策目的に照らし効果的なものとする努力が各方面でなされる必要がある。また、これまでに積み上げられてきたストックを維持、更新するための投資が今後増大することが予想されることから、このような更新投資と新規投資の間のバランスにも配慮する必要がある。
国土基盤投資の基本方向の第1は、「21世紀初頭には社会資本が全体としておおむね整備されることを目標とする」とされている公共投資基本計画(平成9年6月)を踏まえ、社会経済構造の大きな変化に対応できる基盤整備を推進するため、長期的視点に立って計画的な投資を進めることである。そして、この投資を効果的なものとするため、既存ストックの有効利用方策等ソフトな施策も含め重点的、効率的投資に努めることである。
第2は、地域特性を十分踏まえた上での投資の推進である。この計画の目指すものは、全国各地域が特色を持って発展する多様性に富んだ国土の形成であり、重点的、効率的投資を進めるに際し、この目標に沿った地域の発展が図れるよう、各地域の自然条件や経済社会条件の差異等に留意しつつ効果的な投資を進めることである。
第3は、次の時代に備えた投資の推進や、そのための新しい投資の考え方の確立を図ることである。この計画期間は、長期構想実現の基礎づくりの期間であり、計画期間を超えて進む人口減少、投資余力の減少等に効果的に対応できるよう様々な努力を続けなければならない。
1 重点的、効率的基盤投資
(1) 重点的基盤投資
- (計画の課題達成に向けた基盤投資)
-
国土基盤の整備は、明治以降現在まで時代の要請に応じ、その重点分野を変化させつつ進められてきた。時代の転換期に策定したこの計画では、経済社会構造の大きな変化に対応するため、計画期間中に取り組むべき課題として、自立の促進と誇りの持てる地域の創造を始めとする基本的課題及び特定課題を提示している。これらの課題は、関連するソフトな施策と一体となって必要な基盤投資が推進されることにより達成されていくものである。このため、長期的視点に立ち、第2章に掲げた課題の達成に資する基盤の整備に重点を置き、投資を推進する。なお、既に進められている国民生活の質の向上及び経済構造改革に資する分野への公共投資の重点化の方向は、この基盤投資の重点化の方向と軌を一にするものであり、その推進がこの計画の目標の達成につながるものである。
- (戦略の展開に資する基盤投資)
基本的課題を達成していくためには、地域の主体的な選択を基本に、複数の地方公共団体が連携し、国等とともに、戦略を展開していくことが特に効果的と考えられる。このため、地域的には、多自然居住地域の創造に向けた、豊かな自然環境や国土の保全、地域の自立の基礎となる生活の高質化及び地域資源を活用した産業の高度化に資する投資、並びに大都市のリノベーションに向けた都市構造の抜本的な再編や防災性の向上、環境の保全、回復及び産業の高質化に資する基盤投資を、また広域的、全国的には、地域連携軸の展開及び広域国際交流圏の形成に向けた、交通、情報通信体系の形成、多様な国際交流機会の創出に資する基盤投資を、国、地方公共団体及び民間の総合的努力により、確実に進める。
(2) 効率的基盤投資
- (連携投資の推進)
国土基盤投資の効率化を実現するためには、国土基盤整備に携わる省庁間、そして地方公共団体間の適切な連携が必要である。このため、国にあっては、国全体としての二酸化炭素等の排出量の削減、総合的な物流施策や防災対策の推進等総合的に取り組むべき課題への対応や、類似事業間の効率的な組み合わせ等を目指し、省庁間の枠を超えて事業間の連携を強化する。
この際、各行政主体間の施策の調整や国土基盤の整備に係る各種の長期計画相互の調整、連携等を円滑に進めるための調整機能の充実が不可欠であり、このため、調整体制の充実を図る。この一環として、事業間の調整、調査の調整等のため、国土総合開発事業調整費等の調整機能の活用を図る。また、地方公共団体においては、1つの地方公共団体においてフルセットで施設を整備するという発想にとらわれることなく、地域連携の発想に基づいて、国土基盤整備に当たって他の地方公共団体との連携により効率的な投資を目指すことが期待される。
なお、この計画において掲げた戦略を始め、総合的、一体的に取り組むことが不可欠な施策については、調査段階から調整と連携を図りつつ進める。
地域が責任ある選択と負担の下で、主体となって地域づくりを進め、国はそれを支援できるよう、国及び地方公共団体間、地方公共団体相互間の基盤投資にかかわる調整を行うなど調整体制を整備する。
- (建設コストの縮減)
海外諸国に比し割高となっている建設コストを縮減し、限られた資金の中で基盤投資を効率的に進めることは、実質的な国土基盤の蓄積を保証することに直結し、効率的投資を進める上で最も重要な課題の1つである。しかし、我が国の建設コストは、厳しい自然条件の存在、人件費、物価等我が国全般の高コスト構造、受発注のシステム、建設業の生産性、土地の所有権等の権利調整の難航等様々な要因があり、その縮減は容易ではない。このため、「公共工事コスト縮減対策に関する行動指針」(平成9年4月)において定められている公共工事のコストを少なくとも10%以上縮減するとの目標の下で、資材費の縮減や機械化等を通じた生産性の向上、工事実施に係る各種の規制緩和、コスト縮減に向けた技術の開発とその導入の円滑化、受発注における競争原理の一層の活用、地域の実情に合わせた構造基準の適切な運用等各般の施策について、適宜その成果を点検し必要に応じ見直しを行いつつ、総合的に進める。また、土地利用コスト縮減のため大深度地下利用の技術の実用化等の検討を推進する。
ストックの増大により、維持管理や更新の費用も含めたトータルとしてのコストの縮減や、維持管理や更新が容易な施設の整備も重要となる。このため、構造物のメンテナンスフリー化等のライフサイクルコストを低減する構造物の選定、維持管理や更新を効率的、経済的に行えるような技術の開発等を推進する。
- (ストックの有効利用)
我が国において国土基盤の蓄積が相当程度進んできていることを踏まえ、必要な資金を確保し、ストックの適切な維持管理や更新を進める。また、情報通信システムの活用等による維持管理の効率化を図りつつ、新たな基盤整備を進めるのみでなく、極力ストックを活用するとの観点に立って、各般の施策を進める。
機能的に陳腐化したり容量的に余裕のある施設の活用、再整備を進めることとし、既存施設の構造評価手法、再整備に係る技術の開発等を進める。高齢者福祉施設、地域防災拠点、情報ネットワークの拠点等の整備に当たってのコミュニティレベルに配置されている学校、交番、郵便局等の活用方策、うるおいある緑地空間、水辺空間を確保するに当たっての低未利用地、水路、運河等の活用、再整備等、実質的に投資の軽減に資する施策を推進する。
ストックの有効利用のためのソフトな施策として、大都市圏等での交通混雑の緩和に向けてのTDM(交通需要マネジメント)施策を推進するとともに、ITS(高度道路交通システム)の活用を図る。さらに、交通機関乗り換え時のダイヤの調整による利用者の利便性の向上、文化、スポーツ施設等の利用時間帯の拡大、利用の広域化等、新たな基盤投資をともなわずに国土基盤の利用水準を向上させる運営方策等の導入を進める。また、公的施設の財産上の利用制限の弾力化等の制度的な対応についての検討、施設の管理運営における民間委託の積極的な活用を進める。
- (費用対効果分析等を導入した客観的評価に基づく投資)
新規の基盤投資に着手するに当たっては、その必要性について十分吟味するとともに、その投資を真に効果的なものとする必要がある。このため、国、地方公共団体を通じ、投資効果の早期発現を図る観点から、それぞれの事業において、費用対効果分析等可能な限り客観的な評価を行った上で、投資の優先順位を定め事業の絞り込みを進めるなど投資の効率化に努める。また、硬直的な事業の実施を避けるため、事業の実施段階において、適宜その事業目的の的確性、投資効果等を点検し適切な対応を図る。特に、事業採択後一定期間経過後で未着工の事業や長期にわたる事業等を対象に再評価を行い、その結果に基づき必要な見直しを行う。
これら費用対効果分析や再評価に当たっては、その手続き及び内容等を公表するなど、透明性の確保に十分配意する。
- (民間活力を活用した国土基盤投資の推進)
従来は公的主体が担ってきた国土基盤投資においても、競争原理が働く民間主体に対して、事業をその内容に応じて部分的ないし包括的に委ねることによって、より少ない費用で質の高い効果が得られることが期待される。このため、今後の国土基盤整備に当たっては、イギリスのPFI(プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)のような諸外国の先進事例を参考にしつつ、従来は公的主体が自ら行ってきた分野も含めて、民間活力を積極的に活用する。
|