「21世紀の国土のグランドデザイン」 第2部 第1章 第1節


第2部 分野別施策の基本方向

第1章 国土の保全と管理に関する施策


 自然の恩恵と脅威という二面性を考慮しつつ、安全で自然豊かな国土づくりを進める必要がある。我が国は、多様な動植物が育まれ、変化に富んだ美しい自然環境を有している一方で、地震災害、風水害等の自然災害を受けやすいという条件にあり、このような国土の条件と歴史の中で、人と自然との様々なかかわり方が培われてきた。その中で、環境を持続的に維持しながら、自然を有効に活用する生活の知恵や、平常時は表に出ないが、災害時に避難行動や相互扶助等の形で現れる「災害文化」とも呼び得る地域の潜在的文化が根をおろしてきた。近代化、都市化の過程で自然との接触が減り、生活様式が変化する中で、このような自然認識は希薄化してきており、改めて自然の二面性を念頭に置きつつ、21世紀における人と自然の望ましい関係の構築を目指す。

阪神・淡路大震災にかんがみ、危機管理体制の充実、個人や地域コミュニティの役割の再認識、災害が必ず起こるものであることを前提とした対策等、国土の安全性の向上を目指した対策を推進する。
国土の自然を将来世代や世界と共有する資産として引き継ぐため、野生生物の生息・生育に配慮した国土の形成、開発事業に際しての環境保全措置の実施、地球温暖化対策、廃棄物対策等による自然界の物質循環への負荷の低減等への積極的な取組等を進める。
安全で自然豊かな国土を目指し、自然の系である水系と、これに関連する森林、農用地、都市等により構成される流域圏において、健全な水循環の保全、再生や国土の管理水準の向上に向けて、横断的な組織を軸として地域間や行政機関相互の連携を図りつつ、対策を充実する。
沿岸域の総合的な保全と利用を図るため、自然の系を中心として共通性を有する沿岸域圏において、地域の連携による様々な取組を行う。

第1節 国土の安全性の向上


1 国土の安全性を確保するための防災体制等の確立

 (1) 減災対策の重視

 阪神・淡路大震災のような大規模な自然災害にも対応できるよう、防災対策を強化する。その際、災害の発生を未然に防止するという視点だけでなく、災害に対してしなやかに対応し、生じる被害を最小化するという視点に立った「減災対策」を重視する。

 このため、緊急時に対応した交通、情報通信基盤整備、工作物等について重要度に応じた設計基準の導入、少頻度でも発生の可能性のある大きな外力に対する構造物の耐震性能等の確保等について推進する。また、地震観測網を始めとした災害に関する観測体制の整備を行うとともに、災害・防災に関する研究を推進し、自然災害の予測に努める。地域の災害危険度の評価を行い、結果の公表を行うとともに、これを地域開発や土地利用に反映させるよう努める。

 また、地域、企業、行政機関等において、災害の種類・規模に応じた災害対策マニュアルを整備するとともに、情報連絡体制、避難・救援・救護体制、ボランティア活用の仕組み、行政機能・企業活動のバックアップ体制を強化するなど、災害時に適切な対応が図られるよう体制の整備を図る。その際、災害弱者について配慮するとともに、都道府県、市町村相互の広域的な協力体制を推進する。

 (2) 個人やコミュニティの役割を重視した防災生活圏の形成

 防災対策において、住民やコミュニティの自主的な行動と自衛的手段の強化が重要である。このため、地域の防災拠点等を核とした地域の「防災生活圏」の形成を促進し、災害危険度の公表等による住民啓発、防災訓練等により、災害の発生可能性を視野に入れた行動の定着を図る。また、学校教育や社会教育において、地域の災害特性、災害履歴等に関する防災教育を充実する。さらに、地域防災の主体となる、消防団、水防団の強化、地域の自主防災組織の機能強化を図る。これらの活動を支援するため、地域の拠点となる防災拠点や防災公園等の整備を推進するとともに、学校、公民館、行政機関の建物等を災害時に応急的に活用できるよう整備を促進するなど、一般の施設と防災施設との相互の連携を図る。

 各々の「防災生活圏」が連携し広域的な防災対応を行うため、防災拠点間の連絡・連携を強化するとともに、広域防災拠点の整備充実を図る。また、企業や医師会等地域団体との連携により、災害時にその力を活用できるよう、地方公共団体等とこれらの団体等との協定の締結等を促進する。

 (3) 様々な災害形態への対応と危機管理体制の充実

 都市への人口、諸機能等の集中、日常生活の社会基盤への依存の増大、高度情報化、高齢化、国際化等の状況の変化にともない、事故災害も含めて様々な災害形態が生じているとともに、一たん災害が発生した場合に複合的な影響が生じるなど、災害に対する脆弱性が増している。

 このため、起こり得る災害形態を想定し、被害の最小化に向けた防災施設、機器等の整備、安全基準・防災計画等の整備、訓練や経済的なリスクの分散等、ハードとソフトを適切に組み合わせた総合的な防災対策を講じる。さらに、国、地方を通じて、広域的に影響の及ぶ自然災害や大規模な事故災害に関して高度で専門的な防災機能を充実し、危機管理体制の充実、基幹的施設の安全管理の強化を図る。また、生活様式の変化に応じた防災知識の普及、新たな防災技術の開発、新たな災害文化の構築を促進するとともに、災害時における国際的な協力体制の確立を図る。

 (4) 復旧、復興のための対策の充実

 被災した地域の機能回復と再度災害の防止のために、発災後の災害復旧の迅速な実施及び改良復旧を、周辺環境にも配慮しつつ行うとともに、大災害に対応できるよう、復旧、復興のための制度の充実を図る。


2 阪神・淡路地域の復興

 阪神・淡路地域の復興については、「生活の再建」、「経済の復興」及び「安全な地域づくり」を基本的課題として取組んでいるが、その成果や経験は、人口、産業が集中した大都市地域直下型地震による災害からの復興として、様々な意味でこれからの安全な国土づくり、地域づくりに生かされるべきものであるので、長期的な視野に立って、官民の良好な協調関係を基本とし、地域の発想を生かし活力を引きだしつつ、諸対策の円滑な推進に努める。

 「生活の再建」のために、応急仮設住宅の早期解消等被災者の居住の安定のための住機能の充実、被災者の就職支援等による雇用の安定の確保、生活における心のゆとりやふれ合いにも配慮した被災要介護高齢者等の支援策の充実、災害時にも対応できる医療供給体制の充実、教育活動の回復のための諸施設の復旧、うるおいとやすらぎのある生活環境をとり戻すための文化活動への支援等を推進する。「経済の復興」のために、復旧、復興を支える交通、情報通信基盤の整備、経済復興に資する産業支援体制の整備等を推進する。「安全な地域づくり」のために、オープンスペースとリダンダンシーの確保のための交通基盤とを兼ね備えた安全で快適なまちづくり、防災性を有するライフラインの整備、応急災害対策に資する公共施設の整備等を推進する。

 また、阪神・淡路復興委員会の提言による復興特定事業については、提言を踏まえ、適切に対処していく。


3 災害に強い国土づくりの推進

 国土を保全し、国土の安全性を確保するため、治山・治水施設、海岸保全施設等の国土保全施設の整備を推進するとともに、災害に強い地域づくりを進める。その際、自然環境、日常時の多目的利用、景観、快適性等について配慮するとともに、高度情報通信技術による災害に関する情報等の活用と情報通信基盤の整備を図る。また、火山災害について、災害を事前に察知、予防するために、火山現象の予知技術の開発、監視、観測研究体制の充実強化や火山砂防対策等を推進するとともに、発災後の二次災害防止のための措置を充実する。


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