「21世紀の国土のグランドデザイン」 第2部 第1章 第2節

第2節 豊かな自然の保全と享受

 国土の自然環境を美しく健全な状態で将来世代に引き継いでいくため、国、地方公共団体、事業者、民間団体、住民等様々な主体の参加と連携の下に、科学的知見の充実や技術の開発を進めつつ、問題の性質に応じて、環境影響評価、社会資本整備、環境教育、情報提供、経済的措置、規制的措置等を適切に組み合わせ活用する。その際、取組を効果的に進めるために、環境政策上の長期的な目標に関する指標の開発、活用を行うとともに、地球温暖化対策、廃棄物対策等の課題に関する適切な目標の下に、施策を計画的に展開する。


1 自然環境の保全

 国民の自然志向、生物の多様性の確保への要請を踏まえ、また、地域の自然的、社会的特性やラムサール条約等の国際的な取決めを考慮しつつ、まとまりのあるすぐれた自然環境を有する国立公園等を美しく健全な国土を形成する上での基礎的な蓄積として保全、整備するとともに、農林水産業等を通じた二次的な自然の維持、形成、市民団体等との連携による里山林等の維持、形成等を進める。同時に、人工化の著しい市街地等の土地、沿岸域等において、公共的施設整備等の事業により、樹林地、水辺地の創出、再生等を図るとともに、人工構造物も活用して緑化空間や生物生息空間等を整備し、自然的環境の回復を図る。

 (1) 国土規模での生態系ネットワークの形成

 国土の自然環境の保全、回復を図る際には、野生生物との共存に向けて均衡のとれた安定した生態系を成立させるという観点から、地球規模、全国規模、地域規模等様々なレベルの生態系のまとまり等を考慮した上で、野生生物の生息・生育に適した空間の連続性、一体性を確保すること、換言すれば、国土規模での生態系ネットワークの形成を目指すことが求められる。こうした認識の下、脊梁山脈部やこれとつながる流域、沿岸域等において、多様な野生生物が生息・生育できるような自然環境からなる系統的、骨格的、持続的な生物生息空間の維持、形成を図り、さらに、各地域において、このような空間とのつながりを考慮しつつ、その特性に応じた生物生息空間の維持、形成を図る。

 このため、現存する良好な自然環境を保全するとともに、改善が必要な区域においては、野生生物の生息・生育に適した自然環境への誘導、転換等に向けた整備を進める。また、人工構造物の設置に際しては、生物生息空間の分断の防止に向けて適切な配慮を行う。さらに、このような取組の基盤となる、野生生物等に関する情報の整備とこの情報を基礎とした生物生息空間の維持、形成に関する計画図(エコ・ネット・マップ)の作成を進める。あわせて、生態系の均衡の維持、国民理解の醸成という観点から、野生生物の個体数管理、被害防止施設の整備、啓発拠点の整備や人材の育成等訪問者受け入れの条件整備等を進める。

 (2) 自然とのふれあいのための条件整備

 保全、回復された自然環境については、国立公園等の自然維持地域、農山漁村、都市といった地域の特性を考慮しつつ、自然とふれあい、自然への理解を深める場として活用するため、保健休養、自然観察、野外生活体験、農林漁業体験等のための施設や広域的な歩道網を計画的に整備するとともに、自然環境保全活動への参加の促進に向けた人材の育成や情報提供、費用徴収を含めた管理の充実等を進める。

 (3) ミティゲ−ション(環境影響の回避、最小化と代償)

 国土開発に係る事業の実施に際して、自然環境の保全を図るには、環境影響評価の実施等を通じて、保全すべき場所の改変を避け、あるいは、これを最小にするなどの対策を優先しつつ、適切な対策を講ずる必要がある。

 このため、回避、最小化対策の検討の基礎となる環境情報の体系的な収集、整備と情報を広く提供するための体制の整備、施設の立地を計画する等の早期段階からの環境保全に関する調査、検討等を地域住民、専門家等の参加を得つつ進める。また、影響の回避、最小化の観点に立った対策をとることが困難な場合には、改変される自然環境の代償となるような自然的環境を地域の自然環境の特性を踏まえつつ、計画的に整備し、継続的に管理することが重要であり、このため、代償的措置や事後調査、それらの実施後の追加的措置の充実、事業主体及び代償的措置の実施主体と経費負担のあり方についての検討等を進める。


2 自然界の物質循環への負荷の少ない暮らし

 美しく健全な国土を回復するには、国土で展開される事業活動や生活活動による自然界の物質循環への負荷を少なくすることが不可欠であり、このような暮らしの実現に向けて、環境保全対策を推進する。

 (1) 地球温暖化対策

 地球温暖化は、人類の生存基盤にかかわる最も重要な環境問題の一つであり、被害が生じてから対策を講じることが著しく困難な不可逆的な問題であることから、将来世代に対する現在世代の責務として、二酸化炭素等の温室効果ガスの排出抑制等の取組を積極的に講じていく必要がある。

 このため、温室効果ガスの排出の少ない都市・地域構造、交通体系、生産構造やエネルギー供給構造の形成に必要な基盤施設の整備等を進め、国民一人ひとりが身近なところから生活様式を見直すための意識啓発と取組への参加を促すとともに、二酸化炭素の吸収と貯留の観点から、森林や都市等の緑等の保全と整備、木材の利用を進める。同時に、このための技術の研究開発、普及等を進める。また、自然界の物質循環への負荷の少ない国土を形成する観点から、気候変動に関する国際連合枠組条約第3回締約国会議(地球温暖化防止京都会議)で採択された京都議定書の着実な実施に向けた地球温暖化対策について総合的に検討を進め、必要な措置を講ずる。加えて、地球温暖化対策のための経済的措置に係る調査研究を進める。

 (2) 廃棄物・リサイクル対策

 廃棄物の量の増大や質の多様化、最終処分場の逼迫等の問題に対応するため、廃棄物等の発生抑制、再使用、原材料としての利用、エネルギーとしての利用を進めるとともに、発生した廃棄物等についてその適正な処理を行っていく必要がある。

 このため、廃棄物や建設副産物の種類に応じた資源の回収・利用体制の充実、整備等を図るとともに、リサイクル関連施設、焼却熱を活用し得る処理施設等の整備を進める。また、地域間の連携、環境の保全を図りつつ、最終処分場の確保を進め、特に大都市圏内の広域処理を推進する。加えて、最終処分場の設置と維持管理に対する規制や手続の整備、不法投棄対策の強化、原状回復措置の充実、公的関与による産業廃棄物処理施設の整備等を進める。

 (3) 自然の浄化能力等の活用

 自然の浄化能力や自然エネルギーに恵まれている地域では、物質循環への負荷の低減を図るにあたり、これらを活用することが重要である。

 このため、物質循環の視点を考慮しつつ、森林、水田、河川、藻場、干潟等の保全、整備、化学肥料や農薬の節減、家畜糞尿のリサイクル、汚水処理施設の整備、風力、地熱、廃熱等の地域エネルギーの有効活用施設の整備等を進める。さらに、生ごみ、汚泥等から創られる再生資源の効果的利用を図るため、都市部と農山漁村との連携強化に向けた条件整備を進める。

 (4) 都市・生活型公害等への対応

 人口、諸機能の集中等にともなう環境悪化が進んだ地域では、環境の回復に向けた取組を強力に進める必要がある。
 このため、窒素酸化物等による大気汚染、交通騒音、閉鎖性水域の水質汚濁等の解決に向けて、総合的に対策を進め、また、地下水の保全と回復のために必要な対策を講じる。さらに、大気、水域等を美しく快適な状態に回復させるための取組を促進する。
 また、ダイオキシン類や内分泌攪乱化学物質(環境ホルモン)等、人の健康や生態系に有害な影響をもたらすおそれのある化学物質の環境リスクを低減させるための取組を推進する。


3 地球時代の環境国際協力

 我が国は、国際社会の中で率先して地球環境問題の解決に向けて取り組むとともに、東アジアのモンス−ン地域に位置する国土の地理的特性をも考慮しつつ、協力関係を構築、強化することが必要である。

 このため、環境に関して相互理解を深めるための、草の根から地域、国までの様々な段階の国境を越えた交流、連携を促進する。さらに、これらを基礎として、国際的な取決めを考慮し、また、我が国が培ってきた環境の保全に関する技術や経験を生かしつつ、温室効果ガスや酸性雨原因物質等の排出の少ない地域づくり、森林の造成、湿地の保全等について協力を進める。あわせて、地球温暖化対策等に関する国際的な検討に積極的に参加していく。


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