「21世紀の国土のグランドデザイン」 第2部 第2章 第1節

第2章 文化の創造に関する施策


 文化とは人々の生活、生き方、考え方そのものの表現であり、今日においては、単なる経済効率の追求を超えて、国民がゆとりある生活を送り、国際的にも普遍性を持った我が国独自の文化を形成することが求められている。このため、ハードとソフトの両面において、ゆとりある生活を実現するための施策を展開するとともに、自然と人々の生活が織りなす国土を世界に誇るに足る美しいものに再生することが求められている。また、地域の特色ある文化は、地域のアイデンティティを形成し、住民が自らの住む地域に誇りと愛着を持つ契機となり、個性的で多様な地域づくりを支える柱となるものである。こうした観点から、人々の暮らしの選択可能性を高める多様な国土を形成するためにも、個性豊かな地域文化の創造と発信が求められている。国土政策においても、個々の文化振興施策の積み重ねだけでなく、文化を広く国民の生活様式としてとらえた総合的な対応が必要とされている。このため、文化に重点を置いた国土政策を次の基本的方向に沿って進める。

文化や美観を重視した国土の再生を図るため、アメニティや景観に配慮した生活空間の形 成を進めるとともに、歴史的街並みの保全や貴重な文化遺産の保護を推進する。
個性豊かな地域文化の創造と発信を図るため、地域における文化活動の環境整備、地域住 民が身近に文化・スポーツ活動に参加する機会や場の拡充、芸術文化の振興を図るとともに、学術、文化、スポーツ等における国際交流を推進する。
内外との地域間交流による新たな文化の創出と地域の活性化を図るため、国内外からの観 光等の交流を振興する。

第1節 ゆとりある生活空間の形成


1 自然や歴史と調和した美しい地域空間の形成

 これまでの経済成長と都市化の進展の中で、生活空間のゆとりが失われるとともに、地域の歴史、文化を物語る街並みや農山漁村の風景が崩れ、長年にわたり地域に保存、伝承されてきた伝統芸能や風俗慣習等の伝統文化も生活とのかかわりを失いつつある。このため、美しさとゆとりのある生活空間の形成を進めるとともに、地域の文化遺産等を活用した個性豊かな地域文化を育て、地域の誇りと生活の充実感を感じられる地域づくりを進める。また、こうした地域独自の文化を開花させるため、地域の多様な主体が担い手として参加することが期待される。

 (1) 美しさとゆとりを重視した生活空間の形成

 農山漁村等においては、長年の管理により美しく維持され、景観としても価値のある農山漁村や森林の保全と活用を進めつつ、生活環境の整備、地域の美しい居住空間の形成等を図り、あわせて中小都市との連携により都市機能を享受できる環境を整備する施策を展開する。都市においては、個々の建物のみに着目するのではなく、色彩、形状等を含め、借景の思想を生かした周辺の自然景観やスカイラインとの調和を図るとともに、電線類の地中化による電柱の除去等を進め、あわせて、美観を損ねるおそれのある屋外広告物への規制の実効性を高めるため、地区計画、条例に基づく広告物協定等の活用を図る。また、都市公園、水辺空間、散策路等、人々がくつろぎを感じられるゆとりある空間を整備するとともに、建築物の壁面や屋上の緑化等により、緑にあふれ、季節感のある空間の形成を進める。あわせて、周辺と調和したパブリック・アートの設置等により、美観に優れ、ゆとりある都市空間を形成する。

 また、我が国の歴史的環境の保全を図りつつ、歴史を生かしたまちづくりを進める観点から、歴史的に価値の高い伝統的建造物群の保存、活用等を通じた歴史的な街並みや集落の保護を促進するとともに、史跡や建造物等の保存、復元及び活用や、これらと一体をなす歴史的風土の保全を積極的に推進する。

 (2) 個性と伝統のある地域文化の保存と活用

 地域の風俗慣習や伝統芸能は、地域の生活や産業と密接に関連して形成、伝承されてきたものである。特に、中山間地域等を含む農山漁村においては、農地や森林、海とともに生きる個性豊かな生活文化が形成されており、食文化や伝統芸能、昔ながらの農器具、伐採用具、灌漑施設及び漁法等、有形無形の文化財として伝承されてきている。

 こうした伝統芸能や工芸技術、全国各地で伝承されている風俗慣習、民俗芸能等の無形の文化財の継承と発展を図るため、各地域における無形の文化財の公開・発表事業等の推進により地域住民の理解と認識を深めるとともに、伝承者の育成、確保等を通じて伝統文化の振興とそれを活用した地域の活性化に努める。また、伝承が困難なものについては、電子メディア等を活用した記録作成によりその保存と活用を図る。

 (3) 有形の文化財の保存と活用

 各地域に存する建造物や美術工芸品等の有形の文化財の一層の保存と活用を図るため、文化財の種類や特性に応じた修理事業や防災施設等の整備を計画的に推進するとともに、地域の博物館等において、地域住民が文化財等に身近に親しむ機会を拡充する。また、産業、交通及び土木にかかわる構築物等、文化財としての認識や評価が定着していない近代の文化遺産について、多様な保護手法の一層の活用や拡充により適切な保護措置を講じる。埋蔵文化財の保存と活用について広く国民の理解と協力を得ながら、各行政機関が適切に役割分担しつつ相互に連携し、埋蔵文化財の保護を推進する。また、開発事業と埋蔵文化財保護との調整を円滑に進めつつ、埋蔵文化財に関する専門的知識や経験を有する人材の育成及び確保、地域連携による相互派遣等を推進する。さらに、出土品の収納保管や調査成果の活用を行う埋蔵文化財センターの整備等を推進する。


2 多様な主体による地域文化・ゆとりある生活の構築

 地域住民がゆとりと充実感を感じられる生活の実現を図るためには、地域文化や地域づくりの本来の担い手であり、地域における生活の主役である地域住民が性別、年齢を問わず、その形成の過程に主体的に参加することが必要である。近年の住民の地域づくりへの参加意欲の高まりとボランティア団体や民間企業等の自発的な活動の活発化を踏まえ、多様な主体の参加と連携による地域づくりを進めるための施策を展開する。

 (1) 地域におけるボランティア活動等の推進

 地域住民がボランティア活動への参加を通じて、ゆとりと充実感を感じられる生活が実現できるようにするために、ボランティア休暇制度の導入等ボランティア活動への住民参加をより円滑なものとするための環境整備を図る。また、地域の貴重な自然や文化遺産等を守る上で、個人や団体が行う自然的歴史的環境保全のためのナショナルトラスト活動、グランドワーク活動等が重要な役割を果たすことから、これらに対する支援の充実を図る。

 (2) 特色ある産業等を通じた地域文化の形成

 特色ある伝統工芸や地場産業、商店街、観光等は、その地域に密着することで成り立っており、また、その地域固有の文化を支える基礎として地域産業が寄与している面も大きい。このように、地域の文化と産業は、地域の個性と豊かさを構成する両輪として密接な関係にある。かかる観点から、伝統的な地場産業等を核とするまちづくり等を通じて地域の活性化を図るとともに、伝統芸能、伝統工芸等に関連して様々な産業の活性化を図るなど、地域文化振興と地域産業活性化の連携による魅力的な地域づくりの展開を図る。

 (3) 企業文化の創造

 地域の文化や空間づくりを担う主体として、企業が個性豊かな美しい地域づくりに積極的に取り組むことが期待されている。このため、経営者及び社員が企業市民としての意識を持ち、それぞれの経営理念にあった活動を行うことができるような企業文化の創造と育成に向けた環境の醸成等を図る。また、芸術支援、自然保護等の分野における企業の社会貢献活動の推進のため、地域メセナ組織の結成と全国的ネットワークの形成を図る。


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