「21世紀の国土のグランドデザイン」 第2部 第3章 第3節

第3節 暮らしの安心の確保


1 豊かな長寿福祉社会の実現

 少子化、高齢化が進行する中で、子供を安心して生み育てられるとともに、高齢者等が安心して暮らし、また社会参加を通じて生きがいを感じることのできる、豊かな長寿福祉社会を実現する必要がある。このため、年齢、性別等を超えたあらゆる主体の参加の促進にも配慮しつつ、以下の施策を推進する。

 (1) 高齢者等が安心して暮らしていける社会的支援システムの構築

 高齢者や障害者が自立した生活を送ることができるよう、寝たきり等要介護状態の発生を極力防止するとともに、介護を必要とするに至った場合でも、利用者本位の質の高い多様なサービスを受けながら、安心して住み慣れた家庭や地域で暮らしていける社会的支援システムを構築する。

  (保健・医療・福祉にわたる総合的なサービス体系の確立)

 高齢者の要介護状態の発生を極力抑制するため、適切な健康診査やリハビリテーションが提供される体制を充実する。また、介護が必要な高齢者に対し、個々のニーズや状態に即した利用者本位の介護サービスが適切かつ効果的に提供されるよう、公的介護保険制度の下で、保健・医療・福祉にわたる介護の各サービスが一体的かつ効率的に提供される体系を確立する。さらに、多様なニーズに対応するため、民間事業者や住民参加の非営利組織等多様な事業主体の参入を促進するとともに、民間事業者による高齢者の保健、福祉のための総合的施設の整備を促進する。なお、以上の施策の推進に当たっては、情報通信技術を積極的に活用する。

 このほか、高齢者が自己の資産を有効に活用しながら介護費用や生活費用を確保すると同時に、高齢者の居住の安定を図る観点から、高齢者の所有する不動産を担保として高齢者に融資を行うリバースモーゲージの制度について検討を進めるとともに、高齢者の財産管理の支援等に資するため、痴呆性老人の権利擁護のためのシステムを構築する。

  (地域における介護サービスの基盤整備)

 高齢者が介護を必要とするに至った場合においても、できる限り住み慣れた家庭や地域で暮らしていけるよう、在宅サービスに重点を置いて、地域の実状に応じ、保健・医療・福祉サービスの質的、量的な充実を図る。このため、24時間対応の巡回型訪問介護(ホームヘルプサービス)の普及を含め、訪問介護の拡充を図るとともに、日帰り介護(デイサービス)や短期入所生活介護(ショートステイ)の実施施設、訪問看護ステーション等の整備を促進する。また、在宅での介護が困難な高齢者のため、特別養護老人ホーム、老人保健施設や療養型病床群等の整備を計画的に推進する。これらの施設の整備に当たっては、老人保健福祉圏域ごとの広域的な調整や計画的なまちづくりにも配慮しつつ、大都市等においては、公有地や低未利用地の活用、公営住宅等との複合化、小規模施設の設置等により用地問題に対応するとともに、中小都市等においては、複数市町村の連携による共同設置、運営等により効率的な施設整備を推進する。

 さらに、介護を担う人材の確保や資質の向上を図るため、訪問介護員(ホームヘルパー)等の養成研修の充実、強化、ナースセンター事業や福祉人材情報システムの推進を図るとともに、福祉用具の開発、普及を促進することにより、高齢者等の自立の促進及び介護者の負担軽減を図る。また、家族が介護と仕事を両立できるよう、介護休業制度の普及を推進する。

 老人性痴呆に対応するため、老人性痴呆疾患センターの整備等により相談・情報提供体制を充実するとともに、痴呆の進行を緩やかにするなどの観点から、痴呆性老人向けの日帰り介護や痴呆対応型共同生活介護(痴呆性老人グループホーム)の拡充を図る。

 障害者については、世話人付き共同生活住居(障害者グループホーム)や授産施設の整備による住まいや働く場の確保、在宅サービスを始めとする介護サービスの充実を図るとともに、生活訓練施設等の拡充を図ることにより、障害者の地域における自立の支援を促進する。

 (2) 福祉のまちづくりの推進

 高齢者等が安全に安心して活動できるよう、バリアフリーの連続性の確保に配慮しながら、住宅、公共施設等のバリアフリー化を推進する。

  (高齢者等に配慮した住宅の整備)

 高齢者等に配慮した仕様のための標準的な設計指針の普及やリフォーム技術の開発等により、高齢者等の自立や介護に配慮した住宅の建設、改造の促進を図る。また、今後の高齢者のみ世帯の増加を踏まえ、高齢者向け公共賃貸住宅の供給を推進するとともに、住宅施策と福祉施策の連携強化を図り、生活支援機能が付加されたシルバーハウジング、高齢者向け優良賃貸住宅、ケアハウス、有料老人ホーム等の整備を推進する。

  (安全、快適な活動環境の整備)

 高齢者等が安全に安心して活動できるよう、面的整備の中で福祉施設の計画的な配置にも配慮しつつ、公共的建築物、公共施設等のバリアフリー化、幅の広い歩道の整備や段差の切下げによる移動環境のバリアフリー化、福祉施設と公園の一体的な整備等を推進する。また、駅におけるエレベーター等の整備、ノンステップバス、リフト付きバス・タクシーの導入促進等を図るとともに、適切な情報提供を行うことにより、高齢者等が公共交通機関を安全かつ円滑に利用できるようにする。さらに、高齢ドライバーの増加に対応し、わかりやすい道路標識等の整備や福祉施設等の周辺地区における道路交通環境の整備等を図る。

 (3) 高齢者等の社会参加の推進

 高齢者等が意欲に応じて積極的に社会参加活動を行い、健康で生きがいを持って暮らしていけるよう、情報通信技術も活用しながら、高齢者等の就労の機会の確保や生涯学習・スポーツ、余暇活動、ボランティア活動等地域社会への参加を容易にするような環境整備を図る。

 また、高齢者の有する豊富な知識、経験を後世に引き継ぐとともに、高齢者の社会参加を促進するよう、高齢者と若年世代との多様な交流の機会を創出する。このため、多世代居住のための住宅・宅地の供給、公園、広場、公民館、スポーツ・レクリエーション施設等の交流拠点施設の整備等を推進するとともに、交流のためのイベントの実施、情報提供や相談体制の整備を図る。

 (4) 子育て支援体制の整備

 地域において安心して子供を生み育てることができ、子供自身が健やかに成長できるよう、子育て支援体制を整備する。このため、利用者の需要が見込まれる低年齢児保育、延長保育等の保育サービスの拡充を推進するとともに、多様な保育ニーズに対応した保育施設の整備や幼稚園の運営の弾力化を図る。また、地域全体の子育て家庭が、保育所等において身近に育児相談等を受けられるような地域子育て支援体制の整備・充実を図る。このほか、身近で安全な遊び場を整備するとともに、両親が子育てと仕事を容易に両立できるよう、育児休業制度の定着や労働時間の短縮、弾力化を推進する。


2 食料の安定供給の確保

 我が国の食料自給率は、平成8年度における供給熱量自給率が42%と先進国のうちでも極めて低い水準にあり、食料の過半を海外に依存している。一方、中長期的な世界の食料需給は、人口の大幅な増加や経済発展を背景とした畜産物消費の増大にともなって、食料消費が今後大幅に増加していくと見通される一方で、農用地の面的拡大の制約や環境問題の顕在化等、生産拡大を図る上での制約要因が明らかになっており、場合によってはひっ迫することも懸念される。

 食料は国民にとって最も基礎的な物資であり、国民に対し安全な食料を安定的に供給していく必要がある。他方、現在の豊かな食生活を前提とすれば、国土条件に制約のある我が国において、すべての食料を自給することは困難であり、食料の安定供給を確保していくためには国内生産、輸入及び備蓄を適切に組み合わせる必要がある。このうち国内生産については、世界の食料需給の見通しを踏まえ、可能な限り維持・拡大を図るとともに、水産資源の開発と利用を推進する。さらに、不測の事態にも対応し得る国内供給体制を確立するため、国内に一定の農業生産ポテンシャルを確保することが必要である。また、国際協力にも配意しながら、国際交流・連携を推進し、農水産物の国内生産を補完する輸入の安定化につなげる必要がある。

 (1) 農業における食料の安定的供給のための施策

 食料の安定的供給のためには、平素から優良農地、農業用水の確保や地力の維持及び増進に努めるとともに、技術・経営能力に優れた担い手の育成及び確保、農業技術の開発及び普及、等を図る必要がある。

 この場合、農地については、国土利用計画において2005年における面積を490 万haと見込んでいるところであるが、農地は、いったん改廃や転用されると、その回復には非常な困難を伴うものであり、今後ますます厳しい国際競争にさらされる中で、食料を適正な価格で供給していくためには、生産性の向上が不可欠であり、生産基盤の整備を進めるとともに、基幹かんがい排水施設を始め土地改良施設の高質化を図りながら計画的な更新を図っていくことが重要である。なお、沿岸域の農地防災対策も必要である。

 また、今後、優良農地の確保を基本としつつ、様々な形態での保全のあり方について、その要否、コスト面等を含めた検討も必要である。

 また、安定的な輸入の確保の観点から、グローバルな相互依存関係を強化する必要がある。このため、技術協力、経済交渉等国際協調を一層推進していくとともに、持続可能な農業の展開に配慮した国際的な協力関係の下、関係国間での食料国際供給ビジョンの作成に向けて調査を進める必要がある。

 (2) 水産業における食料の安定的供給のための施策

 国民にとって水産物は、日本型食生活の一翼を担い、動物性たんぱく源の約4割を供給している。しかし、我が国周辺水域における水産資源水準の低下と国際漁業規制の強化等から沖合、遠洋漁業の漁獲量は減少し、自給率は58%(平成8年度)と10年間で24%も低下している。また、我が国が水産物を大量に輸入している一方、世界の水産物生産量は大幅な拡大が見込めない状況であり、発展途上国等での需要増大により需給のひっ迫が予想されている。今後、水産業の総合的かつ有機的な安定供給体制の整備が急務である。

 このため、世界有数の豊かな漁場である我が国排他的経済水域において、再生産可能な水産資源の持続的利用のために、生産力の高い沿岸漁場の確保と漁場環境の維持、向上を図るとともに、新たな漁獲可能量制度等の実施による資源管理を積極的に推進する。さらに、担い手の育成と確保、水産物生産の基盤となる漁港と漁村の計画的な整備、海域の生産力の向上とつくり育てる漁業の推進等を図る。


3 エネルギーの安定的確保

 我が国経済の持続的発展の基盤を確保し、国民生活の安定を図る観点から、エネルギーの安定的かつ効率的な供給の確保が求められている。また、我が国がエネルギー供給の約8割を輸入に依存していること、中長期的には内外のエネルギー需給の不安定要因がなお大きいこと、地球温暖化の解決に向けて二酸化炭素の排出の抑制を図るべきこと等の諸状況を踏まえ、今後、持続的な経済成長、エネルギー需給の安定、環境保全という目標を同時に達成するための施策の展開が必要である。

 このため、新エネルギーの導入、省エネルギーの促進を図るとともに、需要の増大が見込まれる電力について、原子力発電等の推進により安定的な電力供給の確保を図る。

 (1) 新エネルギーの導入・省エネルギーの促進等

 地球環境問題等に資する太陽光発電等の新エネルギーの開発・導入の促進を図るとともに、新エネルギーの経済性の向上に資する供給需要両面からの施策を講ずる。また、地方公共団体、民間事業者等の新エネルギーの導入の取組を支援する。産業部門における省エネルギーへの取組を引き続き進めるとともに、エネルギー消費の伸びが高い民生・運輸部門において国民の理解と協力を求めつつ効率的な交通網の構築に努める等、省エネルギーの推進を図る。さらに、中長期的なエネルギー需給の不安定要因等を踏まえ、石油等の安定供給の確保を図るとともに、地球環境問題に適切に対応するため、天然ガスの導入に努めるほか、天然ガスパイプラインの可能性について経済性等を含め、検討が行われることが期待される。

 (2) 電力の安定的確保

 電力については、需要の増大に対応した安定的な電力供給を確保するため電源開発を行うとともに、電源の多様化の推進等により最適な電源構成の構築を進めることが必要である。このため、安全性の確保を最重点としつつ、国民の理解と協力を求めながら、運転時に二酸化炭素を排出しない原子力発電所の建設を着実に推進するとともに、関連する技術開発を推進する。原子力発電所等の立地の促進に際しては、既設地点・新設地点を問わず、広域的な視点に立った地域振興が必要であることから、長期的・総合的な地域振興計画への助言・協力を行い、電源三法等の諸制度を活用して総合的な基盤の整備を図るとともに、地域経済の自立的発展に向けた地域の主体的な取組を支援する。


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