第2節 情報通信体系の整備
1 情報通信体系整備の基本目標
高度な情報通信体系が持つ、国内外の地域間を直結する機能を生かし地域の自立のための機会の均等化を導くとともに、この体系が持つ多様な可能性を引出し国際競争と協調の下で我が国に新しい豊かな産業社会を築くことが求められている。このため、我が国を国土の隅々まで安定的で高度なネットワークインフラが整備され、だれもが何時でもそれを十二分に活用し、活力ある生活と産業活動を営むことを可能とする「情報活力空間」とすることを基本目標とし、公的部門と民間部門の適切な役割分担により、情報通信体系の整備を進める。また、環境への負荷の低減にも資するよう、情報通信体系の整備と活用を図る。これにより、地域連携軸の展開と広域国際交流圏の形成の促進に資するとともに、新しい国土軸が国内外と直結する基盤が築かれる。
2 利用条件均等化のための情報通信体系の整備
(1) 光ファイバ網等の全国整備
「情報活力空間」の形成の基礎として、通信ケーブルの光ファイバ化及び交換機の高度化を進め、大容量の通信が可能な高度なネットワークインフラの全国整備を図る。このため、国の指針に基づき、光ファイバ網整備について、民間事業者への支援措置を講じつつ、2000年までを先行整備期間として進める。その後も情報通信基盤の総体的整備を図る中で需要の顕在化等を勘案しつつ進めることとし、2010年を念頭に置いた早期の全国整備の2005年への前倒しに向けて、民間事業者の活力を生かし、できるだけ早期に実現できるよう努力する。また、民間主導による整備の原則の下、事業者への負担軽減、道路、河川空間等公共空間の一層の活用及び下水道等公的施設管理用等の光ファイバ網の民間事業者による活用のための環境整備を図る。さらに、地方公共団体及び国が地域情報化、防災、公的施設管理等を目的としてネットワークを構築する際に、相互に光ファイバ網等を活用するための環境整備を図る。
デジタル化については、当面の情報通信の高速化の需要にこたえるため、既存のネットワークを活用したISDN(サービス総合デジタル網)サービスの早急な全国普及を図る。さらに、広帯域ISDNの導入と普及に向けた実用化実験やATM(非同期転送モード)交換機の整備のための支援措置を講じつつ、光ファイバ網を利用した 100〜 200メガビット級の格段に高速化する通信環境の早期の実現を図る。
一方、無線通信については、携帯・自動車電話の移動通信サービスの利用条件の均等化を図るため、公的支援の活用等により中継局等の全国整備を促進する。
放送ネットワークについては、多チャンネル化、高機能化、高画質化を進める見地から、地上放送については2000年以前にデジタル放送が開始できるよう制度整備等を進めることを目標として所要の取組を推進することとし、衛星放送、CATVについても、デジタル化を促進するとともに、これらメディアの一層の普及、充実を引き続き図る。なお残っている難視聴地域や都市受信障害については、公的支援等による解消を推進する。
急激な高度情報化の進展の中で、需要密度の低い地域での光ファイバ網等高度なネットワークインフラの整備の遅れが、新たな地域格差を生じさせることのないよう、これら地域において、高度なネットワークインフラの整備を進める。
この際、地域の活性化施策と併せ進めることが重要であり、地域の自立の基礎を形成する地方中心・中小都市や地域の活性化に取り組む中山間地域等、交通サービスの享受に格差が避けられない離島、山間地などを中心に、地域が主体となってテレワーク(情報通信を活用した遠隔勤務)や教育、医療等の公的アプリケーションの開発と導入のためのプランを作成し、それに併せて、これら地域に光ファイバ網等の導入を図る。また、光ファイバ網を利用する高度なCATVの整備促進のための公的支援等の施策を推進する。さらに、公共行政サービス、公的施設の管理等の目的で設置される光ファイバやCATV等を民間事業者がネットワークとして活用できるよう、通信事業にかかわる業務委託制度の活用に向けた利用条件の整備等を図る。これらにより、多自然居住地域等での地域住民の利便性の向上と高度なネットワークインフラの戦略的、先行的な整備及び活用を促進する。
(3) 利用コストの低減等ソフト面での施策の推進
「情報活力空間」形成のためには、ハード面での基盤の利用条件と並び、その利用コストの均等化が求められる。このため、通信料金の遠近格差縮小に向け、より一層の競争促進のための努力を引き続き推進する。また、地域連携の進捗等も踏まえ、均一料金区域範囲の拡大の検討が必要である。料金体系については、大量の通信需要に相対的に安価でこたえられる定額制の導入等利用者の多様なニーズに柔軟に対応できる体系の実現を目指す。
現在急速に普及しつつあるインターネットについて、地域間での利用条件均等化、情報の受発信等による地域の活性化を進めるため、全国どこからでも市内通話料金でインターネットにアクセスできるようにすることを目指したインターネットのアクセス拠点の整備の促進や地方自治体等のインターネット利用促進のための取組等を支援する。
誰もが、情報通信の利便を享受できる情報バリアフリーな環境整備を図るため、端末やアプリケーションについて、高齢者等にも配慮した使い勝手のよいものとなるよう技術開発等を総合的に推進する。また、高齢者、視聴覚障害者の情報入手を可能とする字幕放送、解説放送の充実を図る。さらに、学校におけるインターネット等マルチメディアを活用した情報に関する教育や高齢者等にも配意した学習機会の提供、情報化関連のイベントの開催等情報リテラシー(情報活用能力)涵養のための多面的な取組を進める。
3 高度で安定的、効率的な情報通信体系の整備
(1) シームレスな多重的情報通信体系の整備
高度情報化が進展するにつれ、多様化、高度化するニーズにこたえる高度で効率的な体系の構築が求められる。このため、有線系中心の現在のネットワークから、有線系及び無線系それぞれが特性を発揮し、相互に補完、分担し合い、個々のネットワークがデジタル化され、相互の接続性に優れ、利用者があたかも一つのネットワークであるかのように利用できるいわば継ぎ目のないシームレスな多重的情報通信体系を整備する。
このため、光ファイバ網の整備に加え、有限な資源である電波の効率的な利用と新たな周波数帯域への利用拡大を図りつつ、無線系ネットワークの拡充と高度化を進める。特に、容量の面で光ファイバ網とのシームレスな通信環境形成の隘路となる可能性のある移動通信については、高速化、広帯域化等の研究開発の成果を踏まえ、光ファイバ網と円滑な接続が可能となる無線アクセスの実現を図る。利用範囲の広域性、同報性といった特長を有する衛星通信は、容量の面でも高度な情報通信体系全体の多様性や代替性、補完性を確保する上でより一層の活用が期待される。このため、衛星通信についてその利用の拡充に資する諸環境を整備するほか、一層の高速化、広帯域化、移動通信への活用を図るための技術開発を推進する。
これらにより、光ファイバ網の整備、放送のデジタル化と併せ、有線系と無線系、移動系と固定系の各種ネットワークがデジタル化され、シームレスに接続する「トータルデジタルネットワーク」の構築を目指す。
(2) 災害に対し粘り強い情報通信体系の整備
災害に対し安定的な体系を築くため、衛星通信等も活用した多重的情報通信体系の全国的整備を図るとともに、重要な施設の耐災性の強化、通信ケーブルの地中化、伝送路のバックアップ、停電対策等を事業者の負担軽減に配慮しつつ促進する。
災害発生時には情報に関するニーズが極めて大きいものの、被災地域では断線、停電による通信設備の機能不全及び問い合わせ電話による輻輳等により、情報収集、加工、伝達の各能力が著しく低下する。これを補うため、通信と放送の各手段の特性を最大限に生かした災害に対して粘り強い情報通信体系を整備する。このため、防災行政無線、優先電話等による被害情報等重要通信の確保、電話によりアクセス可能な情報の蓄積システムの開発と導入及び交番、郵便局等地域の既存ネットワークやコミュニティ放送、パソコン通信の利活用による、住民の安否情報等の多様な情報伝達方法の確保、衛星通信も含む無線通信の一層の活用等による多様な通信手段の確保等、各地域での災害に備えた体制整備を民間事業者の協力を得つつ進める。
4 高度情報通信社会の形成を先導する環境の整備
(1) 高度な情報通信の利用可能性の拡大と制度的枠組みの再構築
活力ある産業活動の実現や交通の代替機能の発揮等を通じた国民生活の利便性の向上及び環境への負荷の低減を進めるためには、知的活動の基盤となるネットワークや放送により流通するコンテンツ(情報の内容、主に画像や音声などの素材)の質的、量的充実やネットワークインフラの持つ能力を十全に利活用する先進的なアプリケーションの開発と普及が不可欠である。特に、先進諸国と比べこの分野での進捗の遅れが危惧されている我が国では、産業分野での国際競争力の確保の観点からも重要である。
政府機関等によるデータベースの整備と一般への公開、地方公共団体や民間企業によるデータベース構築への支援を行うことによりコンテンツの充実を図る。ネットワーク上の情報の流通を円滑化するため、GIS(地理情報システム)の整備、EC(電子商取引)、CALS(生産・調達・運用支援統合情報システム)等の実証、普及を推進する。また、行政サービス、教育、研究、学術、文化、医療、交通、防災等当面の需要の顕在化が見込める分野において、地域の活性化施策との連携にも配慮しつつ、地方自治体等の意欲等も勘案して、公的支援の活用等による公的アプリケーションの開発と利用可能性の実証、普及を促進し、地域における情報通信関連産業等の新規産業の創造、育成を促すとともに、民間を含めたアプリケーションの需要喚起を図る。これらの成果を踏まえ、既存の行政単位の枠を越えたより広域的、総合的な社会経済活動を支え得るよう、各アプリケーション等を統合し、また面的に広がりをもって活用するための環境を整備する。これらにより、ネットワークインフラの整備が促進され、その結果またコンテンツやアプリケーションの開発、導入を誘発するという好循環が生み出され、我が国全体の高度情報化を先導するとともに、産業の生産性の向上、情報通信関連産業のリーディングインダストリーへの成長や新たな関連産業の創出を図る。
こうした高度な情報通信の利活用方策の国民生活への定着のため、役場、郵便局等既存の公共施設を活用するとともに、セキュリティの確保、個人情報の保護等に十分配慮して、現行の関連する諸制度について、その目的に配意しつつ、体系的に点検し、それを踏まえた見直し等所要の措置を講ずる。
(2) 国際競争と協調・協力の推進
世界的潮流である高度情報化の中で、次世代の情報通信体系構築のため、広帯域ISDN、全光処理システム、成層圏無線プラットフォーム、ISDB(総合デジタル放送)等の技術開発を推進する。また、この分野での我が国の国際競争力の一層の強化を図る観点から、開発した技術が世界をもリードし得るレベルとなることを目指し、公的部門と民間部門の緊密な連携の下で、所要の資金を確保し技術開発を強力に推進する。
地球時代の高度情報化を支える世界的にシームレスな情報通信体系構築のため、国際協調と協力の下で諸施策を推進する。世界共通の陸上移動通信システム(IMT-2000/FPLMTS) 等国際的な通信システムの標準化に積極的に取り組むとともに、それを踏まえた世界共通のアプリケーションの開発、実証のため、世界的規模の共同プロジェクトを推進する。また、著作権のあり方等制度面での国際的調和を図る。さらに、グローバルなネットワークの構築のための開発途上国における情報通信基盤整備への支援を進めるとともに、映像国際放送、放送番組の交流や共同制作等により放送メディアによる国際的な相互理解の促進を図る。