上下水道

カンボジアにおける取組

プノンペンの奇跡

 カンボジアでは、1970年代から1990年代初頭まで続いた内戦により水道施設が破壊されたまま十分な維持管理が行われておらず、加えて、施設の管理・運営に当たる人材も不足していました。そのため、当時、給水量は人口の増加に追いつかず、水質も世界保健機関のガイドライン値を満たしていませんでした。そこで、JICAは1993年から首都・プノンペンにおいて水道インフラ整備に関するマスタープランの作成を支援し、1994年から2006年にかけてプノンペンの水道事業を担うプノンペン水道公社(PPWSA)に対して、作成したマスタープランに基づく施設整備に関する協力を行いました。併せて、日本の自治体や日本水道協会の職員、学識経験者等が専門家として派遣され、人材育成に関する支援も行われました。
 こうした取組により、2006年には24時間給水を達成、無収水量率は8%に改善、水質は蛇口から直接飲めるほどにまで向上しました(2005年に飲用可能宣言)。途上国において、10年という短期間でここまで水道が整備された例はなく、「プノンペンの奇跡」と呼ばれています。
 その後も、プノンペンと8つの地方都市で、インフラの拡張・整備に関する支援や水道事業者の維持管理や経営、財務、料金徴収などの能力強化に関する支援が行われました。2018年からは上記の8都市以外の地方都市を含む全国を対象とする水道行政への協力も行われていて、水道に関する法律の整備や、事業者の認可や規制・監督などを行う中央省庁職員たちの能力強化なども実施されています。

北九州市のカンボジアにおける技術支援

 北九州市は、旧厚生省とJICAの要請を受け、1999年よりJICA専門家として技術協力のためプノンペン水道公社に職員を派遣して以来、強固なパートナーシップを構築しています。配水管網を複数のブロックに分割し、ブロック毎にメーターを設置して、水圧や流量データを24時間遠隔監視する配水ブロックシステムをプノンペンに導入しました。この結果、支援開始当初は72%だった無収水率が2006年には8%にまで減少し、水道公社の財政状況は改善しました。そこで水質の改善に関わる財政的な余裕が生まれ、蛇口から飲めるまでに水質を改善することに繋がりました。専門家派遣に加え、北九州市において研修を実施しています。研修を受けたPPWSA職員は数百人に上り、その職員らが現在の組織の中核となっています。
 こうした取組を続けることで築いたPPWSAとの厚い信頼関係を背景に、北九州市海外水ビジネス推進協議会※の会員企業がカンボジア国内の水関連事業を受注しており、地元経済の活性化にも貢献しています。
※北九州市における官民連携による海外での水ビジネスに向けた取組を積極的に推進することを目的として、発足した官民連携組織です。地元を中心として約140社の民間企業のほか、中央省庁、大学等の関係機関が加入しています。

国土交通省のカンボジアにおける水道事業展開に向けた取組 ※2023年度より前の取組は厚生労働省が実施

技術セミナーの開催
 2008年度よりカンボジア工業科学技術革新省及び北九州市と共同で、我が国の水道事業展開に係る政策・技術セミナーを延べ17回開催しています。2024年度には、水道行政が厚生労働省から国土交通省に移管されたことに伴い、国土交通省が新たに主催者となり、初めて水道と下水道との両方をテーマにしたセミナーを開催しました。
○直近で開催したセミナー
 第17回日カンボジア上下水道セミナー(2024年12月24日~25日)
 <セミナー概要>

  • 両国から自国の水道行政及び下水道行政の最新の取組状況と課題について報告された。また、本邦企業から、自社の技術やサービスがどのように行政課題の解決に貢献できるかについてプレゼンテーションが行われた。
  • 国土交通省から、水道行政と下水道行政を一体的に推進することの効果等について講演を行った。カンボジアの水道行政及び下水道行政が抱える渇水等の気候変動による悪影響への対応について、日本の取組を共有するとともに、今後もカンボジアが抱える課題に対して効果的な取組の事例を共有していく意向を示した。

  • 覚書の締結
     2024年12月24日、カンボジア王国工業科学技術革新省と国土交通省との間で、「持続可能な水供給協力に関する技術協力覚書」を締結しました。これまで、2011年にカンボジア王国工業科学技術革新省と厚生労働省との間で、水供給に関する協力覚書を締結し、2016年、2020年と更新していましたが、2024年度に水道行政が国土交通省に移管されたことに伴い、今回は国土交通省として覚書を締結しました。
    <覚書の概要>
  • 日本側の署名者は厚生労働大臣から国土交通大臣に。
  • カンボジア王国政府の目標及びカンボジアにおける持続可能な開発目標(SDGs)を達成するため、我が国の官民の水道分野における知見や技術を、本覚書に基づく双方の協力活動に活用。
  • 両国はカンボジアにおいて、全ての者が水供給及び衛生行動に係る施設及びサービスであって地球規模課題(例えば、気候変動、パンデミック)に対して強靱であるものにアクセスできる社会を醸成。
  •           覚書締結の様子

    カンボジアにおけるJICAの支援事業実績

    <プノンペン都>

     1993年  プノンペン市上水道整備計画調査(開調)
     1994年~1996年  プノンペン市上水道整備計画(無償)
     1997年~1999年  第2次プノンペン市上水道整備計画(無償)
     1999年~2002年  個別専門家派遣(技協)(北九州市より職員派遣開始)
     2001年~2003年  プンプレック浄水場拡張計画(無償)
     2003年~2006年  水道事業人材育成プロジェクト フェーズ1(技協)
     2004年~2006年  プノンペン市上水道整備計画調査(フェーズ2)(開調)
     2007年~2012年  水道事業人材育成プロジェクト フェーズ2(技協)
     2009年~2014年  ニロート上水道整備事業(有償)
     2012年~2018年  水道事業人材育成プロジェクト フェーズ3(技協)
     2018年~2022年  水道行政管理能力向上プロジェクト(技協)
     2020年~  タクマウ浄水場拡張事業(事業権無償)
     2022年~  プンプレック上水道拡張計画(事業権無償)
     2023年~  全国水道事業計画策定プロジェクト(開調)
    ※技協:技術協力、開調:開発調査型技術協力、無償:無償資金協力、
    有償:有償資金協力(円借款)、草の根技協:草の根技術協力、
    事業権無償:事業・運営権対応型の無償資金協力

    <カンボジア国地方都市>
     1996年~2000年  シェムリアップ市上水道整備計画調査(開調)
     2003年~2006年  シェムリアップ市上水道整備計画(無償)
     2010年~2013年  都市州都における配水管改修及び拡張計画(無償)
     2012年~2023年  シェムリアップ市上水道拡張整備事業(有償)
     2013年~2015年  シェムリアップ市における水道施設管理(草の根技協)
     2014年~2016年  コンポンチャム及びバッタンバン上水道拡張計画(無償)
     2015年~2018年  カンポット上水道拡張計画(技協)
     2019年~2023年  プルサット上水道拡張計画(無償)
     2022年~  スバイリエンにおける上水道拡張計画(無償)
    ※技協:技術協力、開調:開発調査型技術協力、無償:無償資金協力、
    有償:有償資金協力(円借款)、草の根技協:草の根技術協力

    カンボジアにおける主な事業

    〇タクマウ上水道拡張事業(2022年~)
     首都プノンペン近郊のタクマウ市において、取水施設、浄水施設等を新規に整備して、水供給能力を向上させる事業です。JICA初の事業・運営権対応型の無償資金協力事業※で、施設整備に加え、運営・維持管理も本邦企業が担います。日本の持つ、施設整備、運営・維持管理を効率的に行うノウハウにより、水道料金を抑制しつつ、比較的貧困層の多い地域においても、質の高い給水サービスを提供することが期待されています。
     2025年にはタクマウ浄水場が竣工し、8月14日に竣工式典が開催されました。
    (参考)北九州市上下水道局 報道発表
    ※事業・運営権対応型の無償資金協力
      経済便益は高いものの、事業採算性が低い官民連携(PPP)事業において、開発途上国政府が事業費の一部を負担することにより採算性の確保が見込まれる事業に対して行う無償資金協力。施設建設から運営維持管理まで包括的に実施する公共事業が対象。 (出典)JICA年次報告書 2020

    <事業概要>

     案件名  タクマウ上水道拡張事業
     発注者  カンボジア王国 プノンペン水道公社(PPWSA)
     構成企業 (株)クボタ建設(代表企業)
    (株)神鋼環境ソリューション
    (株)北九州ウォーターサービス
    (株)建設技研インターナショナル
    (株)TECインターナショナル
     事業期間  設計・建設:約45ヶ月(2022.3~2025.12(予定))
     運営:10年間(施工完了後、設置したSPCにより運営)
     工事概要  下記施設の設計および建設
     浄水施設(30,000m3/日)及び管理棟・電気室等、取水施設、導水管敷設、
     配水ポンプ設備、敷地内配管
     運営・維持管理 
       ・施工後に現地に設立される特別目的会社(SPC)がPPWSA と契約を通じて事業権を取得し、施設運営・維持管理、用水供給を実施。
       ・運営・維持管理費はSPCが負担。
       ・PPWSA は浄水した水を買い取り、配水を行う。
     契約金額  28.8億円

    お問い合わせ先

    国土交通省水管理・国土保全局上下水道企画課 (上下水道審議官グループ) 上下水道国際室
    電話 :03-5253-8111(内線34116、34137)

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