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平成14年度観光の状況に関する年次報告

第2章 観光をめぐる課題 ~訪日外国人旅行者倍増に必要なこと~

第2節 訪日外国人旅行者の行動と受入れ体制の実態

3 市町村,観光関連施設の取組みと抱える課題


外国人旅行者の訪日促進に当たっては,市町村,観光関連事業者が外国人旅行者を迎え入れる体制が整っていることが前提となる。近年,一部の地方公共団体や観光施設では,日本人の入込みが低調である一方で外国人の伸びが期待できることから,外国人旅行者の受入れに取組み始めたところがみられるが,様々な課題も聞かれる。
そこで,ここでは,アンケート調査結果をもとに,市区町村及び観光関連施設が行っている取組み,抱える課題等について記述する。

  (1) 市区町村の取組みと課題

以下は,平成15年3月に実施した市区町村に対するアンケート調査結果であり,特に断りがない限り,母数は1,435サンプルである。
1)外国人旅行者の入込み数の増減
外国人旅行者の入込み状況が把握できる市区町村(227サンプル)に入り込みの増減を尋ねたところ,34%の市区町村が増加傾向にあると回答した。一方で減少傾向にあると回答した市区町村も15%程度ある(図2-2-7)

図2-2-7 市区町村におけるここ最近数年間の外国人旅行者入り込み数の増減状況



2)現在行っている外国人旅行者の受入れに関する取組み
市区町村が現在実施している外国人旅行者の受入れに関する取組みとしては,外国語版観光案内パンフレット・ガイドブックの作成・配布は(31.3%)と3割を超えるが,道路標識,観光案内標示等の多言語化(17.6%),国際交流イベント等の開催(13.7%)は10%台で,多言語版ホームページ(8.2%),外国人対応可能な観光案内所(3.8%)はほとんどの市町村で取り組まれていないことが分かる(図2-2-8)

図2-2-8 外国人旅行者の受け入れに関して市区町村が実施している取組み



3)外国人旅行者の誘致・受入れ施策への今後の取組み姿勢
外国人旅行者の誘致・受入れの取組み姿勢については,「きわめて積極的」と回答した市区町村が全体回答の1.8%,「どちらかといえば積極的」と回答したのが8.4%であり,積極的な姿勢を示しているのはまだ10%程度である。ブロック別にみると,積極的な姿勢が最も多いのは北海道であり,14.8%の市町村が「きわめて積極的」か「どちらかといえば積極的」である(図2-2-9)

図2-2-9 市区町村における外国人旅行者誘致・受入施策の今後の取組み姿勢



一方,「どちらかといえば消極的」と回答した市区町村が36.7%あるが,これらの市区町村に消極的である理由を尋ねると,「知名度のある観光地や交通ターミナルからの交通の便が悪く,集客が見込めないから」(51.8%),「外国人旅行者にアピールしそうな魅力的な観光資源が少ないから」(50.1%),「外国人旅行者対応の施設整備やスタッフの増強等コストの負担が大きいから」(31.5%)などが挙げられており,外国人旅行者の入込みをそもそもあきらめているか,経費面の負担がネックになっていることが伺える。
4)外国人旅行者の誘致・受入れを進める上で今後取り組むべき課題
今後外国人旅行者の誘致・受入れを進める上で取り組むべき課題と認識しているのは,「外国人旅行者に対応した観光案内機能(案内所,案内標識,パンフレット等)の強化」(42.0%)が最も多いが,「周辺市町村との連携強化」(36.4%),「語学力や専門知識を備えた職員・関係スタッフの養成」(32.3%),「都道府県との連携強化」(30.8%)も多く,体制の整備が急務であるとの認識を示していることが分かる(図2-2-10)

図2-2-10 市区町村が外国人旅行者の誘致・受入れを進める上で,今後,取り組むべき課題



5)外国人旅行者の誘致・受入れに関する国への要望
外国人旅行者の誘致・受入れを進めるに当たって国に要望したい事項としては,「観光地案内標識等の標示・案内等の充実・多言語化」が最も多く挙げられており,32.0%の市区町村が回答している。次いで,「観光案内所の充実」(26.9%),「人材の育成」(26.7%)が多いが,「インターネットによる観光情報の提供,宣伝活動」(25.6%),「訪日促進キャンペーンの実施」(18.7%)も多く,海外への情報提供面での国の取組みへの期待も大きいことが分かる(図2-2-11)

図2-2-11 市区町村の外国人旅行者誘致・受入れに関する国への要望




  (2) 観光関連施設等の取組みと課題

以下は,平成15年3月に実施した,集客施設等に対するアンケート調査結果である。特に断りがない限り,母数は333サンプルであり,施設等の種類としては,博物館,美術館,資料館等「文化・教育施設」(24.0%),遺跡,城,寺社等「史跡・歴史的建造物施設」(22.2%),伝統芸能,観光イベント等「郷土芸能・祭・イベント」(14.1%),山岳,湖水等の展望施設,ビジターセンター等「自然景観・固有動植物等の見学施設」(10.2%)等である。
なお,本調査では全国の主要な施設等に調査票を発送したが,回収できたのは限られたサンプルであり,しかも外国人旅行者の受入れに熱心な施設等ほど回収率が高いことが予想されることから,結果の解釈には留意すべきである。
1)外国人旅行者の入込み数の増減
外国人旅行者の入込み状況が把握できる施設等(90サンプル)に入り込みの増減を尋ねたところ,34%の施設等が増加傾向にあると回答し,減少傾向と回答したのは10%であった。これは市区町村の回答に比べ,減少傾向とする回答がやや少ない(図2-2-12)

図2-2-12 観光関連施設等におけるここ最近数年間の外国人旅行者入込数の増減状況



2)現在行っている外国人旅行者の受入れに関する取組み
施設等が現在実施している外国人旅行者の受入れに関する取組みとしては,外国語版観光案内パンフレット・ガイドブックの作成・配布(64.0%)が最も多く,次いで外国語の案内板・説明板の設置(30.6%),外国語版ホームページの開設・運営(15.0%)が続く。外国人旅行者用割引料金制度も1割程度の施設で行われている(図2-2-13)。(先に述べたように,本調査はサンプル調査であり,全国の施設においてこの比率で取組みがなされているとは断言できない。)

図2-2-13 観光関連施設等における外国人旅行者受入れのための取組み状況



3)外国人旅行者に対応可能な外国語
外国人旅行者向けの情報提供や案内標識,緊急時等に対応可能な外国語としては,英語が最も多く(64.3%),次いで韓国語(16.8%),中国語(簡体字)(13.2%),中国語(繁体字)(8.7%)と続いている(図2-2-14)

図2-2-14 観光施設における外国人旅行者向けの情報提供や案内標示,緊急時等に対応可能な外国語



4)外国人旅行者の誘致・受入れ施策への今後の取組み姿勢
外国人旅行者の誘致・受入れの取組み姿勢については,「きわめて積極的」と回答した施設等が全体回答の7.2%,「どちらかといえば積極的」と回答したのが19.5%であり,積極的な姿勢を示しているのが27%程度ある。これは市区町村の数字10%程度を大きく上回っており,市区町村に比べ施設等の意識の方が高いことが分かる(図2-2-15)

図2-2-15 今後に向けた観光関連施設等における外国人旅行者誘致・受入施設の取組み姿勢



一方,「どちらかといえば消極的」と回答した施設等が11.1%あるが,これらの施設等に消極的である理由を尋ねると,「知名度のある観光地や交通ターミナルからの交通の便が悪く,集客が見込めないから」(40.5%)と,「外国人旅行者対応の施設整備やスタッフの増強等コストの負担が大きいから」(40.5%)が並んで最も大きな理由となっている。
5)外国人旅行者の誘致・受入れを進める上で今後取り組むべき課題
今後外国人旅行者の誘致・受入れを進める上で取り組むべき課題と認識しているのは,「外国人旅行者に対応した観光案内機能(案内所,案内標識,パンフレット等)の強化」(52.3%),「語学力や専門知識を備えた職員・関係スタッフの養成」(52.3%)が最も多いが,「都道府県との連携強化」(29.7%),「周辺市町村との連携強化」(29.4%)も多く,地元自治体との連携に取り組んでいきたいという考えが見受けられる(図2-2-16)

図2-2-16 外国人旅行者の誘致・受入れを進める上で,今後,取り組むべき課題



6)外国人旅行者の誘致・受入れに関する国への要望
外国人旅行者の誘致・受入れを進めるに当たって国に要望したい事項としては,市区町村と同様に「観光地案内標識等の標示・案内等の充実・多言語化」が最も多く(45.3%),次いで,「観光案内所の充実」(40.5%)が挙げられている。これに続けて「訪日促進キャンペーンの実施」(32.4%),「インターネットによる観光情報の提供,宣伝活動」(32.1%),「国際観光振興会(JNTO)の活動強化」(15.6%)も多く,海外への情報提供面での国の取組みへの期待も大きいことが分かる(図2-2-17)

図2-2-17 外国人旅行者誘致・受入れに向けての国への要望



  COLUMN 1 外国人旅行者受入れ先進事例  

本文に記載しているように,市区町村等が外国人旅行者を受入れるに当たっては様々な課題があるが,ここでは,先進的に取り組んでいる事例のいくつかを紹介する。
■ 中国語講座の開設 ~登別市における取組み~

登別市は,11種類の泉種と1日1万トンの湧出量を誇る国内有数の温泉と,地獄谷に代表される優れた天然資源に加え,3つのテーマパーク(のぼりべつクマ牧場,登別伊達時代村,登別マリンパーク・ニクス)等の魅力ある観光資源を有し,平成13年度には65千人の外国人宿泊客が訪れた。同市では,更なる訪日外国人旅行者の受入れ増大を目指し,取組みを強化している。例えば,日英韓中4ヶ国語で観光パンフレットを作成しており,平成15年度には4ヶ国語によるホームページの開設や案内板を整備するなど,受入れ態勢のより一層の充実に努める予定である。
また,登別市を含む西胆振市町村と各観光協会は,この地域を訪れる中国語圏からの観光客増加を雇用創出に結びつけようと「西胆振雇用観光協議会」を結成し,中国人留学生等を講師に招き,ホテルや土産物店等の従業員を対象に,初・中級の講座を開設している。このような取組みによるサービスの向上を目指し,土産物店等の売上増加にも繋がるものと期待しているとのことである。

中国語テキスト



■ 日本文化を通じた外国人との交流 ~成田市における取組み~

成田市は国際空港を有することから 外国人旅行者が多く滞在する都市であるが,ここでは,成田市の観光情報の提供及び日本文化の体験を目的に成田観光館を設置している。館内は通常は英語の対応であるが,国際交流協会主催のイベント開催時には多言語通訳で対応を行っている。また,毎月第三火曜日に「日本の香りをあなたに」という交流事業の一つとして,来館する外国人等に日本の着物の着付け,茶道,折り紙,華道,書道を無料で体験させ日本文化に直接触れてもらっている。これは,昨年2月よりユネスコ協会が主催で始めたもので,講師はボランティアで募った28名が毎月交替で協力している。訪れる外国人等に大変好評であると同時に講師にも喜ばれているとのことである。

日本文化の体験交流事業



■ 地域FM放送やステッカーを活用 ~下関市における取組み~

韓国・釜山市及び中国・青島市からのフェリーの玄関口となっている下関市には,韓国人や中国人をはじめとする外国人旅行者が多数訪れている。このような環境の中,下関市においては,地域住民の外国人旅行者に対するウェルカムマインド(おもてなし意識)の醸成のために,外国語のミニ講座や,例えば,外国語によるあいさつをしよう,という啓発番組などを地域FM放送により行っている。また,韓国語対応ができるレストラン・ホテルには,ハングルで歓迎の意を記したステッカーを配布し,表示してもらうことにより,韓国人旅行者が安心して利用できる環境を整えている。

ステッカー「ようこそ下関市へ」



■ 観光施設における多言語解説機の設置 ~長崎市における取組み~

長崎市には,13年に68千人の外国人宿泊者が訪れているが,これを受けて,市では観光パンフレット,案内図,解説等の多言語化を進めている。例えば,市内観光案内パンフレットは英語のほか,中国語(繁体字・簡体字),韓国語を用意し,また平和公園周辺ほかグラバー園内等の案内板は4言語である。

平和公園の案内板



さらに,原爆資料館は英語,中国語,韓国語,スペイン語で解説を聞くことができるイヤホン機を貸与しており,また,出島シアターでは,英語,オランダ語,中国語,韓国語で解説を聞くことができるイヤホン機が備え付けられている。

出島シアターのイヤホン機



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