平成15年度観光の状況に関する年次報告
第2章 観光立国、この1年の動き
第5節 観光立国,この1年の動き
政府が観光立国としての基本的あり方を示した観光立国懇談会報告書を手にしてから1年余が経過した。その後小泉内閣総理大臣の強いリーダーシップの下,観光立国関係閣僚会議を開きながら,政府は従来の観光行政に加え,様々な観光立国に向けた新たな取り組みを行ってきた。
それは例えば,ビジット・ジャパン・キャンペーンである。平成15年度に本格的に開始したこの事業は,まず外国人の訪日旅行の傾向・嗜好を知る市場調査から始めた。そしてそれを踏まえつつ,海外のマスコミ等を通じた日本の魅力の情報発信や,海外の旅行会社に対する訪日ツアー造成支援等を行ってきた。この分野に知見を有する民間事業者等の意見に耳を傾けながら進めてきているところであるが,2年目の今年度は,1年目の事業の実績,成果等を踏まえ,ますます効果的なキャンペーンを展開する必要がある。
また,わが国の外国人旅行者受入れ体制等を外国人に評価してもらった。このため,観光大国等の在日大使等から意見を聞く会合を開いたり,外国人旅行者によるモニターツアーを実施した。いただいた指摘事項の多くは,案内表示の多言語化,風呂の入り方など日本独特のマナーの周知,外国人旅行者の入国審査の待ち時間短縮,海外発行クレジットカードのATMでの利用可能性に関する周知など日本人が日頃気付かないものばかりであった。これらは,手をつけられるものはすでに改善を始めているが,課題が整理された2年目の今年度は,外国人旅行者受入れ環境を本格的に整備すべき時である。そして,改善した箇所も含め引き続き外国人の意見に耳を傾けつつ,さらなる改善に取組んでいく必要がある。
地方においても,外国人旅行者を受け入れようという動きが少しずつ見られる。例えば第3節でみた長崎県平戸市は,人口2万4千人の小都市であるが,4ヶ国語の多言語案内標識を設置した。そしてこうした動きは徐々に広がりつつある。このような地方の動きは大切にし,ビジット・ジャパン・キャンペーンの地方連携事業として,あるいは標識の設置に係るガイドライン策定などの側面から支援することが期待されている。また,総務省も平成16年度,外国人旅行者の誘致を目的とした広報や受入体制整備などのソフト事業経費について250億円の地方交付税措置を講じており,これも地方の動きを活発にするものと期待される。
一方,平成15年8月の内閣府の世論調査によると,外国人旅行者が増えることについて,増えて欲しいと答えた国民が約48%いる一方,増えて欲しくない国民も約32%いることが分かった。したがって,政府や都道府県,市町村は,観光立国の国民への浸透,とりわけ外国人旅行者を迎えて住んでよし,訪れてよしの国づくりを行うことの意義,楽しさ,心地よさ等についての理解を,本年度も引き続き求める必要があろう。
観光でまちおこし,むらおこしを行い,国内外の多くの観光客を招き入れている地域の動きについては,従来から全国にいくつもある。そうした地域には,得てして仕掛け人がいる。それぞれの地域の魅力を知り,独自のセンスとアイデアで活かしそして演出し,粘り強く信念を貫き通した努力の人々がいる。このような地域を全国に増やしていくには,例えばこのようなカリスマ性のある先達のノウハウを学ぶ機会を設けるということが極めて効果的であろう。また,このような観光に元気な地域を面的にネットワークさせるためなどのインフラ整備も必要である。
また,アンケート調査によると,地域で観光を進めようとしているNPO法人には行政との連携を求めるものが多い。しかしながら,その求めている連携の形は千差万別であろう。したがって,政府がある地域を支援し促進する方策も,地域の人々の目標,取組み手法などによって全く異なるであろう。したがって,そのような地域の人々の意思に十分耳を傾けながら,政府として実施すべきことについて速やかに実施に移すことが重要である。
小泉内閣総理大臣が掲げた訪日外国人旅行者を2010年に倍増するという目標に関しては,観光立国1年目はSARSなど特殊事情で出鼻をくじかれたような形でスタートしたが,それも8月以降は前年に比べ大幅な増加を記録し,15年度でみると534万人とワールドカップで史上最高となった14年度をやや上回る結果となった。これは小泉総理の呼び掛けに呼応してビジット・ジャパン・キャンペーンをはじめ政府の取組みが本格化し,また全国各地において観光立国に向けた取組みが活性化したからとも思われる。観光立国2年目は,1年目の実績を厳しく検証しながら,「PLAN・DO・SEE」のマネジメント・サイクルに則り,より効果的,効率的に施策を推進していく必要がある。
具体的成果が求められる2年目である。
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