前(節)へ   次(節)へ
平成18年度観光の状況

第I部 観光立国の新たな展開

第2章 観光による経済効果

第1節 観光が我が国全体にもたらす経済効果



  1 平成17年度の経済効果


  (1) 観光消費の現状

我が国における観光消費額については、平成15年度から承認統計「旅行・観光消費動向調査」を実施し、毎年度推計を行うとともに、観光消費の経済効果についての世界標準的な統計手法であるTSA(Tourism Satellite Account)にのっとり、観光消費の経済波及効果を推計する「旅行・観光産業の経済効果に関する調査研究」を実施してきている。
最新の調査結果である平成17年度における国民の国内での観光消費額は、宿泊旅行が16兆41百億円(対前年度比1.4%減)、日帰り旅行が4兆66百億円(対前年度比2.7%増)となっており、愛知万博の開催等もあって日帰り旅行の消費額が前年度に比べ増加したものと推測される。
また、訪日外国人の我が国国内での観光消費額は、1兆65百億円(対前年度比3.9%増)であり、訪日外国人数の増加に伴い、前年度より増加した。
これらを合計した我が国の国内観光消費額は、前年度とほぼ同程度の24兆43百億円と推計される(図I-2-1-1)。

図I-2-1-1 国内の観光消費額24.4兆円の市場別内訳




  (2) 観光が我が国全体にもたらす経済効果

上記の平成17年度国内観光消費額24兆43百億円による我が国経済にもたらす直接的な経済効果は、直接の付加価値誘発効果が12兆34百億円、雇用誘発効果が229万人と推計される。
さらに、この観光消費がもたらす間接的な効果を含めた生産波及効果は、55兆31百億円(国内生産額の5.8%)、付加価値誘発効果は29兆67百億円(国内総生産(名目GDP)の5.9%)、雇用誘発効果は469万人(全就業者数の7.3%)と推計される(図I-2-1-2)。

図I-2-1-2 我が国経済への貢献(経済効果)




  (3) 観光の我が国産業への経済効果

我が国の観光消費は、観光関連産業への直接的な経済効果をもらたすとともに、観光関連産業の雇用者による家計消費への刺激により、国内の幅広い産業へ生産波及効果をもたらす。
旅行消費額の関連産業への直接的経済効果は、運輸業6兆36百億円、宿泊業4兆26百億円等、観光に直接関係する産業への効果が大きい。
一方、平成17年度の経済効果の推計によれば、上述の産業のほかでは、農林水産業1兆28百億円、食料品産業3兆88百億円、飲食店業3兆07百億円となっており、雇用誘発効果でみると、農林水産業54万人、小売業72万人と推計され、運輸業、宿泊業のみならず、農林水産業や食料品・小売業等他産業への波及効果も大きいことが分かる(図I-2-1-3)。

  (4) 観光と他分野の投資の生産波及効果の比較

平成17年度の推計によれば、観光消費による生産波及効果(生産誘発係数)は1.71であり、これを、既存の調査分析データに基づく、公共事業投資や科学技術関連投資、情報化投資の生産誘発係数と比較すると、同程度であることが分かる(図I-2-1-4)。

図I-2-1-3 産業別経済効果




図I-2-1-4 生産誘発係数の比較




  (5) 観光消費額の国際比較

我が国の国内観光消費額について、TSAに基づくデータ整備を行っている諸外国との国際比較を行うと、以下の表のとおりとなっているが、外国人による観光消費額は、国内の全観光消費額の6.7%を占めるに過ぎず、他国と比べても著しく低い比率となっている(図I-2-1-5)。

図I-2-1-5 観光消費額の国際比較




  2 平成22年度(2010年度)の経済効果の推計

平成22年度における観光の経済効果について、「日本の将来人口推計」※1や「日本経済の進路と戦略」新成長経済移行シナリオ※2を前提に、1)訪日外国人旅行者数の1,000万人達成、2)退職後の団塊世代の観光需要の拡大、3)働く現役世代の有給休暇取得率の向上、を基礎に推計を行った。なお、経済効果の推計に当たっては、総務省「平成2-7-12年接続産業連関表」における投入構造、付加価値率、最終需要項目の部門別支出割合を加味して作成した産業連関表を利用した。

  (1) 国内観光消費額の推計

1)訪日外国人旅行者の増加が国内観光消費に与える影響
平成22年に訪日外国人旅行者数1,000万人を達成すると、84百億円の国内観光消費額の増加が見込まれ、訪日外国人旅行者による観光消費額の合計は2兆48百億円と推計※3される。
2)団塊世代の退職に伴う余暇活動の拡大が国内観光消費に与える影響
団塊世代(55歳~59歳と仮定※1、平成17年で男性508万人、女性518万人)は、退職後、現在の退職世代より余暇活動を拡大すると予想されている。その予想を踏まえ、団塊の世代の10年後の年間旅行希望回数と現在の60歳代前半の世代との年間旅行回数との差※2を退職後の団塊世代の年間旅行回数の増加分とみなし、平成17年度と比較して、国内日帰り旅行で男性1.58回、女性1.68回、国内宿泊旅行で男性0.50回、女性0.73回、それぞれ増加すると想定した(表I-2-1-6)。

表I-2-1-6 団塊世代の退職後の年間旅行増加回数



また、団塊世代の退職後の年間旅行宿泊数についても、長期滞在型旅行に対する志向の高まりとそれを踏まえた長期滞在型の魅力的な旅行商品の開発・流通により、現在の団塊世代の平均宿泊数より1泊多く宿泊すると想定した。
これによる観光消費額の増加は、1兆10百億円と推計される。
3)働く世代の有給休暇取得率の上昇が国内観光消費に与える影響
働く現役世代の有給休暇取得率は、平成17年で46.6%であり、漸減傾向にあるが、これが、平成21年に55%まで高まり(平成16年12月24日,少子化社会対策会議決定に掲げられた目標値)、その状態が平成22年度まで継続するものとして、その国内観光消費に与える影響を推計した(表I-2-1-7)。

表I-2-1-7 雇用者数と有給休暇取得率



具体的には、有給休暇取得率の増大による我が国全体の有給休暇の総増加日数は7,262万日※と推計されるが、このうち日帰り旅行については33.3%、宿泊旅行については41.0%が活用されること、また、旅行全体のうち家族旅行の割合が45.2%であることを踏まえた観光消費額の増加は、2兆16百億円と推計される(表I-2-1-8、図I-2-1-9)。

表I-2-1-8 自由時間の過ごし方(3日以上の連続した休暇)




図I-2-1-9 家族旅行の割合



4)平成22年度の国内観光消費額
1)から3)の観光消費額の増大※を見込んだ平成22年度の国内観光消費額は、平成17年度より21.4%増の29兆66百億円と推計される(図I-2-1-10)。

図I-2-1-10 国内観光消費額の推計結果




  (2) 経済効果の推計

平成22年度に29兆66百億円の国内観光消費が生じた場合、それによる生産誘発効果は65兆20百億円、付加価値誘発効果は35兆77百億円(名目GDP比6.2%)、雇用誘発効果は528万人(全就業者数比8.2%)と推計され、平成17年度と比較して、観光が我が国経済全体に占める重みも一層増大することとなる(図I-2-1-11、図I-2-1-12)。

図I-2-1-11 付加価値誘発効果の推計結果




図I-2-1-12 雇用誘発効果の推計結果



なお、近年の国民の宿泊観光旅行回数、宿泊数が傾向として共に減少し、国内の観光消費額も横ばいで推移してきたことから、平成22年度の観光消費額が平成17年度より20%以上増大するという今回の観光消費額の推計及びそれに基づく経済効果の推計は、団塊世代の余暇活動の拡大や経済成長移行にかんがみても楽観的過ぎるとの指摘もあり得る。しかしながら、観光が、我が国経済の更なる成長の一翼を担うためには、団塊世代の余暇活動の拡大を待つという受け身の姿勢ではなく、地域、住民、観光関係者等が、積極的に地域資源の魅力を高め効果的な活用を図ること等により観光交流を活発化させることが鍵であり、次節の「地域にもたらす経済効果」における事例分析も参考に、各地域において経済効果を高める取組を積み重ねることが不可欠である。

※1 
国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来人口推計(平成18年12月推計)」(出生低位・死亡中位推計)の値を採用。
※2 
内閣府「日本経済の進路と戦略」新成長経済移行シナリオ(歳出削減ケースA(14.3兆円の歳出削減))における消費者物価指数(2005年度0.98、2010年度1.03)を採用。
※3 
国際観光振興機構の平成19年3月「JNTO訪日外国人旅行の経済波及効果調査報告書」による。
※1 
推計に当たっては「レジャー白書2006」の団塊世代の定義を採用(50歳代後半(55歳~59歳)を団塊世代として定義されている)。
※2 
5年後の団塊世代の年間旅行回数は現在の60歳代前半の世代と同一と仮定。
※ (雇用数)×(有給休暇平均付与日数)×(有給休暇取得の増加率)=(有給休暇の増加日数)
※ 訪日外国人旅行者の増加が国内観光消費に与える影響については、平成22年の国内観光消費額の推計値を反映。

前(節)へ   次(節)へ
All Rights Reserved, Copyright (C) 2003, Ministry of Land, Infrastructure and Transport