前(節)へ   次(節)へ
第I部 観光政策の新たな展開

第2章 観光立国の実現に向けた国際的な旅行動向の把握と分析

2 日本、フランス、韓国における観光旅行の動向

(2) 観光旅行の実施状況


1) 年間旅行回数・宿泊数
 平成21年の年間宿泊旅行回数について見ると、日本は1.78回であり、フランス(2.51回)、韓国(2.72回)に比べ低い水準にある。また、1回当たり宿泊数について見ると、日本は2.93泊であり、フランス(10.42泊)、韓国(2.99泊)よりも少ない状況である。年間旅行回数の内訳を見ると、日本では1年間に宿泊旅行に一回も行っていない層が33.3%を占めており、フランス(22.0%)に比べて1.5倍、韓国(16.3%)に比べて2倍多くなっている。また、1年間に宿泊旅行に4回以上行く層の割合について見ると、日本では12.7%であるのに対し、フランス、韓国では20%以上の割合を占めている。年齢別で見ると、日本では60歳以上の宿泊旅行日数が2.11回と最も多いが、それ以外の年代では低い水準にある。フランスでは、年代による差が小さい。韓国では、20歳代、30歳代の旅行回数が約3回と多い一方で、60歳以上の旅行回数は少なくなっており、日本とは逆の傾向が見られる(図I-2-1-57)。

図I-2-1-5 年間旅行回数・宿泊数の比較



図I-2-1-6 年間宿泊観光旅行の回数



図I-2-1-7 年代別の年間宿泊観光旅行の回数


2) 観光消費額等
1) 観光消費額
 観光消費額について、3ヵ国の比較を行った。家計消費に占める観光消費支出の比率は、我が国が7.2%、フランス9.6%、韓国5.8%となっている。韓国は海外旅行における消費額の割合が高く、我が国のほぼ倍である(表I-2-1-8)。

表I-2-1-8 家計出費に観光消費が占める割合


 我が国の国内宿泊旅行の1回当たりの消費額は55,186円で、フランスの55,297円と同じレベルだが、1泊当たりで見ると、フランスの2倍以上の27,593円となっている(表I-2-1-9)。

表I-2-1-9 国内宿泊旅行1回・1泊当たり消費額


2) 宿泊施設、交通機関の利用状況
 国内宿泊旅行における宿泊施設の利用の内訳を見ると、日本はホテル(44.3%)、旅館(28.3%)といった有料宿泊施設の利用が多いのに対し、フランス・韓国では実家や知人宅の利用が過半数に達している。また、交通機関については、日本は鉄道・新幹線、飛行機といった公共交通機関の利用が多い一方で、自家用車の利用はフランス(82.0%)・韓国(70.2%)の半分にとどまっている。国内宿泊旅行におけるホテル・旅館の利用割合が高く、自家用車の利用割合が低いことは、日本の観光消費額をフランス、韓国に比べて大きくしている要因の一つであると考えられる(表I-2-1-1011)。

表I-2-1-10 国内宿泊旅行の利用宿泊施設種類別内訳



表I-2-1-11 国内宿泊旅行の交通機関別内訳


3) 休暇取得の現状
1) 休暇取得日数
 平成21年の年次有給休暇の取得状況は、日本(8.27日)と韓国(8.93日)はほぼ同じである。一方で、年次有給休暇の連続取得の義務付け等が行われているフランスにおいて、年次有給休暇の取得日数は34.95日と非常に多くなっている。また、旅行のために取得した、土日・祝日を含めた休暇日数について見ると、最も長い休暇はフランス(15.73日)が最も多く、日本は9.05日、韓国は日本の半分程度の4.36日となっている。日本と韓国は年次有給休暇の取得日数がほぼ同じであることから、韓国においては、宿泊旅行を行う際には、短期間の休暇を多く取得する傾向があると考えられる。休暇日数と宿泊旅行の宿泊数の関係を見ると、日本は休暇日数に関わらず、宿泊数は2~3泊程度となっているが、フランス・韓国においては休暇日数の多くを旅行に使っていることが分かる(表I-2-1-12)。

表I-2-1-12 休暇の取得状況


2) 宿泊旅行を行う休暇の時期
 宿泊旅行を行う休暇の時期について見ると、日本では、通常の週末に合わせた休暇に宿泊旅行を実施する割合が1/3以上と最も高く、ゴールデンウィーク以外の祝日も含めると5割以上を占めている。また、日本独自の大型連休であるゴールデンウィークを宿泊旅行の時期とする割合(10.4%)も高い。フランスでは、夏休み(サマーバカンス)において宿泊旅行を実施する割合が42.4%と最も高い。韓国では、日本と同様に、通常の週末や祝日・休日に合わせた休暇において宿泊旅行を実施する割合が過半数を占めている(図I-2-1-13)。

図I-2-1-13 宿泊旅行を行う休暇の時期


4) 宿泊旅行の計画時期・訪問先
 宿泊旅行を計画する時期について見ると、韓国は直前~1箇月以内に計画する割合が約5割を占める。一方、日本、フランスは1箇月以上前から計画する割合が6割程度と多くなっており、宿泊旅行の計画を比較的早めに立てる傾向が見られる(図I-2-1-14)。

図I-2-1-14 旅行の計画時期


 宿泊旅行における訪問先について見ると、日本・韓国については8割を超える訪問先が国内であるのに対し、フランスは約5割程度となっている(図I-2-1-15)。

図I-2-1-15 宿泊旅行の訪問先


  コラム1 フランスにおけるバカンス制度  

 フランスでは、1936年に有給休暇の権利が労働者に初めて与えられた。その後、ミッテラン政権の下で、バカンス小切手制度が法制化され、現在に至っている。バカンス小切手制度は、当初従業員50人以上の企業の給与所得者を対象とするものであったが、1999年の法律改正でこの限定が廃止され、2009年の法律改正により、従業員数50人未満の企業への導入が容易となった。

表I-2-1-16 フランスにおけるバカンス制度の経緯


1.年次有給休暇法(バカンス法)
 フランスの年次有給休暇法は、通称「バカンス法」と呼ばれる。1936年の制定時においては、2週間の年次有給休暇であったが、数度の改正を経て、現在は5週間となっている。
 同法では、原則として5月1日から10月31日の間に年次有給休暇のうち4週間を消化し、残り1週間については11月1日から翌年5月31日までに消化することとしている。また、4週間のうち2週間は、連続で取得することが義務付けられている。
2.バカンス小切手
 1982年「バカンス小切手全国庁」の設立とともに導入された制度であり、労働者のバカンスを支援することを目的としている。
 企業は労働者の積立金に加えて20~80%を拠出して、バカンス小切手全国庁からバカンス小切手を購入し、労働者に支給する。購入企業に対しては、社会保険料の一部減免措置が適用されている。
 バカンス小切手は、フランス国内の宿泊施設、交通機関、飲食店、スポーツ観戦施設等、13万以上の施設で利用できる。
 2008年のバカンス小切手の発行総額は約12億ユーロ(約1,800億円)、バカンス小切手の利用者数は約300万人(小切手利用者以外で受益した人を合わせると約750万人)となっている。
3.バカンス・セニオール
 高齢者の孤独解消、社会との連帯の構築、オフシーズンの休暇施設の稼働率向上等を目的として、2004年に導入された。長期間にわたってバカンスに出かけていない60歳以上の高齢者に対して、バカンス小切手全国庁から1日あたり140ユーロの支度金が給付される。オフシーズンに、バカンス村への滞在が可能で、安価なバスの運行や各種交流イベントの実施などの支援が行われる。
4.休暇連帯基金・給付金
 1999年に、低所得者を対象としたバカンス支援制度として導入された。低所得家庭、若年層、年金生活者、失業者、生活保護受益者、障害者等を対象として、関係省庁、地方自治体、企業が連携して休暇連帯基金・給付金を管理し、制度加入者に対して格安なサービス提供を実施している。
前(節)へ   次(節)へ
All Rights Reserved, Copyright (C) 2003, Ministry of Land, Infrastructure and Transport