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第I部 観光の状況

第1章 平成24年度の観光の状況

第3節 東日本大震災からの復興


 平成24年の東北6県(青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、福島県)の観光動向について見ると、観光客中心の宿泊施設の延べ宿泊者数は、毎月、おおむね前々年比約20%減で推移しており、全国に比べて回復が遅れている様子が見て取れる(図I-1-3-1)。訪日外国人延べ宿泊者数についても、毎月、前々年比約40~80%減で推移しており、全国に比べ回復が大きく遅れている(図I-1-3-2)。
 県ごとに見ると、その回復状況にはばらつきがあり、全国と同水準近くまで回復している県がある一方、他県に比べて大きく回復が遅れている県が見られる。

図I-1-3-1 観光客中心の宿泊施設の延べ宿泊者数の平成22年同月比の推移(全国・東北6県)



図I-1-3-2 観光客中心の宿泊施設の外国人延べ宿泊者数の平成22年同月比の推移(全国・東北6県)


 このように大きく落ち込んだ東北地域への旅行需要を喚起するため、平成24年3月から平成25年3月まで、東北地域全体を博覧会会場と見立てた「東北観光博」を実施したほか、東北・北関東への訪問を通じて同地域の復興を応援する「東北・北関東への訪問運動」を展開した。
 「東北観光博」では、東北地域の30の観光地域を核となる「ゾーン」とし、官民一体となって東北地域への誘客等を図った。観光博では、地域が主体となって、その歴史、文化、暮らしなどを観光資源として生かし、地域の日常生活に観光客が回遊する仕組みの定着を図るとともに、地域と観光客の交流がより促進される新しい観光スタイルの実現を目指した。期間中には、官民の関係者が協力し、東北全域のプロモーションや送客の強化等東北観光復興への取組を実施するとともに、来訪者の周遊を促す「東北パスポート」、各ゾーンで「おもてなし」を実践する「地域観光案内人」の育成、リアルタイムな情報発信の仕組みなど観光博終了後も地域が自立的に観光地域づくりを行う仕組みを構築した。津波により大きな被害を受けた太平洋沿岸エリアにおいては、地域のニーズ及び実情に十分配慮しつつ、地域の基盤の復旧・復興状況に応じた支援を行うとともに、地域交流に関する情報発信の強化を図った。また、旅行会社等の協力のもとボランティアツアー等を実施し、交流の促進を図った。
 「東北観光博」期間中の約13ヶ月における旅行者数及び経済効果は、1)東北地域を訪れた延べ旅行者数は約4,970万人回、このうち観光目的の旅行者数は約2,570万人回、2)東北地域を訪れた観光目的の旅行者数は前年同期と比べ約310万人回増加、3)「東北観光博」が旅行のきっかけのひとつとなった旅行者による経済波及効果は約840億円と推計される。また、地域の関係者からは「東北観光博を契機として連携が進んだ」、「地域づくりのきっかけとなった」との声が、来訪者からは「地域観光案内人とのふれあいを通じて、来訪地域に対する愛着がわいた」等の声が寄せられた。
 平成25年度については、東北観光推進機構をはじめ地域が主体となって、東北観光博の理念等を継承した取組を実施する。
 また、多くの人々が被災地を訪れることは、そのこと自体が復興支援につながるものであり、特に子供たちなどの若い世代が、修学旅行やボランティアで被災地を訪れることは、将来世代に震災の記憶を受け継いでいく観点からも重要である。このような観点も踏まえ、平成25年度は、太平洋沿岸エリア及び福島県の旅行需要回復と、人的交流の拡大に対する支援を行うこととしており、震災の記憶の伝承のための語り部ガイド等の人材の育成、学習プログラムの整備といった受入体制の整備や、ボランティアツアー等地域のニーズに合致した旅行商品の造成等の取組を、地域の実情を踏まえつつ、官民一体となって推進していく。

「みやこゾーン」(岩手県宮古市、岩泉町、山田町)の開設



東北観光博のポータルサイト


 「東北・北関東への訪問運動」は、官民が一体となって、東北・北関東を訪問することにより同地域の復興を応援する運動であり、東日本大震災から1年が経過した平成24年3月から開始している。同運動は、平成25年3月末現在、各省庁の43事業、民間等61団体の賛同を受けており、賛同している各主体が、東北・北関東での会合・イベントの開催、同地域への旅行、同地域への訪問を促すキャンペーン等を実施している。
 また、東北地方への訪日外国人旅行者の旅行需要を喚起するべく、放射能不安を払拭するための正確な情報発信を行うとともに、WTTC(世界旅行ツーリズム協議会)、IMF・世界銀行総会等の大規模国際会議の機会を活用しての訪日プロモーションに取り組んだ。

放射線のモニタリング調査結果の情報発信 ※NHK WorldやJNTO(日本政府観光局)のWebサイトにおいて、放射線量等の最新の数値を多言語で発信している。


 世界の観光産業トップが集まる「第12回WTTCグローバルサミット」は、平成24年4月、異例の一国二都市開催として東京及び仙台で開催され、世界53の国から仙台会合に約700名、東京会合に約1,200名が参加した。セッションでの議論及び被災地等の現地視察を通じて、世界の観光産業トップ及びマスコミに対し、被災地を中心とした我が国の復興状況や安全な現状を発信し、我が国の安全に対する懸念等を払拭するとともに、訪日外国人旅行者の拡大への協力を働きかけた。
 また、東北・北関東を訪れる外国人旅行者数の回復に向け、海外7市場8都市において海外現地旅行会社との商談会や海外消費者向けの観光復興PRイベントを実施するとともに、これらの商談会や観光復興PRイベントを受けて、東北・北関東を目的地に含む訪日旅行商品の造成に関心のある海外の旅行会社やこれらの地域の取材を検討している海外のメディアを招請するなど、観光庁、JNTO(日本政府観光局)と東北・北関東9県(青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、福島県、茨城県、栃木県、群馬県)の地方公共団体や観光事業者が一体となった海外向けのプロモーションを実施した。
 さらに、昨今のソーシャルメディアでの情報発信の有効性を踏まえ、風評被害対策の一環として、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を活用したグローバルキャンペーン「Share your WOW!-Japan Photo Contest-」を実施し、外国人旅行者から投稿された日本各地の写真をインターネット上の「口コミ」として伝えることで、世界に日本の「安全・安心」や「魅力」の発信を行った。キャンペーン参加者は世界100か国・地域より17,070人、投稿写真は38,817枚、キャンペーンで活用したSNSの登録者数は25万人に達した。
 このほかにも、海外の有力旅行ガイド出版社と連携して、東北・北関東に特化した旅行ガイドブックや訪日外国人旅行者のニーズが高いと思われる放射線や放射能についての情報を簡潔にまとめた安全・安心小冊子を制作し、配布した。
コラム
 「住んでよし」の観光地域づくり~高柴デコ屋敷~
 福島県郡山市西田町にある高柴集落は、江戸時代からデコ(張子人形)作りの伝統が息づき、デコ屋敷(張子人形工房)がある職人の集落である。かつては賑わいがあったが、観光客は減少傾向にあり、特に東日本大震災後は激減した。
 この集落を活性化するため、デコの職人である橋本彰一氏が中心となり、外部のアドバイザーを招聘した。集落の人々が、アドバイザーとともに集落を歩き、高柴集落の魅力を検証するワークショップを開催する中で、約300年間この集落に受け継がれてきたデコを作る職人の日常の風景こそが、この地域のDNA・魅力であるという「気づき」が生まれた。コンセプトは、“福を呼ぶデコ人形~その裏側には笑いと心磨きがある~”となった。
 また、これまでは4軒のデコ屋敷や茶屋が別々に誘客をしていたが、ワークショップを通して、集落の熟年や若手の意見が交わされる中で、思いをひとつにして集落で人を呼び込もうという観光地域づくりの意識が生まれ、熱い議論が重ねられた。
 そのような地域のDNAの掘り起こしと集落の人たちの議論を経て、職人が集落を案内する「デコ散歩」(職人の案内による里山歩き散策コース)というプログラムが造成された。モニターツアーを実施すると、参加者からは、「集落のもつ自然、信仰、暮らしの素晴らしさを案内人のトークと各屋敷での説明で実感できました。」など満足度の高い声があがった。
 「集落の先輩諸氏、そして同年代の若手が、一つになって集落づくりに取り組むということの面白さ、大切さを実感し、特に若手がみんなで「なんとかしよう!」と積極的に話し合い、活動できたことで、さらに地域に対する、そして職人としての誇りが生まれました。でも、ここからがはじまり、これからが勝負と、さらにアクティブに動き回ります。」と橋本氏は熱く語る。
 旅行商品として商品化するためには、まだ改善点はある。しかし、高柴集落では、アドバイザーの声を聞きながら、集落の人々が集落を歩き、自分たちの集落の本当の魅力とは何か、それをどう観光客に提供できるかを真剣に話し合い、一体となって集落の魅力を高めてきた。そして、観光客に評価されることにより、集落の人々に誇りと自信が醸成されてきた。これが、「住んでよし」の観光地域づくりである。今後このような観光地域づくりが全国に広がっていくことが期待される。

人形職人の橋本彰一氏



デコ(張子人形)



デコ屋敷(張子人形工房)


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