住宅の資産価値に関する研究
◆要旨
住宅政策の重要課題の一つである良質な住宅ストックの整備を市場重視で行うためには、市場において住宅の質が適切に評価されることが必要不可欠である。しかし、現状では、住宅の質に関係なく一律に資産価値(市場価格)が減少しているといわれている。
本研究は、市場において住宅の質が適切に評価されるための住宅政策の立案に寄与することを目的とするものである。そこで、住宅(建物)の資産価値に影響を及ぼす要素を抽出し、その影響度を明らかにすることで、住宅の質が現状どのように評価されているか、関係者の意識はどうなっているかなどを把握し、その上で、住宅の質が資産価値に適切に反映されるための方策を考察した。
不動産業者等へのヒアリング調査では、木造住宅の査定価格が築20年でゼロとなるなど、住宅の資産価値が維持されていない現状が明らかになった。また、立地が重視され、住宅の質が価格にほとんど反映していないことが確認された。(第2章)
中古住宅市場における取引事例調査では、ヘドニック分析を用いて、中古マンションの取引価格に影響を及ぼす要素とその影響度を定量的に明らかにした。世田谷区南部の調査結果より、立地(交通利便性)が価格に及ぼす影響は分譲時より中古取引時の方が大きいこと、空間的ゆとりや施工会社が中古価格にプラスの影響を及ぼすこと等がわかった。施工会社は、住宅の質の判断基準として見られている可能性があると考えた。(第3章)
マンション購入者と購入意向者を対象とした消費者意識調査では、コンジョイント分析を用いて、住宅購入時にどのような質をどの程度重視するかを定量的に明らかにした。調査では住宅の質に関わる8つの要素を提示し、各要素を様々なレベルで組み合わせた複数のマンション候補から、購入したいものを選択してもらった。調査結果より、購入者も意向者も住宅の質にコストをかける意思があること、直感的に重視する要素は耐震性や遮音性であるが、購入時の判断基準として重視する要素は日照、断熱性、防犯性であること、購入経験によって重視する要素に変化があること等がわかった。(第4章)
米国の住宅関連協会や不動産業者等へのヒアリング調査では、米国での住宅の資産価値の現状を明らかにし、資産価値が維持されている理由を考察した。調査結果より、住宅の資産価値に影響を及ぼすものとして立地(学区、景観)、標準性、外観、メンテナンス履歴等があり、住宅の資産価値が維持されている理由として、インスペクションやリフォーム履歴等の購入者が住宅の質を判断するための情報が多いこと、リフォームやメンテナンスに対する居住者の意識が高く価値向上に努めていること、時代の変化に対して住宅の変化(トレンド、部材レベル)が少ないこと等があるとわかった。(第5章)
これらの結果を受けて、市場において住宅の質が適切に評価されるための課題として、(1)住宅の質に関する情報の不足、(2)消費者のハウジングリテラシーの不足、(3)消費者支援の仕組みの不足を提示した。さらに、これらの課題について現状を整理した上で、住宅の質が資産価値に適切に反映される方策を考察し、住宅性能表示制度の普及推進や賃貸住宅を活用したリフォーム経験の支援等を提案した。(第6章)
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