国土交通省
 満載喫水線規則等の一部改正について
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別紙


平成13年2月1日
<連絡先>
国土交通省海事局安全基準課安全評価室


1.改正の背景
 内航船舶の大型化、航海設備の進歩等によって、ある程度沿岸から離れて航行しても比較的容易に船舶の安全性を確保することができるようになったことから、輸送時間及び輸送コストを削減するため、従来の設備等を変えずに各港間を直線的に航行するという新たなニーズが生じています。これに対応するため、新たに水域と(別添資料1)、その水域を航行する船舶の安全性の確保に必要十分な基準とを策定することによって国内輸送の効率化を図ってきたところです。
 具体的には、船舶の航行する水域を「平水区域、沿海区域(別添資料2)、近海区域(別添資料3)、遠洋区域」の4つに区分し、それぞれの水域を航行する船舶に係る設備・構造の基準に差異を設けているところを、「限定近海船(近海区域を航行区域とする船舶のうち本邦の周辺の水域のみを航行する船舶)」という分類区分を設定し、限定近海船に係る設備・構造の基準(近海基準と沿海基準の中間的基準)を策定することによって、従来は近海基準が適用されていた船舶のうち、限定近海船に該当する船舶に係る基準の緩和を行いました。(貨物船に係る基準に関しては平成7年7月に船舶設備規程(昭和9年逓信省令第6号)、船舶救命設備規則(昭和40年運輸省令第36号)、船舶消防設備規則(昭和40年運輸省令第37号)及び船舶防火構造規則(昭和55年運輸省令第11号)の改正を行い、旅客船に係る基準に関しては平成10年7月に船舶救命設備規則及び船舶防火構造規則の改正を行いました。)これによって、当該水域に応じた船舶の安全性を確保しつつも、電装工事費、救命設備費、消防設備費及び防火構造等工事費を軽減することができるようになり、一般的な近海区域を航行区域とする貨物船の建造費を、3%程度削減可能となりました。
 ただし、限定近海船に係る満載喫水線基準の策定については、気象海象条件についての詳細な検討が必要であったため、限定近海船であっても従来通り、近海区域を航行する船舶の基準が適用されていました。しかし、その後、(社)日本造船研究協会における調査研究の結果、限定近海船の航行する水域の気象海象条件に見合った新基準(別添資料4)を策定するのに必要な、耐航性理論に基づいた安全性の評価手法が開発され、合理的な満載喫水線基準を策定することが可能となったことから、今般、限定近海船に係る満載喫水線規則等の改正を行うこととします。

2.現行制度の概要
 船舶に荷物等をどれだけ積載可能か(船舶をどれだけ沈めても安全航行が可能か)をあらかじめ算定し、船体中央部の両舷にその限度を示す満載喫水線標識等を標示することについては、船舶安全法(昭和8年法律第11号)第3条において「遠洋区域又は近海区域を航行区域とする船舶」、「沿海区域を航行区域とする長さ24メートル以上の船舶」及び「総トン数(船の大きさを表すための指標)20トン以上の漁船」に義務付けています。その具体的基準については、満載喫水線規則(昭和43年運輸省令第33号)第2章から第4章までに規定されています。
 また、船舶の安全性の確保を目的として、船体の強度及び水密を保持するための構造等についての要件が、船舶構造規則(平成10年運輸省令第16号)に規定されており、船首楼の設置及び海水等の流入を防止するための構造が義務付けられています。

3.改正の概要

 まず、日本近海の気象海象条件を詳細に調査して、沿海区域、近海区域及び限定近海船の航行する区域(以下「限定近海水域」と言います。)それぞれの海象の特徴を明らかにしたところ、限定近海水域の海象条件は、比較的沿海区域のものに近いが、沿海区域よりも平均波高、平均周波数ともに厳しく、夏期及び秋期には10秒を超える長周期の波も存在することがわかりました。
 次に、様々な船舶のモデルを設定し、そのモデル船舶が、近海基準の満載喫水線まで満載して近海区域を航行したときの海水打ち込み確率と、沿海基準の満載喫水線まで満載して沿海区域を航行したときの海水打ち込み確率を推定しました。そして、限定近海船が限定近海水域を航行したときに、上記海水打ち込み確率と等しくなる様な基準を求めて、それを限定近海船に係る満載喫水線基準としました。
 さらに、この限定近海基準で限定近海水域を航行したときに想定される海水の打ち込みによって、船体の強度や、船体の水密について問題が生じないかを検討したところ、現行基準と同等の安全性が担保されていることが確認されました。

1. 「満載喫水線規則」の一部改正
 (1)
   満載喫水線規則第2章「遠洋区域又は近海区域を航行区域とする船舶等に関する規定」中に、「限定近海船に関する特別規定」を設けます。具体的な基準は以下の通りです。
   限定近海船の海水乾舷値は下記イの値に、ロ及びハの修正を加えたものとする。(乾舷値とはおよそ、上甲板から満載喫水線までの垂直距離をいいます。)
   基本乾舷は、沿海基準の基本乾舷に修正係数として1.06を乗じた値とする。
   乾舷に係る船の深さによる修正、船楼等による修正、舷弧による修正及び鋼製ハッチカバーによる修正は、現行の沿海規定を用いることとする。
   船首高さによる修正は、船首高さの値が、遠洋・近海船等の修正に用いる船首高さの値に以下に示す修正係数を乗じた値より小さい場合に行うこととする。

修正係数:Lが100m未満の船舶  1−0.0022×L(Lは船の長さ(メートル))
 Lが100m以上の船舶  0.78
   aの規定により算出した海水乾舷値が5センチメートル未満となる場合には5センチメートルとする。
 (2)沿海基準の改正
   遠洋・近海基準の乾舷値の算定方法等は、気象海象条件の違いを反映して沿海基準より厳しいものとなっていますが、乾舷値が非常に小さな値となるような船舶の場合、厳しい基準である遠洋・近海基準によって算定した乾舷値が、沿海基準によって算定した乾舷値よりも小さくなることがあります。これは基準に係る船舶の設備等の要件の軽重によるところです。現行基準では、この様な場合、沿海区域を航行区域とする船舶であっても、沿海区域より気象海象条件がより厳しい遠洋・近海区域を航行することに対応した船舶の場合には、安全性の観点から一定の条件を満たすと認められたものとして、「遠洋・近海基準により算定した乾舷値」とすることができることとしています(満載喫水線規則第68条第2項)。
 今般、限定近海基準が策定されるにあたって、沿海基準と限定近海基準の関係においても、上記と同様のケースが想定されることから、従来の規定を改め「限定近海基準により算出した乾舷値」とすることができることとします。

2. 船舶構造規則」並びに「船体の強度を保持するための構造の基準等を定める告示(平成10年運輸省告示第379号)」及び「船体の水密を保持するための構造の基準を定める告示(平成10年運輸省告示第380号)」の一部改正
 (1)海水等の流入を防止するための構造
    限定近海船の昇降口室の出入口の敷居高さ等については、沿海区域を航行する船舶に係る要件を用いることとします。(船体の水密を保持するための構造の基準を定める告示第2章第3節)
 (2)船首楼の省略
    現行基準では、乾舷値が満載喫水線規則の遠洋・近海基準において船首高さによる修正が必要ないこととされる値より大きい船舶等については、海水打ち込みによる波浪外力を一定以下に制限できるため、船首楼の設置を省略できることとしています。(船舶構造規則第21条、船体の強度を保持するための構造の基準等を定める告示第104条)
 今般限定近海基準が策定されるにあたって、乾舷値又は船首高さが、遠洋・近海基準、限定近海基準それぞれにおいて船首高さによる修正が必要ないこととされる値より大きい船舶については、船首楼の設置を省略できることとします。

4.限定近海船基準策定により期待される効果
1.建造費について
 設備・構造関係規則の改正により、工事費、諸設備費が軽減されたことによって、船舶の一隻当たりの建造費が数百万円〜1千数百万円節減可能となっています。
代表的内航船の船価比較例(概算)
船型沿海航行船限定近海船近海航行船
総トン数699トン型貨物船5億7千万円5億8千万円6億円
総トン数699トン型タンカー6億円6億1千万円6億2千万円
載貨重量トン3000トン型タンカー9億3千万円9億4千万円9億5千万円

2.行程距離について
 沿海区域航行船が限定近海船になれば、ほぼ従来通りの積載量を確保したまま直線的な航行が可能となり、消費燃料の節減・運航時間の短縮により運航費の削減が図られると共に、環境負荷の低減にもなります。
 例えば千葉・北海道間で約100海里(1海里は1.852キロメートル)、静岡・鹿児島間で約30海里、島根・石川間で約20海里それぞれ行程の短縮となります。
行程距離比較例(単位 海里)
航路沿海航行船限定近海船
犬吠埼(千葉)〜襟裳岬(北海道)488385103
石廊崎(静岡)〜潮岬(和歌山)181174
潮岬(和歌山)〜都井岬(鹿児島)27525322
日御碕(島根)〜猿山岬(石川)24722720

3.積載量について
 上記2.のメリットを得るために、沿海区域を超えて各港間を直航しようとすれば、従来では、全近海区域を航行する船舶としての基準が適用され、積載量についての制限を受けていました。今般の満載喫水線規則の改正により、沿海区域を航行する船舶とほぼ同等の積載量を確保したまま、直航航路の選択が可能となります。
また、現存する限定近海船については、限定近海船に関する基準の新設により、積載量の増加が見込まれ、その結果として運送単価の低減が見込まれます。

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