報道・広報

国際海事機関(IMO)第95回法律委員会の結果概要について

平成21年4月10日

国際海事機関(IMO)第95回法律委員会が下記のとおり開催されましたので、その結果概要について、お知らせします。

                    記

■日程:平成21年3月30日(月)~ 4月3日(金)
■場所:国際海事機関(IMO)本部 ロンドン
■日本代表団:吉田晶子(国土交通省海事局総務課危機管理室長)
         藤田友敬(東京大学大学院法学政治学研究科教授)
         小塚 荘一郎(上智大学法学研究科教授)
         鈴木英実(国土交通省海事局総務課国際企画調整室)
         池野史和(        同         )
         中村秀之((財)日本海事センター企画研究部特別研究員)  ほか

■主な結果
1.HNS条約改正議定書案の検討

 2010年の早い時期での外交会議での採択を予定しているHNS条約改正議定書案について、前回会合に引き続き審議が行われました。
 主要な論点に関する結果は以下のとおりです。

(1)LNG会計への拠出者
 我が国が主張していた、「『受取人』を原則としつつ、『受取人』と『荷揚げ直前の権原者』の間に何らかの合意が存在する場合は、『荷揚げ直前の権原者』をLNG会計への拠出者とする」条文案が維持されることが確認され、本案が外交会議の審議に付されることになりました。

(2)HNS物質の定義
 固体ばら積み貨物に関する対象物質は、国際海上危険物規程の改正に合わせてアップデートすべきとの意見が出されましたが、特定の物質(例えば、石炭、木材チップ、魚粉)は引き続き条約の適用から除外すべきとの意見が大勢を占めたため、国際海上危険物規程は1996年に有効であったものということになりました。

(3)条約の適用範囲
 1996年のHNS条約の規定振りでは、防止措置に対する補償が行われる海域が条約の非締約国や公海上も対象となると解される可能性があるため、我が国から、締約国の領海、排他的経済水域等に限るべき旨の修正を提案し、了承されました。

2.船舶燃料油による油濁損害事故

 第94回IMO法律委員会において我が国が要請した当該情報の提供について、P&I国際グループから、情報の収集等に時間を要していること等から、情報を提供するかどうかも含めて現在検討しており、第96回IMO法律委員会にて何らかの報告を行いたいとの説明がなされました。これに応えて我が国より、P&I国際グループの協力に感謝するとともに、意義のある情報が提供されることを期待する旨の発言を行いました。

3.バンカー条約の履行

 昨年11月21日に発効したバンカー条約に関し、各国が条約を履行するに当たって、条約の統一的解釈が必要であるとの意見が出され、今後検討が行われることになりました。また、裸傭船登録に基づき同登録を行った国の旗を掲げる船舶に対する証書の発給権限が、バンカー条約上、旗国にあるか否かについて議論が行われ、この問題についても引き続き議論されることになりました。

4.船員の死傷及び遺棄に係る責任と補償に関するIMO/ILO合同特別専門家作業部会の進捗状況

 船舶所有者の倒産等により、船員が外国の港で放置される事例や、傷病時等において適切な手当等が支給されないといった人道上の問題が多発していることに鑑み、1999年10月以降標記部会が開催され、その対策を検討してきたところです。
 今次会合では、本年3月上旬に開催された第9回部会において、2006年に採択された海事労働条約を改正する旨合意されたことが報告され、法律委員会としても、船員の遺棄又は死傷時の責任に係る問題を解決するためには同条約を改正することが最良の方法であるとの同部会の結論に留意するとともに、同条約の改正が実施困難となる場合に備えて検討を継続することを合意しました。
 また、同条約の詳細な改正草案については次回会合で検討を行う旨合意されました。

5.海難における船員の公正な取扱い

 ボルチック国際海運協議会(BIMCO)から、法廷において十分な職務不履行等が証明される前に船員が抑留、収監等されている事例とともに、外国船舶監督(PSC)において監督官の不正行為も発見されているとの問題提起がなされました。
 今次会合では、船員の公正な取扱いとPSCにおける不正行為は区別して取り扱われるべきとの指摘がなされ、現時点では本件に関する作業部会は再開しないこと、また、海難事故原因の十分な究明とともに船員の権利の保護を両立させていくよう、既存の海難時における船員の公正な取り扱いに関するガイドライン等を遵守すべきである旨が合意されました。

6.避難地に関する条約化の検討

 万国海法会(CMI)から、大規模な海難が発生した場合に、沿岸各国が支援を要請する船舶に対して、その状況を判断のうえ避難地を提供するべきか否かの基準を示すための新たな条約化の提案がなされました。
 各国からは、CMIによる詳細な条約案に謝意が示されつつも、現時点においてはHNS条約、バンカー条約等、既存の責任補償関連条約の実施が重要であり新たな条約化の必要性はない旨の意見が多数提出され、今次会合では新条約の策定は行わない旨合意されました。

7.海賊対策に関する各国の法案の提出

 今次部会では、事務局から、IMOの技術協力計画の一環として各国の海賊対策に関する法制面への支援を行うべく、各国から海賊対策に関する法令の提出を求めている旨説明がなされたうえ、既に日本の海賊対策法案を含む各国からの情報が提供されていることの紹介がありました。また、次回会合ではそれらの概要を提示する旨の意向が事務局から表明されました。

8.今後の作業計画

 今次会合では、今後の作業計画について検討が行われ、2010年(平成22年)及び2011年(平成23年)の法律委員会の主な作業項目として、
  ・HNS条約改正議定書の可能な限り早急な採択(2010年)
  ・1974年の海上旅客、手荷物の運送に関するアテネ条約の2002年の議定書、2005年のSUA議定書及び2007年のナイロビレックリムーバル条約の発効促進のための戦略を策定すること(2011年単年)
  ・海賊及び武装強盗に対処するためのIMO文書の見直し
  ・犯人を効果的に訴追するための国際的な努力
  ・包括的な国内法制及び裁判に関するキャパシティビルディングの情報の利用
が決定されました。



【参考】

■国際海事機関(IMO)法律委員会
 国際海事機関(IMO)の理事会の下に置かれている5つの委員会のうちのひとつであり、法律事項を審議する委員会です。

■HNS条約
 船舶による海上輸送中の有害物質及び危険物質(各種の化学物質、石油、LNG、LPG等)により発生した損害の補償について、被害者救済の充実を図るため、[1]船主責任について無過失責任(厳格責任)を課す一方、一定の責任限度額を設定するとともに、これを強制保険で担保し、[2]船主責任を超える部分については、有害物質及び危険物質の受取人等が拠出する国際基金(HNS Fund)が補償することを規定した国際条約です。1996年に採択されていますが、未発効となっています。

■バンカー条約
 タンカー以外の船舶の燃料油(バンカー油)による汚染事故に関し、船主に厳格責任を課すとともに、その責任を一定限度に制限すること及び保険加入の強制などを規定した国際条約です。2001年に採択され、2008年11月21日に発効しました。

■P&Iクラブ国際グループ
 P&Iクラブとは、非営利の相互保険組合(クラブ)で、メンバーである船主や用船者に対して業務上の賠償責任保険を提供しています。P&Iクラブ国際グループとは、主要な13P&Iクラブにより構成されるもので、共同で保険や再保険を手配し、グループのP&Iクラブに加入している船主や用船者の海運業界の問題に関する意見を代表し、更に情報交換の場を提供するものです。

お問い合わせ先

国土交通省海事局総務課危機管理室 吉田
TEL:(03)5253-8111 (内線43-261) 直通 (03)5253-8616
国土交通省海事局総務課国際企画調整室 鈴木
TEL:(03)5253-8111 (内線45-622) 直通 (03)5253-8656

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