長良川河口堰建設差止請求控訴事件判決(H10.12.17)



 二 地震及び洪水に対する安全性
  1 原判決の引用     当裁判所も、地震及び洪水に対する本件堰の安全性はいずれも肯定できる    と判断する。その理由は、次に付加するほか、原判決理由欄第八の一及び二    (226丁裏4行目冒頭から238丁表6行目末尾まで)の記載と同一であ    るから、これを引用する。    (一) 原判決231丁表8行目末尾の次に行を改め、次のとおり付加する。     「(五) 平成6年度調査報告書(乙264の1・3―111頁ないし12       1頁)によると、被控訴人は、上記(二)のとおり設計震度を0.3と       した平成4年4月技術報告公表後、堰の上部構造の設計を変更し、上       屋重量を変更前に比べ約28%軽量化して本件堰を建設したものであ       り、これを踏まえて、本件堰の地震に対する安全性を上記(二)の震度       法の手法を用いて再度検討すると、本件堰の堰柱の応力度は、震度       0.42に対して許容応力度内に収まるものであり、この値は、平成       7年1月の阪神・淡路大震災において、RC橋脚に被害がほとんど出       なかった阪神高速道路湾岸線の設計震度0.30や、昭和49年の伊       豆半島沖地震で断層からの距離が約1kmにあった天狗橋及び伊鈴橋の       設計震度0.415及び0.345より大きいと認められる。」    (二) 原判決231丁裏2行目末尾の次に行を改め、次のとおり付加する。     「また、当審証人□□□□は、本件堰の運用によって堤防下の地下水位が     高くなり、地震時に液状化によって堤防が崩れるのが心配である旨証言す     るが、後記四(地盤漏水)のとおり、本件堰本格運用開始後の平常時の状     態における堰湛水域堤防下の地下水位は、ブランケット(高水敷)工、承     水路、堤脚水路等の漏水対策工の施工により、上記施工前の水位と同程度     又はそれ以下となっているのであって、技術報告(乙183・5―29頁)     によれば、過去最大級の濃尾地震を想定しても、堤防基部の安全性は損な     われず、いずれの検討箇所でも地震時に無被害と予測され、堤防は安定し     たものであると認められ、また、平成6年度調査報告害(乙264の1・     3―99頁)によれば、直下型地震により検討対象地震動によって堤防が     被災を受けて沈下したとしても、依然として、堤防、ブランケットの標高     は、堰上流において、平常時の上限水位(TP1.30m)を上回ってい     ると予測できることから、平常時の河川水が堤防を溢水するようなことは     なく、堤防の溢水防止機能は保待されているものと認められるので、上記     証言のような破堤の事態が生じる具体的な危険は認められない。      さらに、同証人は、地震による堤防被災に洪水が重なったり、あるいは     高潮がきた場合、簡単に溢水が生じ非常に危険である旨証言するが、本件     堰上流域の堤防が被災するような強度の直下型地震が発生すること自体相     当可能性が低いこととみられ、まして堤防被災箇所において同時に洪水や     高潮が重なるということは、およそあり得ないというものではないにして     も、極めて可能性の低い事態であるというべきであるから、このような可     能性の低い事態を想定して、本件堰の運用により、地震時における具体的     危険が存すると認めることはできない。なお、地震の際には津波が発生す     る場合があるが、平成6年度調査報告書(乙264の1・3―156頁、     162頁等)によれば、伊勢湾内の伊勢湾断層でマグニチュード7程度の     直下型地震が発生したと想定して計算される津波の高さは20cm程度(本     件河口堰地点下部の最高水位はTP1.5m)であり、仮に上記想定地震     により堤防沈下の被害が生じたとしても、上記想定地震により発生した津     波が堤防を乗り越える事態は生じないものと認められる。」    (三) 原判決238丁表6行目末尾の次に行を改め、次のとおり付加する。     「5 平成6年度調査報告書(乙264の1・3―31頁ないし38頁)       によれば、実測に基づく堰柱の堰上げの程度は、本件堰上流の忠節橋       において戦後七番目の水量であった平成6年台風二六号の洪水時(同       年9月30日、最大流量約3600m3/秒)で約3cm、大潮の引潮時       (同年6月23日、最大流量約1800m3/秒)で約1cmであり、そ       の堰上げ量は、概ね計算値より少なく、堰柱の存在が洪水の流下に対       して支障となる状況は存しなかったこと、また、上記洪水の際、多く       の流下物が観察されたが、これらが堰柱にかかり、洪水の流下に支障       となる事態は存しなかったことが認められる。」   2 まとめ     そうすると、地震及び洪水に対する関係で、本件堰は、安全性に欠ける点    はなく、控訴人らの生命、身体等を侵害する具体的な危険を有するものとは    認められない。